表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
エピローグ:そしてまだ懲りない悪党
101/103

最終日:そしてまだ懲りない悪党

 ごろごろ。がらがら。

 馬車は進む。

「平和だなぁ……」

「ですねぇ……」

 ボクとア・キスイは、二人そろって荷台の中でぼーっとため息をついた。

 あれから、いろいろあった。

 帰ってきた自分たちを待っていたのは、聖地挙げての大宴会だった。

 コゴネルさん曰く、事件の元凶が仕留められ、事件そのものも収まって、功労者が全員帰ってくるこのタイミングまで、戦勝パーティに待ったをかけていたらしい。

 無事に帰ってきていたバグルルさんやペイさん、怪我はしたものの帰ってきたスタージン神官、どさくさにまぎれてカシルさんたちと一緒に帰ってきた魔人二人組も巻き込んで、一昼夜通しての乱痴気騒ぎになった。

 いろんなことがあったし、いろんなことを聞いた。

 世界剣がなんで抜けたのかについては、パルメルエさまが理由を教えてくれた。

 ライに与えられた、最初の神威(カムイ)。抜けない剣を抜くというその微妙な特技が、今回はキーになったのだった。

 そうして、二人の混沌は、一人の新しい神と、一人の新しい大巨人になった。

 めでたしめでたし。

(まあ、ついでにボクたちまで、神話に名前が刻まれちゃったりしたけど)

 栄誉なことだ、とスタージン神官は言ってくれたけれど、ボクは正直に言って、ちょっと恐れ多い。

 センエイさんは最後まで帰ってこなかったが――ライ曰く、転生に成功した(・・・・・・・)と言っていたらしい。

 そのうち、自然と姿を現すだろう。そう言ってライは笑っていた。

 はあ、と吐息。

 がらがら。ごろごろ。

 馬車は進む。

 またみんなで旅をすることになるのかな、と思っていたのだが、思いの外、みんな忙しいようだった。

 コゴネルさんは、持っているコネを全部、脇目も振らずに使ってしまった。なので、今後は魔人業に戻るのは難しいようだ。たぶんバグルルさんと一緒に、フリーナスタル家に戻るのだろう。

 カシルさんや岩巨人たちは戦後処理。特にカシルさんは、給金をもらうまではそもそも旅費がないということで、しばらく聖地に居座るようだ。パルメルエ様も、いましばらくは復旧のための人手が欲しいということで、滞在を歓迎している様子だった。

 というわけで、集落に残った岩巨人のみなさんを安心させるためにア・キスイが帰り、ボクはその護衛、兼、ヴァントフォルンに行って手続きを済ますために、こうして同行しているのだった。

