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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
それぞれの思惑 編

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フィリップ合流する

ブルーノア教会の序列

リーバ(天聖)➡リース(聖人)➡シーリス(教聖)➡サイリス(教導神父)➡ファリス(高位神父)➡モーリス(中位神父)➡神父(一般神父)

 1096年6月15日、大都市ハビルに居た2班の4人、コーズ隊長(教官)・ドグ・ガルロ・ソウタ師匠は、早朝から2手に分かれて情報収集を続けていた。

 ドグとガルロは、カルート軍の様子を探りにハビル基地に向かった。

 コーズ隊長とソウタ師匠は、国境の向こう側ハキ神国のルンナの街へと向かった。



 その頃イツキの指示で大都市ハビルに向かったフィリップは、ようやくハビルの街へと入ってきた。

 昨夜は一つ手前の村に泊まり、夜明けとともに出発していた。

 メンバーを探す前に、イツキから託された手紙を渡すためハビル正教会に向かう。

 ハビル正教会は街の中心にあり、高い見張り塔と立派な鐘塔が町中の何処からでも見えているので、迷うことなく辿り着くことができた。

 

 フィリップは、門番にファリス(高位神父)様への面会を申し込んだ。

 門番は見たこともない神父服を着た、やたらと美しいフィリップを不審に思ったが、差し出されたルナ正教会ファリス様からの【通達書】と書かれた封筒を見て、暫く待つようにと言って大聖堂の中に入っていった。


 数分後ハビル正教会ファリスのシーバス様が、モーリス(中位神父)2人を連れて現れた。

 シーバス様は50代前半くらいだろうか、短い銀髪に銀色の瞳、体型は長身でがっしり型、顔は全体的に優しい雰囲気だ。ファリスとしての威厳もあり、フィリップは自然と頭を下げた。

 挨拶もそこそこに、シーバス様の執務室に案内されたフィリップは、先程渡した【通達書】を返してもらった。

 フィリップはシーバス様とテーブルを挟んで向い合わせで座り、モーリスの2人は立ったままでドアの近くで控えている。


「それで、貴方がイツキ神父ですか?」


 シーバスは、フィリップの全身をチェックするように見ながら質問する。

 ルナ正教会ファリスからの【通達書】には、[ ロームズの町の戦況について、判っていることは全て話すように。そして全面協力せよ。イツキ様はリーバ様のご指示で働いておられる ]と書かれていたのだ。

 ルナ正教会のファリス(高位神父)ドーブルとシーバスは、神学校時代からの友人で日頃から親交があった。それ故、筆跡も封筒の封印紋も間違いなく本物だと確信していた。


「いいえ、私は【魔獣調査官】のフィリップと言います。イツキ様は現在ロームズの町に入っておられるはずです。イツキ様から預かった手紙はこちらです。どうぞご協力をお願いいたします」


 フィリップは、ミノス正教会のファリス(高位神父)エダリオ様に発行して貰った、【神父兼魔獣調査官】の身分証を見せながら、イツキから預かった手紙をシーバス様に渡した。

 

 

 フィリップはハビルの街に到着する前、どうしてもイツキの正体を知りたくて、【通達書】をこっそり読んでいた。もしかしたらイツキの身分が、シーリス(教聖)見習いと書いてあるかもしれないと思ったのだ。

 しかし文面には、イツキ様はリーバ様のご指示で働いておられるとしか書かれていなかった。でもファリス(高位神父)のドーブル様が、イツキ君に《様》を付けて書いていることは見逃さなかった。


 フィリップから差し出されたイツキからの手紙には、特殊な封がされていた。もしも1度でも開封したら、絶対に元には戻せない特殊な折り方で、封筒ではなく大きめの紙で折られていて、手紙はその中に入っている。

 フィリップはその手紙の中身も気になったが、絶対に開封できないと一目見て理解し諦めた。



 ハビル正教会のシーバスは、その折り方に見覚えがあった。

 それは確か、本教会のシーリス(教聖)ジーク様がよく使われる折り方だったのだ。


( ジークじーじーは、イツキが本教会で生活していた幼児の頃の教育係で、この折り方を教えたのもジーク様だった。)

 

 ハビル正教会のシーバスは、イツキ様という人物がジーク様の関係者であると察した。


 そして手紙をゆっくりと開封していく。

 中から出てきた手紙の用紙を見て、シーバスは思わず立ち上がった。

 その用紙は本教会発行の用紙で、余程の時以外使われることはないリーバ(天聖)様専用の用紙だった。そしてリーバ様の署名が入っていたのだ。



*** ハビル正教会 ファリス 様  ***


 ロームズの町のケガ人のために、以下の薬と顔料を大至急用意してください。

 

