表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
二日目:悪党、宝探しをする
16/103

二日目(12):悪党、洞窟から逃げ出す

「っだあああああ!」

 どんっ! と相手の胴から射出された槍を飛んでかわし、そのまま体重を乗せて剣を振り下ろす。

 ばきっ、ばきききき……!

 にぶい感覚とともに剣は人形の頭部にめり込み、その動きを停止させた。

 これで7体。

「ちっくしょう! きりがねえぞ、こいつら!」

「ああぁぁぁ、もうだめだぁっ! やっぱりだめなんだぁぁぁぁ!」

「ええい、うるさぁいっ! ごちゃごちゃわめいてる暇があったらさっさと出口に案内しろ、グリート!」

 泣きたい気持ちでどなる。

 実際のところ、一体ごとの人形の強さはそれほどでもない。

 背が低いから攻撃が低い場所に集中するし、体重を乗せて打ち付ければ堅い装甲もなんとでもなる。

 問題は数だった。

 洞窟の奥から無数に聞こえてくる、がっしゃん、がっしゃんという音。

(ひょっとして、100体くらいいるんじゃないのか?)

 さすがにそこまで多いと、全部倒しきる前に体力が尽きる。

 さらにまずいのは、取り囲まれた際に背後を守れるやつがいないことだ。

(せめて、もうひとりくらい戦える奴がいればいいんだけど……)

 まあ、ないものねだりしても仕方がない。こういうときはとっとと逃げるに限る。

「ライ兄ちゃん、こっちから風が吹いて来てるよっ!」

「よし、そっちだな! おっさん、グリート、さっさと走れっ!」

「う、うむっ!」

「は、はいぃぃぃっ!」

 走る。

 必死で走る。

「こっち、こっちーっ!」

 先行したマイマイの声が響き、

「――あ″」

「ど、どうした?」

 問うが、答えは返ってこない。

(そこはかとなく嫌な予感がするが、今はそんなことを考えている余裕はないっ!)

 力いっぱい走る。

 そして。

 マイマイとおなじ場所までたどり着いたとき、俺は思わずその場にへたり込んだ。

「…………おーい」

「ど、どうしました、バルメイス様? ――って、え?」

 裏の出口。

 そこは大量の土砂で埋まり、とても通れる状況ではなかった。

 いちおう天井に申しわけ程度の穴があって、そこから風が吹き込んできているが……通れるような大きさじゃない。

「土砂崩れ、か?」

「そのようだな。

 ふん、いったんケチがつくとどこまでも止まらないものらしい」

 投げやりに、サフィートはつぶやいた。

 グリートはうろたえて、

「なぜ!? こ、この砦の壁には、風化避けの強化ルーンが幾重にも彫りこまれてあったはずなのに!?」

 マイマイはその言葉に首をかしげた。

「強化ルーンって……この、よく見ればルーンみたいにも見えるくぼみのこと?」

「そう! そういうのが目立たないところにびっしりといっぱい――」

「けどこのくぼみ、地底アリさんが巣を作ってるよ」

「え?」

 あ、ほんとだ。

「まあ、そりゃ作ってから数千年もほったらかしにしてたら、こんなことがあってもおかしくないよな」

「はん、理由などに興味はないわ。問題は、いまここで我々がこの通路を通れないという事実、それだけだ。

 やってられるか、くそっ」

 がつん、とサフィートが壁をけっ飛ばした。完全にさじをなげたらしい。

「で、どうするんだよ?」

「も、もうだめだぁっ」

「……あきらめが早いな、おい」

 まあ、俺だって打開策は思い浮かばないわけだが。

「たいへんだよっ、ライ兄ちゃん」

「今度はなんだよ、マイマイ」

「うん。さっき、通った道に警備の魔法をこっそりかけておいたんだけど」

「だけど?」

「20体以上、いっせいに向かってきてるみたい。それも、まっすぐこっちに」

 げげげっ。

「絶体絶命、か?」

「バルメイスさまっ」

「な、なんだよ」

「その剣のお力で、土砂をばーんっ、とふっとばしちゃってください! そうすればもう万事解決っ!」

「い、いや、そんなこと言われても」

 じーっ、と期待に満ちたまなざしで、グリートが俺を見る。

(ど、どうしよう。剣の力の使い方なんか知らないし――)

