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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
魔獣調査隊 編

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ビルドの町到着

次話から新章がスタートします。

 1096年6月12日早朝、食料を調達し旅立つ予定だった【魔獣調査隊】は、急遽予定変更することになった。

 

 戦地ロームズの町まで徒歩5日の行程を、予定通り情報収集しながら歩いたとしても、これ以上の情報は得られそうにないのではと、コーズ隊長とフィリップが言い出したのだ。

 それならば2日分の時間を馬車で稼ぎ、より正確な情報を得る為にロームズの町に近付いた方が良いだろうと話し合いで決定した。


 コーズ隊長とフィリップの提案は、イツキが眠った昨夜の内に、イツキの健康のことや徒歩では負担が大きいことも考慮して、明朝イツキに提案しようと全員で決めていたことだった。

 イツキもその案に賛成し、一行は急遽馬車での移動をすることに決まった。

 

 しかし馬車乗り場に行ってみると、8人の大所帯が乗れる馬車が無かったため、戦地ロームズ手前のビビド村まで向かうと1班と、ロームズを越えてハビルの街へ向かう2班に分かれて行動することにした。


 

 ビビド村までは馬車で2日、大都市ハビルまでは馬車で2日半の行程である。

 戦時下で馬車がハビルまで出ているのかと心配したが、問題なく通行できると馬車を運行している組合に言われた。

 

 占領されたロームズの町は大街道から少し入った場所にあり、直接ロームズの町を通行することはないらしい。

 ただし、ロームズ近くの大街道には関所のようなものが作られており、ハキ神国軍が通行料を取っているようだ。その為、ビビド村よりも先に進むには、通行料を含めた料金となるため、余分に銀貨1枚が必要になる。


「馬車代にプラスして銀貨1枚払える者が少ないから、4人以上集まらないと馬車は出せないぜ。今は有事で危険だから馬車代も倍だ。お前さんたち冒険者かい?料金は銀貨4枚だぜ」


御者の男は、2班のコーズ隊長・ソウタ師匠・ドグ・ガルロの4人を、じろりと見回し値踏みして問う。

 レガート軍の新兵の月給が、銀貨5枚(5,000エバー)位だから、かなりの高額と言えるだろう。


「大丈夫さ、俺らドゴル(冒険者から品物を買い取る店)で換金したばかりだからな」


コーズ隊長は、腰の辺りをポンポンと叩き金は有ると示し、規定通りの前金として半額の、4人分の料金銀貨8枚を払った。




 1班のイツキたちは、全員が神父の服を着た集団である。贅沢はできないので普通の辻馬車に乗ることにした。

 ちなみに2班はチャーターした馬車なので、宿泊する町と昼食をとる町以外には停車しない。店員は6名だから、途中で人が増える可能性はある。


「これは神父様、どちらまででしょうか?この馬車はビルドの町まで行きます」


御者の男は、神父の格好をしているイツキたちに、にこにこした顔で話し掛けてきた。


「我々はビビド村まで行きたいのだが、ビルドの町はビビド村よりかなり手前かな?」


マルコ教官は、丁寧な物言いと優しい微笑みを浮かべた顔で質問する。


「いいや、ビルドの町からビビド村までは、歩いて2時間くらいですよ。今は有事だからビビド村まで行けないんです。すみませんです」


気の良さそうな御者はそう答えた後、申し訳なさそうに料金が倍になり、1人ビルドの町まで銀貨1枚になっていますが……と訊いてきた。

 大丈夫だと答えたマルコ教官は、ビルドの町までの料金銀貨5枚を支払った。1枚は軍用犬ラールの分である。

 辻馬車は、行きたい場所までの料金を全て前金で払う。そうして席を確保しておくのである。



 イツキたち1班は、馬車の中で一緒になった人たちと色々な話をしながら、自分たちは【魔獣】の調査をしているのだと告げた。馬車の中や昼食の為に寄った食堂、宿屋や教会やその周辺で情報収集しながら、イツキたちは順調にビルドの町に向かった。

 


 辻馬車は6月13日の夕方6時にビルドの町に到着した。

 夜の移動は危険だし、ビビド村には教会が無いので、夕食を食べて情報収集してから、その日はビルドの教会に泊まることにした。



 ビルド教会前に来たところで、正教会を見慣れている一行は、地方の教会が小さく感じた。礼拝堂と執務室、神父の寝所とバザーや地域の人が使用する作業室しかない。泊まるにしても礼拝堂になりそうだと覚悟して、神父の執務室をノックした。


