第20話 方針
前回投稿より遅くなって申し訳ありませんorz
これからも投稿を続けていきますが、かなりのんびりとした投稿になるかもしれませんのでご了承下さい。
「ご主人!」
早朝。
村に戻ると門前で待っていたレイミーが涙を流して抱きついてきた。
どうやら宿に戻る事なく一晩中ここで帰りを待っていたらしい。悪い事をした。
「ただいま。レイミー」
「遅いじゃないですか!心配したんですからね?!」
怒る涙目になりながら怒ってくるが、身長差があるせいでどうしても上目遣いになることもあって正直怖いというより可愛くて微笑んでしまう。
「すまんな、でもお陰で彼女を助ける事は出来たんだ」
そう言って後ろからついてきていたシノを紹介しようと振り返る。
「シノだ。君がレイミーだね。主から話は聞いてる、これからよろしく」
「……ご主人?」
あれ?変だな。何かレイミーからちょっと黒いオーラみたいなのを感じるんだが……。
うん、とりあえずここは逃げよう。
「えーっと……詳しくはまた後で話すが、とりあえず今はギルドに向かおう。じゃないと他に心配してくれてる人に申し訳ないからな」
そう言ってギルドへと足を運ぶが、道中背後からチクチクと痛い視線を感じずにはいられなかった。
案の定ギルドに着くと心配とお叱りの言葉を頂く事になった。
ただゴブリンの換金部位を採取してくるのを忘れたので、残念ながら今回はタダ働き同然になってしまったが、気を利かせた受付嬢の一人が報酬は支払えないがハンターの記録としては載せてくれるらしい。
ギルドに集まっていた他のハンターもレイミーの話を聞いてか俺たちの姿を見るなり「よく帰ってきたな!」とか「おかえり!」と声をかけてくれた。
そんなに話したこともなかったのに、良い人達だな。
「さてと。とりあえず、宿に戻ろうか」
兎に角今べき事は二人の休息とこれからの予定だ。
そろそろアイツらも魔法教会学園とやらに着いてよろしくやってる頃だろうからな。
ここでアイツらが卒業するまで待ってるのも良いが、せっなくの異世界だ。もっとこの世界を頼んしんでもバチは当たらんだろう。
宿に着くとシノとレイミーは早々にベッドで横になると直ぐに小さな寝息を立てて眠りについた。
余程疲れが溜まってたのだろう。俺は一階に降りると宿屋のおばちゃんが今朝方出ていったばかりのハンター達が食い荒らしてったテーブルを片付けている最中だった。
「なんだい、あんたもてっきり昼くらいまでは休むと思ってたんだがね?」
「そのつもりだったけど、若い娘が近くに二人もいると体に毒だからね。逃げてきた」
「若いもんが何をいってるんだか。なんか飲むかい?」
「葡萄酒があったらそれが良いかな」
「ちょっと待ってな」
おばちゃんは掃除を止めると奥から葡萄酒の入った子樽とジョッキを二つ持って戻ってきた。
「良いの?まだ日は登ったばかりだよ」
「たまには若い奴と飲むのも良いもんだ。ホレ」
全く。このおばちゃんには頭があがらんよ。
俺がおばちゃんと同じ歳になった時に同じことが出来るかと思うときっと直ぐにはこたえられないだろうに。
「それで?あんた。これからどうするつもりなんだい?」
「どうって?」
「惚けるんじゃないよ。一緒に来たあの子達は魔法教会学園に行っちっまい、取り残されたあんたはこんな寂れた村で一生を終えるとも思えん。なら次はどうするんだい?」
「ははっ。それを今考えてたとこなんだよ……本音を言うなら今直ぐにでも色んな地に足を伸ばしみたいんだが、筆頭ハンターのドルトさん達は今は王都にいるし、あの子達はまだまだ未熟だ。
だから少なくともあと半年くらいはこの地にいるつもりではいるよ」
「なるほどね、若いのによく考えてる…….話は変わるが、ここより北西に二日ほど言ったところにガルテンという町がある。
わしの孫娘がそこでギルドの受付をやっててね、ハンターの数が減ってるのに依頼が絶えず嘆いてるんだ。
ドルト達が戻って来たらで良いから足を運んでくれないかね?
