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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
結末と再会 編

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それぞれの結末

 タルバ副指揮官が入室前に廊下で控えていると、中からオリ将軍の怒鳴る声が聞こえてきた。

 どうやら先程の教会の鐘は、領主の独断だったようだ。当然の判断だと思えるが、オリ将軍はハビルの街を諦めていないようだ。

 不機嫌なところに嫌な報告をしなければならない。

 タルバ副指揮官は大きく息を吸い深く吐くと、ギュッと手を握って貴賓室に入って行く。緊張した表情で頭を下げ、報告を始めた。


「ご報告いたします。ロームズの町で死者が発生しました。眠り続けている者は、住民も含めて200人以上。目撃した死者は2人で、腕に赤黒い模様があり血を吐いて死んだようです。直ちにロームズの町との国境を封鎖しました。それから将軍のご指示通り、500名の兵士と戦利品をシバに帰還させました」


 タルバ副指揮官は頭を下げたままで、オリ将軍からの言葉を待つ。


「死者が出たのか?では【神の怒り病】で間違いないのか?」


声を上げたのはムルグ総司令だった。驚きと恐怖が入り交じった表情でタルバ副指揮官に問う。


「ちょっと待て、昨夜の報告では眠ったままの者は10人足らずだったはずだが?」


ルンナ領主は怪訝な表情で、確認するように質問する。


「はい総司令、領主様、収容所には200人以上の眠ったままの患者が隔離されていました。たった1日で増えたようです。死者の様子から【神の怒り病】で間違いないと思われますが、【神の怒り病】の症状が本当にそうなのかは判りません」


「いや、間違いないだろう……私の屋敷にある古い文献と、街で保管している書物で確認した症状だ」


 タルバ副指揮官の答えに、絶望的な顔でそう言った領主は、ふらふらと力なく椅子に座り込んだ。


「くそーっ!なんでだ?あと少しだと言うのに・・・おまえらが無能なせいだ!今からハビルに攻め込むぞ!直ぐに兵を集結させろ。ハビルに【疫病患者】はまだ居ないはずだ。奪えるだけ奪うのだ!」


オリ将軍は、怒りに震えながらハビル攻めの命令を下す。


「しかし、500名の兵をシバに帰還させたので、我が軍の兵力は500しかありません。ハビルに居るカルート兵は400です。数では勝っていますが、住民が共に戦えば我々の負けになります」


将軍の無計画で無茶苦茶な命令に、素人の総司令でも無理だと思い反論する。


「我が軍の兵器を使えばいいだろう。この際街を破壊しても構わん!兵士が少々死のうと関係ない!」


将軍は鬼のような形相で、部屋の中に居る全員に向かって大声でわめき散らす。


「・・・」


あまりの横暴振りに、一同声が出ない。


『ここまでのバカだとは……俺が国王なら今すぐ幽閉するところだ……国民の命より、他国の財産を略奪する方が大事だと言い切った。信じられないと言うより、こいつを信じてはいけない』


領主は瞬時に頭を切り替えて、領地と領民を守るための行動に出ることにした。


「頼りの兵器は、確か開戦の日に将軍自らがお使いになり、壊れたままでは?」

「はい、投石機は専門の職人でなければ直せません」


 領主とタルバ副指揮官は、お互い意図するところが同じだったようで、視線を合わせると、将軍には分からないように頷き合った。


「オリ将軍、あなた様であれば、カルート国を攻めることなど造作無いことでしょう。しかし、レガート軍という援軍も来ている今、少人数で攻めて兵を失うことは得策ではありません。既にロームズの兵1,000人は失ったも同然です。今回は撤退し、更に兵を増強した後、ハビルの街だけではなく、カルート国全てを手に入れればよろしいのでは?」


 領主は言葉を慎重に選びながら、バカな将軍を撤退させる為の策を告げた。


「ハビルの街だけではなくカルート国全てを……」


「そうです。手柄は大きい方が良いのでは?それに私は将軍の、いえ、大切な王子のお命が心配なのです。兵の替わりはいても、王子の代わりは居ないのですから」


領主は将軍の顔色を伺いながら、バカに相応しい言葉で、これ以上バカな行動をとらせない為に説得する。


「それはそうだ。俺の代わりは居ない。王に成るべき存在は俺だけなのだ」



 その言葉を吐いた後のオリ将軍の行動には、領主もタルバ副指揮官も領民も、開いた口が塞がらなかった。

 なんと、護衛の騎馬隊20名を連れ、将軍と総司令は軍の馬車に乗り、後の指揮を全て放棄して、さっさとシバに撤退してしまった。

 どこまで身勝手な男なのだろうかと、残された領主とタルバ副指揮官は、信じられない思いだったが、むしろ居ない方が正しい指揮が執れると思い直した。


 

 しかし、ハキ神国軍とルンナ領民と国民の混乱はここから始まるのだった。

 ロームズの町との国境を封鎖していたブーニクス少尉は、ロームズから撤退してきた1,000人近い兵に対抗できず、あっさりと入国を許してしまい、ルンナの街と周辺に大混乱が起こったのである。




