強盗団との対決
話の1部に流血シーンがあります。
苦手な方はご注意願います。
『ええっ!兄さん?』全員の視線がリブロスに集中する。
「兄さん、僕は兄さんを許せません。罪もない人々を殺し、人の物を盗む。両親の教えを忘れたのですか?」
リブロスは涙を堪えて声を絞り出す。その瞳には怒りが込められている。
「お前には崇高なギラ新教の教えが、理解できなかっただけだ!バカな奴め。俺は神に選ばれたのだ。選ばれた者が生きる世界を創るために、必要なことなのだと判らないお前は愚か者なのだ!」
強盗犯であり魔獣を操る《印持ち》であり、ここに居るリブロスの兄だという男は、自分のしていることを、必要なことなのだと弟に向かって叫ぶ。
『今確かにギラ新教と言ったよな・・・』
【魔獣調査隊】のメンバーは、意外な名前を聞いて顔を見合わせ、視線をイツキに向ける。こんな所でその名を聞くとは思ってもみなかったのだ。
『この件に、まさかギラ新教が関与していたとは・・・許せません』
イツキは意識して《裁きの聖人》銀色のオーラを、身に纏い始める。例え悪神に騙された者であっても、決して許されることではないとイツキは強く思う。
「リブロスさん、貴方はこの男をどうしたいのでしょう?」
イツキは、凍るように低く冷たい声でリブロスの方を見て訊ねる。
「私の手で終らせたいのです。兄が悪に魂を売り渡した時から・・・こんな日が、こんな日が来ると判っていました。魔獣を操る《印持ち》である兄は、下級魔獣を操れました。風を操る《印持ち》の私と、兄弟で冒険者としてランドル山脈で仕事をしていましが、ギラ新教の大師に出会い、兄はすっかり変わってしまったのです」
リブロスは兄を睨み付けたまま、自分が兄を終らせる(殺す)と、悲痛な覚悟でイツキの問いに答えた。
「小賢しい!お前に私は殺せない。そしてこの場に居る全員が死ぬのだ。ゆけお前たち!皆殺しにしろ」
リブロスの兄は狂気に満ちた顔で、両脇のブラックギールに命令する。
どうやら弟も一緒に殺す気のようだ。
大型の狼のような外観のブラックギールが、1歩2歩と近付いてくる。牙を剥き出しにし、低く唸り威嚇しながら・・・
イツキは、モンタンの羽根が効かないブラックギールを見て、即座に空を見上げて「モンターン」と叫んだ。
モンタンはイツキの声を聴くと、ずっと様子を伺っていた上空から、待ってましたとばかりに少し降下し「ビヨーゥゥ」と高い声で鳴きながら、ブラックギールに向け波動?を浴びせる。
ブラックギールはピタリと動きを止め、地面に体が押さえ付けられていく。隣に居たリブロスの兄も、当然身動きできず地面に倒れ込む。
何事かと空を見上げた警備隊の4人は、真上で旋回する巨大な鳥の姿を目撃する。
「・・・?」「あ、あれは何だ?」「そそ、空飛ぶ魔獣!」「伝説の!?」
それ以上の言葉が出てこない。どうやら空飛ぶ魔獣が、目の前のブラックギールの動きを止めているのだとは判るが、自分たちの命もこれで終わりだと血の気が失せていく。
そこへバタバタと数人の足音が聞こえてきた。どんどん近付く足音に、ラールがワンワンと激しく吠え始める。
「何をもたもたしてるんだ?早く魔獣で片付けろ!」
森の中から強盗団14人が姿を現した。魔獣に襲われた悲鳴や叫び声が聞こえてこないので、痺れを切らして出てきたのだろう。しかもリーダーは、兄ではなく他の人間だった。
現れた強盗団は、獲物の一行が誰一人死んでおらず、それどころか武器を手にしていたことに驚き、慌てて厳戒体制をとる。
よく観ると、ブラックギールとそれを操る仲間は、地面に顔を擦り付けるようにして倒れている。
「・・・な、どうしたんだ?早く立て!」
混乱している強盗団の目の前に、巨大な鳥が上空から急降下してきた。
突風が起こり砂煙が舞い上がる。そして眼前のブラックギール2頭を、その巨大な鳥が、両足の爪でがっしりと強く掴む。そしてバッサバッサと大きな羽音と強風を伴って、飛び去っていった。
「「・・・!!!」」
巨大な鳥は、頭頂に青く輝く冠をのせていた。間違いなく魔獣である。
恐怖の中級魔獣ブラックギールを、鋭い爪で掴み、簡単に運び去ってしまえる巨大な鳥・・・
「空飛ぶ巨大魔獣……まさか・・・いやそんなはずは・・・」
【魔獣調査隊】以外の人間は、完全に体が硬直し、とんでもない魔獣と遭遇してしまったと、死の恐怖と絶望でガタガタと震える。
「今です!掃除しましょう」
イツキは、その場に全く相応しくない言葉を発する。
「殺してもいいのでしょうか?」
そしてフィリップ神父は、神父らしからぬことをさらりと口にする。
「残念ながら、楽に死なせることなど出来ません。罪を償わせるのです。でも、手足の1本くらいは仕方ありませんね」
