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神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
二日目:悪党、宝探しをする
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二日目(8):悪党、洞窟をさまよう

 ずささささささっ……どかっ!

「ぐえええ!?」

「あ、ライ!」

 巣穴のなかは、明るかった。

 周囲をちろちろと鬼火が周回している、その光のおかげだ。

「この光、おまえの術か?」

「うん。あたし幻影使い(イリュージョニスト)だから、幻光を扱うのは本職なんだ」

 胸を張って、マイマイ。

「ぐ、ぐるしい……おいこら貴様、さっさと私の上からどかんか!」

「んー、聞こえないなー。落ちた衝撃で耳がいかれたかな?」

「たいへん! ライ、すぐに耳の治療してあげるから、そこからうごかないでね」

「だーっ!」

「うわわっ!」

「きゃあああっ!?」

 すごい馬鹿力で、俺は吹き飛ばされた。

「なんだよ、腰がどうとか言ってたけど、ぜんぜん大丈夫じゃん」

「馬鹿者! 貴様には年長者を敬う気持ちはないのか!?」

「あいにくだが、年齢でひとを差別しちゃいけないというのがうちの家訓でな」

「だからなんでそんな都合のいい家訓がぽんぽんと出てくるのだ貴様の家は!?」

「うわ、一息で言い切ったよこのひと。長いせりふなのに」

「会話をしろーっ!」

 ぜえ、ぜえ、と、サフィートは荒い息で言う。

「ほら、もう年なんだから無理するなよおっさん」

「そういうときだけ年長者扱いするな、馬鹿者!」

「ねー、どうでもいいけどさ……ここって、どういうところなのかな?」

 マイマイに言われて、俺はあたりを見回してみた。

「洞窟」

「いや、それはわかるんだけど」

「わかってる。なんでこんなところに洞窟があるか、だろ?」

 俺たちが入ったのは、たしか宝石虫の巣穴だったはずだ。

 なのに、この空洞は、明らかに宝石虫が入っていた量を超過している。

 というか、むしろ広すぎる。

 鬼火で照らしきれないほど広い空間が、ここには広がっていた。

「ひょっとしてとは思うが――岩小人の空洞に入ったのか?」

「違うな」

 サフィートが即答する。

「なんでそう思う?」

「やつらは、作った洞窟を彫刻などで飾り立てるからな。そうした細工が見当たらない以上、ここは岩小人の洞窟ではない」

「けど、なんでこんなほら穴が空いているわけ? 自然にこんなものができることがありうるの?」

「ありえないとは言えないだろ、たぶん」

 マイマイの言葉に、俺は答えた。

 地上に生息するどんな生物だって、弧竜は恐い。

 だから、一部の生物が穴を掘ってそこで生活していたとしても、おかしくはない。

 ただ、気になるのは、

「ここ、出口あるのかな……」

「きっとあるよっ。だって、たぶんここ、あたしたちが目指していたあのどーくつのなかだよっ」

「可能性はあるな。私としては、そうでないことを願うが」

 明るく言ったマイマイに、対照的にしぶい顔で、サフィートが言った。

「え、なんで?」

「小僧。貴様、ここに来た目的を忘れているのではあるまいな?」

「え? それはもちろん、お宝――」

「岩小人の遺跡ならともかく、こんなみすぼらしい洞穴に財宝があると思うか?」

 納得。

「まあ、どっちにしろ、出口は探さないとな……」

 さっき落ちてきた穴をもういちど登る、という手もあるにはあるが、土の状態が悪いのと坂の勾配が大きいので、ちょっと分が悪い。

 加えて、弧竜が悪知恵を働かせて穴の前に待ち伏せをしているかもしれない。

「とすると、奥に行くしかないんだよなぁ」

「たんけん、たんけんっ。きゃはは☆」

「…………」

「…………」

 ひとりはしゃいでいるマイマイを見て、俺たちふたりは同時にため息をついた。

(ひょっとして、こいつ――実は宝なんてどうでもよくて、ただ単に洞窟探検がしたかっただけなんじゃねーのか?)

