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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
魔獣調査隊 編

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23/57

情報収集

 戦時下に入ったカルート国は、夜の外出を控えるようにと公布されていたが、ルナの街の住人たちは、どこかのんびりしていた。


「おかみさん、隣のハキ神国が攻めてきたと聞いたが、ここら辺はまだ大丈夫なのかい」


レガート国で【王の目】として活躍していたドグとガルロは、食事もできて酒も飲める店で情報収集をしていた。


「まあ大丈夫だろうよ。敵はルナに来る前に王都ヘサに向かうだろうから、こっちに来るならその後さ。こんな田舎の街にハキ神国も興味は無いだろうさ」


女将はそう言いながら、ドグの前に酒とつまみを置いた。店は20人くらいが入れる小さな店だったが、繁盛しているようで満席になっていた。

 2人は暫く周りの会話に耳を澄ませていたが、隣のテーブルの2人連れに、酒瓶を片手に話し掛けていった。



 イツキとソウタ師匠は、武器店を回っていた。カルート国の武器事情を探るためと、軍の事情や戦争の状況についての情報を集めるため、そしてレガートの森で狩りに使用して減った矢を補給するために。


 

 コーズ教官とハモンドは、レガートの森で狩った動物や魔獣の皮を買い取ってくれるドゴルに行っていた。ドゴルには、いろんな場所から冒険者や護衛たちが集まってくるので、お互い情報交換ができるよう、居酒屋と宿屋が併設されているのが普通だ。


 

 フィリップとマルコ教官は、神父としての勉強をするため、ルナ正教会で絞られていた。

 ファリス(高位神父)ドーブル様は、ミノス正教会のエダリオ様の友人で、エダリオ様からの手紙の中に、神父としての勉強をさせて欲しいと書いてあったのだ。

 フィリップもマルコ教官も街に繰り出す気でいたが、「最低限の、神父らしさを身に付けてください」とイツキに言われたので、ルナ正教会でファリス様直々に、教えを受けることになってしまった。





 午後10時、全員が【教会の離れ】に戻ってきていた。


「新しい情報として2つ、1つ目はハキ神国軍の動きですが、全く進軍せず大きな街ハビルの手前、ロームズの町に留まっています。2つ目は、ロームズの住人の死者は30名くらいで、直ぐに降参したので意外に被害が少なかったようです」


ドグは、入った店の隣に居た2人組から、酒とつまみを提供して仕入れた情報を話し始めた。その2人組は王都ヘサから来た薬剤商で、ハビルに持って行こうとしてた薬を、危険だからルナに持ってきたらしく、ロームズの町の話は役人から聞いたらしかった。



「俺たちの情報も2つです。1つはロームズの町の何処にハキ神国軍が本部を置いているかで、もう1つは、魔獣を操る《印》持ちの奴の話です」


「何!それは本当か?」


フィリップはコーズ教官の《印》持ちの話に食いついた。


「とても興味深い話ですが、先に戦況に関する報告を詳しくお願いします。強盗たちは、帰り道の仕事にしましょう」


イツキは興奮気味のフィリップを抑えて、冷静に情報を分けていく。頭に来ているのは誰も同じ。だが本来の目的はそこではないのだ。

 イツキの冷静な態度に、フィリップは言葉を飲み込むしかない。


「詳しい情報によると、あっ、これはロームズの町出身の冒険者からの話ですが、ハキ神国軍は、驚いたことに本部を教会に置いています。常識では信じられませんが、住民たちが教会に逃げ込んだので、攻撃して教会を奪ったらしいのです。冒険者はロームズから逃げてきた友人に会って話を聞いたようです」


コーズ教官は、辛そうな顔で話しながら1枚の地図を取り出し、指差しながら説明する。


「これはその冒険者が書いてくれた地図です。これによるとロームズの教会は町の中心にあります。町の入口は4ヶ所で、ランドル山脈側は、獣の侵入を防ぐため塀で囲まれていて門があります。他の3ヶ所は普通に入れるようで、通常は役人もいません。現在はハキ神国の軍人が見張りに居ると思われます。この地図と情報を得るために、レガートの森で採取した薬草を渡しました」


「ご苦労様でした。この地図にある隣村の情報はありますか?」


イツキは、ロームズの町の少し手前にちょこんと記入してあるビビド村を指差して訊ねた。

 コーズ教官は、ロームズの町の情報だけで、近隣のことまで考えていなかったと反省しながら、残念ながら何も訊いていませんでしたと頭を下げた。



「では俺からは武器について。カルート国の武器事情は思っていたより酷い。全てが旧式で、レガート国ではもう使われていない武器が多い。これではハキ神国軍には勝てないだろう。ハキ神国軍の武器は、巨大な投石機を始め遠くまで飛ぶ弓矢も持っている」