そう言うと、イツキは荷車の中から自分の剣を取り出し、鞘を抜くと団長と思われる男に斬り込んで行った。
そして目にも留まらぬ早さで、団長の剣を持つ手を斬りつけた。
ハッと我に返った強盗団が、反撃に出ようとイツキを見ると、大人ではなく身形の良い服装の子どもだった・・・
「このガキ、舐めたことするんじゃねえ!団長に剣を向けるなんざぁ100年早いぜ!」
強盗団の中でも剣の腕に自信があると思われる男が、イツキの前に立ち塞がる。
「う、うわー!な、な、なんだこれはー?」
突然上がった団長の絶叫に、全員の視線がその声の方へと集まる。
見ると、団長の両手首からは血が吹き出し、手首の先は、剣を握ったまま地面に落ちていた。
「だ、団長ー!なんで・・・」
その時フィリップの矢が、イツキの前に立ち塞がった男の太股に突き刺さった。
それを合図に、【魔獣調査隊】の掃除が始まった。
乱戦に突入するかと思われたが、あまりにも実力が違いすぎた。
ソウタ師匠とマルコ教官は、レガート軍の中でもトップレベルの剣の腕である。フィリップとコーズ教官は弓のトップレベル、ドグもガルロもハモンドも軍学校で鍛え上げ、一通り武術には秀でている。イツキに関しては剣と体術は天才的であった。
護衛として参加していた国境警備隊の4人は、呆然とその様子を見ているだけだった。かえって邪魔になってはいけないと、倒れた強盗たちを回収する役目にまわった。
チャボルを含めた15人は、かなり痛い目に遭いながら、あっという間に倒され縛られていく。縛っていくのは警備隊の仕事である。
気付くと、縛られていない強盗団の人間は1人になった。
「それで、どうするの?兄を斬る?それとも《印》の力で空に吹き飛ばし、地面にでも叩きつける?」
「・・・」
イツキの問いに、リブロスは即答できない。いまだ地面に這いつくばったままの兄の姿を見て、リブロスはすっかり戦意を失っていた。
「リブロスが許可するなら、この男の呪縛を解いてやりたい。その上で罪を償わせる。この件にはギラ新教が関わっているので、ブルーノア教会に処遇の全てを任せて貰えないだろうか?」
リブロスは、イツキから瞳を真っ直ぐに見据えられ、兄の呪縛を解くという、思ってもみなかった提案をされた。
イツキの真意に気付いたリブロスは、涙を流しながら膝まずき、深く頭を下げて了承した。
リブロスから、兄の《印》の能力は言葉を発することで、魔獣を操れると訊いたイツキは、警備隊員に体を縛り上げた後で、猿ぐつわをするよう頼んだ。
モンタンの波動の力が切れた兄は、イツキを睨み付ける。そして縛られたまま抵抗するように暴れ続ける。
他の強盗団は全員縛られ、イツキたちの荷物しか積まれていなかった荷車に、荷物のように載せられて(投げ込まれて)いく。
「お腹空いたなー、ご飯にしましょう。鍋に蓋をしていて良かったですね。舞い上がった砂が入るところでした」
一件落着したイツキは、子どもらしい顔で笑いながら昼食を催促する。
これだけの大捕物の後で、しかも人を斬った後で、お腹が空いたと言える弱冠12歳のイツキに、一同呆れると言うか……流石と言うか……笑うしかないと思うのだった。
昼食後、国境軍が追い付いてきたので、荷車の強盗団を引き渡した。当然荷車の中の犯人たちを確認したのだが、皆酷い有り様だった。中でも強盗団の団長と呼ばれる男の、切断され止血の為に縛られた両手首を見た兵士たちは絶句した。
『どんな腕と剣があったら、こんな神業のようなことが出来るのだろうか?』
まあ恐らく現場に居た警備隊の4人から、いろいろ聞いて驚くに違いない。
ただ、モンタンのことだけは、ブルーノア教会の機密事項であり、喋ったりしたら神罰が下ると、フィリップが美しい顔で脅していたので、他言することはないだろう。もしも言っても信じて貰えない可能性もある・・・
イツキは急ぎ3通の手紙を書いた。
1通は領主に宛て、もう1通は警備隊長に宛て、3通目はルナ正教会のドーブル様宛である。
その内容は、首謀者はギラ新教である可能性があり、魔獣を操る《印》持ちは洗脳されていた。本来なら引き渡すところであるが、第2第3の強盗団や殺人者を作らせないよう、ブルーノア教会が預かり、洗脳の手口を解明する必要がある。洗脳を解いた上で、その男には生涯罪を償わせ、厳しく罰することを約束するというものだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
つい最終話が長くなり、2話に分かれてしまいました・・・
明日また投稿しますので、よろしくお願いいたします。
近々、ハビテのロームズの町の後始末を、外伝に投稿しますので、気が向いたら読んでみてくださいませ。




