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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
それぞれの思惑 編

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作戦開始

新章スタートです。

これからもよろしくお願いします。

 イツキは見たことの無い、嬉しそう……とも違う、挑むような……とも違う、強いて言うなら何か企んでいる感じの顔で微笑むと、地図を取り出して皆の前に置いた。


「恐らく明日の午前中に、ミムがミノス正教会から戻ってきます。ランドル山脈沿いをモンタンと一緒に飛んで来るでしょう。ここからビビド村に向かう途中の山際で待つことにします」


「イツキ君、ミムはどうして場所が分かるの?」


イツキの話を疑問に思ったマルコ教官が質問してきた。軍学校はハヤマの育成をしている。だからマルコ教官は知っていた。ハヤマは知らない土地を飛ばないことを。


「それは、ミムは飛んだことの無い航路は飛べませんが、モンタンは僕の居る場所が分かります。だからモンタンが案内してくれるんです」


イツキは嬉しそうな顔をして、ミムとモンタンを思い出しながら説明した。

 皆は何故モンタンはイツキ君の場所が分かるのだろうか?と疑問に思ったが、それ以上の質問はしなかった。

 まあそこは、モンタンが伝説の魔獣だからということにしておこうと、さらっと流すことにしたのだ。


「それで、ミムが戻ってきたらフィリップさんはミムと一緒に、ハビルの街に行ってください。そしてこれから話す作戦の内容をコーズ隊長たちに話して、必要な物を揃えてロームズの町に入ってください。連絡はミムで行います。侵入経路はロームズの町の中から指示を出します」



 イツキは、声を小さくして作戦の内容を説明し始めた。

 途中3人は大声で「死ぬんですか!」と叫んだので、叫び声が静かな礼拝堂の中に響き渡ってしまった。



「そうです。作戦名は【死んだふりしてハキ神国軍にお帰り願おう】です」


イツキの瞳が、まるでイタズラっ子のようにキラキラしている。そして「ムフフフフ」と不思議な笑い方をした。

 そんなちょっと?ブラックなイツキを見た3人は、イツキが敵でなくて良かったと心底思うのだった。




 14日、イツキとハモンドとフィリップの3人は、モンタンとミムを待つため午前8時に旅立った。残ったマルコ教官は、ビルド教会の神父が準備する【鎮魂の儀式】に必要な物が揃ってから、荷物を持ってイツキたちの後を追い、ビビド村に向かうことになった。



 イツキたちは出発して1時間くらい経った頃、随分と低くなったランドル山脈の脇道を登り始めていた。フィリップはこれから徒歩でハビルの街に向かうため、体力温存と見張りのために登山口で留守番をしている。

 ランドル山脈の反対側(ハキ神国側)は、なだらかな傾斜で薬草栽培や野菜が作られているが、カルート国側は大きな岩が多く絶壁の部分もあるため、農業には適していなかった。

 それでも、実のなる木が自生しているため、高地を好む動物や鳥等がたくさん居り、狩りには適していた。

 

 イツキたちは30分くらい登った所で少し開けた場所に出た。そこには小さな泉があり、動物たちの水呑場になっていた。野生の山羊や鹿がのんびり水を飲んでいる。

 

「ここで待っていようハモンド。下からは見えにくいし、これより高い所は絶壁で人目は少ないと思う」


 イツキは動物たちを刺激しないようゆっくり泉に近付くと、岩の間から溢れ出る湧き水を飲んで、「うん、美味しい」と言いながら水筒の水を補給した。

 動物たちにまったく物怖じしないイツキを見たハモンドは、さすが動物と仲良くできる《印》の持ち主だなと感心する。(本当はそんな《印》などは持ってはいないけど……)


 30分くらい待っただろうか、上空からいつもの風が吹いてきた。そしていつもの羽音が聞こえてくる。


「モンターン!ミムー!」


イツキが元気よく手を振ると、モンタンがゆっくり降りてきた。ミムはいつの間にかイツキの肩にとまって「ピイピイポー」と嬉しそうに鳴き、イツキの頬に頭を擦り付けている。

 モンタンは着地すると「モンモン」と鳴いて、頭を下げて撫でてくれと催促している。


「なんだか癒される光景だな~。いつの間にか伝説の魔獣を見ても、可愛いと思えてしまう俺ってどうなんだろう?」


と、独り言を呟きながら、ハモンドはイツキと一緒にモンタンの頬を普通に撫でている。


「モンタン、付いてきたらダメだよ。帰りもレガートの森を通るから、その時は一緒に悪い奴等を捕まえよう。また大声で呼ぶからね。ありがとう」


イツキはモンタンの正面に立って、右人差し指を左右に振りながら、ダメだよと言い聞かせている。するとモンタンは、うんうんと縦に首を振る。その様子を見ていたハモンドは、モンタンがイツキの言葉を理解しているのだと分かり感動してしまった。

