待ち受ける者
クリスはカレンの言葉をひとまず信じ、広間の中央へと歩いていく。
「はい、これでいいの?」
中央に辿り着いたクリスは俺たちのほうに振り向いたが、クリスと視線を合わせることはできなかった。
なぜなら――。
「おっ、きたきた」
「さっきからスケルトンとばかり戦っていましたから、だいたい予想通りですね」
俺とカレンは天井を見ていたからだ。
「みんなして何を見て――」
クリスも俺たち視線を追い、自分の頭上を見上げた。
「…………」
その後、硬直した。
そこにいたのは、大きな鎌を持ちボロボロの布を被った死神系のモンスターだった。「Lv7 死霊・デスサイズ」と相手の頭上に表示されていた。
「こりゃ、強そうだな!」
「まぁ、負けたら街に戻るんでしょうし、精一杯やりましょうか」
「デスペナってないのか?」
「さぁ、死んだら分かりますよ?」
なんて会話をしていたが、クリスが中々戻ってこないことに気づく。
「お~い、そんなところにいたら首持ってかれるぞ~」
クリスはボーっとしたままで俺の声に反応しない。
「あれ、気絶してませんか?」
「はい?」
カレンがとんでもないことを口にした。
ここで気絶? 今から中ボス的な奴との戦闘だぞ? 足手まといを抱えながらの戦闘なんかできるわけがないだろ!
こうなったら仕方あるまい! あの方法でいくか……。
俺はここでとっておきをクリスにぶちかますことを決めた。
「クリス! お前がカーバンクルに行った醜態をカレンに見せるけどいいか?」
「いいわけあるかーーーー!!」
効果抜群だった。
「見せるって何! 何かで記録したってこと!? ふざけんなーーー!!」
すぐさま俺に詰め寄り詰問してくるが、そろそろデスサイズが地上に降り立とうとしていた。
「クリスの醜態って何ですか?」
カレンも気になるようで、俺に質問してきた。
「お前ら、今はそれどころじゃ――」
俺が視線をデスサイズに移すと、地上に降り立ってすぐに、俺たちのほうに音も無く飛来してきていた。
「来てるから! デスサイズさんが来てるから!!」
俺はダガーを腰から抜き放ち、二人を左右に押しのけた。
ガキィィン!!
俺の近くまで来たデスサイズは、すぐさま鎌を水平に動かし俺の体を刈り取ろうとしてきたが、ダガーを体の横に固定して鎌を防いだ。
「まじか……嘘だろ?」
しかし、俺はとある事実に驚く。
攻撃は当たっていないはずなのに、俺のHPバーが少しだけ削れていたのだ。おそらく、防御時に加わる筋肉への負荷が大きすぎるために、ダメージと認識されているのだろう。
「そりゃそうだよな。こんな小せぇダガーの一本で鎌を受け止めてるんだもんな……!!」
俺は歯を食いしばり、なんとか鎌との鍔迫り合いを続ける。
「俺がこいつを抑える!! 攻撃しろ!!」
広間の左右にいるはずの二人に俺の意図を伝える。
「仕方ないか! ジーク、さっきのことは後でしっかり説明してもらうから覚えときなさいよ!!」
「私も聞きたいので、後で教えて下さい」
全部後で聞くから、早くこいつをなんとかして!!
二人はさっそく魔法と召喚獣による攻撃を開始した。
「さっさと終わらせてやるんだから、フェニックス召喚!」
「死神さんは光嫌いですよね? ホーリー!」
フェニックスと光の球がデスサイズへと迫り見事に的中した。しかし、フェニックスのダメージ量がホーリーを上回ったらしく、デスサイズは攻撃を中断し、クリスへと迫る。
「うっそーーー!! こっち来んなーーー!」
クリスは必死に走り回り、デスサイズから距離を取ろうと頑張っている。
その隙に、俺はカレンに近づく。
「よし、仕切り直しだ。このパーティー編成だとタンクは俺がやるしかないから、俺がダメージを与えて奴のヘイトを稼ぐ。カレンはヘイトが俺を超えないように立ちまわってくれ」
「はい、分かりました。それと、クリスが半泣きで走り回ってるので、早く行って下さい」
のんびり作戦会議をしてる暇はないようだ。
俺は急いでクリスを追っているデスサイズに迫る。
「でかしたぞクリス! 少しだがカレンと作戦会議ができた! 後は俺に任せろ!」
「何やってんのよ! 私が襲われてるのにのんびり作戦会議とか、バカなの!」
散々な言われようだが、作戦会議は大事なのだから仕方ない。
デスサイズの移動速度はモンスターにしては早いほうだが、AGIに多くステータスを振っている俺ほどじゃない。
ところで、クリスの移動速度が早いのはなぜだ? やっぱり獣人だからかな?
