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カーバンクル様、お許しを……

 街を出て森に入ってからすぐに遭遇したジャイアントラピッドを屠った俺たちは、とりあえずバハムートという巨大な塔を目指して進んでいた……のだが。


 500G全てを武器に注ぎ込んでしまったクリスはまだ落ち込んでいた。


「そんなに落ち込むなよ、500Gくらいすぐに貯まるさ」

「……本当?」

「あぁ、最初に渡された金なんだから、ゲームを進めていけば十分稼げる額だ。そうすれば、もっと良い武器だって買えるよ」


 俺のセリフが効いたのか、クリスはなんとか気持ちを切り替え顔を上げた。


「それよりも、クリスは召喚士なんだから何か召喚してみたらどうだ?」


 ジョブチェンジしたばかりとはいえ、初歩的な召喚であれば行うことができるはずだ。


「そ、そうですね。やってみます。えぇ~と……ステータスウィンドウにはスキルのタブが……あったあった。……カーバンクルっていうのが呼び出せるみたいです」


 カーバンクルは猫くらいのサイズの召喚獣である。特に攻撃が強いということもないが、回復魔法などのサポートを行ってくれることがある。


「よし、召喚してみよう。多分、呪文とかはないだろうから。『召喚カーバンクル』って唱えるだけでいけそうだな」


 クリスは初の召喚ということで緊張しているようだった。


「心配しなくても、出てくるのは小動物系の可愛い奴だぞ?」


「だ、だけど……緊張しちゃって、召喚カーバンクルと唱えるだけで――」


 いや、唱えてるし。地面に魔法陣とか浮き上がってるし。


 クリスの意図せぬ召喚コールにカーバンクルは見事に応えた。魔法陣から徐々にカーバンクルが顔を出す。


 やがて、ポンっという可愛らしいエフェクト音とともにカーバンクルが姿を現した。


「お、中々可愛いじゃん。どれどれ――」


 カーバンクルの可愛さに手を伸ばしたのだが、横から払いのけられた。クリスに……。


「か、可愛い!! もふもふ! スリスリ~~」


 クリスは召喚されたカーバンクルを強く抱きしめていた。さっきまでの怯えていたお前はどこにいった……。それと、なんかカーバンクルが苦しんでないか? あ、暴れだした。


「おいクリス、そろそろ離したほうが……」

「えっ?」


  暴れたカーバンクルはクリスの腕からやっと抜け出し、クリスに飛び蹴りをかました。

 

「痛っ! なんでぇぇ~」


 そりゃ、あんなに強くだきしめたら嫌がるだろう……。にしても、あのカーバンクル、本物の動物にしか見えないな。なんかクリスへの怒りも露わにしていたし、感情がある召喚獣……なのか?


 そして、クリスを離れたカーバンクルはなぜか俺の元にやってきた。


「ありゃりゃ、これはカーバンクルに嫌われちゃったのかな、クリスさん?」

「なんで、ジークのほうに……この裏切り者ー!」


 裏切り者とは、俺ではなくカーバンクルのことのようで、クリスはカーバンクルを睨みつけていた。それ、逆恨みって言うんじゃない?


 俺もカーバンクルには触ってみたかったので、足元のカーバンクルを抱き上げてみた。


「おお! もふもふじゃないか! 家で飼いたいくらいだ」


 正直なところ、そこまで動物が好きというタイプじゃないが、これなら飼いたいと思ってしまうな。


「うぅ~この~!、戻れカーバンクル!」


 クリスは半ばやけくそ気味にカーバンクルを戻したようだが、武器のこともあるのでさらに落ち込んでしまった。


「次に呼び出すときは、ちゃんと謝ろうぜ。カーバンクルにはAIを超えた感情みたいなのがあるみたいだし……土下座でもすれば許してくれるよ」

「土下座!?」

「そう、土下座」


 やはり、最大の誠意を持って謝らなければ伝わるものも伝わるまい。それは動物相手でも同じだと思うんだよ、俺は。


「まさか……ゲームをやるために土下座することになるなんて……」


 初プレイから思いもよらぬハプニングに、クリスは戦意喪失間近だった。





 再び歩き続けると、次は緑色の皮膚に覆われたモンスターと遭遇した。

 もはや鉄板のモンスター、ゴブリンだ。


 左手には小ぶりの棍棒を持ち、あてもなく彷徨っている様子。


「さてクリス、戦闘準備だ。カーバンクルを呼べ」

「え~まだ不機嫌だよ、きっと」

「そんなこと言って、いつまでもカーバンクルのご機嫌を伺っていたら、お前がカーバンクルに飼われてるみたいだぞ?」

「それは嫌!」


 俺の『カーバンクルに飼われる』という発言が効いたようで、決心することができたようだ。クリスは再度カーバンクルを召喚する。


「召喚カーバンクル……」


 おい、なんだそのやる気のない召喚は……。


 クリスのやる気のない召喚にもカーバンクルはきっちり応えてくれた。魔法陣からカーバンクルが姿を現す。


 カーバンクルは眉間にシワを寄せており、感情溢れる表情をしていた。これはこれで可愛い。


「さぁ、クリス。早くもこの時がきたようだ」

 俺は魔王もかくやというほど大仰に両手を広げてみせた。

 

