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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
結末と再会 編

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イツキの力

 夕食の後でハビテとクロノス、フィリップとコーズ隊長の4人は、町の見回りに行くと言って礼拝堂を出た。

 礼拝堂の少し先には、小高い丘があり公園になっている。そこのベンチに座って4人はゆっくり話をすることにした。

 イツキのことは心配だが、何故イツキが倒れたのかを知ることが、今現在最も重要なことなのだ。


「今日の【鎮魂の儀式】の時の様子を教えてください。いったい何があった、いえ起こったのですか?」


ハビテはレガート語で話し掛けた。その方がもしも住人に聞かれても安全だし、お互いレガート国の人間なのだ。


「はい、今日の【鎮魂の儀式】では、祈りの言葉第2章を唱えていました。我々には何を言っているのか全く解りませんが、ブルーノア様が作られた古い言葉だとか……その途中で、聖杯から出てきた白い雲のようなものが、眠ったままの患者を覆いました。祈りが終わって聖杯に花びらを入れて、抱え上げると雲は聖杯に吸い込まれていきました。聖杯を置くと奇跡が起きて、150人の患者が目を覚ましたのです」


フィリップは、先程の光景を思い出しながら、出来るだけ丁寧に話していく。


「ちょ、ちょっと待ってください。今、何を言っているのか解らない古い言葉の祈りと言いましたか?」


ハビテは驚いて、つい大きな声を上げてしまった。


「そうです。なんでも軍学校に置いてある、古い教典の祈りだとか……」


何をそんなに驚いたのだろうと、フィリップはハビテの顔を見て不思議に思った。


『まさか……そんな、ブルーノア文字を既に解読していたのか?それで奇跡が?』


「すみません、まだ教えていなかったのに、自分で覚えたんですね」


ハビテは、ごまかしながらも驚きが隠せない。これは直ぐにでもリーバ(天聖)様にご報告せねばと、胸が高鳴ってしまう。

 何百年も、いやブルーノア様亡き後、誰も解読できなかったブルーノア文字を、とうとうイツキが解読したのだ。




「それから急に、神のお言葉を伝えるので平伏すようにと命令しました。これまで、そんなことを言ったことも、命令したことも無かったんですが……」


「えっ?神のお言葉ですか?」


コーズ隊長は続きを話始めたが、またしてもハビテから驚きの声が上がった。


「はい、そしてイツキ先生の声とは違う、まるで大人のような声で、頭の中に直接話し掛けてくるようでした。神のお言葉を話し終えた時、平伏さなかった十数人が一斉に倒れ動けなくなったのです。そのままイツキ先生は町役場から出て行きました」


 コーズ隊長は、その時の話の内容も出来るだけ正確に話した。


「・・・」


 コーズ隊長の話を聞いたハビテとクロノスは、言葉が出なかった。

 その奇跡の光景は、神父が神学校で勉強する、ブルーノア教の歴史の教科書に載っている、奇跡の数々の中に記されている【神降ろし】と言われているものだった。


 そもそも【神降ろし】ができるのはリーバ様だけで、歴代のリーバ様でも2人しか【神の声】を伝えた人はいないはずだ……だから伝説に近い話しになっているのだ……ハビテはハーッと深く息を吐き、頭を抱えた。

 クロノスも、つい最近学んだばかりの【神降ろし】が、最も尊い奇跡であると知ったばかりだった。

『さすがイツキ様。選ばれた神のお子なのだ』と、クロノスは感動の涙を流し、手を胸の前で組んで神に感謝した。


 フィリップとコーズ隊長は、2人が突然黙り込んだかと思ったら、ハビテ様は大きな息を吐かれ、クロノス神父は涙を流し始めた・・・いったいどうしたのだろう?と顔を見合わせる。



「えーっと、お2人の本当の身分とお仕事を尋ねても宜しいでしょうか?」


 暫くして、ようやくハビテが口を開いて、2人に質問をする。

 どうやら余程大切な話があるようだと察した2人は、正直にフルネームと身分と仕事を明かした。

 

 1人は公爵直属の部下であり、その上司であるキシ公爵が、この度の作戦の全権をイツキに任せたと話した。

 もう1人は、イツキの居る軍学校の教官で、今回の作戦でイツキが隊長に指名した者であった。


「これからお話しすることは、できればお2人の心の中に封印して頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」

「分かりました。他言は致しません」


 ファリス様に改まってそう言われると、断ることなど出来るはずがない。


「イツキが行ったのは【神降ろし】と言われている、ブルーノア教の歴史の中でも、最も尊い奇跡だと言われているものです。何故イツキが【神降ろし】ができたのか判りませんが、神が自分の身に降りてくるのですから、それは人を超えたことなのです。どれ程の力を必要としたのか、想像することもできません……イツキが倒れたのは、間違いなく全ての力を使ったからです。暫く眠り続けるでしょう……いつ目覚めるのかも分かりません」


