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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
カルート国への出兵 編
12/57

ブルーノア教会調査隊

カルート国への出兵 編はこれで終わります。

次話から新章スタートです。

 イツキの金色のオーラが発動し、別動隊のメンバーを癒し、うっかり惚れてしまいそうになった3名の残念な人のことは置いといて、明日からの計画をイツキは説明し始める。


「僕たち別動隊の表向きな隊名は【ブルーノア教会の魔獣調査隊】です。そして目的は【情報操作で、戦わずしてハキ神国軍にお帰り願おう】です」


 第一声でメンバーの意表を突く作戦を発表したイツキは、何だそれ?と物申した気な視線を無視して、次に各々のメンバーの役割分担、というか役について発表した。


【魔獣調査隊】の隊長はコーズ教官。隊員がソウタ副指揮官とドグさんとガルロさん。

 その調査隊が護っているのが【ブルーノア教会の調査団】で、団長のフィリップさんと調査員のマルコ教官。

 そして僕は【ブルーノア本教会のシーリス(教聖)見習い】で、お忍び中です。そして僕の従者がハモンドです。


 全員の驚く顔と、突き刺すような責めるような視線が滅茶苦茶痛いが、イツキは構わず話を続けていく。



【ブルーノア教会の魔獣調査隊】の使命は、レガートの森とランドル山脈に生息する、魔獣を調査するものである。

 教会の調査団、フィリップさんとマルコさんを守るために雇われたのが、調査隊の4人で、全員が武術に優れた冒険者(傭兵)である。

 自分の役は、魔獣と話ができるという《印》の能力を持って生まれ、本教会でシーリス(教聖)見習いをしているという子どもの役で、今回リーバ(天聖)様の命により調査団に特別に加わっている。そしてハモンドは自分専任の護衛である。


 

 一行はレガートの森の調査を終え、カルート国の都市ルナからランドル山脈沿いに続く街道を、調査しながら進んでいく。ランドル山脈の東の端まで調査を進めて行くと、偶然ハビルの街の手前で起こっている、戦地の町に辿り着く。そして、困っている住民の皆さんのために、少し協力をして貰いながら、知恵を出して敵を追い返すものである。

 そこで行う作戦案は3つあるが、最重要ポイントは、最初から最後まで我々はレガート軍の人間ではなく、【魔獣調査隊】の人間として作戦を遂行しなければならないことである。

 実際に決行する作戦については、現地の様子を確認して決定することとする。





「さて、今回の作戦で大切なのは役に成りきることです。僕は教会育ちなので問題ありません。ハモンドも5日間ミノス正教会で修行をしました。調査隊の4人の皆さんも大きな問題はありませんが、冒険者風の衣装や武器を身に付けてください。心配なのがフィリップさんとマルコ教官ですが・・・教会の信者として、少しはブルーノア教の勉強をしていますか?」


 イツキは2人に視線を向け、心配そうに答えを待つ。


「俺は両親が敬虔な信者だから、何となく大丈夫だと思う」


マルコ教官は少し胸を張るようにしてから、祈りのポーズをとった。うん……何となく大丈夫かもとイツキは安堵する。


「俺は、えっと・・・」


フィリップさんの予想通りの様子に、イツキはにこにこしながら、ある物を鞄から取り出して渡した。


「何となく教会風の衣装を作って貰いました。フィリップさんとマルコ教官は、町や村ではこの衣装を着て貰います。フィリップさんは他者の前では微笑んでくださるだけで大丈夫です。なんだか、きらびやかで素敵な教会の人を演じて貰えれば・・・」


「ブッ!そりゃいいわ。フィリップ、確かにお前は黙ってたら素敵な人だわ」


 ソウタ副指揮官が吹き出しながら冷やかすと、周りの皆も大笑いとなった。当のフィリップさんは仏頂面で、渡された衣装を広げて見ている。

 その衣装は、本教会で神父の勉強をしている学生たちの衣装と同じなのだが、藍青色の布地に銀糸で特別に縁取りをして貰い、ちょっと偉い人の感じを演出してみた。

 早く着てみろよという視線を浴びて、2人は渋々着替え始めた。


「信じられない・・・どう見ても神父にしか見えない・・・」

「馬子にも衣装……て言うか、お前ら誰?」


ガルロさんとドグさんが、真剣な顔でビックリしている。あまりにも似合い過ぎる。まるでずっと神父だったように見えるのだ。

 フィリップさんは元々伯爵家育ちだし、マルコ教官は教育者だから、2人共それなりの品格が表に出ていた。

 イツキはうんうんと頷いて、銀糸で縁取りして正解だったと満足する。

 



「まあ、言いたいことはたくさん有るでしょうが、次に進みます。これからの行程ですが、予定通りに明日8日の昼前にはミノスを出発して、レガートの森の入り口まで行きキャンプします。夏なので大した荷物が要らないので、今回は馬は連れて行きません。そして9日の夜明けに出発し、2日間で森を抜けます。11日にはカルート国のルナに到着予定です」


