過去①
夕食も食べ終わり、食後のお茶を三人で飲んでいた。そんなとき、章子は切り出した。
「さて、真実に話しておかなければいけないことがあるわ」
「俺は席を外そうか?」
「フレディ、あなたが真実を育ててくれたのよ。一緒に聞いてくれる?」
「……ああ、わかった」
章子はソファに座り直した。それを見て、真実も居ずまいを正した。
章子は静かに語りだした。
章子は物心つく頃には、ある暗殺集団に属していた。そして、暗殺の仕方を学ぶ日々。章子が十歳の時だった。仕事先である場所で五歳年上の少年に出会ったのだ。その少年はエドガーと名乗った。そして、「こんなことをしてはいけないよ」と章子に言ったのだ。章子は暗殺の仕方を仕込まれ、疑問もなく生きていた。そのときに初めて「疑問」を持ったのである。
章子はねぐらを抜け出して、エドガーに会いに行った。エドガーは記者を志しており、世の中を剣よりもペンで変えたいと願う人だった。章子は熱く語るエドガーに心を傾けていった。エドガーもまた、熱心に自分の話を聞いてくれる少女に心惹かれていった。
しかし、章子は暗殺集団に属していた。章子の親代わりの男は気づいていた。二人の逢瀬に。このままでは章子は自分のもとを飛び出すと考え、章子を外に出られないように閉じ込めた。エドガーもまた自分の国へ帰らなくてはいけなかった。
エドガーは章子のねぐらにやって来て、章子と窓越しの逢瀬を果たす。きっと迎えに来るからと。章子はその言葉を頼りに生きることにした。彼は来てくれる……。
それから五年後、章子も少女から大人へと変化していた。章子が十五歳の時、エドガーは迎えに来てくれた。二十歳の立派な若者になっていた。エドガーは暗殺集団のねぐらに堂々と正面から入って行った。そして、自分で調べたこの暗殺集団と敵対するテロ組織の情報を入手し、それと引き換えに章子を要求したのだ。
暗殺集団にとっては必要な情報だった。しかし、章子も大事な手駒であることも確かだった。だが、ちょうど暗殺集団はテロ組織に圧力をかけられてきているところだった。暗殺集団は章子よりも情報を取った。
これで章子は愛しいエドガーと一緒に暮らすことが出来る。章子は嬉しくて仕方がなかった。エドガーもまた、可憐に花開いた章子を愛しく思っていた。
しかし、二人の慎ましやかな生活は長くは続かなかった。