隣国からの親書
いよいよ【予言の紅星】シリーズ3話目のスタートです。
まだまだ下手な文章ですが、完結まで頑張りたいと思います。
応援よろしくお願いいたします。
1096年1月20日、今年も軍学校の入学式がやって来た。
イツキが軍学校に来て3度目の入学式への参列である。今年は教官の数も3人増え、学生の数も90名から105名に増えた。近隣諸国の小競り合いが続いているので、国境警備を強化するための増員となった。
1月11日に12歳の誕生日を迎えたばかりのイツキは、艶のある黒髪を肩まで伸ばし、身長も伸びて155センチになり体力もついてきた。整った顔の中でも1番に目を引くのは、非常に珍しい黒い瞳だが、長い睫毛とパッチリな瞳が男らしいと言うよりは、むしろ女の子のようだと見られるところは、相変わらずだった。
そんな可愛い?イツキは、武道場に設けられた教官席の大人たちの横で、ちょこんと座って新入生を眺めている。
今年も個性的な学生が多そうだなと思いながら、校長の挨拶を聞いていると、幾人かの学生と目が合った。にこりと微笑む者もいれば睨んでくる者もいた。なかなかの面構えでゴッツイ学生が多いようだと、イツキは微笑ましく観察する。
続いて教官の紹介が始まった。
レポル教官41歳は、主任として主に教官の指導や、学生指導を行うため担任から外れることになった。
在任中の教官の中で他に変化があったのはマハト教官だけで、担当教科の体育から外れ、軍用犬訓練士の育成に集中することとなり、武術の剣は初心者のみを担当することになった。
新任の教官は、クルト教官30歳(担当教科・戦術、武術・槍)とマルコ教官28歳(担当教科・情報、武術・剣)とフォルダ教官25歳(担当教科・演習と体育、武術・体術)の3人で、マルコ教官はコーズ教官の軍学校の同期で、イツキの剣の師匠2人とも同期だった。
現バルファー王が偽王から王座を奪還した時に、軍学校に在学していたマルコ教官・コーズ教官など1083年入学の学生たちは、その優秀さから【奇跡の世代】と呼ばれている。
その筆頭がキシ公爵アルダスである。その幼馴染みであり同期の4人は、特出した能力で名を馳せている。
その内2人は、レガート軍副指揮官ソウタと王宮警備隊副指揮官ヨム。もう1人はキシ公爵の優秀な番犬フィリップとして、その名を貴族や役人の間で轟かせている。残りの1人はレガート技術開発部長のシュノーである。
今回軍学校に赴任してきたマルコ教官は、イツキの剣の師匠2人と並ぶ腕を持っており、軍と警備隊の垣根を越えて、情報収集の仕事をしてきた凄腕の持ち主だ。
他にも建設部隊の上官は、殆どがこの【奇跡の世代】の人たちである。
これから先イツキは、この【奇跡の世代】と共に戦地に赴くことになるのだが、それは、入学式より半年後のことになる。
教官紹介の後は職員の紹介で、その中にはハヤマ(通信鳥)育成士のポールと、軍用犬訓練士のカジャクの名もあった。もう一人の軍用犬訓練士見習いのユウガは、昨年の卒業生である。
少年兵のピータは15歳になり、正式に中位兵として採用されるところを、後1年軍学校に残ると決めた。
もう1人の少年兵トムは、昨年中位兵になるところを1年延長し、16歳になった今年の3月から中位兵として採用されることが決定している。
ピータとトムは、中級学校には行けなかったけど、イツキ先生から勉強を習っておけば、上位兵からバカにされることはないから残ったと言っていたが、まあ本当のところイツキの側に居たかったのが本音なのかもしれない。
「最後に、軍学校の研究員であるイツキ先生を紹介します。イツキ先生はハヤマ(通信鳥)と軍用犬の研究者であり、武術の指導もします。また、語学や医学の講義をすることもあり、本年度からは、技術開発部と共同で新しい武器の開発もする予定です」
校長の紹介に、会場内からどよめきが起こる。
「おい、あんなチビに武術の指導ができるのか?」
「あれ、少年兵じゃないのかよ」
「研究者って、教官とは違うの?」
「マジ勘弁だわ。ガキに教えられるとか冗談でしょ・・・」
毎年恒例のイツキ先生って何?という学生たちの声に、これまた恒例のように多くを語らない校長や教官たちである。
ややめんどくさそうに、はたまた気の毒な者を見るような目で学生たちを眺めて、『今に判る』と心の中で全員が呟いた。
入学式の後、学生たちは荷物を持って宿舎に向かった。今年から人数が増えたので2人部屋は無くなり、少年兵は料理長や用務員や馬場の管理人たち、新任の教官数名と一緒に新しいし宿舎に移った。
その代わり、ポールとカジャクが寮の管理人として、今日から一番手前の部屋を使うことになった。
この2人、学生時代は色々あったが今ではすっかり仲良しだ。そして2人は、卒業の時全員で立てた目標の、【目指せ第2の奇跡の世代】を実践するため頑張っている。
カジャクとポールが学生を連れて寮に入ると、正面に大きな文字で寮訓が3つ書いてあった。
1、規則を守り自分のことは自分でする
2、時間を守れぬ者は、レガート軍に必要なし
3、喧嘩や騒ぎは厳しく罰する
よく見ると、その下に紙が貼ってあり
4、イツキ先生を怒らすな(1093年卒業生・1094年卒業生)
5、イツキ先生の笑顔を守れ(1095年卒業生)と書いてあった。
カジャクはその貼り紙を見て、ブホッと吹き出したが、直ぐにゴホンと咳払いをしてごまかした。
ポールの肩も揺れていたが、4のイツキ先生を怒らすなは、同期のベルガが書いたものだ。それ以後の卒業生が書き足していたのを見たのは初めてだったが、どの卒業生も何度かイツキ先生に叱られて、怖い思いをしていたのを、軍学校に残ったカジャクとポールは知っている。
