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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
魔獣調査隊 編
16/57

祈りの言葉と第2王子

 2人の男はケガの手当てをされながら、亡くなった友のことをポツポツ話し始めた。

 その間、ドグ・ガルロ・ラールは辺りを警戒することになり、少し離れた場所に立ち安全を確保する。

 残りのメンバーはケガの手当てをしたり、食料を投げ出して逃げてきた2人の為に、軽い食事を準備している。


 亡くなった冒険者はレガート国の人間でノートス29歳、今回の依頼の途中で、久し振りに妹に会うためミノスの街に向かうところだったらしい。これまでの冒険者としての活躍や性格、今回も仲間を助けようとして犠牲になったことなどを聞いたイツキは、「仲間思いの方だったんですね」と声を掛けた。



( イツキの身体を、金色のオーラがゆっくり包んでゆく ) 


 

 大きく息を吸い、ゆっくり吐き出すと、一人の若者が苦労して冒険者になり、依頼をコツコツとこなし、夢を叶えるために努力した人生が、頭の中に浮かんできた。

 イツキは浮かんできた彼の人生を、祈りの言葉として紡いでいく。

 ブルーノア教の祈りの言葉は、幾つものストーリーを組み合わせて、感謝の気持ちを込めながら、ひとつの物語にしていくもので、神父の力量で色々な物語ができ上がる。


 ケガの手当てが終わり、軽く食事を摂って2人が落ち着いたところで、イツキは祈りを始めることにした。



「それでは、ノートスさんのために祈りを捧げます」


イツキの言葉と同時に、全員が立ち上がり右手を胸の前に置き、目を瞑り下を向く。


「その冒険者は色を織る男だった。勇気を胸に高き山に挑み、風の音を聞き、木々のざわめきを聞き、空の青さに感謝した。ある時冒険者は友を得た。誇り高き心は、魂を共にする者の協力で、より強くなっていった。その冒険者は家族を愛し、弱き者を慈しむ優しき男であった。・・・・・・その男、冒険者ノートスは仲間の幸せを願い旅立った。魂は風に乗り必要な時に隣にあると笑っている」


 まるで歌うように、透き通る声で紡いでいった祈りの言葉は静かに終った。

 そしてその時、優しい風が全員の頬を撫でるように吹き抜けていった。


 フィリップもコーズ教官もドグも、皆が泣いていた。言葉や声を出すことなく、ただただ涙が溢れてくるのを止められなかった。

 助けた冒険者2人は、風が吹き抜けた方を振り返り、泣きながら叫んだ。


「ノートスそこに居るんだな!任せてくれ、お前の妹は俺たちの妹だ。必ず見守っていく。そして・・・そして、優しい風が吹いたらお前を思い出す。ありがとう。本当にありがとう」


 冒険者の2人は生きる目的を見付け、友の魂がいつも側にあるのだと、希望の光を胸に灯すことができた。

 2人はイツキの前でひざまずき感謝の礼をとった。そして吹っ切れたような顔をして、ミノスの街に向かい旅立って行った。

 

 イツキの【金色のオーラ】は祈りの言葉に乗り、強い癒しを与えたのだった。

 


 フィリップは、もう長いこと感動して泣いたことなど無かった。親友であり最も大切な主アルダスが、正式にキシ公爵として公爵邸に戻った12年前の時以来の涙だった。

 

『何故ここまで心が震えるのだろう?やはり間違いない。イツキ君は本物のシーリス(教聖)見習いなんだ!』


 この瞬間から、あれだけイツキに反抗的だったフィリップは、完全にイツキを信頼に足る人物であると認め、メンバーの誰よりもイツキに協力的に動くようになった。





 ◇  ◇  ◇


 ハキ神国にて


「ラノス王子、兄弟対決はどうされるおつもりですか?」


 隣国カルートと勝手に戦争を始めてしまった、ラノス王子の兄であるオリ王子が仕掛けた、王位継承権を賭けた争いについて意見を訊くクロダだった。

 彼は、王子ラノスの幼馴染みであり従兄であり、学友と護衛も兼ねる伯爵家の長男クロダ・エイベル・モックス17歳、真面目が服を着ているかのような男である。


「どうするって言われてもなあ……、俺は喧嘩を買ったつもりもないし、カルート国を我が国の領土にしようとは思わない。そもそも国王である父上の許しも得ず、勝手に軍を動かすこと自体、頭がおかしいとしか考えられない」


 ハキ神国の第2王子ラノス・ファルミラ・ハキ16歳は、溜め息をつきながら面倒臭そうに答えた。

 2人は、王立上級学校の中庭のベンチに座ってお茶を飲んでいた。

 