 いまさらながらに、思う。



 とりあえず、擬装用のバンダナと小枝をマイマイに返し、俺たちは探索を開始することにした。

「蒼き双月の欠片――テロッツ・フィーンスターっ!」

 ぴっかーっ、と、周囲がとても明るくなった。

「ほう。これは便利だな」

「でしょ、でしょ? あたし、がんばって覚えたんだからっ」

 えっへんと胸をはる、マイマイ。

 それはいいのだが、

「なあ……ここ、実はすんげー広くないか?」

「なんか、おっきな宮殿の大広間みたいだね」

「そうか?」

 まあ、たしかに大きさから言うとそんな感じだが。

「うん。だって、ほら、天井を見てよ」

 言われて見上げると、そこには俺たちが落ちてきたのとはちがう宝石虫の巣がいくつも、ぴかぴか輝いている。

「ね、シャンデリアみたいでしょ?」

「うーん……まあ、そう見えなくもないか」

 というか、こんなに穴だらけだったのか。この草原。

 と、サフィートが口を開いた。

「おい、周囲に注意しろよ」

「なんで?」

「明かりを灯した、ということは、我々の位置を他の生物に知らせる効果も持っているからな。奇襲が恐い。

 この洞穴の主が人間に敵対的なものである可能性は低くない。警戒する理由は十分にある」

「了解。ともかく、なるべく人間同士の間を空けないように、固まって、ゆっくりと進むことに――」

『ねーねーライ、こっちのほうに道が広がってるよー?』

「あーちょっと待――え?」

 気が付くと、明かりがずいぶん細くなっていた。

 そして、マイマイがいなかった。

 さらには、

『うきゃあああああぁぁぁぁぁぁぁっ? な、なにこれぇ?』

「…………」

「…………」

「なあ。あいつ、見捨てたらダメかな」

「明かりがなくなるからな。ダメだ」

「……だな」

 ため息をついて、俺たちは明かりの方向に向かっていった。



「すっごぉぉぉぉいっ」

「なにがだ」

 ごん。

「いたたっ、なにするのよっ」

「ひとりで勝手に動くなっての。危ないだろ?」

 頭を押さえるマイマイに言って、それから俺はあたりを見回した。

「…………」

「なんだ、こりゃ」

「んとね、がいこつの山」

「いや、それは見ればわかるんだが」

 問題は、なんでこんなところに骸骨があるのか、ということなんだが。

 サフィートはあたりを用心深く見回して、

「人間のものだけではないな」

「そうなのか?」

「見た限り、野犬の類か――もしくは、それ以外のなにかかもしれん」

 言われてみれば、たしかに人間の体格とはちがう骨も多かった。

「大型肉食獣の巣かなにかか、これ?」

「わからん。が、どちらにしても不自然だな」

「なんで?」

「人間が寄り付くような場所じゃない。ここに人間の骨が散らかっているのは、いかにも不自然だ」

「……それもそうか」

 ざっと数えてみると、人間の骨は全部で数体くらいしかなかった。

「まあ、偶然迷い込んだ人間、と解釈できなくもないけどなぁ」

「否定はできん。が、どちらにしても危険であることには変わりはないな」

「ねーねー、こっちに変な石版があるよ」

「ああ、そうか――って、だからひとりで勝手に動き回るんじゃねえっ!」

「えー、そんなのつまんない」

「……しまいにゃシメるぞ、てめえ」

「風化が激しくて読みにくいが、見たところ、ここに彫られている字は神聖文字(ルーン)の類だな」

 言って、サフィートは石版を手にとると、

「いちおう聞いておくが、貴様、ルーンは読めるか?」

「いや、ルーンどころかふつうの文字でもさっぱり読めないけど」

「そうか。困ったな」

「あんたは読めないのか? いちおう神官補だろ?」

「む、無茶を言うな。いくら神官補とて、専門家でもないのにルーンなどが読めるわけがなかろう」

