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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
カルート国への出兵 編
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イツキ、会議に出る

( 補足説明 )

《印》持ちとは、特殊能力の持ち主であり、身体の何処かに円形・三角・四角・葉・線・月・その他の図形のしるしがある人のことを指し、《印》のある場所で能力が違う。

 キシ公爵とギニ副司令官は、目を擦って何度も身分証を確認する。


    《 身 分 証 》   


 【 リース・キアフ 】 1084年1月生まれ

 本名 イツキ・ラビター  神名 キアフ

 1084年2月、リース(聖人)であると認め任命するものである。

 これより先、何人たりともリースの行いを妨げてはならない。

 リースは人の子にあらず。神の子である。


         ブルーノア教 本教会 リーバ(天聖)


 

 時間にして10分くらい経っただろうか、ようやく目の前の事態が飲み込めた2人は、急いで立ち上がり少し下がって、貴族として最上級の礼をとった。

 普通の礼は、右手を軽く握り胸の前に置き、右足を1歩下げて中腰になり頭を下げる。最上級の礼は、下げた右足の膝を地面(床)に着けて、頭と上半身を深く下げるものである。


「リース・キアフ様にご挨拶申し上げます。キシ公爵アルダスです。これまでの数々の非礼をお詫びいたします。これから先、私アルダスを手足として御使いくださいますようお願いいたします」


アルダスは深く頭を下げたまま、心からの挨拶をする。先程からの威圧感も恐怖心もリースの力なのだと納得する。


「リース・キアフ様にご挨拶申し上げます。レガート軍副司令官ギニです。これまで3年半もの長きに渡る非礼の数々、お詫びのしようもございません。私ギニはレガート国の軍人なれど、できることの全てで御手伝いいたします」


ギニ副司令官は、出会いからこれまでのことを思い出し、全てに合点がいった。

 9歳にして飛び抜けた頭脳、天才と言っても過言ではない剣の腕と体術の腕、軍用犬にハヤマ(通信鳥)の育成、レガート式ボーガンの開発など、どれをとっても普通では考えられないことだった。

 何故もっと疑問に思わなかったのだろう?軍学校における数々の事件を解決し、大きな図体の学生たちから恐れられていると聞いても、どうして笑っていられたのだろう・・・


 リース(聖人)といえば【奇跡の人】である。この世に奇跡と言われる行いをし、人々を助け励まし照らすのが仕事だと言われている。

 その正体は常に謎のままだが、ランドル大陸中を回り、数々の奇跡で困った人々を助けている。

 リースの存在とは俗に《死ぬまでに1度でも会えたら本望。いつお迎えが来ても後悔なし》と言われる雲上の人である。

 故に、国王であっても会うこと叶わず。その行動は如何なる時も自由だと言われている。


 しかし、実際は違った。ランドル大陸で暮らす人々のために、想像の範疇を大きく越えた義務を背負って戦っていたのだ。こんな子どもの時から、いや、恐らく生まれた時からずっと・・・

 

 キシ公爵もギニ副司令官も、「自分の力を信じて頑張るしかないのです」と言ったイツキの、いやリース・キアフ様の言葉の重さが胸を締め付け、暫く頭を上げられなかった。


「お2人共、お腹空きましたね。そろそろ学生たちは食べ終わった頃です。僕の友達ピータの作る食事はとても美味しいんですよ。出兵に関しては腹拵えの後にしましょう。空腹では良い考えは浮かびませんから」


そう話し掛けるリース(聖人)は、いつもの可愛い12歳の子どものイツキ先生だった。





 ◇  ◇  ◇


 沈む夕陽をレガート城の執務室で眺めながら、国王の秘書官エントンは考えていた。

 

 『どうしてイツキ君なんだろうか?何故皆イツキ君を欲するのだろう?』


 軍学校はまだ分かる。技術開発部やキシ公爵は、明らかに戦争の為に必要としている。まだ12歳の子どもに、天才的頭脳があるからと言って何をさせるつもりだ?考えれば考えるほど腹が立つ。

 妹カシアによく似た素直で可愛い子どもなのに・・・

 イツキ君の力がなければダメなほど、レガート国は弱小国ではないだろう!それなのに何故なんだ・・・


 陛下から、ぜひ会ってみたいと言われてしまったが、イツキ君の顔を見たら悲しみが増すか、有りもしない期待を懸けてしまうかもしれない。いや、きっとイツキ君を自分の暗殺された子どものキアフだと思うだろう。


 違うと分かっているのだ。誕生日もキアフは1月だがイツキ君は12月だし、生まれた場所もレガート国ではなくハキ神国なのだ。それでも、もしかしたらと期待する気持ちを捨てることができずにいる。瞳の色は遺伝(親の瞳の色)で決まる。カシアも陛下もグレーであって黒い瞳ではない。

