魔獣退治
【魔獣調査隊】のメンバーの呼び方を、コーズ・マルコには教官を付け、ソウタ副指揮官はソウタ師匠とし、他のメンバーは呼び捨てにしていきます。
違和感があったらごめんなさい。
前方の茂みから小動物のレビンが飛び出してきた。どうやら何かに追われているようだ。薄ピンクのふわふわの毛をブルブル震わせ、長い耳をピンと立てて、どんな音も聴き漏らさないようにと緊張いている。
街道に転げるようにして出てきたレビンは【魔獣調査隊】のメンバーと目が合った。
後ろから迫り来る何かに怯えながら、逃げ道を探すようにキョロキョロと辺りを見る。しかし、その一瞬の判断が遅かった。
「ぎゃうううっ」
レビンの断末魔のような叫びも、途中で強制終了させられてしまう。
現れた動物は、高くジャンプしたかと思うと、あっという間にレビンの首に噛み付いていた。体は大型犬と同じぐらいだろうか、目を引く特徴は、長い2本の牙と金色に近い短い毛並みだった。
日に当たると、まるで光輝いているようにみえる。
間違いなく魔獣だ!
魔獣の特徴は主に、毛や羽根、爪、牙、尾など、体の一部分又は全身が美しく輝いているのだ。
眼前の魔獣は、全身の毛が金色に輝いている。毛皮にするには短過ぎる毛足だが、収集家にはお宝なのかもしれない。
魔獣に飛び掛かろうとする軍用犬のラールを、イツキは手で合図して後ろに控えさせた。
「あれは、黄色ブルドです。獰猛ですが基本的に人は滅多と襲いません。ただし、自分の餌を奪おうとするものには容赦しません。フィリップさん、得意の弓でお願いします。皮を持ち歩けば、なんとなく冒険者らしく見えますよね」
早速ペナルティー課題を課せるイツキである。フィリップの引き釣った表情は完全無視し、それはそれはサラリと指示を出す。
「イツキせん……イツキ君、あれは中級魔獣ですか?かなり大きい気がしますが?」
フィリップは弓を取り出し、矢を手にしながら訊ねる。その視線はブルドから離れることは決してないが、ブルドが放つ魔獣の〈気〉に当てられて怯みそうになる。
他のメンバーも各々武器を構えるが、初めて遭遇する魔獣に思わず息を呑む。
「何を言ってるんですか?ブルドは下級魔獣です!フィリップさんの腕なら全く問題ありません。練習ですから軽い気持ちでやっちゃってください」
『やっちゃってくださいって・・・そんな簡単に』
顔色ひとつ変えず無表情で言い放つイツキに、全員が心の中で突っ込みを入れる。
フィリップはブルドと睨み合ったまま弓を大きく引く。そして大きく息を吸い呼吸を整えると、引いた弓を射た。ヒュンと風を切って矢は真っ直ぐブルドに向かって飛んでいく。
眉間を狙ったフィリップだったが、ブルドはすんでのところで跳躍する。矢は逸れて右足の付け根に刺さった。
「ギャピー!」
と低く鳴いたブルドは全身の毛を光らせて、フウーッと威嚇しながらフィリップの方に(一同の方に)詰め寄ってくる。矢が刺さったまま、直ぐにも飛び掛かり長い牙で噛み殺そうと姿勢を低く構える。
フィリップは次の矢をセットし、弓を大きく引く。
ブルドは地を蹴ると凄い跳躍で飛び掛かってきた。フィリップは空の方向に素早く弓を向け、ギリギリまで引き付けて矢を放った。
その距離僅か4メートル。今度は眉間を外さなかった。矢は見事眉間に命中した。
魔獣の急所はその殆どが眉間のため、剣で倒すには何箇所も刺したり斬ったりして、弱らせてから眉間を突かなければならない。その為、剣で戦う時は数人で戦い、時間も長時間にわたるため疲労も激しく、ケガをしたり命を落としたりするリスクが伴うのだ。
かといって、弓で眉間を狙える程の実力者はそうそう居ない。
動いている魔獣を弓で狙う冒険者の多くは、剣同様に数人が同時に矢を放ち、数本の矢を命中させ弱ったところを、剣で眉間にとどめを刺すのが当たり前になっている。
ケガや命を落とすリスクは低いが、矢が無くなったり当たらなければ終わり……という欠点もあった。
フィリップはたった2本の矢で仕留めることができたが、それは彼が群を抜く弓の名手だったからに他ならない。
ブルドは絶命し、フィリップの前に金色の毛を光らせたまま横たわっていた。
「オー!やったなフィリップ。さすがだ」
全員が拍手でフィリップの活躍を称える。フィリップは当然という顔をして胸を張るが、少し照れ臭そうな表情で「いや、ちょっと焦ったわ」と頭を掻いている。
魔獣の肉は食用には向かず、人には毒になる方が強いと言われている。まれに薬として使われることもあるが、まだ有用性が解っていない分野だった。
「肉はモンタンが食べてくれます。僕とエダリオ様が調べたところ、魔獣でも上級クラスは、普通の動物ではなく魔獣を好んで食することが判りました。僕の見解ですが、上級魔獣は魔獣を食べることで、魔力というか特異な力を保っているのだと思うんです。中級以下の魔獣は、魔獣を食べようとはしません。だから魔獣にとって1番恐ろしい敵は、上級魔獣なのです」
