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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
結末と再会 編

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偵察部隊と最終作戦

 ロームズの町に到着したブーニクス大尉は、オリ将軍の命により、自分の上官であるファーガス大佐を探すことにした。

 本陣まで連れ帰らねばならないので、これまでファーガスが居た宿舎へと向かう。途中、馬を人目につかない場所に繋いでおく。

 宿舎が近付いてきた時、前方から20人くらいの兵たちが荷車を引いてやって来るのが見えた。ブーニクスと小隊10人は慌てて林の中に身を隠した。

 音をたてないよう注意し、草村に屈んで様子を伺っていると、兵たちの話し声が聞こえてくる。


「大丈夫なのかなぁ?うちの宿舎から眠ったままの人間が10人も出た。昨日は2人だったのにどんどん増えてる。まさか怖い【疫病】じゃないよな?」


「昨日から、同じカップを使うなと言ってたし、【疫病】対策だとグード少佐は言ってたけど、ただ眠る病気があるなんてな」


 荷車を引きながら、兵士たちが目の前を通り過ぎようとする。荷車の中を草村の中から確認しようとするが、残念ながらよく見えない。


「こいつらも、夕べまでは元気だったのに不思議だよな……かわいそうだが収容所で隔離するしかない。明日の朝、・・・俺は目が覚めるだろうか?」


荷車の後ろを押していた兵士が、不安そうに話しながら荷車の中を見る。


「よせよ!縁起でもない。こいつらだって今に目が覚めるさ。とにかく眠ったままの人間を運ぼう」


 ガラガラと音をたてながら、目の前を一行が通り過ぎていった。

 ブーニクスたちは、荷車の荷が眠ったままの兵士たちであると分かると、状況が悪くなっていると判断した。


「やはり患者が増えているんだ。チッ、眠ったままの人間は隔離されているようだ。お前とお前、こっそり奴等の後をつけろ。そして収容所にファーガス大佐が居るか確認してくるんだ」


「えっ?しかし収容所に入るのは危険ではありませんか?我々が【疫病】に感染しないでしょうかブーニクス大尉?」


後をつけろと命令された2人は、すっかり腰が引けていた。当然と言えば当然の反応である。誰だって【疫病】にはかかりたくはない。






 その頃軍本部テントでは、イグニード副司令とイツキが話し合いをしていた。


「それでは撤退なさるのでしょうか?」

「はい、今を逃すと兵士たちが勝手に逃走しかねません。脱走兵にしてしまうと懲罰を受けたり解雇されるでしう。そうなると帰ってからの生活ができなくなります」


イグニードは周りの兵たちに視線を向けながら、眉間にしわを寄せ頭を抱えて、イツキの問いに答えた。


「それに、住民たちがバタバタ倒れても・・・正直なんの手当てもできず責任も取れません。我々は占拠はしても統治はしていないのです」


現在のハキ神国軍の現状を、申し訳なさそうに説明するが、イツキからすると無責任過ぎることだと思えた。


「それならば占拠する時に、必要最低限の住民を残し、逃がせばよかったではありませんか。殆ど食事も与えず閉じ込めて殺すだけなら、せめて兵力に関係の無い女性や子どもや老人は、追放すれば良かったのです。私たちが来なければ、どのみち飢え死にしたでしょうから」


イツキは声を荒らげる訳でもなく、冷めた口調で言い捨てた。

 頭の中では分かっている。目の前のイグニードが悪いのではなく、住民どころか自国の兵士のことも考えられぬ、無能な将軍のせいなのだと。そして、これは戦争なのだと・・・


「今となっては、何も反論することができません。その上私は……私は、眠ったままの部下を見捨てて撤退します」


イグニードは、ハキ神国軍ロームズ基地の責任者として、最終結論と決定事項をイツキに告げた。うつむいたまま暫く顔を上げることができないイグニードである。


「それで、決行は何時でしょう?」

「昼食後直ぐに撤退します。これから全軍集合させて伝えます」


イグニードは立ち上がったかと思ったら、イツキの前で膝をついて頭を下げた。

 その様子を見ていたシュルツ少佐も、隣に来て膝をつき頭を下げる。

 その場に居た兵士たちは、驚いた顔をして立ち上がったり、何事だと不審に思い注目する。自分達の上官が、神父に……しかも子どもの神父に、膝をついて頭を下げているのだ。『何故?』『どうして?』と驚くのも無理はない。


