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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
それぞれの思惑 編

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カルート国の憂鬱

 ハビル正教会のシーバス様は、5月12日以降の情報とカルート国の動きについて語り始めた。


 ハキ神国のオリ王子が出撃命令を出したと、ブルーノア本教会からハビル正教会に知らせが届いたのは、5月13日の夜だった。


 その情報は12日の昼前、ハキ神国首都シバにあるブルーノア本教会から、緊急連絡ハヤマ(通信鳥)便として出発した。

 ハキ神国ルンナ正教会に届けられた(ハヤマが到着)のが13日の夕刻だった。そこから徒歩で国境を越えてハビル正教会に届けられたのが夜だった。


 翌14日の早朝にシーバス様は、カルート国王都ヘサにあるヘサ正教会へと、ハビル正教会所有のハヤマ(通信鳥)を飛ばした。

 ヘサ正教会に緊急連絡が届いたのは15日の夕刻だった。

 ヘサ正教会のサイリス(教導神父)様が、急いでカルート国王に面会して情報を伝えたのは15日の夜だった。



  ◆ 本教会緊急連絡ハヤマ便の流れ ◆

《ブルーノア本教会➡ルンナ正教会➡ハビル正教会➡ヘサ正教会➡カルート国王》

  ( ハ キ 神 国 内 )    (  カ ル ー ト 国 内  )

*ルンナ正教会とハビル正教会間は徒歩  *ヘサ正教会とカルート国王間は徒歩

 


 普通に早馬を乗り継ぎ、ハキ神国の首都シバからカルート国の王都ヘサまで、休みなく走って情報を伝えたとしても、どんなに早くても6日は必要なのだ。

 それをハヤマで伝えたことにより、3日半で届いたことになる。


 本教会からの緊急連絡文の内容は〔 ハキ神国第1王子、カルート国へ出撃命令を出す。至急国境を守られたし 〕というものだった。

 シーバス様は、合計で3回ヘサ正教会のサイリス様に緊急連絡をしていた。

 2度目に緊急連絡を送ったのは5月19日で〔 5月17日ハキ神国軍2,000人が首都シバを出発した 〕だった。当然20日には国王の元に情報が届いているはずだった。


 しかし、カルート軍は動かなかった。


 先発として10名くらいの兵士と3人の上官が、ハビルのカルート軍基地に現状調査に来ただけだった。

 それが23日の午前のことで、教会の見張り塔に登りハキ神国側を見たが、その時はまだハキ神国軍はルンナに到着していなかった。

 やって来たカルート軍の上官は、ハビルの部隊に警戒せよと伝えて王都ヘサに戻ってしまった。


 そこでシーバス様は23日午後、ハビルの領主と共にハキ神国ルンナへ行った。

 ルンナ正教会のファリス様がルンナの領主も呼んで、4人で今後のことについて話し合った。

 ハビルの領主の娘が、ルンナの領主に嫁いで正妻になっているので、2人は義理の親子であった。

 4人は、できるだけハビルとルンナの街を戦場にしないための策を練った。

 後にその策が、功を奏することになる。


 

 3度目に緊急連絡を送ったのは5月24日午前で〔 ハキ神国軍ルンナに到着する。軍隊はまだか? 〕だった。知らせは25日の夜には国王に届けたと、ヘサ正教会のサイリス様からの返信に書いてあった。


 しかし、何故かカルート軍は来なかった・・・


 そして25日、ロームズの町は攻撃され占拠されてしまった。



 シーバス様がヘサ正教会のサイリス様から、ハヤマ(通信鳥)便で得た重要な情報は6つあった。


1)カルート軍総司令官が16日深夜、就寝中に何者かに襲われ死亡した。強盗のようだと警備隊は判断する。


2)国王は17日早朝、国境軍以外の全軍に、ハビルに向かうよう出撃命令を出した。


3)次の総司令官を決定するのに時間が掛かり、決定したのが17日夕刻だった。新しい総司令官は元王宮警備隊長のミザリオ侯爵に決定した。


4)王都ヘサのカルート軍本隊は総司令官ミザリオ指揮の元、兵士補充のため徒歩2日の距離にあるナキ部隊の到着を待って、20日早朝出撃する予定で、物資を揃えたり食料を調達して準備をしていた。


5)1番近いナキ部隊が、到着予定の19日夕刻になっても来なかったので、出撃命令が届いていなかったことが判明する。出撃命令は何処の基地(部隊)にも届いてはいなかった・・・

