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銀の宝箱

 三人で宝箱を囲んでの話し合いを行うことにした。


「まぁ、書いてある通りだよな。武器、防具、アイテムの三つから一つ選べばいいんだろ?」

「ですよね。このウィンドウが三人に出ているってことは、一人に一つアイテムをくれるってことだと思うんですけど」

「そうじゃないの? まぁ、私はゲームにあまり詳しくないけど……」


 このウィンドウを見たときに思ったのは、凄く親切なゲーム設計だということだ。


 これは俺の体験談だが、欲しいアイテムを入手するために何度も同じクエストを周回するなどというのは、昨今のVRMMOでは常識となっている。


 一方のBOは、武器、防具、アイテムの三つから好きなものを選べるというのだ。


 これが親切と言わずしてなんと言うのか!


 さんざんクエストを周回し得たものは不要なアイテムばかりで、まったく装備品がドロップしないという悲しみを何度も経験してきた俺には信じられないほどだ。


「さて、いつまでもこうしていられないし……各自で同時にタッチするのはどうだ? それなら色々な問題が一度に解決するだろ?」


「おっ、ジーク賢いね! それが良いよ!」


 なぜ、俺がお前に褒められる?


「たしかに、それなら平等ですね。私も依存はありません」


「よし、それじゃ……いくぞ。3からカウントして、0でタッチしよう」


「意外と細かいね……」

「ここは重要だろ」


 どのタイミングで全員が動き出すかを決めないと落ち着かないだろ……あれ、俺だけかな?


「分かりましたから、早くしましょう。時間的にもそろそろ落ちないといけませんし……」


 カレンの視線が端に移動したのを見て、俺とクリスも画面の時刻を確認する。


「うわっ、もう十二時か! 俺、風呂にも入ってないのに!」


 いい加減、下に降りて風呂に入らないと母さんにどやされる……。


「えっ、まだ十二時だよ? 夜はこれからでしょ!」

「またログインするにしても、風呂に入ってからじゃないとな……クリスも家族がうるさいんじゃないか?」


 高一の女子が、夏休みだというのに深夜までゲームをしていては両親が心配するだろう。


「全然問題ないよ。だって私、一人暮らしだもん」


 一瞬だけ場の空気が急に冷えた。


「マジか……」

「本当ですか……」


 カレンも俺と同じ反応で、顔には『心配だ』という文字が浮かんでいるようだった。


「えっ、何……その反応」

 

 クリスは俺たちの反応を理解できていないのだろう。何と言えばいいのか分からないという顔をしている。 


「だって、お前が一人暮らしとか……飯はカップ麺か?」

「部屋の中はコンビニ弁当の容器が散乱してませんか?」

「ちょっと待ったーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 クリスの怒号が広間に響き渡る。


「二人共、人をニートか何かと勘違いしてない!?」


 別にニートだとは思っていない。立派な女子高生だと俺は聞いているしな。


 しかし……だ。


 今までの行動を振り返るととてもじゃないが、クリスが一人暮らしをできるに足る人物だとは思えなかった。


「まさにVRMMOは人生の縮図だな。ゲームのキャラクターとはいえ、その人の性格がしっかりとゲームプレイに影響してくるもんな」


 ゴブリンに追い回されていたクリスが、現実で犬に追いかけられているのを想像してしまった。


 プフッ……。


「何勝手に笑ってんのよ! しっかり料理だってするし、掃除や洗濯も一人でできるよ!」

「悪かったよ。一人暮らしをするようになれば、意識だって変わるだろうしな」


 元のぐ~たら生活が一変することだってあるだろう。


「んじゃ、やるぞ。全員選択するものは決めたか?」


「大丈夫!」

「こちらも問題ないです」


 全員の準備が整ったことを確認した。


「カウントいくぞ! 3、2、1、0!」


 ゼロのかけ声と共に、各自が欲しいと思っているものに同時にタッチした。


 俺が選んだ物は当然『武器』だ。


 これから戦っていくにしても、武器が弱かったら話にならない。そして、アサシンという職業もあってダメージを受けないように立ちまわるのがセオリーだ。そんな職業で防具をガチガチにするのはありえない。