「身勝手な我々を許す必要はありません。しかし、置いていかれる兵士たちには罪はありません。どうか・・・どうか残していく者たちを、お、お願いします」


イグニードは深く頭を下げた。シュルツも合わせて頭を下げる。そして事情を飲み込めた兵士たちも、上官の後ろに膝まずき頭を下げた。


「分かりました。イグニード副司令は1,000人の命を預かる立場、これ以上申し上げることはありません。もしも亡くなる兵士の方あれば、心を尽くして祈りを捧げましょう」


イツキは立ち上がり、神父の顔をして慈愛に満ちた表情で優しく言った。

 イグニードをはじめ、後ろの兵たちも涙を堪えて、もう一度頭を下げた。

『部下を、友をよろしくお願いします』と祈りを込めて・・・






 午前11時半、ブーニクス大尉の命令で荷車の後ろを付いて来ていた兵士2人は、ようやく収容所に到着して近くの建物の陰から、そっと様子を伺っていた。

 荷車から眠ったままの兵士を収容所に運び入れていると、他の荷車も収容所に到着した。収容所の前には合計15台の荷車が集まっていた。


「いったい何人が運び込まれているのだろう?」

「これでは中に入って確認するのは難しいのではないか?」


2人の兵は、恐怖心と任務遂行できるのだろうかという不安に包まれていく。

 そこに伝令の馬が到着し、収容所に居た兵たちに告げた。


「これから直ちに、本部テント前に集合せよ!イグニード副司令より重要なお話がある。全ての作業を止め集合だー!」


 伝令の報せを聞いた兵たちは、緊張した面持ちで顔を見合わせながら、荷車に残っていた眠ったままの兵士を急いで収容所に運んでいった。

 そしてその場に居た全員が、走って本部に向かって行く。


 様子を伺っていた2人は、何事だろうか?と不安が増していくが、誰も居なくなるというチャンスを見逃す訳にもゆかず、仕方なく収容所の中へと入っていった。

 

 収容所の中は、窓は開け放たれ風が通り抜けている。石造りのその建物は役場だったようで、部屋の角には机や本棚、書類などが積み上げられていた。

 木の床には、色も柄も大きさも不揃いな絨毯が敷き詰められている。恐らく町中から集められたのだろう。その絨毯の上には、まるで昼寝でもしているかのような姿で、200人からの人々が寝かされていた。


「ここ、これはなんなんだ!これが皆【疫病】患者なのか?」


 部屋を埋め尽くすようにして並べられていたのは、兵士だけでなく老人や若い男、壮年の男や女性だった。

 ファーガス大佐を急いで探すと、部屋の1番奥に寝かされていた。

 ブーニクス大尉から聞いた話では、最初に眠ったままになったのがファーガス大佐ということだった。それは15日のことだったらしいが、たった2日で200人に増えている・・・どう考えても普通ではない。


 気持ちは1秒でも早く、この場を立ち去りたかったが、ファーガス大佐を連れ出せるのは今しかない。

 2人は、眠ったままのファーガス大佐を収容所から連れ出し、外に置いてあった荷車に乗せると、できるだけ音を立てないよう静かに荷車を引いて、ブーニクスの元へ向かった。





 軍本部のテント前に続々と兵士が集まってくる中、ソウタ師匠とコーズ隊長は、最後の作戦を決行するために2手に別れて、ハキ神国軍本陣へと向かう道を進んでいた。


「お2人の働きに全てがかかっています。今回の作戦の要でもあるので、できるだけ大袈裟に、そして苦しそうに死んでください」


 出掛けにイツキから言われた言葉を思い出し、ソウタ師匠は苦笑いしながらも、ワクワクしている自分に、また苦笑いする。

 いたずら好きで、意表を突く作戦が大好きなソウタ師匠、これまでは自分が立てた作戦を、部下に実行させる側だった。

 今回、自分には無い発想の作戦を立てたイツキに、一段と興味を持つと同時に、重要な任務を任されて、自分の手で必ず作戦を成功させてやろうと思っている。


『それにしても……大袈裟に死ねときたか。師匠に向かっていい度胸だ!お前でなければ、殴り倒すところだぞイツキ』


 クックックと愉快そうに笑いながら、弟子のために腕捲りをしながら、腕に描いた赤黒い模様を確認する。

 

 前方に、本陣から来たと思われる兵士2人の姿を捉えた。荷車を引いているところを見ると、誰かを運んでいるのだろうか……


「さあ、やっと俺の出番だな」と、やる気満々でニヤリと笑った。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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