 1、傷薬、湿布薬、炎症薬、包帯、消毒薬 など 用意できる程

 2、エピロボスグリナ草(睡眠薬)10株

 3、教会所有の顔料 赤と黒 各コップ2杯


 数日中に、ハキ神国軍は撤退することになるでしょう。

 神の力をもってロームズの町を解放します。

 もしも大混乱することがあっても、決して大事には至りません。

 迷い、不安に思う人々が、大挙して教会を訪れるでしょう。

 その時は「すでに神の怒りは解かれた」と言ってください。

 それだけで全て解決します。

 どうぞその時は、破壊されたロームズ教会の建て直しの為に、浄財をお願いしてください。 



 手紙を託けたフィリップには、私の身分は秘密になっています。

 以上よろしくお願いいたします。

             

         1096年6月14日   リース キアフ

      

                   ブルーノア教 本教会 リーバ




 手紙を読み終えたシーバスは、急ぎ用意する物を紙に記入し、控えていた2人のモーリスに渡した。


「フィリップ神父、必要なものは至急用意させます。いつ出発されますか?」


「できれば今夜まで。もしも馬車があれば明日16日の早朝でも構いません。それとイツキ様が【鎮魂の儀式】の際に必要なラグリムがあれば、お借りしたいとのことでした」


 フィリップはそう答えると深く頭を下げた。イツキの手紙の内容は判らないが、シーバス様は協力して頂けるようだと安堵した。



 シーバスは、手紙を疑うつもりは全くないのだが、どうしても確かめたいことがあり、フィリップに質問しようかどうか迷った。

 シーバスの知るところでは、新たに見付かったリース(聖人)は3人で、見付かった時は赤子と8歳くらいだったはず……その内1人はこのカルート国出身で、今15歳くらいだ。もう1人は女の子だったから違うだろう……そうすると残る1人は、まだ12歳くらいの子どものはず……


【鎮魂の儀式】を行ったり、ロームズの町を解放するなど信じられない気もするのだが……


「フィリップ神父、ロームズで指揮を執られているイツキ様の年齢を訊ねてもよろしいかな?」


シーバスは、どうしても確認したくなった。本当にリース様なのか……


「はい、イツキ様は12歳です」


 フィリップ神父の答えに、少しでも疑うような気持ちになった自分を恥じ、シーバスは心の中で神とキアフ様に謝罪した。そして、必要な物は全て明日の早朝までに用意するので、教会の馬車を使っても良いと申し出た。



「では明日の早朝5人で参りますので、よろしくお願いいたします」


フィリップはシーバス様に挨拶をして、ハビル正教会を後にした。

 教会の木の枝で休んでいたミム(イツキの通信鳥)を肩に乗せ、フィリップは仲間を探しに行くことにした。


「ミム、コーズ教官を探してくれるか?」


フィリップは、ミムが半径1キロ位なら知り合いを探せることを、イツキから聞いていたので早速お願いしてみる。

 ミムは10分位して戻ってきて肩に乗ったので、どうやら近くには居なかったようだった。


 おそらく誰か国境近くで探りを入れているのではないかと予想し、ハキ神国のルンナに向かう道を歩き出した。




 その頃コーズ隊長とソウタ師匠は、困ったことに直面していた。

 国境で身分確認をしていたのだ。

 今回は【魔獣調査隊】として動いていたので、神父さえ居れば調査隊として証明されるのだが、肝心のブルーノア教会の【魔獣調査官】である神父が居なければ、その護衛である証明ができない。

 神父のフィリップかマルコが居れば問題なかったのに……と唇を噛み締め悔しい思いをしながら、検問所を遠巻きに眺めていたコーズ隊長の肩に、突然見慣れたハヤマ(通信鳥)のミムがとまった。


「あれ?お前ミムだよな?なんでこんな所に?」


コーズ隊長は驚いてミムに話し掛けた。するとミムは、嬉しそうに胸を張って「ピィピィポー」と鳴いて答えた。


「やあお疲れ!やっと見付けたよ」


 そう言いながら現れたフィリップを見て、コーズ隊長とソウタ師匠は驚いて目を見開いたが、顔を見合わせてニンマリ笑うと、フィリップの両腕をがっしりと掴み、引き摺るように国境に向かい歩き出した。


「えっ?何?何処に連れて行くんだ?」


「決まってるだろう!ハキ神国のルンナだよ」


コーズ隊長とソウタ師匠は、神父の服を着た【魔獣調査官】フィリップの護衛兼【魔獣調査隊】として、するりとハキ神国に入国できた。

 さすがブルーノア教の本教会が有るだけあって、ハキ神国の人は、国境警備隊の人間も神父様に対して態度がとても丁寧だった。

  

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