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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
魔獣調査隊 編
13/57

モンタン登場

いよいよ新章スタートです。

これからもよろしくお願いします。

 1096年6月8日早朝、旅立つ前にイツキはミノス正教会横の墓地に来ていた。

 昨夜は大好きなバウの最後に立ち会うことができた。悲しみもあったが3日間共に過ごせたし、3年振りにラールも会わせることができた。

 ファリス(高位神父)のエダリオ様は、「イツキの元気な姿を見れて、安心して逝ったと思う」と言ってくれた。


 墓地に集まったのは、イツキをよく知るエダリオ様、管理人のレーモンド夫妻、レオ神父、警備隊のモグさん、イツキの世話係だったマキさん、イツキ、ラールだった。

 レオ神父の祈りの言葉に送られながら、バウは静かに埋葬された。

 イツキは今朝摘んだ花をお墓の上に置いて、暫く祈りを捧げていたが、旅立ちの準備もあるので、去り難い想いをぐっと我慢してミノス正教会に戻った。



 イツキはエダリオ様の執務室で、【魔獣調査隊】の調査団役のフィリップさんとマルコ教官に必要な、【神父兼魔獣調査官】という身分証明書をミノス正教会付けで発行して貰い、魔獣の調査資料を用意する。

 エダリオ様は、手のひらに【赤い羽根の印】がある。その《印》の持つ能力は、動物を従わせたり教育したりできる能力で、ハヤマ(通信鳥)を使った通信を可能にし、ブルーノア教会だけでなくランドル大陸全体に大きく貢献してきたのである。

 そして現在も、動物の持つ能力や生態を研究しながら、ファリスの仕事もこなしているのである。

 本来ならハキ神国の本教会に所属し、じっくり研究したり、旅に出て資料を作ったりすべきところなのだが、《予言の子》であるイツキのために、ミノス正教会に派遣されたのであった。そしてイツキの相談役として8年が過ぎていた。

 今イツキが準備している魔獣の資料も全て、エダリオ様が集められた資料なのだ。


 

 魔獣に関する必要な書類を整えたイツキは、自分とハモンドの身分証明書を、本教会が発行する本物の書類で作って貰った。

 実は、イツキが4歳でミノス正教会に来た時、本教会のリーバ(天聖)様から、必要になる時がきたら使えるようにと、本教会発行のリーバ様の署名入り書類を、持参してきていたのである。


 イツキの身分証明書には【シーリス候補者】イツキ・ラビター。リーバ(天聖)が次のシーリス(教聖)候補として認めた者であると書かれていた。

 ハモンドの身分証明書には【神父兼従者】ハモンド・ミーク。イツキ・ラビターを護衛する者であると書かれていた。



 教会での準備が終わったイツキは、残りのメンバーが買い出しから帰って来るまで、久し振りに教会で働く人たちとゆっくり話すことができた。

 ミノス正教会に帰って来てから、ハモンドの人を観る目を養う訓練と、神父としての訓練をするのが忙しく、ゆっくりすることができなかったので、出発間近になった頃になってようやく皆と話ができた。


「イツキちゃん、体に気を付けてね。絶対無事に帰って来て、ネリーとシュノー子爵の結婚式に出席してね」


マキさんは、目にいっぱい涙を溜めて、イツキの【シーリス見習い】用の手作り衣装を手渡してくれた。

 イツキがカルート国へ、戦争を終わらせるために出掛けることになったと話した時、


「まだ12歳なのに軍学校の次は、戦争を終わらせるために隣国へ行くなんて、どれだけ頑張ればいいの?私は母親代行として納得できない!」


と、文句を言いながらとても心配していたが、エダリオ様から「イツキなら大丈夫。我々はミノスで心を込めて無事を祈ろう」と言われて、涙を拭きながら頷いてくれた。


 他の神父の皆さんも、警備の2人も「無事に帰ってこい」と声を掛けてくれた。



 最後にもう一度エダリオ様と祈りを捧げる為に、誰もいない礼拝堂に入って行った。

 すると意外にもエダリオ様は、礼拝堂の一番前の席に座り、イツキに自分が思っている本心を話し始めた。

 

「私は、この度のリーバ(天聖)様の指示には納得がいかない。なぜ教会が、国同士の戦争にイツキを出さなくてはいけないのか、全く理由が解らない」


 エダリオ様は、教会が介入するのなら、初めから本教会が出て行けば済むところを、他国の軍学校に居るイツキを使う必要性がどこにあるのだろうかと、疑問に思う当然のことをイツキに話した。


 しかしその直後、イツキの発したある言葉がエダリオ様の気持ちを、否が応でもブルーノア教会が抱えている深刻な問題に直面させることになった。


「僕はミノス正教会に着くまで、何故僕なのだろうかと考えました。すると、あるひとつのキーワードが現れました。ハキ神国を戦争に導いたのは誰なのか・・・?その答えが僕と関係していると」


「ハキ神国を戦争に導いたのが誰なのか?それはハキ神国の第1皇子だと聞いているが、そうではないのか?」


 エダリオ様は眉間にシワを寄せて、イツキの予想外の発言に首を傾げる。

 エダリオ様はファリス(高位神父)である。しかもハヤマ(通信鳥)により、本教会と直接連絡が取れる特別な存在の人でもある。故に、国王でも知らない裏事情や状況も、ランドル大陸中のブルーノア教会から集まる情報網により、大概のことは知らされている筈なのだ。