イツキは空を悠々と飛んでいるモンタンを見上げながら、自分がそう考えた経緯を、モンタンを育てる過程での経験と調査によって導き出したと語った。
「では、モンタンが就いている限り安全だと言うのは、上級魔獣であるモンタンを、魔獣が怖れて近付かないという意味だったのですね?」
イツキの知識は、小さな時からの経験が大きく影響しているのだと、マルコ教官は今更ながら感心する。
いつまでも血の臭いをさせておく訳にもいかず、解体ができるドグが処理を買って出てくれた。肉はモンタンがペロリと平らげ、金色の毛皮は乾燥させる為に、モンタンの尾にくくり空中で風に当てて貰うことにした。
「モモモン!」
と、文句を言っていたが(たぶん)イツキに顔を撫でられて、渋々了解して上空に戻っていった。
太陽が真上にきた頃、ちょうど休憩所に辿り着いた。
他の旅人は居なかったので、イツキはちょっと贅沢なスープを作り始めた。他の旅人が居る時、贅沢な物を食するのは、羨ましがられて食べにくいのだ。
持ってきた食材は余裕を持って3日分。メインの肉は狩りでなんとかなる。野菜も野草で代替えが利く。夏だから生野菜は傷み易いので、イツキは初日にピータ考案のスープを作ろうと決めていた。
イツキはこのスープがとても好きで、味付けをきっちり再現しようと、レシピノートをピータに借りて持ってきていた。あれだけ記憶力が並外れていても、料理だけは記憶通りにはいかないらしい。
そしてスープを作る理由は、イツキなりに美味しいスープで、みんなを労りたいと思う気持ちからだった。
そんなところはまだ12歳の子どもである。
スープを食べ始めると、いつものスーパーな感じのイツキではなく、『美味しいかな?ねえ、美味しい?』という、わくわくドキドキした顔をして、メンバーの表情をちらりと覗き込んでくる。それに気付いたメンバーは「ああ美味しい」と感想を言う。
すると見たことがない子どもっぽい表情で喜ぶイツキに、微笑ましいものを見た気がして、スープの味同様ほっこりする一同だった。
昼食を終え、また歩き出して3時間くらい経った頃、レガートの森に入って初めて人に出会った。
そこは規模の小さな休憩所で、その人たちは、うずくまるように座り込んでいた。
その冒険者らしき2人組は、疲労困憊の体で顔色も悪く、見るとあちらこちらケガをしていた。どうやら獰猛な動物か魔獣に出会ったようだ。
その2人組は、こちらの団体を見付けると、安心したように手を振ってきた。
「どうしたんだ?ケガをしているようだが何があったんだ?」
隊長であるコーズ教官は、皆を代表して質問をしながら、ケガの様子を診ている。
「魔獣が出たんだ。しかも中級魔獣が・・・俺たちは戦う気は無かったのだが向こうが襲ってきた。そいつは初めて見る魔獣で、体が硬くて矢が全く刺さらなかった。そして剣も、剣も突き刺すのが難しくて、仲間が……1人犠牲になってしまった。残った俺たち2人は命からがら逃げてきたんだ」
ブドバと名乗った男は、涙ながらに状況を説明した。見ると隣の男も泣いている。
3人は5年前からチームを作り、絵画の顔料を探してランドル山脈に入っていたが、どうしても赤を出す顔料の石が見付からず、レガートの森で見たことがあるとの噂を聞いて、5日前から森に入って捜索していたらしい。
彼等が出会った魔獣は、見たことも聞いたこともない魔獣で、もしかしたら上級魔獣だったのではないかと思うと話した。
これからカルート国側に進むのであれば、出会うかもしれないので気を付けた方がいいと忠告された。
「ご忠告ありがとうございます。実は我々、魔獣の調査をしているのです。ですからケガの手当てをする代わりに、もう少し魔獣についての詳しい様子を教えて頂けませんか?」
爽やかな笑顔でフィリップは【神父兼魔獣調査官】の身分証明書を2人にみせる。
「えっ?教会の方々だったのですか?それならば協力致します。ケガまで診て頂けるなんて、ありがとうございます。本当に、本当にありがとうございます。できるなら犠牲になった友のために、短くても良いので、少しでも構わないので、祈りをお願いしても宜しいですか……」
2人はまた涙を溢しながら、フィリップにお願いする。本当に大切な仲間だったのだろう。【魔獣調査隊】のメンバーもしんみりとして、思わず貰い泣きしそうになった。
「それでは、ご友人がどんな方だったのか教えてください。僕が祈りを捧げます」
イツキの言葉に2人はポカンとした顔を向ける。それはそうだろう。目の前にいかにも立派そうな大人の神父様が居るのに、何故子ども?と思うのは致し方ない。それでも教会の一団なのだから、少しくらいは祈りの言葉を紡ぐことができるのだろうと思い、子どものイツキで我慢しようと文句を言わなかった。
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