 ハビテはまた深く息を吐いて、困った表情になる。本当に分からないのだ。


「歴史の本によると、前回【神降ろし】の奇跡が起こったのは、555年の大陸戦争の時で、その時のリーバ(天聖)様が起こされた奇跡だったと記されています。これは、ブルーノア教にとって大変な出来事なのです。そこで、リーバ様にご報告するまで、カルート国にもレガート国にも秘密にして頂きたい」


話し終えたハビテは、2人に頭を下げた。クロノスも一緒に頭を下げている。

 とんでもない大事な話を聞いてしまった2人は、動揺していることを隠せないが、イツキが倒れた原因が分かったことには安堵した。

 フィリップは、こんな重要な秘密を話してくれたことに感謝し、ずっと疑問だったことを、イツキの父親代わりのファリス様に、思い切って尋ねようと勇気を出し質問した。


「申し訳ありません。どうしても確認したいことがあるのですが、お訊きしても宜しいでしょうかファリス様?」


「私で答えられることなら構いませんが、機密事項は話せないかもしれません」


ハビテは何だろうかと思いながら、フィリップの方を見ながら質問を聞く。


「今回イツキ先生は作戦上、ミノス正教会で《シーリス見習い》という身分証を作りました。本人は決してそのような身分ではないと言っていましたが、私はそれは作戦上ではなく、本当のことではないかと思ったのです。そうでなければ納得がいかない不思議なことが多いのです」


 あまりに切実な顔をして質問してきたフィリップに、ハビテはどう答えようかと迷った。真実は告げられないし、かといって嘘も通じない雰囲気である。


「残念ながら、イツキはシーリス見習いではありません」

「それでは、本物のシーリス様ではないのですか?」


ハビテの答えに、畳み込むように次の質問……回答を求めていくフィリップである。


「それも違います。神に誓ってお答えします。イツキはシーリス見習いでもシーリスでもありません。これからたくさんの修行を積み、今回のように奇跡を起こし、リーバ(天聖)様やリース(聖人)様、シーリス(教聖)様がお認めになれば、モーリス(中位神父)からファリス(高位神父)、もしかしたらそれ以上に成れるでしょう」


ハビテはにっこりと笑って答えた。嘘は言っていない。現在イツキはリース(聖人)なのだから・・・


 


 

 それにしても……イツキが《運命の子》として、これからも奇跡と言われる行いをすれば、その身に危険が及ぶことは必至である。

 リーバ様は何を考えておられるのだろうか?

 イツキの力は、既に我々の想像の域を越えている。

 いやいや、今はご指示通りにロームズの町の後始末を・・・?そうか!後始末とは、イツキの起こした数々の奇跡を隠ぺいしろということなんだ……フムフム……確かに今日起こっていることを、リーバ様でも分かる訳ないか・・・


「では、礼拝堂に戻りましょう。イツキは病気ではないですが、予断を許しません。交替で様子を見守りましょう」


ハビテはそう言うと、ベンチから立ち上がり、早く帰ってイツキの顔を見ようと速足になっていく。

 誰よりもイツキが可愛いハビテである。イツキのことになると、心配性で泣き虫になる父親でもあった。



 その夜は、代る代る皆がイツキの手を握って『元気になりますように』と祈りながら朝を迎えた。



 午前6時、開け放たれた扉から、ハヤマ(通信鳥)のミムが礼拝堂の中に飛び込んできて、イツキの顔の横に着地し、自分の頭をイツキの顔にスリスリと擦り付ける。

 その様子を見ていた軍用犬でありイツキの相棒ラールは、ずっと側に付いていたが、我慢ができなくなってベッドの上に上がる。そしてペロペロとイツキの顔を舐め始めた。


「こら、ミムもラールもやめろ。心配なのは分かるけど、イツキ神父は疲れてるんだぞ」


イツキの手を握っていたソウタ師匠は、小さな声でミムとラールを叱る。


 叱っているのに、ラールは〈〈 ワンワン! 〉〉と元気よく吠え、ミムは〈〈 ピイピイポー 〉〉と美しい声で鳴いた。


「おはようミム。おはようラール。今日も元気だね!ソウタさんも、おはようございます」


 ソウタ師匠が驚いてイツキの顔を見ると、目を覚ましたイツキが、優しくニッコリと笑っていた。

 

 それは、本当に天使のような微笑みだったと、数年後プツリと姿を消したイツキを思い出して、ソウタが仲間である【奇跡の世代】たちに語った話である。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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