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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
それぞれの思惑 編

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ビビド村

 村長の家に到着すると、娘と母親が泣いていて、若い男性が困った顔をしていた。

 村長の後ろにフィリップの姿を見付けると、焦げ茶の髪を短く切り、精悍な体つきの若い男が驚いて大声を上げ叫んだ。


「ライラ、し、し、神父様だ!」


 男が叫ぶと、2人の女性は信じられない!という顔をしてイツキたちを見て固まっている。


「何故神父様が?これは奇跡?いえ、幻なの・・・」


 泣いていた若い娘はライラ18歳。長い金髪を結い上げて、青い瞳は泣いたせいで赤くなっている。白いエプロンがよく似合う可愛い女性だ。側の女性はライラの母親で、若い男はライラの婚約者シーバル20歳だった。

 

 村長の説明によると、孫のライラとシーバルは5月27日にロームズの教会で結婚する予定だった。しかし、25日に突然ハキ神国軍が攻めてきた為、結婚式は中止するしかなかった。おまけにシーバルの母親はロームズで働いていたため、生死さえ分からない。同じようにロームズの町に働きに出ていたビビド村の者は9人いた。心配で心配で様子を見に行ったが、町には入れなかったそうだ。


 すると今朝、村の若者3人に兵士でもないのに出兵命令が届いた。当然その中にはシーバルも入っている。

 明日には、村を出なければならない。

 若い2人は、これが永久の別れになるかもしれない……せめて結婚していたら……最後の夜を……と思い詰めていた。カルート国では田舎ほど厳しい教えがあって、結婚前に男女が夜を共に過ごすことは許されていなかった。だから、神父様の許しを得て結婚式をしたかったらしい。



「シーバルさん、ビルドの教会ではダメなんですか?」


フィリップは素朴な疑問をぶつけてみた。だって2時間歩けば先程までいたビルドの町があるのだ。


「それはできないんです。ビビド村の住人はロームズの教会でお世話になる決まりなので、それにロームズ教会の神父は僕の叔父なんです」


シーバルが悔しそうに呟く。そしてフィリップの前に進み出ると、ひれ伏してお願いしてきた。


「お願いします。これから結婚式をして頂けないでしょうか?」


すると、ライラもシーバルの隣に来てひれ伏す。様子を見ていた村長や村人たちも、頭を下げてお願いしてきた。

 その様子を見たイツキは、隣に立っているハモンドの耳元で小さく囁いた。


「皆さん、残念なお知らせがあります。ロームズ教会は攻撃を受け神父様は亡くなりました。そして合計30人の尊い命が失われたようです。私たちは、その方々の魂を鎮める【鎮魂の儀式】を行うため、明日ロームズの町に行きます」


「えっ?叔父は、ロームズ教会の神父は亡くなったのですか?」


 ハモンドの話に驚いたシーバルは、信じられないという表情で口を開けたまま、その場で固まってしまった。他の村人たちもショックを受けていた。

 隣の町のことなのに、ビビド村には正しい情報が入っていなかったようだ。



「シーバルさんライラさん落ち着いてください。結婚式は急がなくて大丈夫です。出兵する必要もありません。間もなく戦争は終わるはずです。お母さんの安否を確認し、死者を弔ってからにしましょう。大丈夫!神のお力でハキ神国軍は撤退していきます。私たちを信じて5日、いえ6日待ってください」


イツキは村長の後ろからそう声を掛けた。

 ビビド村の人たちは、声の主がフィリップではなく子どものイツキだと分かると、怪訝そうな表情でイツキを見たが、イツキの側で膝まずいているハモンドを見て戸惑った。ふと見るとフィリップまでもが、イツキの方に体を向けて礼をとっている。


『・・・?』


 よく見ると、子どもの神父様?の方が少し豪華な服を着ているような気がする……


「ロームズ教会の神父の身内の方がいらっしゃいます。フィリップ神父、シーバルさんの家族の方々の為に祈りの言葉を捧げては如何ですか?」


イツキはフィリップの方を見て、突然祈りの言葉を捧げろと指示?する。フィリップは、そんなの無理ですー!と目で訴えながら、膝まずいて答えた。


「イツキ様、もしかしたら他の村の方々も、身内を亡くされたもかしれません。本来なら私が勤めさせていただくのですが、イツキ様が祈られた方が皆様の心が慰められると思います」


フィリップは深く頭を下げ、皆にイツキの方が偉いのだとわかるように、敢えて名前を様付けで呼んだ。


「あのう、こちらの神父の服を着た小さな方は、どういう御方なのでしょうか?」


村長は、村人の視線がイツキのことを訊ねてくれと、自分に集まっているのに気付いて質問してきた。


「こちらのイツキ様の身分は申せませんが、リーバ(天聖)様のご指示で旅をされています」


ハモンドがそう答えると、村人たちは「ええええぇぇっ!!」と驚いて固まった。

 やはりリーバ様の名前を出すと、何処でも反応は同じなんだなとハモンドは思った。そして『嘘をついて御免なさい』と心の中で神とリーバ様に謝った。


 イツキはフィリップの言葉に応えて、村の集会所に村人を集めた。【金色のオーラ】を身に纏い、亡くなった人の為には祈りの言葉を、安否が分からない人の為には生存を願って祈りを捧げた。

 

 フィリップもハモンドも何故かいつも泣いてしまう……村人も当然泣いているのだが、敬虔なブルーノア教徒であったことと、村には教会が無い上に高位の神父の祈りの言葉を聴いた経験がなかった為、感動が大きかったようで号泣している者が多かった。

 村長は代表してイツキに礼を言い、村人たちは膝まずいて礼をとった。

 シーバルとライラの2人は、イツキの言葉を信じることにして、ひとまず落ち着いてくれた。

 

 祈りの言葉の後、遅れてやって来たマルコ教官とラール(イツキの犬)も一緒に、歓迎の昼食をご馳走になった。

 フィリップは計画通りミムを連れて、徒歩で大都市ハビルの街へと向かった。


 イツキ、ハモンド、マルコ教官の3人は、養蚕の様子を見学したり、村の裏山に登りハキ神国側の様子を確認したりした。残念ながらロームズの町は、ビビド村の先にある、ランドル山脈から伸びる最後の尾根が邪魔をして、様子を伺うことはできなかった。


 夜は村長の家に泊めて貰えることになり、目的地ロームズの町の詳しい情報を集めることができた。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

今回は、切りのいいところで話を区切ったため、少し短くなりました。すみません。

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