「そうなのか?」

 俺は、てっきり神官とかならだれでも読めるものなのかと思っていたが、違ったらしい。

「ルーンは、読み書きするだけで神力が宿るからね。

 あぶなくてふつうのひとは使えないし……読み書きできるひとだって、そうそういないと思うよ」

 マイマイが、苦笑しながらフォローした。

「そっか。うーん、せっかく手がかりが見つかったのに、惜しいな」

 石版を見ながら、ため息をつく。

 と、マイマイが、ちょっと首をかしげながら、

「直接、読めるわけじゃないけど――ちょっと、これ貸して」

「どうした?」

「ルーンには神力が宿っているから。それを魔法でたどっていけば、なにが言いたいかくらいはわかるかもしれないの」

「ほほう、そんなことができるのか」

「はじめてやってみることだから、うまくできるかわからないけど――やってみる価値はあると思う」

「そうだな。じゃ、頼む」

 言って、俺はマイマイに石版を手渡した。

 彼女は石版を地面に置くと、その表面に手をかざして目をつぶった。

 やがてマイマイの口から、ゆっくりと言葉がつむぎ出されはじめた。

「……シジンの……出口は崖のむこうがわ……北の王の……えーっと……あ、あとは……

 ――だめ。これくらいしか読めない」

 ふう、とマイマイはため息をついた。

「思ったよりは収穫が大きかったな」

「崖のむこうがわに出口があることはわかったからね。この石版、たぶん地図かなにかだったんだよ」

「地図?」

「うん。場所の情報がいくつも書いてあるみたいなかんじだった。はっきり神力がのこっていたのはひとつだけだったけどね」

「しかし……困ったな。崖がどこにあるかがわからない以上、出口の情報も現時点では価値を持たん」

「いちおう、もうひとつだけ、方向を指し示す言葉があったよな」

「北の王、か? ふむ、たしかに、現時点で存在する唯一の手がかりではあるな」

「いちおう、磁石は持ってきといたよ。あっちが北のほう」

 言ってマイマイが指し示す先には、またも、先へと続く通路が見えた。

「決まりだな。マイマイ、今度は勝手に動くなよ」

「うー、わかったよ」

 言いながら、俺たちはそこを歩み去った。



 からころからころりんっ。

 骨の動く、軽妙な音がした。



「で、なんでこっちに崖があるんだ?」

「私が知るか」

 崖。

 まさしく、それは巨大な崖だった。

 あまりに巨大すぎて、崖の底にはマイマイの魔法の光も届かない。

 崖をはさんだ反対側を見ると、そこにも同じような断崖絶壁があって、ちょうど同じくらいの高さのところに通路が口を開けていた。

 どっちかというと、崖よりは谷と言ったほうが適切かもしれない。そんな場所。

「なんで、北に行ったのに崖が現れるんだ? 崖は帰る方向だったんじゃないのか?」

「だから私が知るかと言っているだろう」

 ……いや、そんな無意味に偉そうに言わんでも。

「まあ、いーじゃん。どっちにしても、この崖を渡れば出口にいけるんでしょ? 退路は確保できたんだから、それでいーじゃない」

 マイマイはあっけらかんと言ったが、サフィートはしぶい顔で首を横に振った。

「そうとも限らん」

「ほえ? どして?」

「もともと石版は崖の向こうにあったのかもしれん。崖がふたつあるかもしれん。あるいは、石版自体がでたらめであるかもしれん。誤読の可能性もある。

 つまりは、石版の情報はあってなきが如きものだ。参考にする程度ならともかく、最初から当てにすれば馬鹿を見るぞ」

「まあ、どのみちこれじゃあ、崖の向こう側に行くこと自体、無理だしなぁ」

 あたりを見回してみるが、安全に崖の下に降りられそうな場所や、崖の向こうに渡れる場所があるわけでもない。

 ジャンプして渡るにも、対岸までの距離が遠すぎる。世界一の幅跳びの達人が挑戦して、半分飛べるか飛べないか、というレベルだ。

