告白
「真実、あなたはこっちの世界に来ては駄目よ」
「どうして?俺を強くしたのは章子の指示だろ」
「それは自衛のためよ。あなたも狙われる危険があるんだから」
「章子は?狙われているんだろ?俺も一緒に戦いたい」
「甘ったれないで。殺しも知らないあなたには何も出来ないわ」
「……!」
ガタン
真実は部屋を飛び出した。
「……章子、他に言い様があるだろ」
「どんな?あの子には生きてて欲しいのよ!」
声を荒げたことに章子ははっとなった。
「ごめん、フレディ。お願い。一人にして」
章子は窓の外の月を眺めた。そこには今にも月に昇っていってしまいそうな儚げな章子の姿があった。
フレディはたまらず章子を後ろから抱き締めた。
「俺じゃ駄目なのか?エドガーの代わりにはならないのか?」
「……」
章子は答えない。暴れようともしない。細い体。こんな体で多くのものを背負ってきた。フレディもまた章子と同じ暗殺集団にいたのだ。しかし、自分の才覚で身代金を稼ぎ、脱退したのだ。フレディはずっと章子を愛していた。だから章子の子供も自分の子供のように育てた。だが章子は?章子の心の中にはあいつがいる。あいつしかいない。
「……章子、愛してる」
「……フレディ、私はあなたを親友として愛してるわ」
フレディの腕に力がこもった。
「忘れられないのか?」
「……目の前で殺されたのよ。しかも私を庇って!私さえいなければ……エドは死ななかったかもしれない!」
「……章子……」
「……離して、フレディ」
「嫌だ。章子、一人で逝くな。俺も連れていけ」
章子の体がピクリと震えた。フレディはわかっている。自分が何をしようとしているかを。章子はフレディを降り仰いだ。
「……フレディ、あなたは一緒に来ないで」
フレディの唇が章子のそれに重なった。
「章子、その願いだけは聞けない。真実を安全にするためにも、俺は必要だろ?」
「……フレディ、あなたは馬鹿だわ。あなたならどんな女性でもついてくるでしょうに。こんな私に肩入れするなんて……」
「惚れた弱味さ」
フレディは努めて明るくいい放ち、章子を離した。細い肩の弱々しさが、フレディには痛々しく感じた。