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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
カルート国への出兵 編
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イツキ、出発する

 ギニ副司令官の執務室で色々な思惑が交錯する中、ドアをノックする音がして、イツキの教え子の声がした。


「ギニ副司令官、冷たい飲み物をお持ちしました」


そう言って入ってきたのは、3年前の卒業生のハモンドだった。ハモンドは軍学校在学中にイツキと出会い、情報の大切さを学び、卒業後に2年間上級学校に編入し上位の成績で卒業した。

 優秀さを買われて、レガート軍の情報部を仕切っているギニ副司令官の元で働いているが、実質はギニ副司令官の下にいる、イツキの剣の師匠であるソウタ副指揮官の下で、こき使われているのが現状であった。


「あれ?イツキ先生、今日はどうされたのですか?この会議って、明日からの出兵の作戦会議ですよね?」


 何故ここにイツキ先生が居るのだろうと不思議に思いながらも、ハモンドはせっせとコップに冷たい飲み物を注いでいく。


「ねえハモンドは秘密の作戦とか好きだよね?」


 イツキはハモンドの勤勉さや熱心さをよく知っている。そしてワクワクするような秘密を探るのが大好きなことも知っていた。


「秘密の作戦・・・なんか素敵な響きの言葉ですねイツキ先生」


 キラリと瞳を輝かせながら、注ぎ終わったコップをイツキの前に置きながら、楽しそうに言った。


「ハモンド、今日これからカルート国に行かないかい?途中、レガートの森では魔獣も見れるし、君の才能を思う存分発揮できる仕事も待ってる。どうかな?行きたいよね?」


 いつものイツキスマイルで、まるで近くに散歩にでも行くかのように、軽い感じでハモンドをカルート国に誘うイツキである。


『えっ?行きたいよねって、ちょっとイツキ先生、なに誘ってんですか!』


と、周りの全員が、呆れた顔をしてイツキの方を見て、心の中で突っ込みを入れた。

 しかし、どうやらイツキは本気で誘っているらしく、ニコニコ笑顔を振り撒きながら、ちゃっかり自分の隣にハモンドを座らせる。

 当然ハモンドは、この場のメンバーが凄すぎて、場違いな下っ端の立場で何故自分が……と、目を泳がせている。

 直属の上司であるソウタ副指揮官に、助けを求めるように視線を向けたが何故か視線を逸らされ、より上司であるギニ副司令官に視線を移すと、ニヤリと口角を上げて信じられないことを告げられてしまう。


「ハモンド、暫くイツキ先生と一緒に行動を共にしろ。これは特別任務であり最高機密事項だ。これより先、自分が何処に行くとか何をするとか一切口外してはならない。至急旅に出る準備をしろ!荷物は少なく服装は平服・・・で、良かったですかイツキ先生?」


 ギニ副司令官はキシ公爵同様、【リース(聖人)】であるイツキが決めることに、できるだけ協力することが【頭脳戦で勝つ】ことに繋がると考えていた。


「はい、平服で良いです。持ち物も軍人であることが判る物は、絶対に持ってこないでください。出発は昼食後直ぐに、そして馬車で出掛けます。よろしくね」


 ハモンドは、よろしくねっと微笑むイツキ先生の笑顔が怖かった。この笑顔は逆らってはいけない時の笑顔だ。軍学校の時にしっかりと学んだから分かる。とてつもないことが待っているような気がする・・・確か魔獣という単語も聴いた気がする。

 ハモンドはブルリと背中に寒気がしたが、【秘密の作戦】という心惹かれる言葉にも逆らえず、了承するしかなかった。


 


 そこから話は一気に進んでいく。

 

 イツキの別動隊の人数は8人に決まった。【少数精鋭】と言っていたが、まさか本当にそこまで少人数だとは思わなかったアルダスは、イツキ先生の護衛が少な過ぎると抗議したが、イツキから誰にも襲われないから大丈夫だと言われて、渋々引き下がるしかなかった。


「それよりキシ公爵は、フィリップさんとソウタ師匠が居なくても大丈夫ですか?」


イツキは、アルダスの番犬フィリップとソウタ師匠を別動隊に引っ張ったことで、アルダスの身の回りの警護が気になり質問してみる。


「イツキ先生、こう見えてキシ組の中でも、僕が1番強いと思います。なにせ僕は《印》持ちなんですよ。キシ組以外では王様しか知らないことですけど」


アルダスはニッコリ笑って余裕を見せる。この時キシ組の4人とコーズ教官・マルコ教官は、アルダスとイツキ先生は同じタイプの人間であると気付いてしまった。そして思った。