 これまでヨム副指揮官から訊く彼の様子は、どれも心踊るものばかりだ。秘かに見守るだけでいることに我慢できないくらい、本当は可愛がりたいし、養子にできるものなら今すぐにでもしたい。


 

 考え事をしている間に、空には星が輝いていた。そういえばカシアは星を観るのが好きだったと思い出す。

 出窓を開け、窓の縁に腰掛け暗くなった夜空を見上げる。ふと窓から隣のバルコニーに視線を向けると、陛下が同じように星空を見上げていた。


『考えることは同じか……でも陛下にはカスミラ王妃も、側室のエバ様もいらっしゃる。もうずっと何年も、お2人の部屋には足を運ばれていない気がする。どうしたものかな……カシア、お前も空から心配しているだろうな』


 明日は朝からタイガ総司令官と打ち合わせだ。キシ公爵の説得がどうなったのか気掛かりだが、目の前の山積みになっている仕事を片付けなければならない。明後日の出兵に備えて、今夜は徹夜になりそうだなと呟いて、夜空の星にもう1度目をやってから机に戻っていった。





 ◇  ◇  ◇


 夕食を終えたイツキと、キシ組5人・ギニ副司令官・コーズ教官・マルコ教官は、図書室の大きな円卓テーブルを囲んでいた。

 イツキの部屋で何が話し合われたのかを知りたい他のメンバーだが、ギニ副司令官が「イツキ先生との会談内容は、一切知る必要なし」と断言し、キシ公爵もそれに同意したので、他のメンバーは口出しできなかった。


 しかし図書室で会議が始まって20分、会談前とは明らかに何かが違うのだが、それがどう違うのかと問われると、はっきり答えられないが、とにかくアルダスとギニ副司令官の様子が違う気がする一同だった。

 


「明後日の朝、軍本部を出発する予定です。レガートの森を抜けて進めば早いのですが、森の魔獣のことを考えると、どうしても回り道せざるを得ません。マキ経由でカルート国のサナに入ります。それから王都ヘサに向かいますので、約12日の長い行軍となりますが大丈夫でしょうか?」


ギニ副司令官はイツキの方を見て、気遣うように訊ねる。


「あのう……ギニ副司令官、普通の話し方でお願いします。それからその案だと王都ヘサから戦地まで行けば、プラス5日なので計17日ですよね?」


 どうも先程の余韻で、無意識に敬語で話しているギニに気付いたイツキがお願いする。キシ公爵も、つい敬語で話していたことに気付きイツキに丁寧に頭を下げた。


『??、いや、だから2人共どうした?』


なんだかギクシャクしている上司2人に、心の中で突っ込みを入れる一同である。


「僕はミノス経由でレガートの森を抜けて、カルートのルナに別動隊を作って入りたいと思います。そしてルナから戦地に入ります。ミノスまで4日、森の入り口まで1日、ルナまで2日で森を抜けます。ルナから戦地まで5日の計12日の予定です」


 イツキの話しに皆ポカンとしている。そもそもレガートの森を2日で抜けるなんて無理だ。途中魔獣に出会ったら倒すのが大変だし、余程の《印》持ちを護衛に付けていないと命を失う。夜の移動は不可能だから、何事も無かったとしても3日~4日掛かるはずだ。


「イツキ先生、レガートの森をどうやって2日で抜けるのでしょう?普通4日は必要なはずですが」


フィリップは今日初めて会ったばかりのイツキという人物を、まだ信用しきれていない。できもしないことを言う少年に疑念を抱きながら問う。

 そもそも何故、主アルダスがそこまで固執するのかが解らない。ヨムもソウタもシュノーも口を揃えて、将来アルダスの元で働いて欲しいと切望している。


「それは、僕の友達が道案内してくれるので大丈夫なんです」

「友達?それはもしかして、凄い《印》の持ち主の護衛なんでしょうか?」


フィリップは怪訝そうな顔をして疑問をぶつける。隣のアルダスがテーブル下でゲシっと足を蹴るが、フィリップはお構いなしでイツキを睨むように視線を向ける。


「え~っと、《印》?いえいえ友達の名前はモンタンという魔獣です。赤ん坊の時に大ケガをしているところを森で拾って僕が育てました。今は森に住んでいますが、僕が森に近付いたら飛んでくるはずです」


イツキは大好きなモンタンのことを思い出して、ニコニコしながらとんでもないことを言った。それが有り得ない話だと思っていないイツキは、皆があんぐりと口を開けている姿を見て、『あれ?どうしたんだろう』と思った。


「と、飛んでくる魔獣……そ、そそそれは、バラディス?」(コーズ教官)

「そんな訳ないだろう!」(マルコ教官)

「イツキ先生、我々は真面目な話をしているのですが?」


フィリップの声は大きくなり、少し怒りが込められている。


「僕も真面目な話をしていますが、バラディスではなく、ビッグバラディスです」


「・・・」


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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