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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
それぞれの思惑 編

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ロームズの町

地図を資料として載せたいけど、方法が分からない……

こんな地図でごめんなさい。

    レガート軍と魔獣調査隊、ハキ神国軍の進行略図 

       (注)レガートの森より西はレガート国


     《  カルート国 地図  》

                    〈北〉

 [レガート軍進路] 

 マキ ➡▲➡ 大都市サナ 

(レガート国)       ↘     

   レ            ↘

   ガ           【 王都ヘサ 】

   |            |        ↘    

(西)ト            |          ↘

   の        ポブの街 ー  ー  ー 大都市ハビル 

   森         /         ↗↙     \

           /         ↗ロームズの町⬅ルンナ      

[魔獣調査隊進路]  |       ビビル村 ▲   (ハキ神国) 

レガートの森➡ルナの街➡➡ビルドの町↗ ▲         ↗ 

▲   ▲     ▲    ▲             ↗

〈〈  ラ  ン  ド  ル  山  脈  〉〉    ↗  

                           ⬆

            《 ハ キ 神 国  》   ⬆ 

                         [ハキ神国軍進路] 

                    〈南〉 【 首都シバ 】



 1096年6月15日朝、村人たちの見送りを受けながら、イツキたち3人とラール(イツキの犬)は戦地ロームズの町に向かい出発した。必ず帰りにまた寄りますと伝えて。

 ロームズの町の近くまで荷馬車で送りましょうと村長が申し出てくれたので、徒歩8時間の行程が5時間に短縮され、昼過ぎには目的地に到着できた。


 噂通り街道から町に入る分岐点には、ハキ神国軍の兵士が10人居て、簡単な関所のような物を作っていた。荷車や大きな酒樽等をバリケードにして道を塞ぎ、通行する人や馬車から通行料を徴収しているようだ。

 戦時下とは思えない程のんびりしている兵士たちの姿に、危機感や悲愴感は感じ取れない。それならばこちらも同じ感じで行くとしようと考えたイツキは、マルコ教官の耳元で作戦Bにしましょうと囁いた。


「えーっと、神父様でしょうか?」


兵士は申し訳なさそうな、複雑な表情をして話し掛けてきた。


「はい、ロームズ教会の神父が亡くなり、ビルド教会の神父より【鎮魂の儀式】を依頼され、ルナ正教会から急ぎやって来ました。【鎮魂の儀式】は戦争で亡くなった場合、死後20日~25日の間に行われるものです。この儀式をしないと災いが起こるとされており、死者の魂を鎮めなければなりません。今日がその20日目なのです」


マルコ教官は神父としての礼をとりながら、兵士たちの方を向いて答えた。イツキとハモンドも合わせて礼をとった。


「ハキ神国軍は、まさか死者の魂を鎮めに来た神父から、通行料を徴収したりしませんよね?」


ハモンドが少し強い言い方で訊ねると、兵士たちはで集まって相談を始めた。

 暫くして「神父様、このままお通りください」と、予想通りの答えが返ってきた。

 イツキは荷馬車で向かう道中、ロームズの町に入る時の〈入り方〉について、作戦AとBの説明をしていた。


 Aは、征服者として横柄な態度を取り、神父に対して敬意を払わなかった場合の作戦で、Bは、神父に対し丁寧に敬意を持って接して来た場合の作戦だった。

 

 Bの場合だったら、最初からこちらが強い態度で出て、ロームズの町に入ってからも終始強気の態度で対応する作戦だ。

 ハキ神国軍だろうと、カルート国民だろうと関係なく、信者として等しく接することで主導権を握るのだ。

 その点、マルコ教官は仕事が教官であり、ハモンドは軍学校時代に常にリーダーシップをとっていたので、本来の神父よりも上から指導的態度をとるこに、なんの問題も無かった。イツキに至っては既に怖いレベルである。



 教会から来た3人組は、兵士2人に先導されてロームズの町へと入っていった。

 ロームズの町は人口8千人くらいで、警備隊は常駐していたが10人程度であり、軍の施設は無かった。そんなロームズの町に、1,000人規模の軍勢が押し寄せたとしたら、武器もない兵士も居ない状態で勝てる訳がない。

