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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
結末と再会 編

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リーバ様の決断

隣国の戦乱は、これで最終話です。

続きは、《 予言の紅星 上級学校の学生 》として、新シリーズで始まります。

よろしければ、引き続きお付き合いくださいませ。

【魔獣調査隊】8人、縛られた兄、その縄を引く弟リブロスの合計10人と、ラールとミムと上空のモンタンは、警備隊と軍の人たちに別れを告げ、レガート国のミノス正教会を目指して歩き始めた。


 その夜は、来る時に泊まった橋の休憩所に泊まった。

 夕食時、猿ぐつわを解かれた兄が、魔獣を操ろうと印の力を発動しようとした。

 

「お前らごときは、崇高な俺の力の前にひれ伏すしかないのだ。俺の能力は、ギラの神により強められた力なのだから!」 


 兄は勝ち誇ったように言い放つが、体は縛られたままであり、格好は悪い。

 その上残念ながら、操りたくてもモンタンの羽根を持っている一行に、近付こうとする魔獣などいない。


「たかが中級魔獣ごときを操ったくらいで、そんなに威張られてもなあ・・・」

「俺たち上級魔獣と友達だし・・・」


ドグとガルロは意地悪く言いながら、美味しそうに晩御飯の肉を食べている。

 

 リブロスの兄は、モンタンの力で地面に這いつくばっていたので、モンタンの姿を見ていなかった。

 その為、音や気配だけで状況を判断していたので、モンタンの正体に気付いていなかったのである。まあ、モンタンの波動で感覚が麻痺していた可能性もあるが・・・


「ボス!こいつに実力の差を、思い知らせてやったらどうです?」


「僕は、いつからボスになったのでしょうか?まあいいでしょう。モンタンも皆によしよしされたいでしょうから」


 フィリップのボスという呼び方に異議を唱えながらも、イツキは大声でモンタンを呼んだ。

 突然強い風が吹き始め、大きな羽音が聞こえてくる。その音が近くなるにつれ、川の水面がさざめき出す。


〈〈 モンモーン 〉〉


 元気に鳴きながら、モンタンはゆっくりと河原に降りてきた。

 頭の上に青く光る冠を載せている、伝説の空飛ぶ最強魔獣ビッグバラディスが、焚き火の炎に照らされて姿を現した。

 リブロスの兄は驚いて腰を抜かしそうになりながら、へたり込み震え始める。

 これが普通の人の反応なのだが、【魔獣調査隊】のメンバーは、既に普通ではなくなっていた。


 イツキはモンタンに近付き、いつものように頬をよしよしする。すると気を良くしたモンタンが、翼を広げてイツキに乗るよう促す。


「ああぁ!」と、皆の心配する叫び声が聞こえたような気がしたが、ひょいとモンタンの背に乗り、イツキは夜の空へと舞い上がっていった。


「世の中、己が1番だと思っている奴ほど、己の力を知らないものだ」


マルコ神父は、憐れみの視線を兄に向け、教官口調で教え諭す。


「まぁあれだな、魔獣を操ると言うより、あれは魔獣に好かれる能力かもな」


コーズ隊長がそう呟くと、皆はハッハッハと笑いながら、改めてイツキの規格外の凄さに感心するのだった。



 翌朝から、あれだけ悪態をついていたリブロスの兄は、すっかり大人しくなっていた。上空をビッグバラディスが付いてきていると知ったからだ。

 他人は魔獣に襲わせても、どうやら自分は襲われたくはないようだ。


「俺たちのボスを怒らせると、怒気を感じたビッグバラディスが、急降下してくる」


と、ソウタ師匠が出発前に脅しを掛けていたのが効いたようだ。




 6月25日、帰国の旅は順調に進み、夕日が沈みかけた頃、ほぼ予定通りにレガートの森を抜けた。

 少し時間が掛かったのは、冒険者稼業が楽しくなったメンバーが、途中で薬草を採取し獣を狩り、ミノスの街のドゴルで換金しようと言い出したからである。


 森の出口で、フィリップ、マルコ、ハモンド、イツキの4人は教会の衣装を着替えて、レガート国の住民に戻っていく。

 そして、イツキとメンバーたちは、大活躍だったモンタンにお礼を言って、何度も顔を撫でてやった。昨夜から仲良くなったリブロスも、同様に頬をよしよししていた。


「モンタンまたねー!本当にありがとうー!」


【魔獣調査隊】のメンバーとリブロスは、レガートの森へと帰っていくモンタンの、姿が見えなくなるまで手を振った。



 暫く歩くと、ミノスの国境軍と国境警備隊が、イツキたちの一行に気付き駆け寄ってきた。軍が4人、警備隊が4人の合計8人である。

 どうやらレガートの森を封鎖するために、森の近くで見張っていたようだ。


「レガートの森の強盗は、全て捕らえられた。ここに強盗の1人がいるが、こいつはブルーノア教会に引き渡すことが決定している。明日の朝から、封鎖を解除しても大丈夫だと知らせてくれ」