 

「僕が対決する相手、今回の戦争の裏で第1皇子を操る人間、その者こそが真の戦う相手であるとするならば、答えは間違いなく【ギラ新教】です。近年の紛争や内乱の影に見え隠れする存在、それが【ギラ新教】であるとリーバ様はお考えなのだと思います。だからブルーノア教会は直接介入できないのだと思います」


 イツキの話を聴いたエダリオ様の顔は一気に緊張し、イツキは怒りにも似た表情に変わった。




《予言の書》の中で、リーバ様が最も重要視されているのが《 1070年以降、悪神が蔓延り、ランドル大陸は混乱と戦乱の時代に突入する 》という一節だ。

 イツキを育ててくれたファリスのハビテを始めとして、シーリス(教聖)の4人も、常に【ギラ新教】の動きを注視している。


【ギラ新教】が活動を始めたのは、1075年頃である。

 表向きの【ギラ新教】は、教祖ハイヤーンミリ・ギラードによって興され、温厚な活動をしているように見える。


 しかし、大師と呼ばれている2人が各国を回りながら、何故か貴族や王族だけを信者にしていると調査で判ってきた。

 このレガート国の内乱時にも、大師ドリルという男が暗躍していたと、最近の調査で証言が取れたところである。



 イツキは3歳の時に、《予言の書》が記している重要な部分に、《六聖人》が立つ時、【悪神】は滅びランドル大陸に平和が訪れると記されていることを知った。だから少しでも早く《六聖人》を探し出さねばならないと、リーバ様が話されていたことも記憶している。


 イツキは《予言の子》であり《裁きの聖人》でもある。その自分が戦う相手【悪神】とは【ギラ新教】だと思っている。

 

 まだ自分は子どもで、《六聖人》も3人しか見付かっていない。だけど、戦いはもう既に始まっている。

 だから、戦争を終わらせるために動くとしても、偶然を装って【ギラ新教】を刺激しない作戦を取らねばならない。そして、本当にこの戦争の裏で糸を引いている人物が、【ギラ新教】なのか確かめる必要性がある。その為にリーバ様が選ばれたのが自分なのだと結論付けたイツキだった。

 エダリオ様はイツキの話を聴き、そうなのかもしれないなと答えて、暫く何か考えていた。



「イツキ、それなら旅の宿は全てブルーノア教会にしろ。この私からの手紙を見せれば、どこの教会も快く泊めてくれるだろう。そして身分証明書は、特別な事態が起こらない限り使わないように、くれぐれも用心して指令を遂行してくれ」


エダリオ様は心配そうな顔をして、宿泊依頼と【魔獣調査隊】に便宜を図るよう指示した、ミノス正教会ファリスとしての正式な依頼書を渡してくれた。


 祈りを終えた時、礼拝堂の扉が開き【魔獣調査隊】のメンバーが、買い出しから戻ってきた。

 最終的な持ち物チェックをした一同は、ミノス正教会の見送りの人々に手を振って、いよいよカルート国へと旅立った。





 夕方、目的地であるレガートの森の入り口に到着した。

 街道から少し離れた、人目に付かない場所にキャンプすることを決めた一行は、早速夕食の準備に取り掛かるが、何故か異常なまでの緊張感に包まれていく。何故なら、


「陽が沈んだら、友達のモンタンを呼びますね」


と、イツキが夕食の支度をしながら、軽い感じで言ったからである。そして嬉しそうに鼻唄を歌い出したのである。

 ビッグバラディス、それはイツキにとっては友達でも、一般人にとっては絶対に出逢いたくない最強の魔獣である。

 イツキが《印》持ちだと分かった一行なのだが、どこかまだ魔獣と友人という話が信じられないのだった。


 しかしそんな信じられない話を、信じたくない気持ちで食事を終えた一行は、とんでもない現実を見せ付けられることになる。


「モンターン!イツキだよ。出ておいでー!」


『いやいやいや、出ておいでーって何?怖いんですけど!』


 一同心の中で叫びながら、どんどん顔色が悪くなっていく。辺りをキョロキョロと見回し、恐る恐る暗くなった夜空を見上げ、挙動不審な動作を全員がとり始めた時、何処からか風が吹いてきた。

 そしてその風が急に強くなったと思ったら、バサバサと大きな羽音が聞こえてきた。


「モンターン!こっちこっち!」


 一段と大きな羽音がして風が吹き付ける。本当に、本当に何かが空から降りてくるのが分かる。


「モーン!」


 モーン?何これ?鳴き声なのか?ビッグバラディスの鳴き声がこれ?そんなことを考えながらも、一同いつの間にか地面に伏せている。


「モーンて鳴くからモンタンという名前にしたんだ。なんだか可愛い鳴き方でしょう。まだまだ子どもだから甘えん坊なんだよね」


と話しながら、イツキは夜空に向けて両手を一生懸命振っている。

 バッサバッサと音が近付いてくる。一瞬吹き飛ばされるかと思う程の風が吹き抜け、巨大な何かが空から舞い降りてきて、大地に着地したことが分かった。

 イツキ以外の者は、月明かりに映し出された、巨大な魔獣ビッグバラディスに息を呑んだ。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

年末年初の更新は1話くらいになるかもしれません。

4日からまた頑張ります。

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