 それなのに、ここまで街を破壊するとは……


 町の様子は、建物の2割が投石機と思われる攻撃により壊されていた。全壊の建物は少ないが、主だった大きな建物(3階建て)は、大きな穴が幾つも空いていた。木造建ての家が多い町では、火災の跡もあり復興には時間が掛かりそうだ。

 町を歩いている人々の7割が兵士で、それ以外は殆どが女性や子供たちだった。町の男性の姿が見当たらないところをみると、何処かに軟禁されているのかも知れない。

 すれ違う女性や子供たちは、兵士の後ろを歩く1人の神父と従者と子どもの神父?と犬を見て、深々と頭を下げ、すがるように視線を送ってきた。兵士たちも軽く頭を下げ通り過ぎて行く。

 兵たちは一応剣を付帯しているが、緊張感は無くのんびりと見回りをしている。


 すれ違った子どもの中に、足を引き摺っている子が居たのでイツキは声を掛けた。


「ケガをしたの?少し見せてごらん」


 戸惑う母親に笑顔を向け安心させてから、イツキは6歳位の男の子の足を診た。小指の付け根辺りを触ると、ギュッと目をつぶり唇を噛みしめた。どうやら骨折しているようだ。


「あとで教会においで。きちんと診てあげるから。それからケガをしている子どもや女性が居たら、一緒に連れて来なさい」


イツキがにっこりと微笑んでそう告げると、母親と子どもの顔が引き釣った。教会は現在、ハキ神国軍が本部として使っているかもしれないとビルド教会の神父が言っていた。それで親子は怯えているのだろう。


「いいかい、教会は誰のものでもない神のものであり信者のものだ!もしも私利私欲のために使ったり、不敬を働くと必ず罰が下されることになるだろう!私たちが滞在する5日間は、教会を診療所にするから遠慮無く来なさい」


マルコ教官は、わざと大きな声で兵士にも聞こえるように話した。

 先導する兵士は、顔色を悪くしながらロームズ教会前まで案内してきて、「少々お待ちください」と言って礼拝堂の中に入っていった。

 教会の建物で攻撃されていたのは、神父の執務室・住居・集会所でほぼ全壊。礼拝堂も壁の一部には穴が開いていた。


 マルコ教官とハモンドは、夏だというのに冷気を感じた気がして、恐る恐るイツキの方を見た。

『ぎゃーっ!やばい』

 イツキの黒い瞳が、闇のように深く沈んでいる。しかも空気が重く息苦しい。2人は背筋が凍った。


「マルコ神父、思い切りやってください。声は低く威厳ある態度で。さっさと追い出しましょう」


子どもとは思えない低い声だ。イツキが相当怒っているしるしである……



 礼拝堂の扉が開き20人くらいの兵が出てきた。先頭に立っているのが指揮官だろうか?それほど偉い人には見えないが……

 その男が口を開こうとしたその時、先にマルコ神父が話し始めた。


「どういうつもりです?まさかハキ神国軍はブルーノア教会の礼拝堂を、軍の施設として使ったりしてないでしょうね?教会の施設は国のものではありませんよ!ブルーノア教会本部に使用許可を取ったんでしょうね?どうなんです?」


マルコ神父の低く威厳のある声が辺りに響いた。その声は開かれた扉から、礼拝堂の中にも届く程の声だった。

 

 いきなりの厳しい言われように、先頭に立っていた男は自分の言葉を飲み込み、何も言えなくなった。

 暫くの沈黙の後、礼拝堂の中から上官と思われる男が出てきた。他の兵とは明らかに軍服が違うので、本当の指揮者はこの男だろう。

 その男は、がっしり体型の大男で、茶髪のてっぺんは薄くなり、焦げ茶の瞳は怒りを滲ませている。四角く顎の張った顔で、右の口端をピクピクと吊り上げ不機嫌さを現していた。


「お前は誰だ?いきなりやって来て偉そうに。教会は国のものではない?今は戦時下であり我々はこの町を占領している。何処をどう使おうと勝手だ。たかだか神父に命令される筋合いはない!」


上官は捲し立てるように大声で叫ぶと、マルコ神父の顔先まで近付き、肩を怒らせて脅しをかけてくる。

 

 マルコ神父とイツキ、ハモンドは同時にニヤリと笑った。


 さあ、作戦開始の合図は出た。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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