『何かこう……生まれながらに人の上に立つ、オーラのようなものを持っている感じが同じなんだ。そして、男とは思えない可愛過ぎる笑顔が怖いところも同じだ・・・』と。


「アルダス、お前《印》持ちだったのか?」


キシ組以外のメンバーが驚きの声を上げる。アルダスは立ち上がり太股を右手で指差しながら、それが何か?という顔をしてから椅子に座った。足にある《印》は、運動神経が特別に優れていることが多く、アルダスも武術全般に優れ、運動神経だけではなく動体視力等も優れていた。


 イツキはこの時、自分も《印》持ちだと真実を話せないことが少し辛かったが、自分を育ててくれたファリス(高位神父)ハビテから、腕にある印《紅の紅星》は絶対に人に見られてはいけないと、物心ついたときから厳しく言われていた。それはリーバ(天聖)様からの命令なのだが、己の命を守るためだと教えられている。



 別動隊は2手に分かれて王都ラミルを出発することになった。

 先発のイツキとハモンドは、午後から馬車でミノスへ行き必要な物を準備する。後発のフィリップ、ソウタ、コーズ、マルコの4人は、イツキの相棒ラールを連れて明日出発する。

 残りのメンバー2人は、ミノスにいる【奇跡の世代】であり【王の目】のメンバーでもあるガルロとドグを加えることに決定している。


 詳しい行程は、全員がミノス正教会に集合してから説明することとし、イツキはハモンドと共にミノスへ向け、一般人の馬車に乗って旅立った。





 ◇  ◇  ◇


「イツキ先生、じゃなかったイツキ君、どうして一般人の馬車で行くのですか?軍の馬車なら休憩なしで早く着くのに、この馬車では、ち、痛っ……地方の町や村にも寄りますから2日掛かりますし、宿にも泊まることになり危険度が増すような気がするのですが・・・」


ハモンドは、イツキの耳元に近付き小さな声で質問する。途中馬車が揺れて少し舌を噛んでしまった。


「それを考えるのが、今夜の宿までの課題だよ」


イツキはそう答えると、周りの人たちと楽しそうに話を始めた。

 軍の馬車は、6人乗りでドア付き窓付きの豪華な馬車だが、イツキたちが乗っているのは荷車に幌が付いる辻馬車で、座席は4人掛けの板張りが、向かい合わせになっているので合計8人は乗れる。もちろん窓もドアも付いていない。

 外の景色は、前方の御者席の先の景色と、夏場は風通しの為にカーテンのように左右に開けられた、後方の幌から見える後ろの景色だけだった。


「少年、お前さんは何処まで行くんだい?」


向かい側に座っている、商人風の恰幅のいい40代くらいの男性がイツキに質問してくる。


「僕たちはミノスの教会で働いている叔母さんの所へ行くんだよ、おじさん」

「それは遠い所まで行くんだなあ、じゃあ今夜も明日の夜も宿に泊まって、2日がかりで旅をするわけか……兄さんは大きいから大丈夫だけど、お前さんは気を付けないと、最近子どもをさらう誘拐集団がいるらしぞ」


 その男の話を聞いて、周りの者も反応し、

「俺も聞いたことがある」

「私は初めて聞いたけど、そりゃ本当かい?うちにも子どもがいるから、気を付けなきゃいけないねぇ」

と、数人が会話に加わってくる。


 今日乗り合わせた8人は、全員が宿泊地点まで降りる者が居なかったので、思ったよりも早く宿のある町まで到着した。


「イツキ先生、課題の答えが分かりました。情報収集ですね。馬車の中で色々な情報が得られるから、そうでしょう?」


ハモンドは自信満々の顔をして、荷物を部屋に運び入れながら、回答を訊こうとイツキの顔を見た。


「正解だよ。では、馬車の中に恐らく誘拐犯が居たと思うんだけど、それは誰なのか判った?判らなければ次の課題に決定だね。解答は朝食までに考えておくこと」


「ええええぇっ!犯人が居たんですか?じゃあ、イツキ先生が危ないじゃないですか!」


 ただニッコリ笑って「そうだね」と答えるイツキ先生に、ハモンドは物凄い不安を感じたが、2人共護身用の剣は持参している。よく考えればイツキ先生は自分より体術も剣も強かった・・・。

 そこからハモンドは、夕食の時も風呂の時も馬車の乗客を注意深く観察し、耳を澄まして聞き耳を立てることになる。


 次の朝、ハモンドはまだ正解が判らないので、もう少し時間をくださいとイツキに頼んだ。


「いいよ。恐らく犯人はミノスまで一緒だから」


 いつもと変わらず、美味しそうに朝食を食べているイツキ先生の緊張感の無さに、もしかして冗談なのかも……と考えたりしたけど、イツキ先生はそういうタイプではなかったと思い直して、馬車の中で然り気無く情報収集しようと思うハモンドであった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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