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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
結末と再会 編

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合わない人数

新章スタートです。これからもよろしくお願いします。

 1096年6月17日朝、ハキ神国軍の各宿舎はパニックに陥っていた。

 ハキ神国軍ロームズ基地の宿舎は3ヶ所で、眠ったままで起きない兵士が突然増え、合計30人が起こしても起こしても眠ったままになってしまったのである。

 そして朝の祈りにやって来た住民からの報告によると、老人を中心に確認できただけでも10人が眠ったままだった。

 慌てて収容所に確認しに行ったら、収容所ではなんと2割の住民(男たち)が眠ったままになっていた。


 取り敢えずの措置として、収容所の1つに眠ったままの患者を集めることになった。兵士も住民も1箇所に集めて様子を診る方が安全だろうと決まった。

 皆の不安と動揺を少しでも和らげる為にも隔離する。

 午前の兵士たちの仕事は、荷馬車による隔離作業になった。

 


「もしかしたら……良かれと思って、スープを振る舞ったのが裏目に出たのかもしれません」


 フィリップ神父は、昨夜人々を集めたせいなのではと、辛い表情で申し訳なさそうに頭を下げた。


「しかし、収容所の者たちは礼拝堂に来ていません。始まりは15日のファーガス大佐で、昨日16日は他の兵士が数名と、収容所では、具合は悪いが隔離には及ばなかった4人が眠ったままで、スープを食べる前から症状は出ていました」


ハモンドは、教会がスープを振る舞ったことは原因ではないと言いながら、うつらうつらし始める。


「そうです、原因は昨夜のスープではないでしょう。眠ったままの兵士の半分は、昨夜のスープを食べていませんから……」


シュルツ少佐は、フィリップ神父を励ますように言う。しかしその顔は不安でいっぱいの様に見える。


 軍本部のテントでは、大きなテーブルを囲むように8人の人間が、今後のことについて話し合いを行っていた。

 軍からはイグニード副司令・シュルツ少佐・グード少佐の3人、教会からはフィリップ神父・ハモンドの2人、ロームズの町からは医師・町長・副町長の3人の合計8人が参加している。

 これまでの状況確認と、病?が広がった原因について意見を交わす。


 収容所の住民の2割が眠ってしまう事態になると、不安から暴動が起こりかねず、町長や副町長も参加させて協力態勢をとらねばならない。

 問題は【疫病】に関することなのだ。緊急性を要するばかりでなく、初動を間違えると取り返しのつかない事態になってしまう。

 

「本当のことを教えてください!これは【疫病】なのですか?」


町長はすがるような目でイグニード副司令を見て、医師の方に体を向けて真実を言ってくれと迫る。


「もしも【疫病】なら元気な者まで感染するじゃないか!俺たちを殺す気なのか!」


「副町長そうではありません。ハキ神国軍も同じ状態なのです。家に居た住民だって眠ったままなのです。ただ原因と病名が判らないんです。もしかしたら悪い病気ではないかもしれませんし」


感情的になり怒りを露にした副町長を、宥めるようにフィリップ神父はゆっくりした口調で話す。


「ここで喧嘩をしても……何も解決しません。全員で知恵を……出し……出し合いましょう」


ハモンドは立ち上がり、冷静になるよう求めながら、立ち上がった副町長を座るよう促し、自分も座ろうとして椅子からずり落ちてしまった。


「大丈夫ですか?」


隣に座っていたシュルツ少佐が手を貸そうとするが、ハモンドは返事をせず動かなかった。異変に気付いたシュルツ少佐は、慌ててハモンドを抱き起こした。


「ね、寝ているようです・・・」(シュルツ少佐)

「えっ・・・」 (イグニード副司令)

「なんでハモンドまで・・・」 (フィリップ神父)

「・・・」 (その他の皆さん)


 この時フィリップ神父は本当に驚いていた。

 これは架空の疫病で、イツキ先生の作戦のはずなのに……何故ハモンドが?

 そう言えば自分が仕込んだ睡眠薬の量では、兵士は20人が限界のはず……それなのに兵士は30人が眠ったままだ。

 それじゃあ、収容所や住民はどうして眠ったままなんだろう?

 フィリップ神父は眠ったままのハモンドを見て、体が震えてきた。しかしそれを気付かれないよう、できるだけ平生を心掛けながら、「ハモンドを礼拝堂に連れて帰るので、暫くお待ちください」と言って、ハモンドを背負って礼拝堂に向かった。


「町長と副町長、モグ医師も、朝の祈りに参加されては?暫く協議は中断するでしょうからどうぞ」


イグニード副司令は疲れた顔をしながら、3人を礼拝堂へ向かうよう提案した。

 提案された3人は、憎い敵のテントに居ることが苦痛だったので、直ぐに受け入れフィリップ神父の後を追った。


 

 5人が去った本部テントで、イグニード副司令がシュルツ少佐とグード少佐を見て呟いた。


「どうやら私の杞憂だったようだ。できるなら嘘であって欲しかったが」


そう言って、深く息を吐きながらガクリと肩を落とした。


 実は早朝3人は、本部テントに向かいながら、いくつかの疑問について話しながら歩いてきた。

 本当にこれは【疫病】で、恐ろしい【神の怒り病】なのか?

