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第19話 始まりの覚醒


森を抜けて村へと続く街道を歩く頃。辺りは既に暗くなって普通の視力では視界がかなり狭まっていた。

ハクリコンの花畑から村までは木々などを気にしない直進コースで1〜2時間もあれば余裕に村まで着くのだが、山道を歩き慣れていないお嬢様に合わせ直進コースはやめて大回りになるが、一度草原に出て迂回しながら村へと続く街道を行くことになった。


「さてと、とりあえず今夜はここで野営だな」


そう切り出すと彼女は黙ってその辺にドカッと座り込で渡しておいた水筒の水をゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいく。

その間に俺はそのあたりから薪を拾い集めると焚き火を焚いて暖を取り始めた。今はまだそれほど寒くはないが、それでも深夜になると気温は一気に下がり毛布なしでは辛くなるからだ。


上手い具合に焚き火が点くとザックから少し小さめの鍋を出して中に水を入れて湯を沸かしていく。

単純に干し肉だけでも良かったんだが、どーせならもう少し体の温まる良いものでも食べようと思ったからだ。

沸騰し始める湯に干し肉と乾燥野菜を入れ後はシンプルに塩と胡椒で味を調えると完成だ。


食欲をそそる香ばしい香りが風下にいたお嬢様の鼻腔を刺激したらしく『ぐぅ〜……』と何とも素直な音が聞こえてくる。

チラッと横目で見るとお嬢様は口に溢れたヨダレを必死に拭って恥ずかしさからか、赤くなった顔を隠そうとしている。

目の前で俺だけ食ってやろうかと思ったが、流石にそんな意地悪をする勇気がなかったのでザックから取り皿代わりのコッヘルに出来たばかりのスープと保存食の黒パンを出して彼女に渡してやった。


「熱いから気をつけろよ。あと黒パンはかなり硬いから千切ってスープに浸しながら食べるんだ。安心しろ。おかわりはまだあるからな」

「……(コクン)」


言われた通りに彼女はスープと黒パンを受け取るとパンを千切ってスープに浸しながらゆっくり食べると、彼女は満面の笑みを浮かべて表情を綻ばせ一心不乱にパンとスープにかぶりついていく。

その様は何日もまともな食事も摂れず、ようやくありつけたご馳走を取られまいと急いで食べていくようでもあった。


ーーまぁ実際本当にまともな食事は摂れなかったんだろうな。

数日間はゴブリン共の玩具にされた挙句あんな冷たい泉の中心に捕らわれていたんだからな……。

ただそれを踏まえても、いや。それを踏まえるからこそ彼女の身体能力というか精神力は大したものだ。

ハクリコンの花畑で目を覚ましたと思ったら自衛の為に俺の武器(マチェット)をギリギリまで悟られずに奪うとそれで攻撃をしてきて、その後水と食料を与えたからといって花畑から約三時間半。

途中小休憩を取ったといえどもひたすら文句も言わずに足場の悪い山道を歩き続けて来たのだからその忍耐力には目を見張るものがある。

というか、一言で言えば結構異常だ。


俺は吸血鬼(このからだ)になってから睡眠も食事も疲労すらもそれ程感じずになった化け物だが、彼女は正真正銘の普通の人間であり、まだ年若い女の子だ。

そんな彼女が俺と同じペースで歩き続ける事が出来るなんて一体誰が想像できようか。





「そろそろ何か話してくれても良いんじゃないか?」


食事を終えて一息つこうと煙管に火をつけながら俺は彼女に問いかけた。

彼女が目覚めて最初に交わした言葉以外。ずっと沈黙を守り続けていた彼女はしばらく黙っていたが、ゆっくりと口を開き始めた。


「……あたしの名前はシェルティ・フロイライト。名門フロイライト家の長女よ」


「そういう嘘は良いから本当の名前の方を聞かせてくれよ」


俺の言葉に彼女は一瞬だけ眉を潜めるが、やがて嘘は通じないと感じたらしく一度大きくため息を吐くと髪を掻きむしると尋ね返してきた。


「どうして嘘だと、貴族じゃないと思ったの?言葉遣い?」


「それだけじゃねぇけど、極め付けは飯食ってる時だな」


「というと?」


「あんたが本当に貴族の令嬢ならあんなガッツいた食い方なんてせず、少量を千切って食い続けたはずだ。

くだらないと思うが貴族ってのは常に周りの視線を気にし続ける奴らだからな」


そこで区切るように煙管から吸った煙をゆっくりと吐き出すと彼女は目を丸くしてから「はははっ!」としてやられたとでも言うように今日初めて大声で笑いだした。


「はぁ〜、ふふ。まさかそんなところで見破られるなんて思ってもみなかったよ。あんたの言う通りあたしは貴族様じゃない。

あたしの名前はシェリイ・マルチェーダ。名門フロイライト家に使える身代わり護衛よ」


「身代わり護衛?」


聞き慣れない言葉に聞き返すが、要は影武者と言うことだろうか?


