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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
それぞれの思惑 編

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33/57

ハキ神国の思惑

ソウタ師匠とコーズ教官を、仲間内のストーリーなので呼び捨てになっています。

 無事にハキ神国に入国できたコーズ隊長・ソウタ師匠・フィリップの3人だったが、重要事項を見落としていたことに気付いた。

 

「おいコーズ、お前教官なんだからハキ神国語は話せるよな?」


目前に近付いてきた大都市ルンナの入口である大門を前に、強引に入国させられたフィリップが、確認するように質問する。この時の会話はレガート語である。

 戦争中にも拘わらずカルート国のハビルとハキ神国のルンナは、身分確認さえできれば普通に往来が許されていたが、用心の為にレガート語で話せば安全だろうとの判断だった。

 もちろん回りの人には聞こえないように、細心の注意は払っている。


「何言ってるんだフィリップ!お前こそ【王の目】のリーダーだろ。当然話せるよな?」


コーズは、こんな時だけ教官を持ち出してくるフィリップにムッとしながら反論する。そして視線をソウタに向ける。


「お、俺に何を期待してるんだ。俺は軍の仕事が忙しくて、そんな余裕はない!」


ソウタは悪友2人から向けられた視線に、ブスッとして答えて2人を睨んだ。

 ここにきて全員がハキ神国語が話せないと分かり、同時にフーッと溜め息をついた。仕方ないので様子だけでも見てこようと決め大門を潜った。




 ルンナの街はハビルよりも大きな商業都市で、これといった産業のない小国カルートに、物資を売るための大きな問屋が軒を並べていた。

 ハキ神国は、ランドル大陸の6つの国の内、全ての国と隣接していることから物資が集まり、流通・物流面ではどの国よりも発展していた。

 但しレガート国とはランドル山脈を挟んでの隣国であり、隣接する距離も短いため、唯一直接往き来できない国だった。

 

 暫く歩いていると、飲食店街に入ってきた。道行く人々を観察すると、商業都市には似つかわしくない軍服姿の兵士が目立つようになった。

 警備をしている様子もなく見回りでもない。普通に食事をしに来ているようだ。

 

「いったい何のために駐留しているんだ?戦う訳でもなく金が掛かるだけだよな」


コーズは、ハキ神国軍の行動が全く理解できなかった。軍学校の教師としての知識を持ってしても謎だった。

 ソウタは急に何かに気付いたようで、チッと舌打ちしてから立ち止まり腕を組んで考え始めた。


「もしかしたら俺たちは、敵の目標というか作戦を、大きく読み間違えているのかもしれない……」


そう言うと2人の方を見て、直ぐに引き返そうと言い出した。


「今来たばかりだろうが。何を思い付いたのかは分からんが、飯ぐらいは食べさせろよ!そう思いますよね神父様」

「そうだな!緊急事態でなければ腹拵えはしておきたいな」


コーズはフィリップに同意を求め、フィリップ神父は同意して、目の前の食堂に入ろうとする。

 ソウタは不満な顔をしているが仕方無く折れて、食事後直ぐに引き返すことを条件に、昼食を取ることにした。

 


 午後1時を回ったところだったので、ポツポツと席が空いていた。3人は別々の席に座り、回りに溶け込むように静かに食事を始めた。

 ハキ神国語は分からないが、意外にもカルート語を話している者が半数くらい居た。この店は幸運にもカルート人が経営する店だったのだ。

 商人たちの会話に聞き耳を立てながら食事をしていると、思わぬ情報が耳に入ってきた。


「よくは分からんが、23日までに結論を出すらしい。何日か前にこの国の兵士たちが話していたんだ。戦争と言っても頭の良い方が勝つんだと。駐留するだけで領土が広がるんだから楽なもんだって」

「なんだそりゃ?」

「誰が何の結論を出すんだよ?」

「さあな……戦争なんだから国王とか将軍なんじゃないか」

「別にハビルが戦場にならないなら、俺たちにゃどうでもいいさ」


カルート国の商団と思われる4人組は、信じられないくらい呑気なことを言っている。自国の町の惨状には興味が無いのだろうか?

 3人は目配せをして、時間をずらして別々に店を出た。


『やはり思った通りだ。俺たちは蚊帳の外だった』


店から最初に出てきたソウタは、悔しそうに唇を噛み締め怒りを露にした。




 3人は店を出ると直ぐに国境へと向かった。


「おいソウタ、お前何が判ったんだ?一人で苦虫潰したような顔をしてないで、俺たちにも判るように説明しろよ」


 何も言わず早足でズンズン歩いていくソウタの肩を叩いて、フィリップは話し掛けるが、ソウタは何も応えず歩いていく。

 コーズとフィリップは顔を見合わせて、やれやれと首を振り両手のひらを上に向け、しょうがないなと諦めた。

 ソウタは軍学校時代から、怒ると無口になる癖があったのだ。

 日頃から不機嫌そうに無愛想だが、今日みたいに脳で怒っている時は、迂闊に近付くと暴れだす可能性があるのだ。カルート国に入って、ソウタから話し始めるのを待つことにしようと思い、2人はソウタの後ろを着いて歩いた。