 降りるのも渡るのも無理。となると、引き返すしか方法はない。

 が、そこでマイマイが勢いよく手を上げた。

「はい、はーい! ライ、あたしいい方法持ってるよ!」

「ん?」

「ちょうど、こーゆーときにうってつけの魔法があるの! ちょっと待っててね」

 マイマイは両手を前にかざして、ぶつぶつと不思議な呪文を唱えはじめた。

「疑わしきはそれが疑わしきことを疑い、ありえざるはありえざることを知る賢者に、祝福の道は招かれる。

 世界を囲む虹の橋――マールズ・カーデルスター!」

 ぴかーっ、と、彼女を七色の光が取り囲む。

「おおっ!?」

「さあ――出でよ、架空の橋(レインボー・ロード)!」

 ばしゅーっ!

 光が四散し、そして――

 ――――――――

 ――――――

 ――――

「……なにも起こらないんだけど」

 相変わらず、目の前には巨大な崖が広がっていた。

 が、マイマイは胸を張って、

「ちゃんとあるよ、橋。ライが信じてないから見えないんだよ」

「いや、そんなこと言われても」

「ほらほら」

 ひょいっ、と、マイマイは空中に足を乗り出した。

「ばっ……!」

「渡りまーす」

 てこてこてこてこ。

 あっさりと、マイマイは対岸まで歩いていってしまった。

「えーっと……」

「ね、橋があったでしょ?」

「いや……俺の目には、おまえが宙を浮いていったように見えたんだけど」

 救いを求めるようにサフィートのほうを見る。

 彼もやはり俺と同じように、信じがたいという顔をしてマイマイを見つめていた。

 が、マイマイは平然と言った。

「もう、なに言ってるの? ちゃんと、橋が見えるでしょ?」

「いや、その――」

「ほら、よく目をこらして見てみてよ。橋がないなんて、ぜったい思わないんだから」

 言われて、俺はマイマイが飛んでいった空間を、しげしげと凝視し――

「お?」

 うっすらと、それが見えてきた。

「なんか――立派な橋だな。頑丈そうだ」

「でしょ? がんばって作ったんだから」

「うむ。私にも見えてきたぞ」

 どんどん、橋のビジョンが鮮明になっていく。

 絶対に落ちようがなさそうな、頑強で立派な石造りの橋だった。

「すっげー……こんなものを即席で作れるのか、魔法って」

 感心する。今度、やりかたを教えてもらおう。

「ほら、早く渡っておいでよ」

「あ、ああ――」

「うむ。そうだな――」

 答えて、俺たちは一歩前へ踏み出そうとして、

「あ、その橋、渡っているひとが存在を信じつづけてないと消滅するから、疑ったりしたらだめだよ」

「…………」

「…………」



 結局、無難にさっきまで来た道を戻ることにした。

魔法解説:

『架空の橋』(レインボーロード)

系統:幻術 難易度:B+

橋の幻覚を作り出す魔術。視覚と触覚に作用する。

つまり、橋の上を歩いていると騙すことができる。そのままであれば騙されているだけなので、対象は下に落ちる。

……はずなのだが、この術は幻術強度が極めて高いため、思い込みによって対象の未知の力を引き出し、本当に空中を歩かせてしまう。

つまりは、橋があると誤認させるまでは幻術使いの技術であるが、実際に橋を渡るときの力は幻術の対象者の(未知の)力である。そのため、この術は普通の浮遊魔術と違って極めて燃費がよく、軍隊にすら実用的に適用可能。

ただし習得難易度は極めて高く、天才的なセンスの持ち主が努力の末にようやく獲得できるレベルである。


そして本文にもある通り、幻術対象者が少しでも橋の実在を疑うと、その時点で未知の力が切れて落下する。割とピーキーな術。

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