表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
結末と再会 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/57

レガート国へ 前編

 1096年6月18日午前10時、【鎮魂の儀式】を滞りなく終えたイツキは、【魔獣調査隊】のメンバーと目覚めたばかりのハモンドにこれからの予定を告げた。


 ハビテには、これからハビル正教会から復興の支援物資やお金が届くはずだとこっそり伝える。そこまで手回しをしていたのかと呆れられたが、ハビテとクロノスに任せれば安心して旅立てるイツキだった。


 ビビド村で待っている、村長の娘ライラと婚約者のシーバルの為に、ビビド村に寄って結婚式をしようと思っていたイツキだが、シーバルの母ミリドがそれを断った。

 ミリドの弟であるロームズ教会の神父が亡くなったのと、ビビド村から出稼ぎに出掛けていた9人の内、1人が亡くなっていたのだ。その人が村長の親戚筋にあたることも含めて、結婚式など到底できないとミリドに言われたのだった。

 ブルーノア教徒の間では、身内に死者が出た場合3ヶ月~6ヶ月後でないと、祝である結婚式を挙げられないとされている。例外として、戦争中や生活に困窮している寡婦は、村長や町長の許可があれば許されるという決まりもある。


「既に戦争は終わりました。この教会の復興が成り、3ヶ月が過ぎたらきちんと結婚を許可します。一旦村に帰りますが、私は教会で働く身でございます。亡くなった弟の分まで、必ず力を合わせて教会を元通りにしてみせます」


ミリドさんは力強くそう言い切って、笑顔でイツキたちに頭を下げた。

 ビビド村の8人は、静かに出発したいというイツキの気持ちを受けて、「それでは我々は少し遅れて出発しましょう。住民たちには、共にビビド村に向けて旅立つと言っておいたので、我々が礼拝堂の前でうろうろしていれば、気付かれないでしょう」と言ってくれた。



 

 イツキたち一行は、町の住民の復興の手を止めさせたくないからと、町長だけに挨拶をしてこっそりとロームズの町を後にした。

 そして、一行は馬車で国境の街ルナに戻るため、ビビド村を越えてビルドの町を目指した。


 夜8時にはビルドの町に到着し、再びビルド教会を訪ねてイスト神父を驚かせた。

 借りていた【鎮魂の儀式】で使った聖杯やその他諸々を返し、ごく簡単にロームズの状況を説明しておいた。当然奇跡のことは話さなかった。

 運良く宿が取れたので、8人は久し振りに満足な食事をし、風呂に入りのんびりすることができた。


 翌19日朝、8人は馬車を借りきってルナの街へ向かった。

 途中で宿泊した町や宿でも、未だハキ神国軍の撤退やロームズの町で疫病が発生したことは知られてはいなかった。

 しかし、別の情報は耳に入ってきた。

 カルート国の軍総司令官ミザリオが、レガート軍の指揮官アルダスに無礼を働き、その職を罷免されたと。

 

「さすがアルダス様、悪人は放って置かれませんでしたね」


 にっこり笑ってそう言ったイツキの雰囲気が、主アルダスに似ていると感じたフィリップとソウタ師匠は、複雑な気持ちで視線を合わせていた。

 前々から感じていた、アルダス様とイツキが持つカリスマ性や、有無を言わせない決断力と行動力がとても似ていること・・・、そして妙に可愛い顔で黒く微笑んだ時の怖さがそっくりであることなど・・・






 1096年6月21日午後、一行は無事ルナ正教会に到着した。

 到着すると直ぐに、正教会のファリス(高位神父)ドーブル様から、レガートの森の様子を聞いたイツキたちは、まだ強盗が森に居ると報告を受けた。


 イツキはドーブル様に、国境警備隊長、国境軍の上官、領主又はそれに次ぐ者に、正教会の執務室へと至急集まるように手配して貰うようお願いした。

 そして、皆が集まるまでの間に、これまでの経緯をドーブル様に大まかに報告した。そして後のことをファリスのハビテに全て任せたこと、ハビル正教会のシーバス様が、ロームズ教会の復興の協力を約束してくれたことなどを話した。


「それでは、ハキ神国軍は撤退したのだな。良かった……しかし、どうして撤退したのでしょうか?」


ドーブル様は、安堵の息を吐きながら、当然の疑問を質問してきた。


「それは、ロームズの町で疫病が発生したからです」


打ち合わせ通りの回答をフィリップがする。


「え、疫病ですか!それはどんな?」


教会にとって疫病の発生は重大事である。ドーブル様が驚かれるのも無理はない。


「大陸戦争の時に3万人が亡くなった、【神の怒り病】です」


フィリップは慎重に、低く小さな声で辺りに気を配る素振りで答えた。


「・・・?あの……あの【神の怒り病】ですか?本当に?」


ドーブル様の顔が、不安と恐怖の表情に変わっていく・・・


「そうです。今回は200人以上が2日間で感染しましたが……ちょっと耳をお貸しください……これから話すことは最高機密事項になりますから」


イツキはドーブル様を手招きし、ドーブル様は緊張した顔でイツキの側に寄っていく。そしてイツキが耳元で何やら囁き始める。

 その話の内容は、【魔獣調査隊】のメンバーには、神の奇跡により病が治ったと伝えると言ってあった。

 しかし、真実は違った。


「私はリーバ様より命を受けた【予言の子】(運命の子)です。その事は最高機密事項であり、【魔獣調査隊】のメンバーにも秘密です。今回はブルーノア様のお力で奇跡を起こし解決しました」


