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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
それぞれの思惑 編

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魔獣調査隊合流

 1096年6月16日早朝、ハビル正教会の正門から1台の馬車が出発した。

 出発に先立ちフィリップは、夜明けと共にハヤマ(通信鳥)のミムに手紙を持たせて、ロームズの町へと飛ばしていた。

 手紙の内容は主に、ハキ神国軍の真の狙いと、カルート国の現状についてと到着時間だった。



 午前7時頃、ロームズ教会の礼拝堂前の木に到着したミムは、見え難い枝にとまり「ピイピイポー」と鳴いてイツキに知らせる。

 その木は、昨日ハキ神国軍大佐ファーガスが転がされていた木だった。



 ファーガス大佐は、礼拝堂の留守を預かっていたマルコ神父と、本部テントの設営をしていた兵士数名(シュルツ少佐の部下)によって、出来上がったテントに移され夕方目を覚ました。

 目覚めたファーガス大佐は、眠っていた数時間の間に礼拝堂は教会の手に移り、本部はテントに替わり、兵士は10人しか居ない……?という事態に理解ができず、辺りを見回してぼんやりする。

 殴られた頭がまだ痛いようで、時々しかめっ面になりながら記憶を辿ろうとする。


「気が付かれましたか?安心いたしました。いきなり倒れられたので少佐も兵士の皆さんも、とても心配されていました」


 何食わぬ顔でそう言いながら、マルコ神父はカップをファーガス大佐の前に置いた。


「はあ?突然倒れた?俺が?」


ファーガス大佐は、思い出そうとするが何も思い出せない。ただ、目の前の神父と言い争いになっていたことは思い出せた。


「そうです。私に礼拝堂を教会に返す代わりに、兵士たちの健康を診てやってくれと仰り、私がお礼を申し上げている最中に急に倒れられたのです。きっとお疲れが溜まっておられたのでしょう。まだ頭が痛いようなら、こちらのお茶をどうぞ。レガートの森でしか採取できない大変稀少な物です。私は医者の見習いでもありますから、どうぞご安心ください」


マルコ神父は、神父らしい物腰と慈悲深さを持って、優しく微笑みながらカップにお茶を注ぎ入れた。


 そのカップには、イツキが持っていたリース(聖人)エルドラ様の【聖水】が1滴入っている。

 イツキが収容所に向かう直前に、マルコ神父に渡しておいたのだが、その【聖水】の瓶の色は《赤》だった。

 イツキは、ファーガスが目覚めたら、この【聖水】を1滴だけお茶に入れて、必ずファーガスに飲ませるようにと指示を出していた。


 《赤》い瓶・・・それは【毒】を作り出す瓶の色だった……


 ファーガス大佐は、大変稀少な物という言葉につられ、お茶を飲み干した……

 マルコ神父は、その場にいた兵たちにも「宜しかったらどうぞ」と言って、他のカップを籠から取り出し、水筒からお茶を注いで振る舞った。自らもお茶を飲みながら「美味しいでしょう。最後の茶葉なので、他の方には内緒です」と微笑んだ。 


 お茶を飲み終えたファーガス大佐は、『俺が礼拝堂を教会に返した???』と首を捻るが、その場に居た兵が何も異議を唱えないので、おかしいな?と思いながらも、ロームズ隊の現在の動きについて質問する。

 するとまた眠くなったのか、10分もしない内に眠ってしまった。


「どうされたのでしょうか?まだ疲れが残っているのでしょうかねえ……」


しれっと心配してみせるマルコ神父だった。




 爽やかな朝風を感じて目を覚ましたイツキは、自分が話し合いの途中で眠ってしまったことを反省していた。

 同じく目覚めたマルコ神父とハモンドに謝り、今日の予定と段取りをレガート語で話し合った。

 大体の段取りが済んだ頃、ミムの声が聞こえてきた。

 イツキは1度礼拝堂の前に出て、ミムの姿を確認すると裏庭に回りミムを待つ。


「ご苦労様ミム。皆は元気だった?」


イツキは手紙を取り出しながら、何度もミムの頭を撫でると「少し待っててね」と言って、礼拝堂に戻って行った。


 フィリップからの手紙を確認した3人は、カルート国にもハキ神国軍にもかなり腹が立った。

 それはロームズの町が、カルート国からは完全に見捨てられ、ハキ神国軍からはハビルの街を手に入れるための、ただの捨て石にされていたからだ。


「だからロームズの町の兵は何もせず、ただ駐留しているだけで良かったのだ。それで兵の扱いも住民の扱いもいい加減だった訳だ」


 マルコ教官(神父)は、昨日からのロームズの町の様子を見て、合点のいかなかった事柄に納得する。


「だからと言って、兵士たちのケガや病気を放っておくなんて酷すぎます」


 敵国の兵士のことなのだが、思わず同情するハモンドである。


「でも、だからこそ作戦の成功率が上がることになる。これ以上誰の血も流さずバカげた戦争を終わらせよう」


イツキは静かにそう言い、フィリップへの返信を急いで書き裏庭へ向かった。

 ミムは嬉しそうに託された手紙と共に、青い空へと高く飛び立っていった。



 午前8時、礼拝堂に住人たち(女性・子ども・老人)が集まり始めた。

 久し振りに神父様がいらっしゃったと知った、敬虔な信者たちである。

 ケガ人や病人だけではなく、朝の祈りを捧げるために大勢の住人が集まったので、マルコ神父は全ての窓やドアを開けて、礼拝堂に入りきらなかった住人にもイツキの祈りの声が聞こえるようにする。

