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予言の紅星3 隣国の戦乱  作者: 杵築しゅん
カルート国への出兵 編

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別動隊集合

 誘拐犯を無事に警備隊に引き渡した後、ミノス正教会まで送ると言うミノス部隊の皆さんのご好意を、特別任務中だからと説明し丁寧にお断りしたイツキは、ハモンドと2人で遅めの昼食を摂り、ミノス正教会へ向かっていた。


「イツキ先生、どうしても解らない疑問があるのですが、何故イツキ先生は馬車の中に犯人がいると、早々に判ったのでしょうか?」


 ハモンドはミノス正教会に続く水路を眺めながら、ずっと疑問だったことを訊ねてみた。まるで悪人を見極める神眼でも持っているのだろうかと、この旅の間不思議に思っていたからだ。

 イツキ先生から課題やヒントを与えられて、そういう目で周りを観察すれば、確かに疑問点や怪しいところが見えてきた。でもイツキ先生は、少ない会話の中から犯人を断定していた・・・。


「何故って、ラミルで馬車に乗る少し前、あの4人は同じ店から仲良く出てきたのに、馬車の中では初めて会った他人の振りをしていた。それに……僕が両親は死んでいると言った時、あの女は少しだけ口角を上げて、ほくそ笑んだんだ。そして宿で見た世話焼きおばさんは、常にあの女の1歩後ろを歩いてた。上下関係は一目瞭然だったのに、馬車の中では、ボスの女を使用人と言っていた」


 イツキは他にも、出発から旅の途中で気付いたことを話した。さすがに、自分の持つ特殊能力の1つが、悪人を視ると黒いオーラに包まれて見えるとは言えない・・・故になんとなくハモンドの顔を見ないようにして話す。

 しかし、いくらイツキの能力が悪人を見極められるとしても、どのような悪人なのか何をした犯罪者なのか、はたまた何を考えているのかなんて、黒いオーラだけでは判らない。だから、観察し、調べ、仮説を立てて、その裏付けを取り実証する。それがイツキ流のやり方なのだ。


「イツキ先生の視点って、僕のとは全然違うんですね……」

「何言ってるのかな?だから皆より早く出発して、勉強してるんだけどなぁ」


 自信を無くし掛けているハモンドに、イツキの容赦ない教育的指導が入る。


「それでは、皆さんより早く出発したのは、僕を勉強させる為だったんですか?」


 イツキはそうだと答えて、別動隊に望む能力について話し始めた。そして年齢的にハモンドが絶対に必要なのだと説明する。説明を受けたハモンドは、自分が果たす役割の大きさを知り、イツキ先生に合格点を貰えるよう訓練を頑張ろうと決心した。


 

 

 これから向かうミノス正教会は街の外れにあった。他の都市の正教会は、レンガや石造りで街の中心にあるのだが、ミノス正教会は木造建築の教会の中では最古で、大陸一美しい教会だと評価されている。その為、火災から守る目的で街を離して造ったと言われている。

 ミノスの人々はこの美しい教会を心から愛し、決して火災で焼失などさせないように守ってきた。そして教会の前には大きな泉があるのだが、こんこんと涌き出る水は、どんな干ばつの時でも、まだ一度も枯れたことがないと伝えられている。

 

 そんな伝統を守りながら愛され続ける教会で育ったイツキは、久し振りの風景の中に美しい大聖堂を目で捉えると、嬉しくなって小走りになっていく。

 

「ハモンド、僕、先に行ってるね!」


と、急に走り出したイツキ先生を慌てて追い掛けて行くハモンドは、イツキ先生の子どもっぽい声と嬉しそうな笑顔を見て、微笑ましいと思う反面、極端に大人の時と、普通の先生の時と、子どもらしい時のギャップに戸惑ってしまうのだった。






 1096年6月7日夕刻、別動隊の後発コーズ教官・マルコ教官・ソウタ副指揮官の3人がミノス正教会に到着した。

 イツキを含めた別動隊のメンバーは、【教会の離れ】と呼ばれる宿泊施設に拠点を置くことになっている。【教会の離れ】とは教会関係者や特別な貴族、教会の認めた保護対象者などが宿泊できる施設である。

 今回は極秘任務中なので、他の宿泊者を断って貰っている。


 後発の3人より、1日早く出発したキシ公爵の番犬フィリップは、【王の目】のメンバーであるガルロとドグと落ち合うために、ミノスの街にある【王の目】の秘密拠点で、仲間の2人を待っていた。

 ようやく落ち合えた3人が【教会の離れ】に到着したのは、午後8時を過ぎていた。


「遅くなった。【王の目】のメンバーであり【奇跡の世代】でもあるガルロとドグだ。これで8人全員が揃った・・・あれ?イツキ先生は?」


 フィリップは連れの2人をハモンドに紹介する。その顔は随分と疲れているようだが何かあったのかな?とハモンドは思った。

 他の3人は、フィリップが疲れている原因が判っていたのか、同情的な視線をフィリップに送っている。 

 ハモンドは冷たいお茶をコップに注いで、フィリップと新メンバーの2人の前に置く。


「おいソウタ、本当にアルダス様が、あのアルダス様が12歳の子どもに従えと命令したんだな?しかもレガートの森を2日で抜けるらしいじゃないか。お前が付いていながら何でだ?」