「よーし、今から部屋割りを発表する。名前を呼ばれた4人は組になって部屋に入ること。ベッドの位置は話し合いで決めろ。それから昼食までに部屋を整理しろ。午後は校内を案内するので、昼食後は1時までに武道場に集合すること。それから寮訓の5つを頭に叩き込め!」
カジャクが大きな声で説明し、ポールは部屋割りを読み始めた。
◇ ◇ ◇
1096年3月、イツキは王宮の側にあるレガート技術開発部に向かっていた。
技術開発部は、主に生活向上の為の道具や器具、武具等を作っていたが、近年他国の政情不安や小競り合いが続いていることから、武器の開発に力を入れることになった。
仕事の特性から、建物への出入りは厳重にチェックされる。建物も高い塀で囲まれており、外から中の様子を伺うことはできない。
イツキは門番に軍学校の身分証を見せて塀の中に入っていく。
初めて来た時は、身分証を見せても門番に止められて中に入れず、近くの軍本部に行って、教え子のハモンドを同行してやっと入れたことを思い出して、苦笑いをしながら門の中に入り建物の前まで来た。そこにも警備の兵が立っていたが、去年の軍学校の卒業生だったので「ご苦労様です」と笑顔で挨拶を交わしドアを開けてもらう。
中に入ると、ギギギーと怪しい音が響いていた。真ん中の廊下の左右に各々5つの部屋があり、左側は火薬や薬品など危険物を取り扱うため、ドアが鉄でできている。右側は現在武器の開発に使われていて、その怪しい音は、右側の1番奥の部屋から響いてくる。その部屋の主がシュノー開発部長だった。
「シュノーさん、新しい弓ですが、こんな形にしてみました。これは原寸大ではなく、3分の2の大きさですが威力はまあまあです。試してみてください」
イツキは持ってきた包みの中から、普通の弓とは全く違う形の物を取り出していた。
「これはまた、凄い発想ですね。これなら豪腕の持ち主でなくても大丈夫というところですね。で、名前は何と付けたのですか」
「はい、センスが無いので恥ずかしいのですが、弓を射るのではなく撃つ感じなので、撃弓とかどうかと思うのですが……」
シュノーさんは新型の弓をまじまじと観察しながら、成る程、ここがこうなって、ああ、そうかふむふむ・・・と独り言をぶつぶつ呟きながら、夢中で仕組みを解明していく。こうなったら暫く目の前の物に集中して、回りの音も声も届かなくなってしまう。
今日も美しい金色の髪はボサボサで、昨日もここに泊まったと思われる服はヨレヨレで、細い体躯は一段と細くなった気がする。研究に熱中すると食べることを忘れるから心配だと、僕の剣の師匠たちが言っていたが確かに心配だ・・・でも透明感のある優しい緑の瞳は、輝きを失うことなく新しい弓を見てキラキラしている。
「イツキ先生、名前はイツキスペシャルにしましょう!」
僕はカップに注いでいたハーブティーを、思わず溢しそうになった。
「それは勘弁してください。それより朝食まだでしょう?ピータ特製サンドイッチとお茶を持ってきたので食事にしてください。それから、その名前は却下です」
そう言いながら、バスケットの中からサンドイッチを取り出し、テーブルの上に置く。今日のサンドイッチは玉子と生野菜とハムを挟んだものと、ポテトサラダを挟んだもので栄養のバランスもいい。
「いい匂い!ピータが作ったんだ。そりゃ絶対に旨いね。この前のケーキは絶品だった。疲れた脳が一瞬で癒されたよ」
シュノーさんはケーキを思い出しながら恍惚の表情で、ジュルッと涎を拭く真似をした。
シュノーさん早くお嫁さんを貰えばいいのに……そう思いながら僕の頭に、ミノスに住んでいた時に母親のように世話をしてくれたマキさんの娘、現在は王宮で働いているネリーお姉ちゃんの顔が浮かんだ。
(この2日後、王宮警備隊副指揮官ヨムさんと僕とで2人を会わせた。その結果、マキさんの喜びの涙をみれることになり、キシ公爵アルダス様からも感謝されることとなる)
「だったら、レガート式ボーガンなんてどうかな?」
「う~ん、それならいいですよ」
新型の弓はシュノーさんにより、レガート式ボーガンと名付けられ、2人は早速その性能を試すため外に出た。照準や発射口等の改善点は幾つかあったが、王様からの許可も出て量産体制に入ったのは4月中旬だった。
◇ ◇ ◇
1096年5月29日、隣のカルート国首都ヘサにあるヘサ正教会経由(教会用緊急ハヤマ便)で、カルート国王からレガート国王宛の親書がラミル正教会に届いた。
その親書は、直ちにラミル正教会のサイリス(教導神父)ジューダ様から、バルファー国王の元へと届けられた。
この頃はまだ、国同士の連絡にハヤマ便が使われるほど、通信鳥としてハヤマの育成は進んでおらず(育成には適合能力が必要)、ミノス正教会のファリス(高位神父)エダリオ様が育てた20羽が、ブルーノア教会専用で通信鳥として活躍していた。
レガート国は、幸運にもハヤマの育成能力をエダリオ様に見出だされた、レガート軍ギニ副司令官という存在があったため、ハヤマを使った通信が可能になっていた。
レガート国王バルファーは、カルート国王からの親書を難しい顔をしながら読むと、直ぐにキシ公爵アルダスをキシ領から呼び寄せるように、秘書官エントンに命じた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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イツキの外見を追加で記載しました。