 モンタンは「モンモーン」と高く鳴いて、ランドル山脈をレガートの森向けて飛び立って行った。

 


 空は青く風が心地よく吹いている。眼下にはこれから向かうビビド村が見える。

 

 風に吹かれながらイツキは、眼前の戦争という現実よりも、将来戦うことになるであろう【ギラ新教】のことを思った。

 自分の想像通り、この戦いにギラ新教が関わっていたとしたら、これから何度も戦うことになるのかもしれない。ランドル大陸の人々を戦争や争乱に導く宗教……目的は何なのだろうか?何か手掛かりを見付けられるだろうかと。



 


 山を降りてきたイツキとハモンドは、フィリップと一緒にビビド村を目指し歩き出した。

 歩いて1時間でビビド村が見えてきた。人口500人くらいの小さな村だが、養蚕が盛んな村らしく家の造りが殆ど同じだ。2階の窓が木の開き戸で造られていて、1階より2階の方が高さがある。

 ビビド村の入り口には、兵らしき人間が4人立っていた。

 一瞬3人に緊張が走ったが、その兵士がカルート国の兵士だと判ると、ほっと胸を撫で下ろした。


「これは神父様、ビビド村に用事でしょうか?」


兵士の中でも1番年長の兵士が訊いてきた。ビルドの町に兵士は居なかったが、占領されたロームズの町の隣村には当然のことながら兵士がいた。


「はい、我々はロームズの町で亡くなった神父に代わり、【鎮魂の儀式】を行うためやって来ました。儀式は明日なのでビビド村で準備をさせて貰います。それから、午後もう一人神父がやって来ます。どうぞよろしくお願いします」


 フィリップは右手を胸に当て、神父らしく答えた。そして2・3の質問をした。


 そこで得た情報は3人を愕然とさせるものだった。

 村の入り口に門番的に兵士は4人、 村の中に当然居るはずの軍隊が、大隊でも中隊でも小隊でもなく、門番の4人だけだった・・・


「あり得ないだろう・・・」


フィリップは怒りを滲ませて呟く。今は戦争中で直ぐ隣の町が占領されているのだ。レガート軍だったら最低でも500人は駐留させるだろう。


「国民を守る気が無いとしか思えませんね」


ハモンドも兵士には聞こえないように、フィリップの怒りの呟きに同意して呆れる。

 これでは攻め込まれたら一瞬で負けるだろう。攻めて来ないという確信があるのか、軍のトップがわざとやっているのか……ここまで酷い状況に、レガート国の援軍の意味が分からない……。


「カルート国軍は、自分達は戦わずレガート軍に戦って貰えばいいや……と思っているとしか考えられません」


ハモンドは信じられないという風に、左右に首を振って長い溜め息をついた。


「不思議な戦争ですね。攻めてきたハキ神国軍はこんなチャンスなのに動かない。カルート国の人々はまるで他人事。・・・良かったです。レガート軍が戦うことにならなくて。こんな馬鹿らしい戦争、さっさと終わらせましょう」


イツキは静かに怒っていた。声が低くなっているのに気付いたフィリップとハモンドは、ごくりと唾を呑み込んで恐る恐るイツキを見る。すると、いつもの恐いオーラだけではなく、冷たい冷気を放っていた。




 ビビド村に入ると、村人たちが直ぐに集まってきた。それこそ大人から子どもまで。


「神父様、ようこそおいでくださいました。兵士から聞きましたがロームズの町で祈りを捧げられるとか。もしも本日ご滞在頂けるのならお願いがあります」


村長と思われる、白い髭を伸ばした細身で長身、少し腰の曲がった老人が進み出て、丁寧な口調で話し掛けてきた。村長をはじめ村人たちは贅沢ではないが、皆こざっぱりとした清潔な服を着ていた。暮らし振りは然程悪くはないようだ。


「何でしょうか?私は午後には旅立ちますが、こちらにいる勉強中の神父と、午後から来るもう一人の神父は滞在します。お願いとはなんでしょう?」


フィリップは優しく答えると、話を聞くため村長の家に一同移動することになった。

 村長の家に到着すると、そこには泣いている娘と、娘を慰めている若い男が居て、側で母親らしき女性も泣いていた。


 何があったのだろうか?


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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