 ソウタ・コーズ・マルコは揃って大きく息を吐き、フィリップの方を責めるように見た。


「フィリップお前、イツキ先生と知識と剣の勝負をして、負けたことを話してないだろう?それにお前ら【王の目】のメンバーが、盲目的アルダス信者であることは分かるが、これは戦争なんだ!そしてアルダスは自分からイツキ先生に頭を下げて頼んだんだ。ここでイツキ先生に失礼な態度をとったら、俺がアルダスに報告するからな!お前ら間違いなくクビだぞ」


「・・・クビ・・・」


 コーズ教官が呆れ顔で冷たく言い放つと、3人は悔しさを滲ませたが、クビという言葉に尻込みしてしまった。

 ガルロとドグは、軍学校時代からずっとカリスマ性のあるアルダスのファンだった。今でも充分に美形なアルダスだが、軍学校時代はもっと可愛かったので、男ばかりの軍学校で人気者だったのは……まあ仕方のないことだったのかもしれない。

 2人は卒業して5年間レガート軍で働いていたが、その後アルダスから自分の下で働かないかと誘われ、命を掛けて働くと誓ったらしい。


「それからイツキ先生は、ミノス正教会に行っている。もう直ぐ帰ってくるはずだが、可愛がっていた番犬が危ないと知らせが来たので、今は少しだけ抜けているだけだ」


 そこから、そう説明したマルコ教官とハモンドの、イツキ先生の人柄や武術の才能、軍学校における天才振りの説明(自慢?)が始まった。それでも納得がいかない2人とフィリップに、ハモンドは誘拐犯グループを捕まえたこと、自分がミノスに来てから訓練してきたことを伝えた。



「目だけを斬る・・・」 


「人を見極める訓練をして、3日で10人の犯罪者を警備隊に引き渡した・・・」


 ハモンドの5日間の出来事を聴いたソウタ副指揮官は、また腕を上げたイツキに対し唸り、ガルロはプロの調査官である自分達より、悪人を見極められるイツキに驚いた。他のメンバーも先発した理由を知り唸るしかなかった。

 

「同期の卒業生はイツキ先生の怖さを知っているので、後輩のために、3つの寮訓の下に[イツキ先生を怒らすな]と卒業の時に書き足したくらいです。ちなみに俺が卒業した時、イツキ先生は9歳でしたけど……」


ハモンドは学生時代を思い出し、遠い目をして呟くように言った。


「いや、その話しには続きがある。去年の卒業生は[イツキ先生の笑顔を守れ]と書き足していたぞ」


コーズ教官は、新しい寮訓の話を付け加えた。勿論その意味は、笑顔が消えたら怖い思いをするから気を付けろという意味だがなと、苦笑いしながら皆に教えた。

 



 なんだかなぁ・・・と、黙り混んでしまったところへイツキが帰ってきた。



「皆さん遅くなってすみません。直ぐに明日からの作戦会議を始めましょう」


そう言いながらイツキは、新メンバーの2人と握手をして自己紹介をした。

 その時ガルロとドグはイツキの瞳を見て、口元は笑顔を演じていても泣いた後だと分かった。とても珍しい黒い瞳は白目の部分が少し赤くなり、まだ涙で滲んだままだったのだ。 

 少し鼻水も出ていることから、どうやら番犬バウが亡くなったようだと全員が察っした。

 ハモンドはコップに冷たいお茶を注いで、イツキ先生の前に置く。どうやって声を掛けようかと悩んだが、ありのままの気持ちを言葉にすることにした。


「イツキ先生、バウは最後にイツキ先生に会えて幸せだったと思います。バウが残してくれたラールや他の軍用犬たちも、きっと命を繋いでくれますよ」


ハモンドの言葉を聞いたイツキは、皆に気を使わせてしまったことに気付き、「もう大丈夫ですから」と言って微笑むと下を向いてしまった。コップを置いたテーブルに、ポタリと涙の滴が落ちる。

 

 ほんの30秒も過ぎただろうか、イツキは両手の指で涙を拭き、大きく息を吸って呼吸を整えると真っ直ぐ前を向く。

 大きな黒蝶真珠のように美しい黒い瞳をしっかり開くと、その瞳にはどんどん力が込められていく。そしてニッコリ笑って鮮やかに気持ちを切り替えてみせた。


 その変化を目の当たりにした7人は、思わず息を呑んだ。

 何故なら、黒い瞳が一瞬金色に輝いたと思ったら、この世の者ではないような美しい顔、まるで女性のように優しく美しい顔で微笑むイツキを見たからである。


 恐らくイツキは、無意識の内に自分の持つもう1つの能力《癒しの能力・金色のオーラ》を発動したようだった。今回は自分を癒すために発動させたのだろう。

 当然、その場にいた全員も癒された訳で、余分に入っていた肩の力は抜け、優しい気持ちになっていく。むしろ、思わず泣きそうになるくらい、イツキが一瞬魅せた微笑みに、何故だか感動してしまったのである。


( 金色のオーラとは、癒しと共に心を洗い流してくれる能力でもあった )


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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