 あと、『アイテム』のほうだが、現在のBOのアイテムの相場が分からないのでパスだ。というか、どんなアイテムが有用なのかすら分からないし、選んでハズレを引くわけにはいかない。


 やがて選択ウィンドウが消えたが、代わりのウィンドウが表示され、こう記されていた。


「『武器』の選択を確認しました。アイテムリストに『ブラッディーダガー』が追加されました」


 ブラッディーダガー? ダガーと書いてあるからアサシンで装備できるのは間違いなさそうだ。


 そんなことより、早速アイテムリストからオブジェクト化しなければ!


 俺は他の二人に構わず、すぐさまアイテムリストを確認する。


 あった! 


 アイテムリストなんてほとんど空のため、目的の物はすぐに見つけることが出来た。


 ブラッディーダガーをタッチして、表示される武器ウィンドウからオブジェクト化を選択。


 すると、今のダガーよりも少しリーチのある黒いダガーが俺の手の中に現れた。


「ヤバイ……カッコいい……」


 思わず一言が漏れ出てしまった。


 一見すると中二感満載の剣なのだが、このBOののリアリティーの高さ故か美術品のような美しさを感じる。


 えぇ~と、そう! フランスのルーブル美術館にある『ジョワユーズ』のような感じだ……本物は見たことないけど……。


 黒光りする刀身、ブラッディーの名前からも分かるように、血のような真紅の赤い線が薄っすらと刻まれている。しかも、柄にまで細かい彫刻が施されている。これは……花みたいだけど……薔薇か? 


 なんか低レベルの装備とは思えないクオリティーだ。


 さて、他の二人は――。


 ブラッディーダガーから視線を外し、俺は二人の様子を見てみることに。


 クリスのほうは防具を選択したようだ。黒いローブを纏っている。


 街での失敗を未だに引きずっていたのか……。


 失敗を取り戻そうと考えての選択だろう。


 一方のカレンはというと、こちらは武器を選択したようで、黒い杖を持っている。


 なんか、黒い杖を見てると禍々しさがあるな、カレンに良く似合ってるけどさ……。


「やっぱり、一人に一つアイテムを獲得できる仕組みみたいだな」


「うわっ、ジークのそれカッコいいね! 私も武器にすれば良かったかな……」


 俺の腰に刺したブラッディーダガーを見て、クリスは少し後悔しているようだ。


「でもクリスの選択は正しかったと思うぞ。いつまでも防具無しでダンジョン探索ができるワケないだろ?」


「うん……今回は私の失敗を取り戻すための選択だもの……仕方ないよ」


 おいおい、そんなに凹むなよ……。


「そういえば、クリスは防具を着けていなかったんですね。何か理由が?」


 クリスの見た目は町娘A的な服装だったから、外見的にはそれが安い防具に見えないこともない。カレンには実際にそう見えたのだろう。


「あまり抉らないでやってくれると助かる……」


 クリスのほうを見ると、下を見て微動だにしていなかった。


「わ、分かりました……詳しくは訊かないでおきます……」


 カレンもクリスの様子がおかしいことに気づき、質問を取り下げてくれた。


「二人の装備の名前はなんて言うんだ? ちなみに俺のは『ブラッディーダガー』だ」

「私のは『ブラッディーローブ』だね」


 クリスが急に元気になった。さっきの話題はタブーだな……。


「こっちは『ブラッディーロッド』ですね。どうやら、ボスからのシリーズ装備みたいですね。言うなれば、『ブラッディーシリーズ』と言ったところですかね?」


 ブラッディーシリーズか……シリーズ武器ってことは結構なレア装備だな。


「私のブラッディーロッドには固有スキルがありましたよ。『マジックドレイン』っていうスキルでした。


 そういえば、俺の武器にもあるよな……どれどれ~



 




 




 








 

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連載中:『神竜の契約者』はこちらからどうぞ
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