 ハモンドは、ケガ人や病人を優先的に椅子に座らせ、老人や妊婦も椅子に座れるよう人の波を整理する。


 占拠から22日、皆は久し振りの祈りに救いと癒しと願いを込めてやって来た。よく見ると軍服を脱いだ兵士たちの姿も見える。

 イツキは、予想以上に人々が集まって来てくれたことに胸が熱くなった。

 そして、今、礼拝堂の中に居る者には【神に捧げる祈り】をカルート語で捧げ、その後で人を入れ換え【朝の祈り】を2度捧げると告げた。

 【朝の祈り】はカルート語とハキ神国語でそれぞれ行うので、軍服の兵士には少し待って貰うことにした。


 2度の祈りが終わって、ロームズの住民は全員が泣いていた。特に【神に捧げる祈り】を聞いた者は、ケガ人や病人、老人や妊婦や気力の弱っている者が多かったので、イツキの【癒しの力】が大いに癒しを与え、歩くのがやっとだった者が普通に歩けるようになり、気力が弱り倒れる寸前だった者が元気になったりした。


「あれは、神のお声だ」とか「天使が舞い降りた」とか「奇跡の祈りじゃ」などと、礼拝堂の外で住民たちが囁き合う。


 3度目の祈りはハキ神国軍の兵士のために捧げられたが、昨日の葬儀に参列できなかった400人弱と、非番の兵士が集まっていた。

 昨夜兵舎では、葬儀に参列した兵士がイツキの祈りで号泣したとか、なんだか心が軽くなったという話で盛り上がったらしく、参列できなかった兵士たちが今朝の祈りに集まったのだった。


 それを察してか、イツキはハキ神国語で少し長い朝の祈りを捧げた。

 もちろん全員が途中から滝のように涙を流していた。

【涙を流す】という行為は、心の中の悲しみや苦しさを洗い流す効果がある。


 イツキの【癒しの能力】金色のオーラは、イツキが持つリース(聖人)としての2つの能力の内の1つで、凄い奇跡の力(水を操る・大地を動かす・雨を降らせる)のように目には見えないが、確実に人々を癒すという地味だが、素晴らしいな能力だった。

 地味な能力だった……はずなのだが?今朝は何故か余分な効果まであったようだ。


 祈りが終わった後は、住民のケガや病気の診察が待っている。

 その後は、いよいよ【鎮魂の儀式】を執り行う。





 フィリップたちが乗った馬車は、ロームズの町まであと30分の所で停車していた。

 ミムからの返信を待っていたのだが、ようやくミムが到着しイツキからの手紙を5人で読んでいた。


1)フィリップ・ドグ・ガルロさんは、用意した物を持って馬車でロームズの町まで入ってきてください。


2)ソウタさん、コーズ隊長は食料調達の為、ロームズ近くのランドル山脈麓で狩りをお願いします。狩りが終わったらミムを飛ばしてください。山脈側の門を開けます。顔料を持っていてください。


3)現在作戦実行中。エピロボスグリナ草だけは鞄に入れて来てください。


「ええっ!俺は狩り組かぁ……」とソウタ師匠がごねていたが、イツキの指示に従うことにした。

 



 ハビル正教会の2頭だて馬車が、ロームズの町の検問所に到着したのは午前10時前だった。

 シュルツ少佐から、他の神父様と護衛が薬を運んでくると聞いていた兵士たちは、教会の馬車の中をチラリと確認しただけで通してくれた。

 馬車の中には聞いていた通りの3人と、荷物は薬草の入った箱や、見るからに医療品だったからである。


「ご苦労様です」


フィリップは、今日も無駄に美しい笑顔で挨拶をして、よく分からない神々しさを振り撒いている。

 何事もなく馬車は、ゆっくりした速度でロームズの町に入った。


「これは、投石機の跡だな。予想以上に酷い……」(ガルロ)

「兵器としては厄介だ」 (フィリップ)

「兵士の見回りが多いな。他にすること無いだろうからな」(ドグ)

「男は収容されているのだろう」(フィリップ)


 3人は町の様子を観て、それぞれ思うところを言い合う。

 馬車は町の中心にある教会に到着し止まった。

 直ぐに礼拝堂前に設置した、ハキ神国軍ロームズ本部テントから兵士が出てきて馬車を取り囲んだ。

 フィリップたち3人に緊張が走る。が、「お疲れ様」と御者に挨拶し、お茶でも飲んで休憩してくださいと言っている声がする。

 ドグが馬車の扉を開けると、兵たちが「荷物運びます」と笑顔で話し掛けてきた。


『・・・?なんだか違和感があるなあ……』と3人は思ったが、ありがとうございますと言いながら、荷物を兵たちに次々と渡していく。


「やあフィリップ神父お疲れ様。薬は集まったんですね良かった。これで治療が進められます」


マルコ神父は嬉しそうに笑いながら、フィリップ神父に声を掛け、ドグとガルロの肩を叩いた。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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