そう囁いたイツキは、ドーブル様の顔を見てにっこりと微笑んだ。


「・・・えっ・・・あ、あぁ、はい分かりました。必ず秘密に致します」


なんだか、より緊張した表情になったドーブル様を見て、『神父様も奇跡の話には驚かれただろう』とメンバーは皆思った。



 

 それから30分以内に、呼び出しを受けた者が集まってきた。


「皆さん随分と早い集合でですね?」


マルコ神父が訊ねると、「皆さん・・・会いたがっておられたので……」と、なんだか口を濁されたような、誤魔化されたような返事が帰ってきた。

 

 ドーブル様は、〔ロームズの近況に変化あり、例の奇跡の一行が戻って来られた〕という内容の文章を、呼び出された者に送っていたのだった。

 実は前回イツキたちが、ルナに運んできた遺体が、聖水の影響で臭いどころか腐敗もしなかったので、「奇跡だ!」と街中で話題になっていたのだった。その奇跡を起こした神父様に会えると、喜び勇んで飛んで来たのだった。



 会議に出席したのは、イツキたちがフィリップ神父とマルコ神父の3人、国境警備隊長と国境軍責任者、領主とその秘書、ファリス(高位神父)ドーブル様とモーリス(中位神父)のカルロス様の計9人だった。

 何故か皆嬉しそうであるが、ドーブル様だけは申し訳なさそうにしている。



 先ずは、あれからの様子を国境警備隊長から説明を受けた。

 その内容は、封鎖した国境をこっそり抜けて往き来しようとした商隊は皆襲われ、その殆どが戻ってこなかった。

 2日前、国境警備隊と国境軍の合同チームが、レガートの森の3分の1の地点まで入った。

 そして・・・無惨な亡骸と空になった荷車を発見した。その数は、国境警備隊が把握しているより多かった。どうやらレガート国側からも、警備隊や軍の目を掻い潜って国境を越えようとした商隊が居たようだったと聞かされた。


「なんて酷い奴等なんだ!絶対に許せません」

「魔獣に襲わせて金品を奪うなんて、人のできることだとは思えない」

「亡骸を放置し、わざと獣に人を食べさせたことにより、獣が人を襲う可能性が増えたはずです。これではレガートの森の街道に、獣が集まってくるでしょう」


マルコ神父とフィリップ神父とイツキは、国境警備隊長の話を聞いて、順に椅子から立ち上がり抗議する。


「しかし相手は魔獣と魔獣を操る能力者です。我々ではなかなか太刀打ちできません。もっとたくさんの人数が必要ですし、武器や防具も大量に必要になるでしょう。戦争中の我が国にそんな余裕は無いでしょう……残念ですが」


警備隊長が、悔しさを滲ませながら拳を握り締める。そして声は段々小さくなり、力なく下を向いた。


「これはまだ極秘ですが、ハキ神国軍はカルート国から撤退しました。明日か明後日には報せが届くでしょう。しかし、国がレガートの森の盗賊に予算を割くとは思えません」


フィリップは重要な吉報を伝えた。この場に居た者たちは、ハキ神国軍撤退の話を聞いて歓喜したが、その後のフィリップの話に言葉が出なかった。

 元々カルート国の軍備費は少なかった。今回の戦で変わるはずだが、特別大きな利益を産み出してはいないこの危険な街道に、予算を割くとは思えないし、警備隊員を増強してくれる期待値が低いことは、この場に居る人間にはよく分かっていた。


「はぁ~。このままでは冒険者や護衛たちは、仕事ができず他の街に移ってしまいます。これだけはっきりした被害が出ていれば、闇の依頼も断るでしょうし。冒険者が持ち込む物が無くなれば、街の大きな収益源であるドゴルが潰れ、ルナ領は大打撃を受けることになります」


領主は悲嘆にくれる感じで、深く息を吐き肩を落とす。側に居た秘書が「領主様……」と涙ぐんで俯く。領主にとってこの問題は、死活問題だったようだ。


「我々には解決策があります。しかし皆さんの協力も必要です。犯人の仲間は、必ず街の中で商隊の動きを探っています。その人間を見つけ出して欲しいのです」


マルコ神父が計画通りに話を進めていく。

 そこから詳しい作戦会議が始まった。そして1時間後それぞれの役割分担を決定し、作戦内容を確認して、会議は終了した。

 



「さあ、そろそろ掃除を始めましょうか」


イツキは嬉しそうに【魔獣調査隊】のメンバーにそう言ったが、その黒い笑顔に、犯人たちの末路を想像して背筋が寒くなったメンバーたちである。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