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ご利用は計画的に

 なんだ、この展開。どうするべきだ? 愛想笑いしながら手をやんわりと離し、走って逃げ出すべきか? いや、もしこれが男ならこうすべきだろうが……女の子だし。

 

 彼女の頭の上にはクリスという表示が出ていた。


 とりあえず、理由くらいは訊くべきだろう。


「あの……どうしました?」

「え、えと……プレイヤーの方ですよね?」


 手は俺の袖から離さずに質問してきた。いや、離してもいいんだよ? 別に逃げないから……。


「はい、一応プレイヤーですが……」


 ジークって書いてあるんだけどな……


「私、VRMMOやるのが初めてで、何をすればいいのか分からないんです。もしよければ教えてもらえませんか?」


 なんだと……。


 VRMMOの初心者が俺に教えを請うだと……。


 ヤバイ、とんでもなく時間を取られそうだ。でも、基本的なことを教えたら満足するかもしれない。


「そうですね。まずレベルはご存じですか?」


 ご存知ですかって、堅すぎだろ。もっと普通に喋ろう。


「あれですよね。モンスターを倒すと経験値で上がるっていう」


「そうそう。ほとんどの場合はレベルを上げると、ステータスポイントが貰えてそれを色々なステータスに振っていくんだ」


「そんなのあるんですか? なんか難しそうですね……」


 えぇ……この段階でもう難しいのか。スキルとか職業を決めるときになったらどうすんだよ。


 これは説明しても中々理解してもらえないに違いない。かといって、放置もできない。初心者の女性プレイヤーに近づいて、悪さをしようというプレイヤーもいる。


 仕方がないか……。


「もし良かったらついてくる? 今から装備とか買いにいくからさ」

「いいんですか!」


 なんとも嬉しそうな笑顔である。


「構わないよ。それじゃ、行こうか」

「はい!」


 これも縁なのか、予期せずに女性プレイヤーと行動することになってしまった。




 会話をしないのもあれなので、武器屋への移動中に世間話へと興じることにした。


「クリスはなんでBOをやろうと思ったの? 完全初心者なのに」


 俺がクリスの名前を出すと、彼女はびっくりしてから怯えだした。


「なんで私の名前を知ってるんですか……」


 そんなに怯えないでよ、俺が犯罪者みたいじゃないか。


「俺の頭の上になんか書いてない?」

「ありますよ。ジークって書いてあります」

「それがプレイヤーの名前だよ。君のも同じようにクリスって書いてあるんだ」


 クリスは自分の頭を見ようとして頑張っているが、自分のプレイヤーネームはシステム上見えないのが基本だ。だから、クリスの頑張りは無駄なのだが……なんとしても自分の名前を見ようと、頭とお尻をフリフリさせているのが可愛かったので、しばらく放置しました。


