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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
結末と再会 編

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目覚めと再会

 今日の【鎮魂の儀式】で、教典に書かれていた全3章の内、2章目を捧げることにしたイツキは、事前に皆に告げた。


「今日の祈りの言葉は第2章です。昨夜の第1章より短いですが、大切な死者の魂(霊)に直接語り掛ける祈りです。霊を鎮めながら願いを込めます。どうか皆さんは、眠り続けている人々のために願いを込めてください。死者が生ける魂を連れていかぬように、そして【疫病】からお救いくださいと」


 第2章を祈るイツキの声は少し低い。時折歌うように優しくなったり、まるで叱っているかのように厳しくなったり、穏やかだった第1章とは雰囲気が全く違っていた。

 人々は、相変わらずイツキが何を言っているのか分からない。古代語を使った言葉なので、意味も分からない上に、発音が現代語とは全く違っていた。


 イツキの声が強く大きくなった時、それは起こった。


 机の上に置かれた聖杯から、白い霧のような雲のようなものが溢れ出してきた。

 そして、それは眠ったままの人々を隠すように覆っていく。

 眠ったままになっている住民の家族は、「何が始まるの?」「大丈夫?」と不安な表情になっていく。

 そして、「どうか【疫病】が治りますように」、「どうか命をお救いください」と、両手を胸の前で組んで必死に祈る。



 イツキは祈り終えて、聖杯に白い花びらを数枚入れていく。

 すると、祭壇とは反対側の壁から風が吹き始めた。今回も昨日と同じで窓の無いところから風が吹いてくる。

 昨日は祭壇側からで、今日は反対方向からだ。

 その風は、眠ったままの人々を覆っていた、白い雲のようなものを祭壇側に動かす。


 イツキが聖杯を持ち上げた時、その白い雲のようなものが、聖杯の中へと一気に流れ込んでゆく。部屋一面に広がっていた白い雲は、あっという間に吸い込まれた・・・


 その場に居た全員が、驚きでポカンと口を開け、大きく目を見開き、一瞬で消えた白い雲のようなものが吸い込まれた聖杯を見つめている。

 コトッと小さな音をたてて、イツキは聖杯を机の上に置いた。


「あーよく寝た」「あれ?ここは何処だ……」「俺は何をしていたんだ?」などと言いながら、眠ったままだった住民が起き始めた。


「ああぁ!あなたー」「おやじー!」「お父さーん!」「ああ、良かった」と、驚きと感激の声が飛び交った。


「「 奇跡だ!今日も神様が来てくださった!!!」」


と、人々は膝まずき、もう一度手を組みむと感謝を捧げた。そして神の使いとしてイツキに頭を下げた。


「皆さん、神に祈りが伝わりました。しかし、残念ながらまだ眠ったままの人が50人くらい残っています。【鎮魂の儀式】の祈りは、全部で3章あります。明日は眠ったままの人々を礼拝堂まで運んで、朝から最後の祈りを捧げましょう。疫病で死人を出さないことが、ロームズの町の存続になるのです。私も全力を尽くしますので、皆さんも全力で協力してください」


 イツキの言葉で冷静になった人々は、まだ目覚めない人が居ることに気付く。

 奇跡に遭遇し、感動で胸が熱くなっていた住民は、目覚めていない50人の患者の半数が、軍服を着たハキ神国軍の兵士だと分かると、表情が曇ってしまった。


「ここに眠っているハキ神国軍の兵士たちは、母国ハキ神国に捨てられた人たちです。目覚めた兵も同じです。帰る国はありません。元気になったとしても、暫く入国すらできないでしょう。このままロームズの住民になるか、数ヶ月後に国境封鎖が解けてから戻るしかないのです」


 徐々に憎むべき敵兵たちという視線に変わっていく住民に、兵たちの置かれた現状を、悲しそうな声で説明する。

 シュルツ少佐を始め、目覚めた数人の兵から鼻をすする音が聞こえる。

 説明を聞いた住民は、同情的になる者もいたが、身内や近しい人を殺された者は、許せないという視線を向けたままである。『殺せ!』という心の声も聞こえる気がするが、神父様の前で口に出せる言葉ではない。



「それでは、私がお聞きした神のお言葉を伝えます。皆、ひれ伏して聞くように」


( イツキは【裁きの聖人】として、銀色のオーラを身に纏い始める )


 イツキの後ろで控えていた、フィリップ神父とマルコ神父がひれ伏していく。【魔獣調査隊】のメンバーも直ぐにひれ伏す。この感じ……この空気の重さは、絶対に逆らってはいけない時のイツキだと、みな知っている。


 神の御言葉という、途轍もないことを言われたら、ひれ伏すしかないブルーノア教徒である。

 しかし、たった今奇跡を体験した人々であっても、こんな子供の神父が何を・・・と、反発する男たちも居た。

 十数人の男たちはひれ伏さず、立ったままでいるようだ。

 そんな男たちにチラリと視線を向けたイツキだが、そのことには何も言わず、もう一度聖杯を、口元まで両手で持ち上げて話し始めた。


「憎しみは何も産まず、悲しみは募るばかりである。いつの時代も、心悪き指導者は欲をかき、無能な王は民を苦しめる。しかし、他人ばかりを責めて前を向かぬ者は、愛する者を苦しめる。血の償いは血に非ず。償いとは死ぬことではなく尽くすことである。敵の兵士と協力し町を復興させよ。神は償う機会を平等に与える。それは、王であっても平民であっても、罪人であっても皆同じである。ただし、神はその償う様を必ずている」


 イツキの声は、聖杯の力なのか、外で中の様子を見ていた住民たちにも聞こえた。その声は低く、子供の声とは思えず、人の声とも違う、頭の中に直接語り掛けてくるようだった。

 話し終えたイツキは、静かに聖杯を置いた。


〈 〈 ドーン、バターン 〉 〉


 静寂を破るように室内に大きな音が響いた。何の音だろう・・・?

