魔法使いの少女
フェニックスの攻撃力に驚きはしたものの、どうやらMPの消費が激しいらしく、モンスターの乱獲はできそうもなかった。
「せっかく強い召喚獣を呼び出せるようになったのに、MPの消費が激しいとか……私に対する嫌がらせかな?」
仮にフェニックスによるモンスターの乱獲が可能だとしたら、プレイヤーのほとんどが召喚師になるだろう。
俺はフェニックスの大群が空を舞う光景など見たくない……。
「そんなことできたら、ゲームバランスがグチャグチャになるだろうが……」
「いいんだよ! 私が強くなれればそれで!」
なんて自己中娘だ……。いつか最高率のゲームプレイを極めてしまうんじゃないだろうか。
「まぁいいだろ? バハムートに着けば、嫌でもレベル上げをしなきゃならないし」
「それもそうか~。バハムートのモンスターって手ごわいかな?」
「ん~……どうだろう。バハムートはこのゲームのメインコンテンツだから、めちゃくちゃ強いってことはないかもしれない」
ゲームの設計をする際に難易度はもっとも重要だ。継続してゲームをプレイしてもらうためには、適度な難易度である必要がある。難し過ぎれば、クソゲーと言いながらプレイヤーたちはいなくなるだろうし。逆に簡単だと、ゲームのやりがいが失われてしまうのだ。
「ボスもそうだけど、あのバハムートの大きさだと中は迷路みたいになってそう」
「定番のボス部屋を探すタイプだろうな。だが……それがいい!」
ダンジョンはボス部屋にたどり着くことが全てじゃない。ダンジョンの中には希少なアイテムや装備、特定条件下で発生するイベントなど、盛りだくさんの内容が詰まっている。
しかも、ユニークアイテムだけは一度取得すれば、二度と入手できなくなってしまう。つまり、ボスを最初に倒すか、希少な装備を手に入れるか、冒険者はこれらの選択をすることにより、ゲームの進行速度が大きく変わる。
「ジークってダンジョン探索が好きなの?」
「俺は隠し部屋とか、アイテムを探すのが好きなんだよ。ゲームを一周してからの最強装備探しとか最後までやっちゃうレベル」
アサシンが好きなだけあって、似たような職種のシーフとか盗賊も好きだ。
「考えたら、早くダンジョン探索に行きたくなってきた! ほら、早く行くぞ!」
「はいはい。なんとなくジークの性格が分かってきたよ……」
俺たちは再び、バハムートを目指して歩き始めた。
しばらく平らな道を歩き続け、やっとバハムートの入口にたどり着いた……んだけど。
俺たちは目の前の光景を見てビビッていた。
「何あれ……?」
「多分、プレイヤーだと思うけど……なんだよあの人数」
バハムートの入口と思われる場所の付近で、プレイヤーたちが入り乱れて戦闘を行っていた。
その異様な光景から、俺は一つの事に思い当たった。
「そうか、あいつらもバハムートを攻略しにきて、多数のプレイヤーと鉢合わせしたんだ」
「えっ? 鉢合わせしたからってだけで戦ってるの?」
「いや、正確にはバハムートの攻略の邪魔だからだろう」
おそらく、ボスを倒すのは俺だ、とかを考えているんだろう。アイテムの入手も絡んでいるに違いない。
「あぁ……他のプレイヤーにアイテムとかを取られたくないんだ」
「だろうな。しっかし、どうするよ? バハムートの入口があんなことになってたら、いつまで経っても入れないぞ……」
あいつらも本気だ。相手をバハムートに入れてたまるか、という顔で戦闘を続けている。剣やら斧やら、草場から魔法まで撃っている。
「どうしようか……?」
うぅ~ん、と二人で唸っていると、
「あの~少しいいですか?」
背後から小さな声をかけられた。
振り返ると、そこにいたのはクリスと同じくらいの背丈の女の子だった。身なりはいかにもマジシャンで、頭にトンガリ帽子を被っている。
「はい、どうかしました?」
ここは女の子同士ということで、クリスに対応を任せることに。
「あなた方もバハムートに?」
「はい、そうなんですけど……とても入れそうになくて……」
すると、耳を疑う言葉を少女は発した。
「実は入る方法があるんです」
ん? えっ!? マジで!!