 それから少しして、


「あ、そうそう。自分の名前は見えないから、見ようとしても無駄だよ」

「嘘!?」


 俺は気づいていないフリをして、今更クリスを注意した。




 そんなこんなで武器屋に到着。


 そういえば、ジョブとかってどうするんだろ? 選択方法とかの説明はなかったんだよな……。


 右手を上から下に振り下ろし、プレイヤーウィンドウを開く。


 どうやら説明が終わったためか、先ほどとは違いしっかりと各種データが羅列されていた。そこにはジョブのタブがあり、タップすると数多くのジョブが画面に広がった。


 すげぇ……既存のVRMMOと変わらないっていうのは本当だけど、ジョブの数が尋常じゃないぞ。


 戦闘職、生産職の基本はもちろん。趣味系の職業も充実していた。


 勝手にBOの凄さに驚いてしまい、完全にクリスのことを忘れてしまった。


「クリスは何かジョブは決めてるのか?」


「ジョブについても詳しくないんですが、ジョブの一覧って見られますか?」


 それもそうか、さっき説明が終わったばかりだもんな。俺はクリスに職業タブの場所を教えた。


「うわぁ~たくさんありますね。ジークはもう決めてるんですか?」


「アサシンにしようと思ってるんだ」


 もうこればっかりやってるから、逆に他のジョブを選べなくなってるんだよな~。


「アサシンですか……ってことはプレイヤーの後ろから攻撃したりするんですよね。モンスターの後ろとか」


 後ろ後ろってうるさいな! いいだろ! 俺にはそれが向いてるんだから……。ゲームに詳しくなくても、アサシンのイメージってそんなものなのか……。


「そうそう。上手く相手の背後から攻撃するという高尚な職業だ。クリスは?」


 しれっとアサシンをかっこ良く語ってしまったぜ……だって、世の中のアサシンに対するイメージが悪過ぎなんだもん。


「そうですね~魔法を使うのは憧れますね。女の子的に」


 確かに女性プレイヤーはメイジを担当することが多い。他にもヒーラーなんかは衣装とかの関係で絶大な人気を誇る。


「確かに女性プレイヤーからはメイジとかの魔法職は人気だな。けど、最初のジョブ選択は肝心だぞ? これからの長いVRMMOの生活において、モチベーションを高め続ける重要なファクターになるからな」


 なんで、ファクターとか言っちゃうんだろう? 要素でよくない? 俺の学校の英語教師がうるさいから覚えちゃったんだけどさ。


「う~ん……あ、この召喚士って何ですか?」


「あぁ、それは色んな召喚獣を召喚して戦ってもらうジョブだよ。これも女性にはそこそこ人気の職業で、可愛い動物なんかも呼び出せるよ。戦闘職としては微妙かもしれないけど……」


「動物ですか……決めました。私、召喚士になります!」


 やっぱり動物に惹かれたのだろうか。クリスの決意は堅いようだ。召喚士の召喚は可愛い動物を呼び出すことが本業ではない。本来は、ドラゴンとかゴーレムなどの強力な召喚獣を呼び出すためのジョブだ。もしかしたら、クリスが後悔するかもしれない……。


「本当にいいのか? レベルが上がってくるとゴツいドラゴンとかになるかもしれないぞ?」

「いいんです。動物は好きですから」


 本人もこう言ってるし、わざわざ反対するのもおかしな話だな。


「それじゃ、召喚士のところをタッチしてみてくれ」


 クリスはさっそく召喚士と書かれているところをタッチした。


「自分のステータスのところに『召喚士Lv1』って表示されました」

「そんじゃ、俺も」


 クリスと同様にアサシンをタッチし、ジョブチェンジ完了。『アサシンLv1』と画面に表示された。


「にしても、ジョブチェンジするのに必要な物がないってのが以外だな。本当はLv15以上とかの条件があったりするんだけど……」


「そうなんですか? このジョブ選択画面を見てみると、各職業のレベルが1になってますから。多分、どれもタダで取得できそうですよ」


 クリスの言うとおり各職業にはLv1と表記されており、そのどれもがグレーアウトしておらず、どれも選択できるようになっていた。いつでも、職業を変えることができるのか……。


「これは色んなジョブが試せて面白そうだな。手間もかからないし」


「ですね。色々試してみたいです」


「それじゃ、ジョブチェンジも終わったことだし、武器を買うか」


 最初の所持金は…………500Gか。武器で300G、防具で200Gくらいの配分だな。


 アサシンだとダガー系の短い刀が基本で、防具は軽装だから安く済みがちだ。


「クリスは召喚士だから、ローブとスタッフだな」

「おじさん、この500Gのスタッフ下さい!」

「毎度あり~」


 えっ?


 隣を見ると、購入を終えたほくほく顔のクリスがいた。なお、防具はない模様。


「馬鹿野郎! 防具はどうした!」

「何言ってるんですか、今から買いますよ。おじさーん! これも頂戴!」

「あいよ~って、嬢ちゃん金が足りないよ」

 

 クリスは自分の所持金を把握していなかったようで、500Gのスタッフを購入してしまったようだ。


「500Gしかないのに、お前は何やってんだ……」


「え! 所持金なんてどこにも……あったね。ゼロだよ。あはは…………なんでこんな端っこにあるの!?」


 ゲームの所持金なんて基本は右端だろうJK(常識的に考えて)


 こんな初心者を放って置けなくなってしまった俺は浅はかかもしれないが、旅は道連れ、とはよく言う。


「使っちまったもんは仕方ない。ほら、街の外に行くぞ」

「ついていってもいいんですか?」

「そんなの今更だろ? それと、その言葉使いはやめろ。慣れないから」


 こうして、初心者装備のアサシンの俺と、裸(防具なしの意味)の召喚士クリスの冒険が始まった。


 前途多難過ぎないか…………。





 これが、俺とクリスが冒険に至るまでの経緯である。







 



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連載中:『神竜の契約者』はこちらからどうぞ
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