 助けを請うように、ちらり、とサフィートの方を見る。

 彼はうなずくと、軽く咳ばらいをしてから、

「グリート、バルメイス神はな、大巨人の策略にかかって力の使い方を忘れさせられてしまったのだ」

「そ、そうなんでございますか!?」

「……ま、まあ、そんなかんじ。うん」

 てゆーか、よくもまあそこまで即興で自然なうそがつけるもんだと、ちょっと感心する。

「た、たしか、その剣は《力の集積》をイメージしながらご自分の真名(まな)を叫ばれることで力を解放する、と聞いた覚えが――」

真名(まな)? この場合、『バルメイス』でよいのかな?」

「よし、ちょっと待ってろ」

 俺は岩の前に立ち、ゆっくりと呼吸を整える。

「小僧、急げ! もはや時間がないぞ!」

「わーってるって! 今、集中してんだから、ちょっと黙ってろ!」

 剣を正眼に構える。

 その剣に、俺は意識を思いきり集中させた。

(力よ――集まれ!)

 ぶぅぅ、と、虫の羽音のような音とともに、剣の輝きが増した。

「おおっ!?」

「今です! 真名(まな)を叫んでくださいませ、バルメイスさま!」

「おっしゃあっ!」

 俺は、輝く剣を大きく振りかぶり、

「バルメイスの名において――てりゃあっ!」

 ざく。

 …………

「だめじゃん」

「こ、今度こそもうだめだぁっ」

「ら、ライ兄ちゃん! もう、すぐそこまで敵が来てるよ!」

 たしかに、マイマイに言われるまでもなく、しゃかしゃかという耳ざわりな音がすぐ近くから聞こえてきていた。

「ええい、ちくしょう! こうなったら戦うっきゃないか!」

 後ろに向き直り、剣を正面に構えて、

「かかってこい、人形ども! 強きをくじき、弱きを助ける、このライナー・クラックフィールド様が相手――」

 ぴかぁぁぁぁぁっ!

 剣が、いきなり光を増した。

「う、うええええっ!?」

 あわててその場で立ち往生する。剣の光はますます強くなり――

 ばしゅっ!

 ちゅどーんっ! がらがらがらがら、ずどどどどーーんっ!

 斜め上に飛んだ光が、天井を打ち崩して崩落させる。

 あっという間に、俺たちと人形の間を土砂が埋め尽くし、見えなくなった。

 …………

「え?」

 硬直。

「おおっ! でかしたぞ小僧!」

「やったー! これでとりあえずは安心だねっ」

「た、助かったー! いやはや、バルメイスさま、いつの間に真名(まな)をご改名なされたのですか!?」

「いや、まあ……」

 単に名乗ればいいだけかよ、おい。

 いや、それよりもっと重大な問題がある。

(ノリで思わずやっちまったけど、実はこれってすげーやばいことだったんじゃねえか?)