 カルート国ハビルに戻ったソウタが目指したのは、ハビルの領主の屋敷だった。

 屋敷は小高い丘の中腹に建っていて、広さは普通の領主の屋敷より広いようだ。贅沢な造りではないが歴史を感じさせる重厚さがある。庭は綺麗に手入れされており夏の花々が美しく咲き乱れている。

 ハビルの街の様子や住民を観察したところでは、真面目に領地を治めている、まともな領主のようである。


 3人は領主の屋敷よりも高い所まで登り、生い茂る木々の間から屋敷の様子を監視していた。


 ソウタは屋敷の様子を暫く観察しながら「やはりな」と呟く。


 屋敷の裏の扉が開き、中から大量の荷物が運び出されていく様子が目に入ってきた。屋敷の裏手には荷馬車が2台待機している。

 使用人と思われる者たちが慌ただしく、荷馬車に荷物を積み込み始める。

 その光景を見たフィリップは、「くそっ、そう言うことか」と何かを理解した様子で、側にあった枝を怒りの形相ででパキッと折った。


「ちょっと待てよ、そろそろ俺にも説明してくれ」


フィリップまで怒りに満ちてきたので、コーズは慌ててどうなっているのかと説明を求めた。


 ソウタの説明によるとハキ神国軍は、ロームズの町を占拠し、本当はハビルの街を狙っているのだが、戦わずしてハビルを手に入れるため、【無条件でハビルを渡せ】とカルート国に脅しをかけているのだと。

 もちろんハキ神国将軍オリの名前で。

 そしてカルート国王に密書を送っているはずで、その回答期日が6月23日なのだろう。


「もしも受け入れなければ、駐留軍がハビルを攻め落とすだけだ。もちろんロームズの町の人質は皆殺しにする。今ならハビルの街の住人もロームズの町の住民も命は助けてやるぞ!みたいな内容の密書だったはずだ」


フィリップは忌々しそうに、吐き捨てるように付け加える。


「ハキ神国のバカ王子は、トップ交渉をしているのだろう。その返事が来るまでのんびり遊んでいるのさ。そのバカ王子の策を見抜けなかったなんて、おれもバカだけどな!」


ソウタは、そのことに気付けなかった自分を責めるように言う。


「それじゃあ、領主が荷物を運び出しているのは、ハキ神国軍に財産を奪われないように、他所へ移すため……」


コーズはようやく事情が飲み込めたようで、がっくりと肩を落とした。


「でもまあ希望はある。カルート国王はレガート国に援軍要請をした手前、勝手に降参したり領土を手放すことはできない。そんなことをしたら、友好国であり同盟国の大国レガートの信用を無くし、同盟を解除される恐れもある。我々にとって希望なのは、予定通りなら明日16日にレガート軍本隊が、王都ヘサに到着することだ」


ソウタは前向きな発言をして立ち上がる。その表情は何かを企む時の【策士ソウタ】の顔だった。

 それから3人は、急いでドグとガルロとの待ち合わせ場所へと向かう。

 



 合流した5人は、策士ソウタの指示に従うことにして、ハビル正教会へと最終確認の為に向かった。

 正教会に到着する前にフィリップは、今朝のファリス(高位神父)シーバス様とのやり取りを4人に説明しておいた。

 門番はフィリップを見ると、にっこり笑って通してくれ、5人は直ぐにファリスの執務室に案内された。

 

「シーバス様またお邪魔しました。この4人は【魔獣調査隊】のメンバーです。明日一緒にロームズへ向かいます。それでお願いと確認を1つさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」


フィリップはそう言うと、必要ないだろうとは思ったが、ミノス正教会のエダリオ様からの依頼書を、シーバス様に手渡した。依頼書には、【魔獣調査隊】に便宜を図って欲しいと書いてあり、宿として教会にも泊まらせて欲しいと書いてあった。

 

 シーバス様は依頼書を読むと、「準備してあります。今夜の【教会の離れ】は他の客を断ってあります」と、全て分かっていますからという微笑みで応えて、宿の用意をしてくれていた。


「シーバス様、確認ですが、ハビルの領主はいつ王都へ向かったのでしょう?」


フィリップが質問すると、シーバス様は驚いた顔をした後ゆっくり頷いてから答えられた。


「さすがですね。お気付きでしたか……あれは6月8日だったと思います。領主様が青い顔で訪ねてこられ、これから急いで国王様に会いに行かねばならなくなったと言っておられました」


 シーバス様はそう言いながら、5月12日にハキ神国のオリ王子が出撃命令を出してからの状況を語り始めた。

 

 その情報は、予想した通り裏切り者がカルート国に居ることを示していた。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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