もちろん引き受けてくれたなら出発までの間の宿代はタダにしといてやる。飯代は頂くがね」
「ガルテンですか。他のハンター達の話から聞いた事はあります、確かゴブリンやオーガなどが多く生息する地域だとか……良いでしょう、引き受けます」
「そうかい。ありがとうよ」
その後、暫くは他愛のない世間話に花を咲かせて結局休んだのは昼過ぎまで続いた。
★
ーー数週間後。
「遅いっ!そんなんじゃ虫すら殺せねぇぞ!このゴミムシ!気合いを入れろ!」
「っはい!」
絶え間なく浴びせる罵声と剣を混じり合う金属音が鳴り響く中で俺はシノとレイミーの二人を相手に対人戦闘用訓練を施している最中だった。
午前中はギルドからのクエストをこなし、昼は刀剣を用いた対人・対怪物戦闘訓練。夜は夜戦訓練を兼ねて村に戻るのは三日に一度のペースが最近の流れだ。
「はぁっ!」
上段から切りかかってくるシノの片手剣を俺のグルカで刃の方向を逸らし、それでも一歩踏み込んで下段からの切り上げをして来るが、最初と同じような動作で剣を逸らしていく。
「甘いっ!単調な動きになるなと言っただろ!追撃をするなら相手の動きを予測しろ!攻撃の手を休めるな!たかだか十や二十程度の追撃でへばってんじゃねぇ!」
「くぅっ」
そうして罵倒してる間に背後から二刀の小太刀くらいはある短剣を抜いたレイミーが接近したてきていが、俺はそれを蹴り技で牽制して攻撃を遠ざけていく。
「うるせぇっ!背後をとんならそのバタバタと喧しい足音を消せっつってんだろ!殺気も気配もダダ漏れじゃねぇか、ヤル気あんのか?!」
実際のところレイミーからの足音はほぼ無い。
殺気も気配も上手く隠せているが、吸血鬼である俺にしてみたら喧しいの一言だ。
ただそれは感覚が敏感な吸血鬼という種族特性の能力なので普通の人間が気づけるとは思えない。だが、それでもあえて煽るのはこの世界には魔法があるからだ。
俺には魔法の知識がない。精々マンガで読んだ程度の知識だ。
だからこそ此奴らには魔法以外でも強くなってもらわなきゃならん。
普通の人間が人体の五感を強化する魔法をフルブーストでかけた状態が俺の魔法も何もかけてない基本状態なのであると仮定して、此奴らがそんな俺の感覚機関すら騙せるくらいにまで成長したらそこら辺のハンターやゴロツキ程度には負ける事はなくなる。
だが、逆にいえばゴロツキ程度しか騙せれないという事だ。
あらゆる事を想定し対処するにはもっと練度が必要だ。
少なくとも俺一人くらい簡単にねじ伏せられるようになってもらわなくてはーーいつでも守ってやれるわけじゃないからーー困る。
「次に繰り出す攻撃を常に思考しろ!そして単調になるな!変則的に動け!パターン化された動きばかりすっから……」
俺はシノが振り下ろして来る剣のコースを予想して握るグルカを振り下ろされてくる剣に沿うように剣線をぶつけーーシャオォンッーーと金属音が響いてシノの手から剣が手放された。
「こうなる。分かったか?クソ猪ども!」
「「はいっ!」」
そうしてその攻防戦は暫く続き終わったのはそれから一時間以上経ってからになった。
夜になって三人で焚き火を囲みながら俺は昼間に採取しておいた薬草を調合用のすり鉢でゴリゴリと押しつぶして液状にする作業をしていた。
以前村に戻った時に雑貨屋で調度品を買い足してる最中に見つけた魔法薬の調合方法の乗った本を見つけたのでここ最近は此ればかりやってる。
何だかんだ気をつけていても昼間のような訓練を毎日繰り返していると生傷は絶えないし怪我もする。その度に買い足してたら金がいくらあっても足りないからこうしてコツコツと作っていってるのだ。
最近じゃ慣れてきた事もあってか雑貨屋の店主に余った分を引き取ってもらったりもする。
「ご主人。聞いてもいいですか?」
そんな作業をしていると隣に座るレイミーがすり鉢を見つめながら問いかけてきた。
「どうした?」
「ご主人はどうして魔法も使えないのにあんなに戦う事が出来るのですか?私たちは魔法で身体機能を強化してるのに……」
そういえば二人にはあらかじめ訓練中魔法で身体機能を向上させてたんだっけ。随分前に指示してたことだからちょっと忘れてたわ。
その疑問はどうやらシノも感じていたらしく興味深々といった様子で聞いている。
「んー、そうだな。まず俺のいた国じゃ魔法なんてなかったんだ」
焚き火に視線を落としながら口切りにそう告げると二人は思ってた通り「えっ」と信じられないように驚いてる。
まぁそりゃそうだわな、この世界における魔法の地位は絶大だ。
それこそ保有する魔法力のランクが高ければ高いほどその後の人生において及ぼす影響は計り知れない。貧民と貴族差どころか場合によってはそれ以上だ。
そのことが当然であり当たり前であるこの世界の常識において俺のいた世界の事を話しても信じられる筈もない。
「それでも国があれば、領土があれば、土地があれば。人は人を殺しあう。
この国よりもずっと小さな島国の中でさえも堪えることなく争いは続いた。何百年もな。
だからなのか、俺の国では色々な流派があったんだ。その中でも俺の師匠は『人を殺す』事に特化した流派の人だったんだ」