 ソウタ師匠がそう説明すると、皆は上官である副指揮官に軍礼をとった。

 イツキと顔見知りの警備隊員たちも「お疲れ様でした」と皆に声を掛ける。


「俺はミノス正教会に立ち寄ってから、軍の馬車で王都へ向かう。直ぐに用意を頼む。それから、ハキ神国軍は撤退した」


「「おお、やったぞ!!」」


ソウタ副指揮官の言葉に、全員が歓喜し抱き合って喜ぶ。


「本当に吉報ですね。で、我が軍の被害状況は?」


 国境軍の兵は、戦況がどうだったのか訊ねてきた。


「被害……?恐らく被害はゼロだ。戦う前に撤退して頂いたからな」

「はい?被害ゼロで、戦う前に撤退させた……のでありますか?」


兵たちは、ポカンと口を開け、よく意味が分からないといった顔である。

 ソウタ副指揮官は、詳しいことは国王様かタイガ総司令官からの、正式な発表を聞いてくれと言って、それ以上のことは話さなかった。



「あのう……皆さんは、いったい何者なのですか?」


リブロスは、教会の【魔獣調査隊】だと思っていた人たちの中に、レガート軍の上官が居たことに衝撃を受けていた。

 縛られて弟に引かれていた兄も、恐ろしいモンタンが居なくなったので、隙あらば逃げ出そうと思っていたが、レガート軍の上官たち?だと分かると、再び元気が無くなった。


「何者かって?俺たちはレガート国民さ」


コーズ教官が、にっこり微笑みながら答えると、他のメンバーも微笑みながら頷いた。



 その後リブロスは、ブルーノア教会で神父としての修行を始める。兄は呪縛を解くために、厳しい労働が課せられ教会の独房で暮らした。半年後呪縛は解かれたが、己の罪の重さに気付き処刑を望んだ。





 イツキたちが、ミノス正教会に到着すると、皆はイツキたちの無事を祝い、神に感謝の祈りを捧げた。

 ファリスのエダリオ様も、母親代わりのマキさんも、イツキの無事と作戦成功を喜び抱きしめてくれた。

 いろいろ報告することもあったので、イツキは教会に泊まり、ハモンド、コーズ教官、マルコ教官は、森で採取した物をドゴルで換金した後《教会の離れ》に泊まることになった。


 フィリップ、ドグ、ガルロの3人は、【王の目】としての任務に戻っていった。キシ公爵アルダス様が王都に帰還される7月4日頃、再び軍本部で会おうと約束して。


 ソウタ師匠は、バルファー王と軍本部に結果報告をするため、休む間もなく軍の馬車で王都へ向かった。


 翌26日早朝、イツキたちはミノス中央広場から、小型の馬車を貸し切り旅立った。

 コーズ教官は、昨夜ドゴルで売った商品代金(金貨5枚)を持っていたので、これくらいの贅沢をしても、誰も怒らないでしょうと言って胸を張った。そして途中の宿や食堂でも、ちょっと贅沢をして美味しいものを食べ、【奇跡の世代】の昔話等の話題で盛り上がりながら、楽しく軍学校を目指した。




 1096年6月27日午後5時、ハキ神国へと旅立った日から24日後、イツキたちは懐かしい軍学校へと帰ってきた。


 夕食はハモンドも一緒に、ハキ神国軍撤退を祝しての盛大なお祝いの会で盛り上がった。

 友人のピータは、無事に戻ったイツキを抱きしめて号泣していたが、試作のスペシャルケーキを特別に食べさせてくれた。それはそれは美味しいケーキだったのは言うまでもない。



 その日の夜も含め、レガート国に帰ってからの3日間は、本当に楽しくて幸せで、忘れられない思い出になった。

 これからも、大好きな人々のために、そして自分を必要としてくれる軍学校の為に、頑張っていこうと神に誓いイツキは眠りについた。




 国王様からの、ハキ神国軍撤退の正式発表を明日に控えた6月30日、イツキと軍学校ハース校長に、ラミル正教会のサイリス(教導神父)ジューダ様から、至急の呼び出しがあった。


「ハース校長、申し訳ないが、リーバ(天聖)様からのご指示で、イツキは暫く本教会に戻ることになった。期限は決まっていないので、戻る時には連絡をします」


ジューダ様は、困った顔をしているハース校長に、深く頭を下げられた。

 そしてイツキは、ジューダ様からリーバ様の指示書を受け取り、軍学校に戻ると荷物をまとめ、ラールとミムを連れて、誰にも別れを告げずに姿を消した。

 


 イツキという特殊な存在を、ギラ新教に知られることを懸念されたリーバ(天聖)様が、イツキを隠す決定を下されたのだった。

 

 その日から、誰一人としてイツキの所在を知る者は居なかった。

 それは、ファリスのエダリオ様や、父親代わりのハビテでさえも例外ではなかったのだ。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

やっと《隣国の戦乱》最終話に辿り着きました。

これからも、新シリーズ《上級学校の学生》へと続きますので、応援よろしくお願いいたします。


新しいシリーズは、4月8日頃スタートの予定です。

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