 手続きというのは、祭神が変わったために本来の任地に赴任できなくなってしまいましたという届けを出すためだ。

 祭司である以上、ボクは本来、ライのそばにいてサポートするのが役割になる。けれど、神殿のシステム上、本来の任地をおろそかにするのには問題がある。

 なので、折衷案として、ヴァントフォルンで手続きして後任を探して、しかるべき後に戻ってくる、ということになっている。

 のだが。

「ライ……ちゃんと待ってるかな。聖地で」

「あ、あはは……どうでしょうね」

「パルメルエ様は、神としての常識と節度を教えるって言ってましたけど……あのライが、ちゃんとそんな授業、受けると思います?」

「……ちょっと、想像できないですね」

「ですよね。大丈夫かなあ」

「なんだなんだ。信用ねえな。正解だけど」

「うわあああ!?」「ひゃあっ!?」



-------------------------



「おお、思った通りのリアクション。期待を裏切らねえな、ふたりとも」

「ライいいい?! なんでここにいるの!?」

「ん? いや乗り物が欲しくてな。徒歩よりは早そうだったし」

「説明になってないー! ていうか、乗るなら乗るで一言言いなさいよ!?」

「あいにくだが乗るか反るかなら乗った者勝ちってのがクラックフィールド家の家訓でな」

「意味わからないよその家訓!?」

「俺もそう思う」

「あ、あはは……ライさま、予想どおり逃げてきたんですね」

「おう、キスイ。しばらくまた厄介になるぞー。とりあえずパルメルエが諦めるくらい」

「って、本格的に逃げてきたんだね……まさか、いくらライとはいえ、一日すら持たずに逃げ出すとは思わなかったよ」

「なにを言う。逃げるなら早いうちがいいに決まってるだろ。

 ただでさえサリとか、妙にパルメルエと仲良くしていて困ってたんだ。あいつに本気を出されたら俺は完璧に逃げる隙を失っちまう」

「サリさん……って、え? なんで?」

「ほれ。あいつも亜神だろ。だから授業を一緒に受けるっていう話でさ。

 まあ、あいつが俺の代わりに受けてくれるなら安泰だろ。パルメルエも満足、俺も満足。全員満足で文句なしだ」

「それってサリさんの満足はカウントされているの……?」

「呼んだ?」

「「「うぎゃあああああ!?」」」

 いま、みんなの心がひとつに! みたいな感じで絶叫。

「さ、サリ!? おまえいったいどこにいた!」

「ずっとここにいたけど」

「嘘だ! 気配とかそういう以前に、見えてもいなかったぞ!?」

「みんなにぶいから」

「そういう問題か?!」

「さ、サリさん……サリさんまで逃げ出して来たの?」

「ライが受けない授業なら、わたしも受けない」

「いや、そんなこと言われても……」

「抜け駆けは許さない。と言ったでしょう?」

「――――」

 いや、その。

「わ。サリさんが笑っているところ、初めて見た」

「きれいですねー。ねえライさま。……ライさま?」

「あ、ああ……」

 やばい。動悸が止まらない。やばい。

「で、でもよ。そんなに生徒が抜けて大丈夫なのか。パルメルエ怒ってるんじゃないか」

「大丈夫。全員で抜け出してきた」

「ぜんぜん大丈夫じゃねえよ!?」

「お、ようやっとわらわ達の出番じゃな。待ちくたびれたぞ」

「俺はべつに出番なんかどうでもいいがな」

「黒キスイ!? それとバルメイス!?」

「な、なんであなたがここにいるんですかっ」

 狼狽するキスイ。

「ん? おお。いやな、なにしろパルメルエ超怒ってたからな。居残ってるとお仕置きが怖いのじゃ」

「だそうだ。しばらく邪魔するぞ、ライナー」

「邪魔って――」

「た、たいへん、ライっ」

「なんだ!?」

「なんかすごい勢いで馬車が追ってくるっ。それも三台もっ」

「なにい!?」

 慌てて後ろを見ると、そこには。



「うおおおおお、なんでこの馬車勝手に突撃してんだコラ! おいジジイ、テメエなんか仕込んだか!?」

「ほほほ、ペイ。そんなわけがないでしょう。これは単に、センエイが事前につけていた呪いでしょうな」

「呪い!? なんだそりゃ!?」

「ライナー少年とサリが仲よくなりそうな気配を察知して妨害しようとする呪いじゃないですかね、たぶん」

「なんで俺たちがそれに付き合わされてるんだよー!? つーか速度オーバーだ畜生、センエイちょっと抑えぐげっ!?」

「ほほ、振動の激しい車内で無理に喋ろうとするから舌を噛むのですよ。ペイ」

「試練です」

「いえーい、行け行けー☆」

「ごーごーですっ」

「まるまるー♪」



「ふふふふふ……! キスイ様にひっつく悪い虫はぜんぶ退治するのです! さあ行きましょう皆の衆、なんとしても追いつくのです!」

「承知しました、ラ・ジロロ」

「な、なぜ私まで……おい、戦後処理あるんだぞ!? 勝手に拉致しやがってなに考えてるんどぅあ!?」

「つべこべ言わないのですよヴァロックサイトの君。『生贄』をお守りするのは岩巨人達の使命です。当然です」

「いやそこまで深刻な事態とは到底思え――うわあ!? ハンマー振り回すな!?」

「あの少年……危険と思っていましたがとうとうキスイ様に夜這いをかけるまでに至るとは。もはや遠慮することはありません! 全力で排除するのです!」

「おーいデカブツ! おまえこいつ止めろよ! むちゃくちゃなことやってるのはわかるだろ!」

「祭り役の使命のためとあらばやむを得ません」

「ダメだこいつ役に立たねえ!」



「あはははは。そうですか私の授業はそこまで受けたくないと。そういうことなら、ちょっとお仕置きをしなければならないようですね。特にあの二人」

「わーすごいよミスフィト。なんか地面が飛ぶように後ろに行くよ」

「そりゃあここまで速度を出せばな。……なんでだろう。今回も儲からない仕事の気配がするんだが」

「さあ行きますよ二人とも! 悪の魔人の実力、とくと見せてみなさい!」

「悪のって……まあいい。プチラ、加速するぞ。舌噛まないようにな」

「へっへーんそんなドジあたしが踏むわけないじゃん。よっし今度こそがっぽり稼ぐぞー! お金よこふぎゅ!?」

「噛んだか。だから言わんこっちゃない」

「ミスフィトが変なタイミングで揺らすからいけないんだい! くそ、その体毛全部ハゲろ!」

「そしたら増毛剤の分の出費はおまえ持ちな」

「そんな殺生な!?」



「……うわ。一人として関わり合いになりたくねぇ」

「逃げるしかないわね。もっと速度を出してくれる? シン」

「はいはい、わかったよサリ。じゃあ加速するから、みんな気をつけてね」

「っていつの間にか御者さんがシンさんに変わってるー!? なにが起きたの!?」

「よしシン、最大加速だ! 奴らを引き離せ!」

「うわーん、なんでこんな展開になるのよー! ボクは無関係なのにー!」



 飛ぶように地面を駆る。

 空は面白いくらい快晴。雲ひとつない空は憎たらしいほど青い。

 絶好の旅立ち日和の日に、俺たちは。


「うわああああ、なんだこれなんだこれ! センエイの残留思念が乗り移ってきて――やべえ! 無性にライを殴りたい、いま!」

「うふふふふ、ふーらちーものー。ハンマーの錆になってしまうがいいのですわ。そら行きなさい!」

「ふふふ、捕まえたら××に×××して××の×にしてやる――! さあ行きますよ! 覚悟しなさい!」


「いろいろ台無しだな」

「台無しね」

「台無しじゃな」

「そうだな」

「あ、あはは……」

「って、全員冷静になってないでなんとかしなさいよ! あんたたちの追っ手でしょー!?」


 まあ、これはこれで。

 いろいろ楽しいことも多いし、なによりみんなが笑っている。

【お知らせ】

本編はこれで終了となります。

明日、9月26日の7時と19時に、それぞれ二回に分けてあとがき的なものを書いて、完結ということにします。

では、それまでしばしお待ち下さい。

(この作品の姉妹作である『意地っ張りの魔王とわからずやの騎士』の情報が少し含まれています。

ご興味のある方は、

https://ncode.syosetu.com/n3380fa/

こちらをご覧下さい)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