「この時って……あれから大して時間は経ってないんだけど……」


 会話だけ見ると中々様になっているかもしれないが、土下座をするかしないかという、ただ一点に限った会話であることを忘れてはならない。


 クリスはゆっくりと膝を折り、正座をした。そして、そのまま苦渋の表情を浮かべながら、頭を下げていき、やがて――――


「カーバンクル様………………すみませんでしたーー!!」


 という謝罪と共に盛大な土下座を決めたのだった。


 俺はそのクリスの姿を見て深い感動を覚えた。そのため、クリスの勇姿をスクショに収めました。俺がこれをいつか使うその日まで……。


 土下座を決めたクリスに対し、一方のカーバンクルはというと、クリスの肩に前足を置き、『そこまで言うなら分かった、許してやるよ』とでも言いたげな上から目線の表情だった。


 こいつ……ドSだわ。


「え? 許してくれるの?」


 クリスの角度からだと、カーバンクルの尻尾くらいしか見えず、肝心の奴の表情を視界に捉えられなかったようで勘違いしていた。まぁ、勘違いってほどでもないけど……タダでゆるしてくれそうもない感じだ。


「よ、良かったなクリス」


 土下座の話を長々とする訳にもいかないので、そろそろゴブリンに向き直ることに。

 

 ここからゴブリンまでの距離は大したことはない。草の茂みから強襲をかければ、相手がこちらの攻撃に気づく前に仕留められるだろう。


「クリスはまた留守番だな。何かあったら、カーバンクルでサポートを頼む」

「う、うん。……カーバンクル、お願いね」


 カーバンクルはクリスのことを一先ずは認めたようで、言うことを聞いてくれるようだ。


 それを確認した俺は、ゴブリンに近い茂みから奇襲をかけることに決めた。


 茂みからなるべく音をたてないように出て、ゴブリンの背後へと駆け寄る。


 あと数歩……三歩、ニ歩、一歩――――。


「――――ッ!?」


 最後の一歩のところで、俺の目の前を矢が飛んでいった。


 気づかれたっ!


 近くの茂みに移動しながら、矢の飛んできた方向を確認する。そこには木があり、矢筒を腰に下げたゴブリンが枝の上にいた。


 さすがに、木の上までは確認しなかったな。それに、さっきの矢で標的のゴブリンに気づかれてしまった。


 この状況だと、迂闊に茂みから出られない。一匹は棍棒、もう一匹は矢。俺の手元には心もとないダガーが一本。棍棒を持つゴブリンを瞬殺することはできないだろう。


 なら、方法は一つだ!


 俺は木を駆け上った。当然だが、普通のプレイヤーにこんな芸当は無理だ。


 これはアサシンの固有スキルで、ゲーム内の特定のオブジェクト上で行動する際、敏捷ステータスが上がるというものだ。スキル名は『オブジェクトラン』。


 ぐんぐんと木を駆け上がり、矢筒を下げたゴブリンに肉薄する。相手もそのままやられる訳にはいかないようで、俺を目がけて矢を放つ。


 しかし、矢を放ったときには、もう俺はそこにはいない。


 完璧にゴブリンの背後を取ることに成功した。俺がどこにいったのかをまだ探しているようで、ゴブリンはあたふたしていた。


「ここだよ」


 ゴブリンの背中にズブリとダガーを差し込み、さらに捻る。ゴブリンの体力は一気に減り、HPバーがレッドゾーンに突入した。


 だが、まだ削りきれない。ダガーを引き抜き、次は頭部に向けて振り下ろす。一度に大ダメージを負ったゴブリンは対応しきれず、俺の攻撃をまともに食らった。HPバーが減り、やがてゼロになった。


 ふぅ~。なんとかなった。


 俺が木の上で落ち着いていると、下でゴブリンに追いかけ回されているクリスが視界に映った。


「きゃあああ!! ジーク! 早く助けてよー! 」


 カーバンクルもどうしようもなさそうに、追いかけ回されているクリスを見ていた。




 いや、助けようよ、召喚獣さん……。




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連載中:『神竜の契約者』はこちらからどうぞ
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