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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
結末と再会 編

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レガート国へ 後編

 その日の内に、囮作戦は始められた。

 作戦の内容は、明日領主が緊急の荷物をレガート国へ送るため、護衛を募集すると噂を流す。そして犯人たちを誘き寄せるものである。


 護衛の面接者はイツキとフィリップが行う。いかにも弱そうな子どもと、妙に美しい神父の2人だから、完全に舐められるだろう。まあ、思う壺だけど・・・


 イツキは《裁きの聖人》銀色のオーラを使い、黒い、ドス黒いオーラを放っている悪人を雇い入れる。

 恐らく護衛の中に手引きをする者が居るはず。そして情報を伝える繋ぎ屋が居るだろう。強盗殺人者たちは元々森に潜んでいるか、ターゲットより半日前くらいに、レガートの森に入って待つかのどちらかだ。

 どちらにしても、犯行予定場所で魔獣と待ち伏せをするだろう。


 領主の荷物はミノス正教会へ贈られるもので、寄付金の他に美術品や高価な燭台等も含まれている。それと急に留学が決まった貴族の子どもと、その子どもの荷物も運ぶ。荷車の数は2台で、各々1頭の馬が牽いて行く。

 領主から依頼された2人の神父とレガート国へ留学する領主の親族の子どもと従者の1人に、護衛が4人の合計8人の一行である。


 2人の神父は、フィリップとマルコ神父である。貴族の子どもはイツキで、従者はハモンドだ。

 護衛の4人は、国境警備隊から4人借りている。警備隊長の弟が強盗に殺されているので、かなり気合いが入っている。


 募集されたのは、冒険者または《印持ち》護衛の合計6人である。

 

 当然採用される者の中に、冒険者としてソウタ、コーズ、ドグ、ガルロが入っている。犯人が《印持ち》でも冒険者でもいいようになっている。

 もう1人は、レガートの森で最初に襲われ、息子を失った商団の代表が、どうしてもと言って寄越した《印持ち》の護衛が入ることになっている。


 出発は明日の夕方と決まった。森の入り口で1泊して翌朝レガートの森へ入っていく。

 恐らく、空飛ぶ最強魔獣ビッグバラディスのモンタンが、嬉しそうに上空を付いてくるに違いない・・・


 噂を流すのは国境軍である。

「こんな大変な時に、領主様には困ったもんだ」とか「北コースでレガート国入りしたら、留学に間に合わず領主が軍に頼み込んだらしい」とか「報酬は凄いらしい」とか、皆酒を飲みながら愚痴っぽく演技したようだ。

 隊員はタダ酒が飲めると、喜んで演技し見事に役を果たした。

 

 募集は、当然ドゴルにも出されており、集まっていた冒険者や護衛たちの注目を集めていた。


「いや、俺はパスだわ。死にたくないしな」とか「報酬は欲しいが魔獣が相手じゃなぁ」とか「早くなんとかして欲しいよ。生活が出来ないよこれじゃあ……」と、皆尻込みしていた。


「俺はやる!レガートで家族が俺と稼ぎを待ってるからな。合計10人の護衛だ。絶対大丈夫だろう」 (ドグ)

「俺も応募する!もしも強盗を捕まえたら賞金が出るだろうし」(ガルロ)


ドグもガルロも大きな声で煽るように、参加を希望すると言う。


「お前たち冒険者なのか?噂の魔獣が恐くないのか?」


冒険者と思われる男が話しかけてきた。身長は160センチくらいと低く、がっしりとはしているが強そうにも見えない。人相はこれと言って特徴のない、何処にでもいそうな男だったが、どこか怪しい奴ではある。


「ああ、まだ成り立てだがな。でも、剣も弓もそこそこやれる。俺たちは実績を作らなきゃならないんでね。魔獣を倒したことだってある」


ドグは弓を射る真似をしながら、自信満々な態度で質問に答えた。


「それじゃ俺も応募しようかな・・・俺は剣が得意だから、弓が得意なあんた達が居れば安心だ。レガートの森も半分越えれば大丈夫らしいし」


怪しい奴は、情報も教えながら自分も応募すると言い出した。


「そうなのか?半分でいいなら楽勝だよな。だいたい上級魔獣なんてランドル山脈にしか居ないし、操っているのが中級魔獣なら、10人も護衛が居れば大丈夫さ」


怪しい男の話に合わせるように、ガルロも大口を叩いて話にのる。


『たいした奴等ではない……この2人なら俺でも殺せる』

男はニヤリとほくそ笑んで、ドゴルから推薦状を受け取った。




 翌朝、面接は荷物が運び出される予定の、ルナ正教会の集会所で行われた。


 面接に集まってきたのは、ソウタやドグたちを含めて8人だった。

 その内2人が《印持ち》で、1人は商団から推薦された男だった。

 応募者の内、8人中5人が作戦を仕掛けたメンバーだから、残りの3人の中に犯人の仲間が居るはずである。


 面接は4人ずつに分かれて行われ、始めの4人は全員初めて見る顔ばかりで行った。

 商団の紹介の男も平等に注視して行うよう、イツキはフィリップに指示する。


 4人の男たちは、集会所に入ると面接者を見て驚いた。そこに居たのが神父と子どもだったからだ。


「どうぞお座りください。それでは右の方から順に、名前と得意な武術とこれまでの経歴を言ってください。《印持ち》の方は名前と能力の種類と、経歴を言ってください。もちろん《印》を確認します」