 人々が顔を上げてキョロキョロ辺りを見回すと、立っていた男たちが全員倒れていた。意識は有るようだが、どうやら体が動かないようだ。

 その様子を見た、住民もハキ神国軍の兵士たちも背筋が凍った。『神の怒りだ!』と恐怖で体が震える者も居た。皆慌てて再びひれ伏す。今度は床に額を着けるようにして・・・


( どうやら、イツキの銀色のオーラの力は、より強くなっているようだ )


 皆がひれ伏している中、イツキはスタスタと歩いて建物の外に出て行った。

 外に出ると、殆どの者がひれ伏していた。そしてイツキと視線を合わせないよう懸命に地面を見ていた。




 イツキはそのまま振り返ることもなく、礼拝堂まで歩いて行く。

 途中で銀色のオーラが解けると、急に力が抜けたように、礼拝堂の少し手前でパタリと倒れてしまった。

 偶然礼拝堂の前を歩いていた2人が、倒れたイツキを見て慌てて駆け寄る。

 そして倒れている子どもの顔を確認して、驚いて叫んだ。


「おいイツキ!イツキじゃないか、どうしたんだ?おい!目を開けろ」

「イツキ様、大丈夫ですか?しっかりしてください!」


 2人の男がイツキに近寄ってきて、倒れたイツキを抱き起こす。


「ハビテ様、イツキ様に何があったのでしょうか?」

「クロノス、取り合えずイツキを礼拝堂に運ぼう。俺が背負うから頼む」


 クロノスはイツキを抱えて、ハビテの背にイツキを預けた。そして心配そうにイツキの顔を覗き込んでから、先に礼拝堂に向かう。

 礼拝堂の中には男女合わせて8人の人が居た。2人の女性が対応に出てきて、神父の服を着たクロノスを見て、にっこり笑って「お帰りなさいませ。【鎮魂の儀式】はもう終わられたのですか」と訊いてきた。

 クロノスの後ろに誰かを背負った、ファリス(高位神父)の服を着た神父様を見付けた2人の女性は、驚きとどうしようという表情で、背負われている人物の顔を見て驚いて叫んだ。


「あっ、イツキ神父様!」と。





 そのころ収容所になっていた町役場では、神の怒りを受け倒れて動けなくなったと思われる男たちを、フィリップ神父とマルコ神父が様子を見ていた。

 時刻は午後7時過ぎ、日は沈み少しずつ暗くなり始めていた。


「動けますか?ゆっくり息を吸って、もっと深く、そうそう、それからゆっくり吐いてください」


フィリップは優しく声を掛ける。しかし、倒された男たちは顔面蒼白で、なかなか上手く呼吸ができない。

 その顔は恐怖というより、絶望に近い表情だ。 

 神の存在を感じたはずなのに、神の言葉を真摯に聞こうとしなかった・・・

 後悔しても遅いのだと思い知る。


「大丈夫だ心配要らない!共にロームズの町の復興に尽くせば、必ず神はお許しくださる。お言葉を聴いただろう?神は償う機会を平等に与えると・・・」


マルコ神父が、動けず震える男たちを励ますように言う。


「さあ皆さん、明日は朝から最後の【鎮魂の儀式】を行います。なんとか力を合わせて、眠ったままの人たちを礼拝堂に運んでください。そして目覚めるように祈りましょう。今日はこれで解散します。目覚めた人にはスープを飲ませてあげてください。ハキ神国軍の兵士の方々は、この場を動かずこれからの償いを考えてください」


 夕映えに金色の瞳を輝かせ、整い過ぎる顔とすらりと伸びた美しい容姿で、フィリップ神父は神々しい感じで締め括った。

 住民たちは静かに町役場から立ち去っていく。

 ある者は呆然としながら、ある者は偉大な神の力に感動しながら、またある者は家族が目覚めて、感謝の気持ちで一杯になりながら、各々の家に帰っていく。



「おい、俺たちも帰ろう。イツキ神父が心配だ。今日は様子がいつもと違ってた」

「そうだな……なんだか俺の知っているイツキ先生じゃなかった」

「何言ってんだよマルコ、ソウタ。いつもより恐かったけど、イツキ先生はシーリス(教聖)見習いなんだから、普通じゃなくて当たり前さ」


フィリップはマルコの心配と、ソウタの疑問を、とんでもないことを言ってさらりと打ち消す。


「えええぇ!な、なんだって?」(フィリップ以外、ハモンドは眠ったまま)


 一同フィリップの顔をまじまじと見て、目をパチパチさせる。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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