 ◇  ◇  ◇


 1096年6月17日午後6時、ハキ神国軍はカルート国から完全撤退した。

 これをもって、【魔獣調査隊】の頭脳作戦は終了した。


 イツキたちが15日にロームズの町に入ってから、僅か3日目で任務を遂行したしたことになる。

 6月11日にカルート国入りしてからだと1週間で、作戦名【死んだふりしてハキ神国軍にお帰り願おう】は無事成功を収めた。

 

 レガート国王バルファーが望んだ、出来るだけ血を流さずに勝利することができて、レガート軍副指揮官ソウタ・マグ・ローテスは心から安堵した。

 キシ公爵の番犬フィリップ・イグ・マグダスは、主であるアルダス様が、イツキ先生を信じて任せたことが正しかったと証明され、改めて主アルダスに敬愛の念を抱いた。



 ハキ神国軍撤退とロームズで【神の怒り病】が発生したという報せが、王都ヘサに届いたのは6月19日だった。

 レガート軍総指揮官アルダスは、3日待つと決めた3日目に報せが届いたことに安堵すると共に、イツキに感謝しロームズの方を向いて膝まずき謝辞を述べた。

 

 報せを聞いたカルート国の大臣や重臣たちは、緊急会議を開く。ハキ神国軍の撤退を歓び安堵したが、【疫病】発生の報せには黙り込んでしまう。

 誰からも良い案が出ず、時間だけが過ぎて夕方になってしまった。

 痺れを切らした国王ラグバスが、大臣や重臣を貴賓室に呼びつけた。そこにはレガート軍総指揮官アルダスが居て、共に解決策を練ることになった。

 国王は、対応策として至急医師や食糧や薬を送れと命令した。

 ところが臣下たちが出した答えは、ロームズ周辺を封鎖し住民を見殺しにするしかない、というものだった。



 呆れたと言うか、腹が立ったと言うか、あまりにも無責任な態度に業を煮やしたアルダスは、国王とその臣下に向かって立ち上がって言った。


「この度のレガート軍1,200の援軍に対する謝礼ですが、それほどまでに要らない町でしたら、我がレガート国が謝礼としていただきましょう。あまりに安過ぎる謝礼ですが、カルート国民でいるより、レガート国民になった方が、ロームズの住民も幸せでしょう!明日中に2,000人分の食糧と薬剤を用意してください。そうすればこの度のミザリオ総司令官、いや元総司令官の無礼な態度も不問に付し、レガート軍は国に戻りましょう」


背筋も凍るような笑顔で言い放ったアルダスは、臣下たちを睨みつけて椅子に座った。


「レガート国の飛び地を許すなど、そんなことはできない!」


一部の大臣が異議を唱えて立ち上がった。


「それでは、あなた方臣下の皆さんがレガート国に謝礼を払うと言うのですね?国王の命令に背くのですから、そのくらいの覚悟はおありでしょう?」


 冷気漂う冷たい声で、座ったまま放ったアルダスの声が、贅を尽くした貴賓室の中に低く響いた。

 どうやら己の金は1エバーたりとも出したくない上、疫病にも罹りたくないようだ。

 ラグバス王は、臣下の総意としてロームズの町をレガート国へと差し出した。


 その夜アルダスは、「これは秘密ですが、恐らく疫病騒動は直ぐに納まるでしょう」と、カルート国王にこっそり告げた。

 国王ラグバスは、アルダスの満面の笑みを見て、ハキ神国軍の撤退と疫病発生の裏で、レガート軍が動いてくれたのだと理解した。




 ◇  ◇  ◇


 ロームズの町で残る問題は、眠ったままの人々を起こすことだ。


 夕方収容所で目覚めたシュルツ少佐は、自分が見捨てられたと知りショックを受けた。そして現在は、自分こそが捕虜の立場であり、住民たちから敵意をもって見られていると気付いた。

 目覚めても、収容所から出ることは許されず、食事も与えられなかった。ハキ神国軍もロームズの捕虜たちには、昼に1度だけしか食事を与えていなかったので、当然の措置であるとシュルツは思った。

 ただ、収容所でこんこんと眠り続けている200人の患者と、共に過ごすという恐怖心はかなりのものである。


 午後6時15分、眠り続けている患者の家族を伴い、イツキ神父と【魔獣調査隊】のメンバーが収容所にやって来た。

 これから礼拝堂ではなく、収容所で【鎮魂の儀式】を行うという。

 収容所(町役場)の外には、たくさんの住民も集まっている。特に今まで収容所に居た男性たちの姿が目立つ。

 家族の者から、昨日の【鎮魂の儀式】の時に起こった奇跡の話を聞き、そのありがたい儀式に参加したいと、集まってきたのだ。


 部屋の角に積まれていた机を使い、魔獣調査隊のメンバーが祭壇を作っていく。

 フィリップ神父が聖杯を、マルコ神父が花を祭壇に置いて、準備は整った。


「それでは皆さん、神に祈りを捧げましょう」


イツキの透き通る声が、収容所の中にも、外にも響いた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話に、懐かしい人が登場します。

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