ソウタ師匠は溜め息混じりで話すと、国王の問題意識の差が大きいのだろうと前置きをして、自国のバルファー王の意識の高さと、武器ではレガート国の方がハキ神国より上であると位置付けた。

 このまま本格的な戦争になれば、いくらレガート国が援軍を出したとしても、負ける可能性の方が高いだろうと予想する。

 このメンバーの中で、唯一レガート軍上層部の人間であるソウタ師匠は、カルート国の軍に対しての疑問も口にした。


「自国の町が占拠されているのに、レガート国からの援軍を待って出撃するなど、俺には考えられない。もしかして軍のトップが腰抜けなのか、疑いたくはないがハキ神国と通じているのでは?と思ってしまうくらいだ」


 ソウタ師匠は苦々しい顔のまま、コップの水を一気に飲み干した。カルート国の人任せ的な態度に、かなり腹が立っているようだ。



「俺たちの情報は3つ。1つはロームズの神父と全く連絡が取れなくなったとファリス(高位神父)ドーブル様が心配されていること。2つ目は、不思議なことにハキ神国軍は、カルート国に対し食料を出せと脅してこないこと。3つ目は、ハキ神国軍の指揮者が誰なのか判らないことの3つだ」


マルコ教官は、ルナ正教会で集めた情報3つを話した。そしてフィリップと2人で導き出したある推測を発表した。


「もしかしたら、ハキ神国軍の指揮を執っている者は、軍の人間ではないのかもしれない……または、内部で何か揉めているかだ。カルート国軍もおかしいが、ハキ神国軍は、勝っているのに将軍や司令官の顔が見えない。本来なら手柄を立てたのだから、自分の名を上げようとするはずなのだ」


 マルコ教官は情報の専門家であり、フィリップは内政に詳しい【王の目】を仕切っている人間である。ハキ神国の王が病床にあり、側室の子である第1王子の力が増し、内政が安定していないという情報を得ていた。



「さすが僕が選んだメンバーですね。どの情報も分析も大変役に立ちました。ありがとうございます。これから進んで行くと、様々な情報を得ることができるでしょう。大切なことは、我々が何者で目的が何なのかを知られないことです」


イツキはにっこり笑って、ペコリと頭を下げた。ちゃんと瞳が笑っているイツキを見て、メンバーはホッとした。


「それから1つお願いがあります。確証は何も無いのですが、今回の戦争にギラ新教が大きく関係している可能性があります。ですからカルート国軍の人間もハキ神国軍の人間も、上官や将軍がギラ新教の信者かどうか調べてください。無理はダメです。詳しいことはまだ話せませんが、必ず皆さんにはお話しする時が来ます」


イツキは緊張した顔で、お願いしますと言って頭を下げた。

 こんな緊張した顔のイツキを初めて見たメンバーは、「了解しました」と言って何も訊かなかった。


『ギラ新教……あまり聞いたことはないが』と、フィリップとソウタ師匠以外は思った。


「ブルーノア教会を攻撃したハキ神国軍……他力本願で戦わないカルート国、動かず指揮者の見えないハキ神国軍。平和ボケしていたことが原因ではないかもってことか……。成る程。しかも両国ともか」


妙に大きな声で独り言を呟くソウタ師匠は、ニヤリと口角を上げてフィリップの方を見た。

 

 実はソウタ師匠、レガート軍本部を出発しミノス正教会に向かう途中で、フィリップからギラ新教という名前を聞いていた。

 レガート国の内戦時、内戦の首謀者カワノ公爵が、ギラ新教に関わっていたらしいという内容だったのだ。



「明朝は食料を調達したら、行程通りに直ぐに出発します。もう寝ましょう」


イツキは欠伸をしながらそう言うと、直ぐに横になり寝息をたて始めた。



「今日は大人でも辛い衝撃的なことが起こり、我々に指示を出し、いつの間にかミムをミノス正教会に飛ばして、レガートの森の通行を止めようとしたり、祈りを捧げたり奇跡を起こしたり……疲れるのは当たり前ですね。俺はついイツキ様が12歳の子どもであることを忘れてしまいそうになります。寝顔はこんなに可愛いく幼いのに」


ハモンドが小声で呟くと、皆も「そうだな」と呟き、イツキの寝顔を覗き込んで、もっとしっかりしなければとか、これからはもっと守らなければならない等と、心に誓うメンバーたちであった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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