 冷や汗を垂らしながら、思う。

「ほら、なにをぐずぐずしておる! さっさと目の前の土砂も吹き飛ばしてしまえ!」

「れっつごーだよ、ライ兄ちゃんっ」

「いやおい、ちょっと待ておまえら」

 頭を抱えたい気持ちを抑えて、言う。

「? なんだ?」

「あのさ――俺たち、なにか忘れてないか?」

「というと?」

「たとえば、この洞窟の上の草原にナニが住んでいたか、とか……」

「…………」

「…………」

「はい? どうかしたんですか?」

「いや、まあ……手遅れっちゃ手遅れなんだが……」

 くぃぉぉぉぉぉぉぉぉ……と、遠吠え。

「ら、ライ兄ちゃん、来るよおっ!」

「全員、伏せろー!」

 俺の声とほとんど同時。

 大爆発が起こった。



-------------------------



「間に合わなかった――!」

 ち、と舌打ちを漏らす。

「わ、なに、なにが起きたの!?」

 遠くから聞こえてきた大音響に動揺して、神官が足を止めた。

 わたしも立ち止まる。どのみち、こうなってしまっては手遅れだ。次の手を講じるしかない。

「弧竜が、地面に自分の身体をたたきつけたの」

「な、なにそれ!?」

「竜の肉体そのものを使った、圧迫攻撃」

 竜族の攻撃方法として有名なのは吐息だが、実際には吐息はたいした脅威ではない。魔術でどうとでもなる。

 一方、竜本来の肉体的なポテンシャルを使った攻撃は、見た目の地味さに反してかなり厄介だ。

 特にその大質量を利しての体当たりは比類なく強力で、ほとんどの防御魔法を打ち砕いて対象を圧殺する。防ぐ方法はとても少ない。

 それを、年経た竜は知っている。

 神官はまだ事情が飲み込めていないらしく、

「だ、だからなにを攻撃してるって……!」

「ライ」

「は?」

 わたしは爆音の響いた先を見つめて、

「あそこにライがいる。それを見つけた竜が攻撃したの」

「な、なんであんなところにいるのよ、あの馬鹿は!?」

「それは知らない。けど、いまはそんなことを言っていられるほど悠長な状況じゃない」

 ようやく、相手にも状況が飲み込めたようだった。

 ごくり、とのどが鳴る音が聞こえる。

「わかった。それで、なにをすればいいの?」

「最初は、竜の注意を逸らしてごまかす方法を考えていたんだけど」

「けど?」

「間に合わなかった。こうなったら、本当に竜退治するしかないみたい」

「で、できるの? そんなことが?」

「難しい」

「……いや、そりゃそうだろうけど」

「でも不可能じゃない。

 あれほど年経た竜族を前準備なしで撃破するのは至難だけれど、材料は揃っている」

 そう。

 都合がいいことに。ああいう純粋な防御力の高い相手を倒すのが苦手なわたしは、珍しくそういうのが得意な連中と一緒にいるのだった。

「うまくやれば、一撃でカタがつく。うまくやれば、だけど」

「うまくいかなかったら?」

「そのときのために、あなたに頼むことがあるの」

「へ? ぼ、ボク?」

 こくん、とうなずく。

 そして、わたしは作戦を説明した。



-------------------------



 がぎぎぎっぎぎぎぎぎっぎん!

