過去②
エドガーと章子は一年あまりを新婚生活のように仲良く暮らすことになる。
だが、章子が属していた暗殺集団に敵対するテロ組織に気づかれたのだ。エドガーは情報を売った形になる。その情報はもちろんエドガーも知っていたし、更に他の情報も掴んでいた。エドガーはそれを記事にして、テロ組織を潰そうと考えていた。テロ組織はエドガーを排除しようと動き出した。それを察知したのは章子だ。章子は自分が培ってきた技能を活かし、エドガーと一緒に拠点を変えていった。
しかし、章子の努力も虚しく、テロ組織に見つかってしまったのだ。
「章子、逃げるんだ!」
「一緒じゃなきゃ行かない!」
「章子、君は一人じゃない。お腹の子のことも考えてくれ」
「……知っていたの?」
「ああ、こんな時期だから言えなかったんだろう?」
「エド、今あなたと離れるつもりはないわ」
「章子……」
「子供も守るから!お願い!」
「……わかった。今夜ここを出よう」
二人での逃亡が始まった。しかし、長くは続かなかった。テロ組織の方が人数も情報も圧倒的に多い。二人は追い詰められた。章子は最後まで戦う姿勢を崩さなかった。今になって戦い方を学んだことが役に立つとは皮肉なものである。
章子が拳銃を右手に、ナイフを左手に隠し持ち、迎え撃っていた時だった。章子の体が崩れ落ちた。お腹が痛んだのである。
「章子!」
ほんの一瞬の出来事だった。エドガーは章子を庇って、拳銃で撃たれたのだ。
「エド!」
章子は相手を拳銃で撃ち殺した。
「エド!エド!しっかりして!あなたには志があるんでしょう!」
「……章子、子供を頼む。真実を追及する子に……」
「エド!」
章子は冷たくなったカップにお茶を注いだ。
「真実、あなたはもう大人よ。自分のことは自分で決めるのよ」
「章子は?」
「あなたをフレディに預けたのは、日本では出来ない戦闘を仕込んでもらうため。自衛のためにね。それと、差別なく人を見られる知識を得てもらうため。そう思ったのよ。それに私は例のテロ組織に狙われていたしね」
「章子はどうするつもりなんだよ!」
「聞いてどうするの?」
「俺は、俺の父親が守れなかった分、章子を守りたい!」
「馬鹿言わないで。少なくとも真実よりも私の方が腕は上よ。あなたは自分の道を探しなさい」
「……なら、章子と一緒にいたい」
「マザコン?フレディ、間違った育て方したの?」
フレディは深々と溜め息を吐いた。