レアアイテムを求めて
「ねぇ……本当にバレてないよね?」
「大丈夫ですよ、しっかり全員にハイドをかけましたから、ほら、自分のHPバーのところに黒い影みたいなマークがあるでしょう?」
「ほんとだ、気付かなかった……」
俺たちはカレンにハイドをかけてもらい、さっそくプレイヤーたちの戦闘を掻い潜りながら移動していた。ただ、ハイドをかけると味方からも見えなくなるため、どこに本人がいるのかが分からない。
「おしゃべりもほどほどにしろよ? もし、他のプレイヤーにバレたら、この魔法のことも知られて、なおかつ、集中砲火で即ゲームオーバーだ」
二人も気を引き締めたのか、おしゃべりが途絶えた。
バハムートへの侵入が成功すれば、ダンジョン内のレアアイテムを総取りできる。おそらく、装備なんかは特殊な能力を有したものが多数あるはずだ。
一気に俺たちは、BOのトッププレイヤーの仲間入りをすることになる。
そろそろバハムートの入口だ。
「もう少しだぞ」
「わくわくしてきたよ!」
その時だ。カレンから変な声が聞こえてきた。
「ハッ、ハッ……」
えっ、これって……まさか!
「くしゅん!!」
周囲のプレイヤーが一時停止した。しかし、俺たちは止まらない。
「走れ!」
俺は小さく号令をかけた。
このままここにいれば、不審に思ったプレイヤーが近づいてくるかもしれない。
なんとか俺たちはバハムートの入口へと滑り込んだ。
「カレン、なんであそこでくしゃみなんだ?」
どうにかして、バハムートに安全に侵入することができ、暗い通路を歩きながら質問してみた。
「私に訊かないで下さいよ……原因はクリスです」
ハイドはもう切れているため、カレンはクリスの方を見た。
「えっ、私?」
まったく覚えがない、といった感じだ。しかし、カレンがこう言うのだから、何か理由があるのだろう。
「あなた自身ではないですが……あなたのそのデカイ尻尾が原因です。私が歩いていたら、鼻のあたりにフサフサした何かが当たってムズムズしてしまって、くしゃみをする羽目になりました……」
俺はクリスの狐のような尻尾に目を向ける。
たしかに……これが鼻をくすぐってくれば、くしゃみくらい出るよな……。
「なら仕方ないな」
俺はカレンのくしゃみは必然だったものとして考えた。
「別に、私だってやりたくてやったわけじゃないよ?」
「分かってるよ。そんなことより……」
「そんなことより?」
二人の注目が集まる中、俺は高らかに宣言した。
「レアアイテム探しを開始する!」
二人は目を点にしたが、やがて――。
「「おおぉーーー!」」
元気に腕を突き上げたのだった。
しかし、そう上手くレアアイテムを見つけることはできなかった。
なぜなら――。
「おい、カレン! 背後から一体来てるぞ!」
俺は目の前の敵『Lv5 スケルトン』をダガーで思い切り殴りつけ、カレンの元へ向かう。
「こっちは任せて! 召喚、フェニックス!」
カレンの背後に現れたスケルトンにフェニックスが体当たりをかまし、HPバーを一気に赤までもっていく。
「うわっ、削りきれなかった! カレン、後はよろしく~」
クリスはスケルトンとは反対方向に逃げ、カレンの背後に移動する。
「はいはい。ファイア」
抑揚のない声で初歩の炎魔法を放ち、残り数ドットのスケルトンに的中。HPバーをしっかり削りきった。
「ほら、ジークはあっちを片づけてきて~」
クリスにシッシと追いやられ、俺はさっき殴ったスケルトンに向かう。
う~ん……やっぱり骸骨を殴るのって結構くるよね……精神的に。
とはいえ、怖がってばかりもいられない。さっきの殴打が上手く決まったのか、スケルトンの体力は半分程度になっていた。
「もうちょっとだしな……」
俺はあと少しだと自分に言い聞かせながら、スケルトンに肉薄する。足を柔らかく屈伸させながら移動しているため、体の動きがスムーズになっている。
やっぱりLv5になっただけあるな。AGIの上昇の効果でより速く動ける。
体の動きが効率良くなってきている。それが功を奏したのか、スケルトンのゴツゴツした骨の拳を難なく避け、背後からダガーを突き刺す。