「だああああああああ!」

 泣きそうになりながら、襲いかかってくる触手(竜の腹に生えてる)をたたき落とし、切り払い、撃退する。

 幸いにも、相手が落ちてきたのは俺たちの直上ではなく、俺と人形達の真ん中あたりだった。

 そのおかげで相手は人形どもも敵に回してしまい、その分こっちへの攻撃が減っているのはかろうじて救いなのだが、

「ぜ、ぜんぜん切れねーぞこの触手!」

「あたりまえだよっ! 弧竜の打撃腕は、魔力で竜鱗とおなじかたさになってるんだからっ!」

「マジかよー! ああもう!」

 マイマイの言葉にめげそうになる。

 と、竜が落ちてきてぽっかり空いた天井から、誰かが顔を出した。

「いつまでそこにいるつもりだ、貴様ら!」

「お、おっさん!? どうやってそっちに登ったんだよ!」

「ええい、貴様の目は節穴か! 竜の身体を踏み台にすればこれしきの高さ、簡単に登れるだろうがっ!」

「す、すっごーいっ。目からウロコっ。おじさん、あったまいいっ」

 言うや否や、マイマイはさっさと竜の身体まで走って行って、ぴょんぴょんと踏んづけて地上に上がってしまった。

 ……意外と度胸あるな、あいつら。

「お、おいらはどうすれば!?」

「登ればいいんじゃないか?」

「そ、そんな恐ろしいこと、おいらにはとてもできやしませんよぉ!」

「……まあ、その意見は理解できなくもないんだが――」

 言いながら、俺はグリートの身体をむんずとひっつかむ。

「え?」

「マイマイ、準備はいいな?」

「おっけーだよ、ライ兄ちゃんっ」

「え、ええ?」

「よし、ぱーすっ!」

 言うや否や、グリートの身体を放り投げた。

「ああああそんなあぁぁぁぁぁぁ……ぐえっ!?」

 マイマイに首を抱えられ、グリートがカエルのような奇声を上げる。

「これでよし、っと。さて、後は俺だけなんだが……」

 目の前を見る。

 さんざん打ちのめしてやった触手だが、いまだにぜんぜん堪えたという素振りを見せない。

「……ともかく、がんばって登るしかないか!」

 腹を決めて、俺は態勢を整え、

「っだああああ!」

 触手の攻撃をかいくぐり、蹴りつけるような勢いで竜の背中を駆け上がる。

「それっ!」

 ばしっ。くるくるくるっ、すたっ。

 華麗に着地。

「ほぉ……」

「へぇ……」

「な、なんだよ?」

「ライ兄ちゃんって、意外と身がかるいんだね。びっくりしちゃった」

「……意外とってなんだ、意外とって」

 これでも盗賊だぞ、失敬な。

「まあいい。ともかく、さっさと隊商の馬車まで逃げるぞっ!」

「りょーかいっ。あ、グリートくんはあたしの肩に乗っかっていいよ」

「あ、ありがとうございますっ」

「走るぞっ!」

 草原を駆ける。

 後ろを振り向くと、幸いにも弧竜はこっちを追ってくることはせず、人形たちにかかりっきりになっている。

(この分なら、なんとか逃げ出すことができそうだな)

 そう思った瞬間、激烈にいやな予感がした。

 同時に、弧竜たちのいる場所に、ぽっ、と赤い光が灯る。

「ら、ライ兄ちゃん、あいつ、吐息を吐こうとしてるよっ」

「おいおいおいおい! まさか、あの至近距離で――」

 その、まさかみたいだった。

 竜の口が真っ赤に赤熱し、人形達のいる方向に向けて吐き出される。

 瞬間、大地が跳ねた。

『だあああああっ!?』

 すさまじい揺れに、全員がその場で転倒する。

「な、なにが起こった!?」

「わかんない! 弧竜の吐息が爆発したのは確かだけど――」

「爆発って……竜の吐息って、爆発するようなものなのか!?」

「弧竜の場合はそう。でも、どっちにしてもこの揺れは変だよっ」

 そう。

 爆発が原因で起こった揺れであれば、こんなに長く続くわけはない。

 だが、現実に地面の揺れは収まるどころか、次第に大きくなっていっているようにすら思える。

「ま、まさか……!」

「なんだ?」

「ひょっとして、いまの爆発の衝撃でシジン要塞が崩壊しているのでは……」

「げ!?」

 その予想を裏付けるように、周囲の地面がそこかしこから陥没しはじめた。

「まずい、みんなすぐに逃げろ! 崩壊に巻き込まれて転落するぞ!」

「無茶を言うなっ! そんなもの、無理に決まっておるだろうがっ!」

「ええい、無駄に偉そうに言うんじゃねえっ! くそ、なんとかする方法は……」

「みんな、あたしにつかまってっ。飛行の魔法使うからっ」

「うむ、よきにはからえ」

「って、こらーっ! へんなところさわるなーっ」

「いいから早くしてくれっ」

 言いながらぎゅっと手をにぎる。

 と、なぜかマイマイは思いっきり顔を真っ赤にした。

「あ? どうした?」

「な、なんでもないのっ。ともかく行くよっ」

 あわてて叫んで、それから彼女は目を閉じて詠唱をはじめる。

「蝋仕掛けの羽根は星の世界を回り、月を背に運命を唱えん。

 星界を渡る異邦よりの船――サイクル・バイヤースター!」

 そして崩壊する地面を背に、俺たちは宙に浮き――

敵解説:

『戦闘人形(哨戒型)』

脅威度:B+ レア度:B

魔物ではなく、神話時代の大巨人たちの殺神兵器。

特筆すべきはその装甲の堅さであり、通常の剣では傷一つ与えられない。

本来ならばライのような半素人が対抗できるような敵ではないのだが、運のいいことに彼の持つ剣はたまたまこのような防御力の高い相手に対する防御貫通性能に優れており、極めて相性がよかった。普通のトレジャーハンターがこの相手と出会った場合、敵がたった一体であっても生還はほぼ絶望的である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