 ビルド教会の神父は、見たこともない神父の服を着た4人に疑念を抱き、じろじろと上から下まで見た後、「何処の神父様でしょう?」と質問してきた。

 本物の一般神父が見たら、やはり何だか怪しく見えるらしい。

 フィリップとマルコ教官の衣装は、神学校の生徒が着ている服に刺繍がしてある物だし、イツキの神父服など見たこともない。ハモンドの服は、教会の警備隊の人が着ている服である。


「我々はレガート国のミノス正教会から来ました。これはファリス(高位神父)エダリオ様からの依頼書です。こちらがルナ正教会ファリスのドーブル様からの通達です」


「通達?」


ビルド教会の神父イトスは、神父にしては美し過ぎるフィリップから渡された2通の書状を、怪訝な顔をして受けとる。

 実在するファリスの名前を告げられては、確認しない訳にはいかない。

 イトス神父は、1通目のエダリオ様の依頼書を読んで驚いた顔でフィリップたちを見た。そして震える手で2通目のドーブル様の通達を読んで、慌てて膝をついて自らの態度を謝罪した。


 一行を執務室に通したイトス神父は、すっかり恐縮して低姿勢でお茶を淹れている。何が書いてあるのか知らないフィリップたちは、これ程に恐縮してしまう通達って、どのような内容だったのだろうかと思ったが、態度には決して現さなかった。

 

 イトス神父は、ルナ正教会のドーブル様が書かれた通達《ロームズの町の戦況について、判っていることは全て話すように。そして全面協力せよ。イツキ様はリーバ様のご指示で働いておられる》の用紙を、慎重に封筒に戻し入れてフィリップに渡した。


 【魔獣調査隊】一行が自己紹介をすると、イツキ様が1番小さな子供だと知って、イトス神父は「えええーっ!」と声を出して驚いていた。


 


 イトス神父からの新しい情報は3つあった。

 1つ目は、ロームズの町の神父が亡くなったこと。

 2つ目は、ハキ神国軍の本陣は、ロームズの町ではなくハキ神国側にある。

 3つ目は、ロームズの町には1,000人くらいの兵が居る。本陣にも1,000人が居るので合計2,000人が、ハキ神国軍の兵の数である。


 この3つの情報は、自分が直接ロームズの町に行って聞いたから間違いはないと言う。

 ロームズの町の神父は、5月25日に教会が攻撃された時に亡くなり、住民の葬儀ができなくなった町の代表が、ハキ神国軍の司令官に、葬儀のために隣町から神父を呼んで欲しいと願い出て、許可されたので自分が出掛けて行ったのだと語った。


 イツキたちにとって凄い朗報だった。

 実際に戦場に行った者が居て、しかもそれが神父であるとは……


「イトス神父がロームズの町に行かれたのは何日でしたか?」


イツキはある作戦を思い付き、イトス神父に質問した。その瞳はキラキラ輝き両口角が上がっている。


「あれは確か5月27日でした。私は祈りを捧げると直ぐにロームズの町を追い出されましたが……」


「それなら、鎮魂の儀式は6月15日ですよね?」


イツキの問いに、イトス神父は確かにそうですと頷きながら答えた。


 鎮魂の儀式とは、病気以外の事故や戦争で亡くなった人の、魂を静めるために行われる祈りの儀式である。

 突然の死を受け入れられず、悲しみや恨みを抱いたままの魂が、悪霊にならないように祈りを捧げるもので、戦争などの場合は、必ずや行わなければならないと教会で決められている。


 鎮魂の儀式の日程は、亡くなった日から数えて20日目から25日目までの間とされている。

 今回の戦争で亡くなった30名の儀式の日程は、6月15日~20日までということになる。


「イトス神父、正式な鎮魂の儀式をされたことがありますか?」


「いいえ、事故で亡くなった方の略式の祈りなら捧げられますが、戦争で亡くなった方の、しかも30人分の祈りなど捧げられません」


イトス神父は申し訳なさそうに答えながら、項垂れてしまった。


「それなら、我々がその儀式を行いましょう。私は本教会で学んだので大丈夫です」


イツキはそう言うと、必要な物を明日の昼までに揃えてくださいと言って、メモにあれこれ記入し始めた。

 そして、今日は疲れたので休みますとイトス神父に告げて、礼拝堂で眠ることにした。

 イトス神父は、自分の部屋か執務室でお休みくださいと頼んだが、夏だから大丈夫ですよとフィリップが笑って断った。




 礼拝堂では、明日から本格的に始まる、ハキ神国軍を撤退させる為の作戦会議が開かれていた。


 そこでイツキは、とんでもない作戦内容を皆に告げるのだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話から、新章スタートです。

いよいよハキ神国軍との頭脳戦が始まります。

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