「教えてください、お願いします!」
気付けば、俺は頭を下げていた。だって、他の奴を出し抜いてバハムートに入れるなんて……最高じゃないか!!
「え……えぇ、それは構いません。ですが、条件があります」
いきなり頭を下げた俺に驚いたようだが、しっかりと自分の考えを主張してきた。
こいつ……結構したたかな奴かも……クリスとは真逆だ。
「なんか今、不思議とイラッとしたんだけど?」
「気のせいだろ?」
クリスさんの勘違いだよ……。
「話を進めても?」
「あぁ、ごめんなさい! どうぞどうぞ」
「条件は簡単です。私をあなたたちのパーティーに入れてくれませんか?」
ふむ……。
「いいよ。早くバハムートに入ろうぜ!!」
「ちょ、ちょっと!」
俺が即答すると、クリスが口を挟んできた。
「な、なんだよ……」
「ちょっと、こっち」
俺たちは魔法使いから離れて、会議を始めた。
「いいの? まったく知らない人だよ?」
「いいよ。俺はクリスのこともあまり知らないから、彼女をパーティにいれても大して変わらない。クリスだって俺のことなんてあんまり知らないだろ?」
そう言うと、クリスは少し考え始めた。
「……た、たしかにそうかも……」
「だろ? なら、知らなくてもパーティーに入ってもらって、さっさとバハムートに入ったほうがいい。後のことはそのときに考えればいい」
彼女の性格やプレイスタイルは知らないけど、わざわざ顔も知らない俺たちに、パーティ―に入れて欲しいと頼んでくるくらいだ。その心意気は中々のものだと思う。
さすがの俺も、知らない奴ばかりのパーティーに入るのは気が退けてしまう。
「はぁ~、なんか軽い感じだね」
「ゲームはそれくらい軽い気持ちでやったほうがいい。出会って別れてが当たり前の世界なんだから」
会議は早々に終了し、彼女の元へ。
「話し合いは終わりました?」
特に嫌な視線を送られることもなく、普通に接してくれた。
「あぁ、俺たちは君を歓迎するよ。えぇ~と、名前は……カレンか」
「はい、カレンです。これからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
俺たちはカレンと握手を交わし、すぐにバハムートに入る方法について話し合うことにした。
「で、バハムートに入る方法って?」
クリスがカレンに疑いの眼で尋ねる。
クリス……もう握手したんだから、その目はやめようよ。
「それはですね。この杖、ハイドスタッフを使います」
そう言うと、カレンは腰から一本の杖を見せてきた。
「これは……メイジが使う杖だよな? これをどうするんだ?」
「この杖は、森の中の宝箱で見つけた物なんですけど、これを見て下さい」
森の中に宝箱があるのか……後で探しに行こう。
俺たちは、カレンが差し出す杖のステータスウィンドウを見る。そこには普通の武器ステータスの他に、記載されていることがあった。
「「固有スキル『ハイド』?」」
驚きのあまり、クリスとハモってしまった。しかし、これは大きな収穫だ。職業スキルの他に、武器ごとの固有スキルがあることが判明したのだ。
「はい。これを使うと……」
カレンは実際にハイドを使ってみてくれた。
「おぉ! カレンの姿が見えなくなった!」
徐々にカレンの姿が希薄になっていき、やがて完全に消えてしまった。
「つまり、これを使ってバハムートに正面から乗り込むのね」
「はい、そうです。この魔法の効果時間はそれほど長くありませんが、バハムートに入り込むくらいでしたら可能なはずです」
いよいよ、俺たちはバハムートの攻略に取り掛かることができるようだ。