「そう。主の代わりに少しでも危険性のある地に赴く際にあたし達が代わりに主の名を使って向かう者の事よ。別名使い捨て人形なんて言われてる」


「嫌な別名だな。それで、その身代わり護衛は一体どうしてゴブリンなんかに捕まってたんだ?それに『冒険者なんか信じない』……ありゃどういうことだ?」


「……そのままの意味よ。あたしは危険だと判断された会合に出席したけど、無事に終わって行きの時に護衛として信頼出来る冒険者と共に帰路についてる途中だった。

でも、その冒険者は敵対していた貴族に高額の金で雇われ守る筈のあたしを鞍替えして殺しに来たんだけど、襲われると同時に突然乗っていた馬車が揺れて外からバロとゴブリンの襲撃にあったの」


「うぁ……」


最早ツイてないとか不幸とか不運とかのレベルじゃないな……。

信頼していた護衛の冒険者に裏切られた矢先にゴブリンの襲撃にあうとか……正に負の連鎖だ。


「流石にバロとゴブリンの同時襲撃に冒険者も一旦休戦してあたし達はがむしゃらに森に逃げ込んだわ。でも結局ゴブリンに捕まり……後は言わなくても解るでしょ?」

自嘲するような笑みを浮かべ。カラカラと乾いた笑い声を上げて話しているが、身体は正直なものだ。

指は微かに震えて表情も必死に思い出すまいと堪えるように眉間に皺が寄っている。


「惨めなものよ……使い捨ての人形として拾われて地獄のような訓練を無理矢理積まされた挙句。最後はゴブリンの慰みもの扱い。今頃フロイライト家じゃあたしは死んだ事になって帰る場所も無くなるなんてさ」


自嘲気味に笑う彼女の声からは生きる気力をなくした物悲しい雰囲気しか伝わって来ない。


「どこにも行く当てがないんなら俺の所に来るか?」


「は?そりゃ一体どういう意味だい?」


何を言われてるのか分からないといった表情のシェリィに俺は続けざまに聞いた。


「そのまんまの意味だよ。どうせ死人扱いで、そのフロイライト家に使えるのにも嫌気が指してるってんならハンターにならないかって聞いてんだよ」


しばらく呆然としていたシェリィだったが、言葉の意味を理解すると「冗談はやめてくれ」と言ってきた。


「ゴブリンの慰み者になった奴を引き抜こうなんて人間、いるわけないじゃないか。冗談にしたって性格(たち)が悪いよ」


その言葉と瞳からは強い怒りを感じたが、どうでも良い。

というか、慰み者だろうがなんだろうがそんな事にいちいち興味がなかった俺は彼女人間見えるように自分の口から伸びた牙を見せた。


「人間ならな。だが、生憎と俺は人間じゃねぇんだ。分かるか?」


それを見たシェリィは先ほど向けてきていた怒りを忘れたかのように顔を青ざめて身震いする。


「あんた……まさか吸血鬼、なのか?」


どうやら伝承とか伝説とかに残ってた吸血鬼の特徴を知っていたのだろう。

わざわざ説明せずに手間が省けたのは僥倖だ。


「シェリィ・マルチェーダ、お前は同じ人間からも忌み嫌われる存在となった訳だが、それでもまだ人間として生きていたいか?

…….もう一度だけ聞くぞ。俺と共に来ないか?」


その答えは待つまでもなく彼女は「イエス」と応え、俺は彼女に新しい名前を与え、それまでの身分を隠す。いや、捨てる事を命じた。

そうでもしないと、フロイライト家は彼女を見つけて再び首輪を付けようとするはずだからな。

最もそれだけの価値が彼女にあるかどうかは疑わしい所だが、自由を望んでる彼女の障害になりそうなら消した方が良いだろう。


ついでに『記憶の産物』から髪切り鋏と髪染めの染料にタトゥーシールを取り出して外見的特徴の方もカバーして行く。

カットは正直余り得意では無かったが、思ったより良い出来になった。今は背中の中程まであった金髪が肩にかからないくらいのショートヘアに切り替わった。

元から長い髪は好きじゃ無かったようだが、影武者としての役割を担うために我慢して伸ばしていたらしい。

染料は本人の希望もあり、赤っぽい茶色に染め上げた。


最後にタトゥーシールだが、少し特殊な物で一度貼り付けると皮膚に直接塗料が染み付く物で早くても一ヶ月くらいは剥がれない代物だ。

俺はちょっとした遊び心も含めて、顔の左半分に眼孔を取り囲むような三日月型のタトゥーシールを貼った。


三時間ほどかけてようやく終わると彼女はそれまでの貴族の令嬢という外見の印象から一変して何処かの傭兵団に所属していそうな風貌になった。

ちなみに服装もそれまで着ていたドレスから『記憶の産物』を使って銅鎧と皮の小手。動きやすい様にショートデニムを用意した。

全体のデザインはこの世界の物に合わせたもので決して俺個人の趣味ではない。断じて違う。


ただ見た目がどうも、洋風忍者みたいな感じがしたので、髪色と合わせた赤色のスカーフを贈ったのは俺の趣味なのでそれは認めよう。


「どうだ?何か気に入らないところがあったら言ってくれ。可能な限り直すから」


手鏡を出して確認してもらうが、えらく気に行ったのか。それとも謙遜したのか「これが良い!」の一点張りだった。

まぁ気に入ってくれたなら良しとしよう。


「さて。最後になったが、お前に新しい名を与える」


焚き火を挟んだ向こう側で彼女は身構える様に楽な姿勢から片膝をついて首を垂れる。

さながら主人に使える騎士のようだ。


「シノ。それがお前の新しい名だ」


色々と考えた結果。

見た目が忍者っポカッたのでそのまま『忍』からとってシノにした。がっつり日本の名前だが、まぁそんな大した問題にはならないだろう。


「謹んで拝命いたします。そして我が主人・吸血鬼グリード様に永久の忠誠を此処に誓います」


そう言ってシノは深々とまた首を垂れるが、それ以上下げたら首がとれてしまうんじゃないかと思いながらも彼女の頬からは涙が流れ落ちていたのでツッコムのはよしておこう。











約2年ぶりの投稿となりました。

正直に申しますと他に面白そうな案が浮かんでいたので、ぶっちゃけこの作品のことを忘れてしまっていましたorz

誠に申し訳ありませんが、生暖かい目で見守って下さい。

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