とかなんとか考えていると、いつの間にかデスサイズの背後に迫っていた。
俺はデスサイズの背後から『バックスタブ』を決める。
ダガーがデスサイズの骨と思しき物に当たる感触を感じた。
やっぱり体はスケルトン同様に骨か……頭とか狙いたくないんだけど……。
攻撃を食らったデスサイズは、すぐにクリスの追跡を中断し、背後の俺へと向き直る。
「そんな目で睨むなよ……怖いって」
このゲームにどんなパラメータが存在するのかは定かじゃないが、『怒りパラメータ』なる物があるならば、間違いなくこいつのゲージはMAXだろう。
だって、目が赤くなってるんだもん……。
デスサイズの視線にたじろいでいると、すぐに俺とデスサイズの一騎打ちが始まった。
鎌を先ほどよりもスピードを上げて振り回してくる。
「速っ!!」
俺は体を屈めて迫り来る鎌をスレスレで躱した。もし、あのスピードの鎌をダガーで受けようものなら、俺の体は鎌の威力に弾き飛ばされていたに違いない。
「ジーク、援護いくよ! ホーリー!」
デスサイズの背後からカレンのホーリーが放たれ、命中する。
その一撃に気を取られたデスサイズの隙を見逃さない。体を屈めていた体勢から一気に駆け出し、デスサイズの懐に飛び込んで切り返し攻撃技『ダブルスラスト』をかました。
「ぐぁぁぁーー!!」
デスサイズがたまらず苦悶の声を上げた。
「おっ、いい感じだな。奴のHPバーも半分を切ったし、もう少しだぞ!」
俺たちは一気に畳み掛ける。
さっきの俺の攻撃でデスサイズのヘイトは俺に集中しているはずだ。
「クリス! 遠慮なくフェニックスをぶつけてやれ!!」
デスサイズに追い回されることを危惧していたのか、クリスはカレンがホーリーを放つ中、特にやることがなさそうだったが、俺の声に気合が入ったようだ。
「了解! さっきはよくも追い回してくれたわね……ボコボコにしてやるわ!!」
私情たっぷりの召喚にフェニックスは仕方なく応え、デスサイズを目がけて突撃し、HPバーを2割程のところまで削った。
「ジーク、止めよ!!」
「おうよ!!」
もはや鎌を持つこともできないのか、デスサイズは鎌を取り落とし為す術もない。俺は背後からの『バックスタブ』でデスサイズに止めを刺した。
「ウガァァァァァァーーー!!」
響き渡る絶叫。
三人でデスサイズの頭上に表示されている赤いHPバーを見ていると、徐々にバーが減少し、最後はデスサイズの消滅と共に消し飛んだのをしっかりと確認した。
「終わった~~~~~」
クリスがその場にへたり込む。
「ですね~~~」
カレンも同様だ。
「お宝は!!」
俺は早速、デスサイズを倒して出ると思われる宝箱を探す。
すると、先ほどの広間の中央付近に光が集まりだした。
「今度は何っ!?」
クリスは突然の光に驚いたのか、再度戦闘体勢をとる。しかし、それはモンスターの出現ではないようだ。
集まった光は何かへと形を変え、最後に強烈な光を残して消え去った。
そこに残ったのは銀色の宝箱だった。
そして、それを目にした俺たちは目の色を変え、一斉に宝箱に群がった。
「これってレアアイテムの宝箱だよな? 銀色だし……」
「多分……でも、どうしましょうか? 宝箱は一つだけですよ」
「そんなの考えても仕方ないよ。早く開けよう! というか、私が開けます!」
「お、おい!」
クリスはもう宝箱に手をかけており、その手を上に引き上げてしまった。
「あぁ……俺の初宝箱が……んっ?」
俺がショックのあまり地面に手をつくと、何かのウィンドウが表示された。
『以下の三つから一つを選んで下さい。武器、防具、アイテム』
「何か出てきたよ?」
「私のほうにも出てきました」
どうやら、全員にこのウィンドウは出ているらしい。