 各基地に出撃命令が届くのに、早馬で1日~4日かかるのに。 


 (王都ヘサからハビルまでは、急いでも4日~5日はかかる道程だった)


6)カルート軍本隊500人は20日朝、王都ヘサを出撃するのを諦め、ミザリオ総司令官は、全軍(シュロ、ハビルの国境部隊を除く)に向け新たに出撃命令を出した。

 《 全軍ハキ神国軍から王都ヘサを守るため、王都に集結せよ! 》と。



 全ての情報を話し終えたシーバス様は、カルート軍の総人数は2,500人くらいで、ダルーン王国との国境シュロの守りに500人を置き、レガート国との国境2ヶ所に計200人を置き、ハビル部隊に居る400人が動かせない今、王都ヘサに集まった兵は1,400人しかいない。

 もともとハキ神国軍と戦える戦力は、1,800人しか居なかったのだ。

 武器や兵器の性能でも大きく差がある上に、兵の数も足りず、兵力として何も勝てるものが無さそうなカルート国だった。



 ランドル大陸では、555年以降戦争が起こっていなかった。

 1070年以降、ハキ神国がミリダ国との間に国境戦争を起こしたが、それでも大陸はずっと平和だった為、約500年前に比べて各国の兵士の数は10分の1から15分の1位に減っていた。

 近年疫病の大流行が何度か有り、人口も減少傾向にある。

 レガート国は、運良く疫病の流行を何度か免れ、人口の減少も無かった。なにより、大陸の情勢を見て兵の数も軍備も増強させていた。だからこそ大国としての威厳をずっと保つことができていた。

 


 

 結局カルート国は、いや総司令官ミザリオは、ハビルの街を見捨てて王都を守ると決断したのだ。

 カルート国王が、レガート国王宛に援軍要請の親書を【極秘】でヘサ正教会のサイリス様に託したのは、ロームズの町が攻撃され占拠されたと報告を受けた5月27日だった。

 この時カルート国王は、家臣の誰にも告げず親書を送っていたため、援軍が来ることは総司令官ミザリオも知らなかった。




 フィリップたちは、シーバス様にお礼を言って【教会の離れ】に向かうことにした。時刻は既に午後7時だったので、一旦食事をすることにする。

 食事を食べながら5人は、カルート国の将来を考えると憂鬱な気持ちになった。


 

【教会の離れ】に到着した5人は、情報を整理することにした。


「国王が下した出撃命令が、現場に届かないなんて有り得ない。裏切者か間者が必ず居るはずだ」


コーズはカルート国の地図を広げて、地形や距離等を確認しながら怒りを込め確信したように言う。


「そいつの目的が何なのかだ。今の状態が望みだったのか、それともカルート国の敗戦を目論んだのか……敗戦を目論んでいたとしたら、レガート軍という援軍は予想外だったはず」


フィリップは、明日にも王都ヘサに到着するであろう、アルダス率いるレガート軍本隊のことを考えた。


「バカ王子の密書と言うか脅迫状の存在を考えると、取り敢えずハビルの街が手に入れば良かったはずだ。その為にカルート軍を王都ヘサに足止めさえできれば、戦わず楽してハビルを落とし、領土を広げて民と財を我が物とできる。だから裏切者の目的は足止めの可能性が高い。その後から届く脅迫状の存在を知っているのかは分からないが」


ソウタは冷静に判断して、1番可能性の高そうな裏切者の目標を推察する。


「それじゃあ、そいつは脅迫状が届いたら、ハビルを諦めましょう……とか言うわけだ。当然ハキ神国の間者だもんな」


ガルロはソウタの話を聞いて、裏切者はそれなりの権限を持つ大臣クラスの人間か、軍のトップ辺りが怪しいなと予想する。


「可哀想なのはハビル部隊400人だな。偵察した感じでは、ハキ神国軍はハビルを戦場にしないという話を信じていた。レガート軍という援軍を含めた連合軍が来ると判れば、ハキ神国軍はハビルを直ぐに占拠するだろう」


ドグは今日偵察したハビル部隊に、同情しながら溜め息をついた。



「そうならないよう動くのが俺たち【魔獣調査隊】だ。これからイツキ君の作戦を伝える。驚くぞきっと」


フィリップは、にやりと笑いながら作戦内容と役割を話し始めた。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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