アサシンの定番スキル『バックスタブ』だ。背後からモンスターにダメージを与えるとボーナスダメージが上乗せされるという効果で、アサシンにとって重要な火力スキルの一つである。
俺のバックスタブが綺麗に炸裂する、スケルトンの半分程だった体力は急激に減り、一気にHPバーを削りきった。
「ねぇ、今の攻撃ってスケルトンのどこに当てたの? あいつら骨だらけでスカスカじゃん」
周囲にモンスターがいなくなったことを確認したクリスが、俺に質問を投げかける。
「俺もそれは思ったよ。でも、どこに当てたら有効かは見たら分かる。人型のスケルトンは人間の骨格にそっくりだから、とりあえず背骨が一番有効かなと思って、そこを突いただけだ」
しかし、カレンがさらに質問してくる。
「人間の弱点と言ったら頭蓋じゃないんですか? 頭を割られれば、視界も効かないと思うんですが」
そうだよ……そんなことは俺だって考えたよ。
「カレンは正しい。だが……頭を失っても動いたらどうする! 怖いだろうが! 俺はそんな奴と戦いたくないぞ!」
二人の冷めた視線が俺を貫く。
「カッコ悪……」
「ですね……」
なんとでも言え! ただでさえリアルなゲームなのに、頭のないスケルトンとなんて戦えるかよ!
「ほら、先に進むぞ! お宝はまだ見つけてないからな!」
俺たちはどんどん先に進んでいく。
俺の視界の右上を見ると、ダンジョンマップが表示されている。まだ全貌は明らかになっていないが、それなりにマッピングが完了している。しかし、まだ宝箱などは発見できていない。
「ねぇ、最初から宝箱なんて用意されてないんじゃないの?」
ついにシビレを切らしたのか、クリスが不満を口にする。
「いや、ある! 俺たちが見つけられていないだけだ!」
「私もそう思います。実際、ダンジョンのマッピングがこんなに早く終るはずがないです。塔の規模から察するに、まだ半分も踏破していないでしょう」
「でもマップを見ると、もう道が繋がってる場所なんてあまりないよ?」
マップは最初は全部が真っ暗の状態であり、ダンジョンを進むと徐々に道が記載されていく仕組みだ。そのため、先に道があれば途中でマップが途切れ、不自然なところが出てくる。
俺たちはそこに向かって歩いては行き止まりになるのを繰り返していた。
「多分、何か仕掛けがあるんだと思う」
この不自然な行き止まりは、俺に疑問を抱かせた。
「仕掛けって……例えば何さ?」
全ての道が繋がっているという保証はどこにもない。では、他にどんな移動手段があるんだ?
俺はゆっくりと考えるためにダンジョンの壁に寄りかかった。
その時――――。
「うぉ!? なんだ、壁が動いたぞ!?」
突如、寄りかかった壁が俺の体重を受け、後ろに傾き始めた。
やがて、壁は完全に後ろに倒れ、その奥には道が続いていた。
「道? でも、マップにはこんな道ないよ?」
「隠し通路……でしょうか。ダンジョンではあるあるですね」
「よし、なんかよく分かんないけど、道があるなら進むしかない!」
状況は手詰まりだったので、この道を進むしかない。そして、いよいよかもしれない。
隠し通路とくれば、その先にはレアアイテムがあると相場が決まっている。
俺の期待は膨らむばかりだ。
隠し通路を進んでいくと、やがて広い空間に出た。
「なんだ~、結局はずれかー」
クリスは無駄足だったとボヤいていたが、俺とカレンだけは違った。
「おっと、これも定番だな」
「ですね。とはいえ、私達でいけますかね?」
「分からん。だが、ここで退いたらゲーマーの名が廃る! やるしかねぇ!」
クリスはちんぷんかんぷんのようで、俺たちが何で盛り上がっているのか理解できていないようだ。
「ねぇ、何でそんなに気合入ってるの?」
俺とカレンは目配せをして、クリスにとあることを提案した。
「う~ん、説明するのも面倒だし、実践してみるか」
「それが良いですね。クリス、広間の真ん中あたりまで歩いてみて下さい。それで大体……というか、全部が分かりますから」