 よく考えたら、全てはイツキ神父たちが、この町にやって来てから始まった……

 もしかしたら、何か薬でも使って眠らされたのではないのか?


 でもイツキ神父はシーリス(教聖)見習いだ。この目で奇跡も目撃した。

 他の神父の策略では?でも、それならいったい何のために?

 神父や【魔獣調査隊】のメンバーに、もしも同じ症状が現れたら、その時は疑いようがない真実となってしまう。


「フィリップ神父、体が震えていました。あれは恐怖からだったのでしょう」


フィリップ神父がハモンドをだき抱える姿を、側で見ていたシュルツ少佐が、生気の失せた無表情な顔で言った。


「こうなったら、元気な兵たちを本陣まで撤退させましょう!ここに残っていたら全滅するかもしれません。まだ死者は出ていません。希望は有ります。しかし、用心の為に眠ったままの兵は置いていくしかありません」


グード少佐は、奥歯を噛み締めて悔しさを滲ませながら、苦渋の決断を迫るよう上官であるイグニードに上訴する。


「それに、部下たちも【疫病】だと思っていますから、勝手に逃げ出したり暴挙に出る者がいるかもしれません。早く対処しなければ既にパニックになっているのです」


シュルツ少佐も、イグニード副司令に決断するよう悲壮な決意で迫った。





 朝の祈りを終えたイツキは、フィリップ神父からハモンドが眠ったままになったと報告を受けた。

 他のメンバーも不安そうにハモンドを見て、イツキの言葉を待つ。


「イツキ神父、もしかしてハモンドは誤ってスープを飲んだのでしょうか?」


自分で薬を仕込んだフィリップは、ハモンドが兵士用のスープを間違えて飲んだのではと訊ねる。


「いいえ、もともと薬は50人分もありませんでした。初日の診察時に処方した10人分、2日目はスープ用で、兵士が20人分、収容所が10人分、住民が10人分だった筈です。今朝の時点で患者はおよそ200人います。これは……予想外の事態です」


「・・・」(イツキ以外全員)


 全員が無言で考える。何故?という疑問から、最悪のシナリオまで・・・


「では、本当に【神の怒り病】なのでしょうか?」


フィリップは、大変なことになってしまったという現実を受け入れたが、それが本当に最悪の【疫病】なのか確かめずにはいられなかった。


「それは正直判りません。最悪なのが、誰が薬で眠っていて、誰が【疫病】で眠っているのかが分からないことです。薬の効き目にもよりますが、早い人なら夕方には目覚めるでしょう。遅い人でも明日の朝までには目覚める筈です」


イツキは恐怖心や不安感を、一切表に出さず淡々と話した。それが反って皆を不安にさせていく。


「それでは、どうすれば良いのでしょうか?何か打つ手は有るのでしょうか?」


ソウタ師匠は、自分が指揮を執って直ぐにイツキを避難させられたら……と思いながらイツキに質問する。

 残りのメンバーも1番気になる【打つ手】について、イツキが何と答えるのかドキドキしながら答えを待つ。


「打つ手はありません。下手に逃げた場合【疫病】を蔓延させることになるので動くべきではないでしょう。他の症状が出なければ【神の怒り病】ではないかもしれません。しかし、すべきことは決まっています。必ず作戦を実行し成功させることです」


イツキはそう言い切って、最後の作戦を実行する予定の、コーズ隊長とソウタ師匠をニヤリと笑いながら見る。





 その頃、本陣を出発したブーニクス大尉率いる小隊10名は、馬でロームズの町へと入ってきた。


「いいか、ファーガス大佐がまだ眠っていたら、軍の馬車で本陣へと運べ!もしも血を吐く者と遭遇したら、近寄らず直ぐに逃げろ!本当に【疫病】なら患者が増えているだろうから、直ぐに撤退する。ロームズの兵は切り捨てるから、感付かれないように注意しろ。話し掛けられても何も話すな!」


ブーニクスは、大声で部下に叫びながら馬を走らせる。が、馬の速度はロバ並みだった。ブーニクスは乗馬が得意ではなかったのだ。故に昨夜も余分な時間が掛かっていた。

 もともと文官だったブーニクスは、親戚の七光りで大尉になったに過ぎない。

 間もなくブーニクスは、残念すぎる無能ぶりを曝すことになる。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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