辛辣な空気を読んでかパチンッと焚き火から音が聞こえて一旦作業の手を止め、湯を沸かしていた鍋を取って少量ずつ半液状となった薬草の入ったすり鉢にお湯を注いでいく。
回復薬作りの中で一番神経を使う段階になったので少しの間話を区切るが二人も理解してくれてるようだ。
少しでもお湯の量を間違えただけで品質はかなり違ってくる。多すぎると効果は薄まり、逆に少ないと劣化が早い。
その匙加減が回復薬作りの難しい所なんだが、理科の実験をしてるようで個人的にはかなり好きな分類だ。
最後に魔石というモンスターの体内でのみ生成される魔力を秘めた石を砕いたカケラをすり鉢に入れて布で蓋をする。
これも品質とは違うが、適切な量を入れないと仕上がりが不安定になってしまう。多ければ腐ってしまい少なければ劣化してしまう。
どんな法則が働いてるのか分からないが、本当。面白いなぁこの世界。
「……と、すまんな話の途中に。だから近接戦闘に限っていえばある程度は対処出来るくらいには叩き込まれてるんだよ。
例え魔法を使ってた所で身体能力が上がった程度じゃ動きが少し早くなったなくらいで対処出来ないわけじゃないんだよ」
「だからマスターはアレほどまでに強いのか……私も戦闘訓練はそれなりに積んできたつもりではあったが、手合わせをしてると自分の未熟さが身にしみる」
感慨深そうにシノが応えてくれるが、個人的に剣を使った戦闘訓練はほんとんどないんだよなぁ俺。
何たって銃がある世界だからな。ある程度は使ったことあるけど、殆どナイフとか銃剣だから剣のように長い得物を使ったことがない。
今は二人の訓練の為にも揃えて同じ刀身の剣を使ってるがぶっちゃけやり辛くてかなわん。まぁその辺はおいおい武器を変えて最終的にはどんな得物を持った相手にも対応出来るように仕上げるとしよう。
「さて、調合も終えたし。そろそろ寝るか。
明日は村に戻ったら一日休息に当てて明後日からガルテンに向かうぞ。ドルトさん達も戻って来てるだろうしな」
「はいっ!ご主人」
「承知した」
簡易テントに二人を追いやると俺は一人で火の番を始める。
本来なら二人の主人である俺がこんな事をしなくても良いとレイミーを始めシノからも注意されたが、休息は大事だ。
特に俺は化け物だが、二人は……レイミーはよく分からんが、人間だ。生きているなら健康管理はしっかりしておいた方が良い。
「さてと。事後処理と行きますかね」
立ち上がると視線の先には二頭の獣が木に逆さまになって吊るされていた。
昼間のうちに狩った獲物で以前村に戻った時に受けた討伐対象の害獣だ。
見た目は完全に猪なんだがその毛皮は生半可な腕じゃ傷すらつけられない程に剛毛で何より足が六本もある。
お陰で突進してくる速度は目測でも七十キロ前後は出ていたからレイミーとシノは倒すのに苦労していたが、最終的には罠に嵌めて倒してたな。
俺?遠距離から狙撃して仕留めましたが何か?
ゴブリンをレイジングブルで倒してから早くも三週間が経ち、その間に『記憶の産物』に関して色々と調べてみた。
レイジングブルは一つの命を消費して再現したので元に戻す事は出来ないが、一部だけを時間制限付きで再現した場合は四分の一程度の消費で抑えられるようだ。
だから遠くに居たのを見つけた時に減音響付きの.338ラプアマグナム弾を使った豊和M1500を顕現させてレイミーとシノが離れているうちに仕留めた。
この銃をセレクトしたのは俺の趣味だ。
日本製の狙撃銃は国内では余り有名ではないが、精度や耐久性に加えバリエーション豊かな事で海外では人気の品なで個人的に一度は使ってみたかった名銃だ。
感想としては最高の一言に尽きる。
木製ストックから伝わる衝撃。
大口径にも関わらずそれを感じさせない精錬された軽減機構を兼ね備えた反動。
何より自分がイメージした通りに、まるで吸い込まれて行くような弾道を描いて行く感覚はもう……素晴らしいに尽きる!
……話を戻そう。
とにかくここ最近の研鑽の成果としては以下の通りだ。
・時間制限付きでのコスト削減。
・不明瞭な物への顕現は不可。
・自身が殺傷した対象以外の血の収集は直接吸血行動に移れば可能だが、コストは激減している。
以上がここ最近で大まかに判明した事だ。
こうして考えると目立ったデメリットは余りないように思えるが、心象的には余りよろしくない。
俺の能力は基本的に他者の命を奪い、それを別の力へと変換する能力だ。だから自然と何かの命を奪うのが当たり前になっている気がしてならない。
……まぁいくらそんな事を言ってもこの手は既に血に染まってるし、その事を後悔する気もない。
幸人や彩女だけじゃない。まだ幼いアニやコロナにさえ俺は「殺せ」と命じたんだ。
そして彼らは命じた通りに実行した。
その時の彼らの心に正義心や復讐心があってそれに従っただけなのかもしれない。でも殺させたのは他の誰でもなく俺だ。
彼ら彼女らが何を思って殺したのかなんて関係ない。
俺が命じて実行させた。
これは揺るがぬ事実であり揺るがせてはならない事実だ。
だから今更この便利すぎる能力に悲観し、自分の犯した罪を嘆くつもりは毛頭ない。
嘆き、苦しみ、懺悔する暇があったら一人でも多くの羊を拾い。肥えて太った。或いは渇き飢えた狼を一匹でも喰い殺す。
それこそが俺の選んだ道だ。