 イツキは、テーブルの上に広げた地図を指差しながら説明する。その後の行程も記入し説明を終えると、地図をリュックの中に仕舞った。

 そして、注意事項として名前の呼び方と、役の確認などをする。

 

 冒険者の4人は、コーズ教官を隊長と呼ぶこと。他のメンバーは名前を呼び捨てにし合うこと。調査団のフィリップさんとマルコ教官のことは、全員がさん付けで呼ぶこと。自分のことはイツキ君と呼ぶように、そしてハモンドのことは、教会関係者のイツキ・フィリップ・マルコは呼び捨てにするが、冒険者4人はハモンド君と呼ぶこと。


 冒険者の役作りは、レガート式ボーガンや矢、剣を背中に背負って、その他ロープやナイフ、薬、火薬、ランプ、シートなどを手分けして装備すること。

 調査団の2人は、筆記用具一式、教会の身分証明書、これまでに解っている魔獣についての資料(これらは全てミノス正教会のファリス(高位神父)エダリオ様が用意してくださる)と、護身用の剣を装備すること。

 イツキはラール(イツキの相棒の犬)とハモンドと共に食料を持つ。もちろん2人も護身用の剣は持つのだが、調理道具も全員が手分けして持たねばならない。


 大まかな説明をして、後は旅の途中で調整することとした。




「以上ですが、何か質問は有りますか?」


イツキは、温くなってしまったお茶を飲み干して、全員に質問が有ればと問い掛けた。


「はい!リ、リース様見習いなんて・・・叱られませんか?」


マルコ教官が、恐る恐る手を上げて質問してきた。彼は敬虔な信者だった。


「教会からの了承は取ってあります。戦争を終わらせるためですから」


イツキは天使のような微笑みで首を傾げて、教会関係者なのに、あっさり嘘をつく行いを肯定する。そして、そのことを全く気にしていない素振りで、戦争終結の為だからと簡単に言い切った。

 

 この時、イツキをよく知っているメンバー(コーズ教官・マルコ教官・ハモンド・ソウタ副指揮官)は、この笑顔・・・この微笑みが怖いんだよなぁーと、心の中で呟いた。

 そうとは知らない、フィリップ・ガルロ・ドグの【王の目】メンバーの3人は、イツキの天使のような微笑みに魅了されていた・・・。



「では、レガートの森を2日で越える方法を教えてください。フィリップは魔獣が案内するとか、意味不明なことを言っていたのですが、安全の確保はどうするのでしょうか?ここに居る全員はそれなりに強いので、中クラスの魔獣なら相手できますが、大型や最強クラスの魔獣が出たら死にます」


ガルロさんも手を上げて質問してきた。想定内の質問にイツキはにこりと笑って答えた。


「フィリップさんの言う通りですよ。僕は友達のビッグバラディスに護って貰うので、心配ないと伝えてありますから」


そう言いながらイツキは、右肩に消え難い顔料で描いた【緑色の羽の印】が見えるように、服から片腕を抜く。


 実は2日前、エダリオ様と相談して、偽物の《印》を右肩に描いて、印持ちだから魔獣と仲良くできるのだと、本物の《印》のことは隠して、申し訳ないが皆を騙すことに決めたのである。

 そしてリース(聖人)であることは絶対に秘密だから、イツキにとっては格下ではあるが、一般人には雲の上の人物シーリス(教聖)という名前に見習いを付けて、なんとなく恐れ多い感じを演出することにしたのだった。


「えええええぇっ!!!イツキ先生、本物の《印》持ちだったのですか?!」


ほぼ全員がハモるように叫び声を上げた。そして、ハッと我に返り、先程の魔獣調査隊の中での話を思い出す。


「では、本当にシーリス様見習い!!!!?」


今度は全員が小さな声で呟くように言う。そして全員の顔が青ざめていく・・・

 シーリス(教聖)様と言えば、王に匹敵する高位の人である。その特殊能力や才能は他の追随を許さず、国王の要請やリーバ(天聖)様の命令のみで動き、人々を苦難から救う英雄的存在である・・・と、人々は思っている。


「いえいえ、それは役の上での話です。確かに僕は生まれながらの《印》持ちです。だからずっと教会で学び、人の役に立てるようにと教えられてきました。でも、シーリス様の見習いなんて、存在しませんから安心してください」


 イツキは慌てて両手を前に出し、恥ずかしそうに小さく何度も手を振った。

 あ~っ良かったと全員が安堵の息を吐きながら、胸を擦っている。

 そんなに驚かしてしまったのだろうかと、イツキは少し反省するが、これでなんとなく、ビッグバラディスと友達でも大丈夫な感じになってきたと安心する。



 ただこの時、慌てて手を振るイツキの姿を、べつの視点で観ていた者がいた。


『アルダスとギニ副司令官が、イツキ先生と会談してから妙にぎこちない感じになっていたが、もしも本当にシーリス様見習いだったとしたら……すんなりと合点がいく』


 フィリップは、アルダスのイツキ先生に対する態度、信頼度、何より1番信用しているはずの自分を、イツキ先生の別動隊に入れたこと等を総合して考えると、作戦の為の【役】などではなく、真実なのではないかと思えてきたのであった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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