不審者
フレディの声が聞こえてからすぐに、エレベーターから黒服の男たちが三人ほど現れた。
章子の神経がびりっと反応する。この男たちは……。
「佐藤章子だな。一緒に来てもらおう」
「嫌だと言ったら?」
「息子を人質にとっている」
その言葉に章子は笑った。
「何がおかしい?」
「私の息子が人質など嘘でしょう」
「ロビーで捕まえたぞ」
「では、人違いですね。私の息子が人質になるなどあり得ませんから」
「……とにかく一緒に来てもらう」
「お断りしたはずですが?」
「「章子!」」
フレディと真実が非常階段から上がってきた。
黒服の男たちがフレディたちに気をとられた瞬間、章子は動いた。一番前にいた男のみぞおちに拳を叩きこんだ。その男は崩れ落ちたが、もう二人は即座に反応した。章子を捕まえるために。しかし、章子は後ろへ飛び退き、タイトスカートの左前に入っていたスリットを破いた。そこから章子は二人の男たちに向かって、蹴りを繰り出した。男の一人は顔の左側をもろに蹴られて昏倒した。残るはあと一人。章子はまたもや蹴りを繰り出した。しかし、それは相手の腕によって阻まれる。と同時に、蹴りを繰り出した章子の左足を捕まれた。男は足を引っ張ろうとした時、章子は右足で床を蹴り、男の顔の右側に蹴りを入れた。男は崩れ落ちた。
あっという間の出来事だった。章子の眼鏡は割れ、髪の毛は乱れていた。章子は髪の毛を鬱陶しげにかきあげた。そこには豊かな黒髪が腰近くまであり、普段眼鏡で隠されていた一人の美しい女性の姿があった。
「フレディ、この男たちの始末を頼める?」
「ああ、わかった」
章子は茫然としている課の皆に向けて一礼した。
「お騒がせして、申し訳ありませんでした。課長、先程の退職届、受理していただけますね?」
章子の有無を言わせぬ迫力に、課長もなんとか答えた。
「わかった。退職届は受理する」
「ありがとうございます。お世話になりました」
挨拶を終えると、章子は真実を呼んだ。
「真実、行くわよ」
「えっ、どこに?」
「家に決まってるでしょう」
後始末はフレディに任せて、章子と真実は家へと向かった。