 ハキ神国の上級学校は、男女共学で貴族の子女と大商人の跡取り等の、選ばれた者だけが通える学校だった。その為、年頃の男女にとって結婚相手を探す場にもなっているのだ。

 そんな恋愛自由なこの学校で、王子と伯爵家の長男という最上級な獲物、いや、最上級な見目麗しい夫候補の目に留まろうと、婚約者のいない女子は、常に2人の周りを(少し離れて)取り囲んでいた。


 ラノス王子の外見は、父親譲りの赤髪を短く切り、明るい紫色の人懐っこい瞳に甘いマスク、運動神経抜群の日焼けした健康体で、身長は173センチでまだ伸びていて、女子をうっとりさせるものであった。性格は王族とは思えない気さくさで、男子からも慕われている。


 クロダは、長い銀髪を後ろで結び、銀色の瞳は知的でクール、スッと通った鼻にバランスのよい唇。代々軍を束ねる家に生まれ、当然のことながら武術は群を抜いている。身長178センチのガッチリ体型の外見からは想像できないが、意外と神経質で心配性な上に、なにかとラノス王子の世話を焼こうとする姿は、まるで姉のようだと友人たちから呆れられている。



 ただ残念なことにこの2人、女子たちの熱い視線も甘い誘いも、ことごとくかわしている。無理にでも近付こうものなら、クロダには凍るような視線で睨まれ、ラノス王子はハーッと疲れた顔で息を吐くという、鉄壁の〈近寄るなオーラ〉を放つので、女子は嫌われないよう遠巻きに眺めていることしかできないのだった。


 実際は、王室の中で起こっている皇太子の座を巡る争いで、恋愛などしている暇が無いのだった。

 なにせ、ラノス王子は物心ついた時から、何度も命を狙われ死にかけている。学内にも敵が潜んでいる可能性だってある訳で、無闇に人は近付けたくないクロダである。

 

 

 兄であるオリ王子は側室の子どもで、元々は次男だったのだが、王妃が産んだ皇太子が、1087年に流行した〈ハリブ病〉で亡くなってしまったので、現在長男になっている。

 ややこしいのが、その亡くなった皇太子の母である王妃は、その9年前に毒殺され(表向きには病死)ており、次の王妃としてやって来たのが、ラノス王子の母リナであった。


 兄オリは、現在長男ではあるが側室の子である。弟ラノスは王妃の産んだ子なので、本来は国の慣例によりラノスが皇太子となるべきである。

 しかし、国王であるグリノスが病床についてから、兄オリの母、側室のクレシアスとその親族が台頭し始め、オリ王子を次期国王にと言い出したのだ。


 


 そんな中、先月の5月2日に突然オリ王子25歳が、王宮の定例会議に乗り込み、大臣や重臣たちを前にしてこう言った。


「王に相応しきは誰なのか、実力を比べれば分かること。父上が倒れられた今、くだらない会議などせずに、皇太子が誰なのか決めるべきであろう!」と。


「しかし、それは国王様がお決めになることです。実力を比べると仰いますが、ラノス王子はまだ16歳の学生です。何をもって比べられるのでしょうか?」


クロダの父であり警備隊総司令官のモックス伯爵は、冷やかな銀色の瞳でオリ王子を見ながら訊ねる。


「歳などは関係あるまい。このハキ神国に大きな【利】をもたらすことができた者を選べば良いだけのことだ」


オリ王子の自信満々な態度と物言いだが、聴いていた者の半数は、『またいつもの俺様1番が出たな』と意味不明な押し付けに、うんざりしながら反論もしなかった。

 何故なら、反論したところで人の言うことなど聞かずに勝手に物事を進めて、後始末だけは大臣にさせる。それがいつもの遣り方であり、常套手段であったからだ。


 オリ王子は勝手に言うだけ言うと、了承や決議も完全に無視して、会議場を出て行ってしまった。


 第1王子のオリは、一部の親族を除いて、重臣や城で働く者、国民からも評判が良くなかった。

 始まりは1087年に、オリの兄である皇太子19歳がハリブ病で亡くなった時、国中が悲しみに暮れていたと言うのに、当時16歳だったオリは、国葬の次の日に、自分の取り巻きたちを連れて、夜の街で次期国王は自分だと言いながら祝杯をあげたのである。

 その常軌を逸した行動から始まり、次第に我が儘が目に余るようになっていった。


 上級学校を卒業した19歳以降、170センチでやや小太りだった体型は肥満体型になり、グレーの髪は結ばれることなく伸ばされ、威圧的な視線で人を見下す銀色の瞳は、人相さえも悪くしていた。昔と変わらないのは、運動嫌いで昼間は外にでないので色白なところくらいだ。

 人々が嫌うのは性格で、短気な上に残虐なところがあり、自分に逆らう者は弱者であっても許さず、何年か前に侍女と街のお年寄りを、斬り殺したと噂になったことがある。さすがに王は激怒し、1ヶ月間の謹慎を言い渡したこともあった。


 

 定例会議から10日後の5月12日、まさかのカルート国征服のため、出撃命令を出したオリ王子だった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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