フィリップは優しく微笑みながら、目の前の4人に着席するよう勧める。どう見ても頼り無さ気な、貴族出身ですと言わんばかりの上品さを醸し出している。


「僕は魔獣の毛皮を学校に持って行くから、できるだけ綺麗に殺してね。上手く仕留めた者には、父上が推薦状を書いてくれることになっている。男爵家の推薦状があれば、貴族からの依頼が受け易くなるだろう?」


イツキは、わざと感じの悪い貴族のぼんぼんを演じており、当然冒険者など見下した態度である。おまけに何故か、じゃらじゃらと宝石類を身に付けて、机に肘をついて優雅にお茶を飲んでいる。

 座った冒険者たちは、イツキの言葉や態度に一瞬眉間にシワを寄せたが、そこはプロである。作り笑顔で神父様の問に答えていく。


 1人目も2人目も普通の冒険者だった。

 3人目は商団紹介の男だが、名前はリブロスと名乗り、《印》の能力は火を扱う能力で、護衛としての経験は殆ど無いと言った。

 4人目の男は、ガルロたちに昨日ドゴルで声を掛けてきた男だった。名前をチャボルと名乗り、《印》の能力は風使いで、カルート国での経験は少ないが、他国で経験を積んでいると言った。


「お前、何処の国で経験を積んだんだ?ダルーン国とかイントラ連合国だったらお笑いだよね。だって魔獣が居ないし」


イツキはハッハッハと笑いながら、生意気で嫌なガキ役全開で質問する。


「ハキ神国だけど・・・まあ、お坊っちゃんには関係ない世界でしょうが」


チャボルは憮然としながらも、子どもの質問など相手にする気はないようだ。


「ふーん……ハキ神国かぁ。嫌な国だよね。戦争を仕掛けてくるなんてさ」

「坊っちゃん、護衛でお世話になる方たちです。それ以上は・・・」


フィリップは貴族の子息に気を遣いながら、優しく諌める神父様に成りきっている。ちょっと似合わない役である・・・

 フィリップが全員にいくつか質問をして、面接は終了した。


「それでは20分程外でお待ちください。残りの4人の面接をしたら、お願いする6人を発表します」


フィリップはそう言って、外で待っていた4人と交替するよう促す。




「それでどうでしたか?犯人らしい男は居たのでしょうか?」


ソウタ師匠がコーズ隊長とドグ、ガルロを連れて入れ替わりで入ってきて問う。


「居ましたよ。嘘つきは2人居ましたが、犯人の仲間はチャボルでしょう。僕が身に付けている宝石類を目にした時の視線は、完全に値踏みに入ってました。そして下を向いてニヤリと笑っていました。さすが領主様のお宝の威力は凄いですね。そしてリブロスは、何かを隠しているようです」


イツキは犯人を断定して言い、リブロスについても疑いを持っていると言った。


「俺もそう思う。《印持ち》の護衛にしては、動きに不自然な程隙がない。それに冒険者特有の自慢話をしないし、プライドや誇りがない。でも、他には怪しい奴は居なかったと思う」


フィリップは自分の判定を皆に告げる。リブロスについては、悪人には見えなかったが……と言うに止まった。


 イツキは、チャボルの周りを覆い尽くしていた、黒いオーラをしっかり確認したが、リブロスの顔の周りにも黒い影を見ていた。

 採用者をチャボルと決定して、面接を受けた8人に合格者を告げた。


「採用者の方は、午後4時にこの場所に集合してください」


 最後まで上品な神父になりきっているフィリップを見て、笑いを堪えて変な顔になっているメンバーたちである。



 コーズ隊長はチャボルに走り寄って、「やあ、お互い頑張りましょうね」と親し気に話し掛けていく。

 それが警備隊や軍の尾行役への合図だった。

 採用者が決定し、コーズ隊長が話し掛けた者が、犯人の仲間である可能性が高いとして、尾行し、監視し、誰と会ったか、また会った者への尾行と監視もするよう、事前の作戦で決められていた。

 尾行に気付かれて撒かれた時のことを考慮し、警備隊と軍の2手の尾行を付けてある。



 午後3時、尾行していた警備隊と軍から報告があった。

 やはり思っていた通りに、チャボルが会った男が、レガートの森の方向へ向かったと。

 そして、その男を深追いし過ぎない程度に、数人がレガートの森の浅い場所まで尾行して行ったと。


 午後4時、領主様の荷物と子どもを含めた一行14名は、ルナ正教会を時間通りに旅立って行った。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

いよいよ大詰めです。

どうぞ最後までお付き合いください。

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