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第18話 じゃじゃ馬姫

トーラス・レイジングブル。

現代の新素材であるポリマーやチタニウムを使い強力なマグナム弾の発射にも耐えられるよう設計されたブラジルのトーラス社が創った名リボルバーだ。

何故この銃を出現させたかというと理由は3つある。


一つは現代の地球の科学力によって創られた銃ならば例え盗まれたとしてもこの世界での複製は不可能だと思ったからだ。

二つ目は装填数が5発しかない代わりに強力なマグナム弾を撃つことの出来るこの銃なら大抵のモンスターを殺す事が出来るし、そうでなくとも致命傷を与えられるはずだ。

そして三つ目。

これがこの銃を選んだ一番の理由でもあるんだが、一言で言えば最も使い慣れた銃でだからだ。


地球にいた頃。

夏休みにデビッドさん達の故郷に連れて行ってもらった時に射撃場で俺はデビッドさんから銃の扱い方を散々になるまで叩き込まれた。

その時言われたことだが、どうやら俺は自動拳銃(オートマチック)よりも回転式拳銃(リボルバー)の方が向いているらしく、かつてデビッドさんの仲間が愛用していたというレイジングブルを渡され事がある。

その時の事はよく覚えているが、銃のグリップが大きいにも関わらずまるで手に吸い付くようにしっくりと来たのだ。

実際に撃った時は強烈な衝撃による反動(リコイル)によって後ろに倒れ尻餅をついたが、何度も練習する内に10m離れた的に当てられるようになった時は本当に感動したものだ。

ただ、通常強力なマグナム弾を放つ事の出来るリボルバーは反動が大きく大の大人でも撃った直後に銃を手放して顔面にクリーンヒットしてしまう事が多い。

それでも大人からしたらまだまだガキンチョの俺が使えたのは恐らくレイジングブルの構造によるものが大きかったからだろう。


レイジングブルの最大の特徴として銃身(バレル)先端部の銃口(マズル)に空いた8個の小さな穴によってコンペンセイターの役割を果たしている。


コンペンセイターとは射線上とは違う方向に発射ガスを逃がす事により反動+マズルジャンプ(銃口の跳ね上がり)を抑える効果がある。

これにより撃った直後の反動で銃口が上↑に上がる力と発射ガスにより下↓に抑えつけようとする力が同時に働くため比較的平行に保つ事が出来る。


その他にもマグナム弾の発射に耐えられるようシリンダーは2点保持されたり、撃鉄(ハンマー)の後部には所有者だけが安全装置(セイフティ)を解除出来るキーが付いていたりと機能性と安全性に優れた部分でもある。


ちなみにレイジングブルには放熱冷却用のベンチレーテッドリブが組み込まれているが、ぶっちゃけ余り効果がない。

というのもベンチレーテッドリブは放熱・冷却用として撃った直後の熱で陽炎が出来てしまい照準が狂うのを防ぐ為に生まれた機構で、その効果が最も発揮されるのは銃身の長い銃だけだ。

つまり銃身の短いハンドガンでこの機構を取り入れたのは無意味に等しく、トーラス社が『見栄えと適当な効果や効能を唱えりゃ客が買ってくれるに違いない!』という会社側の狙いだ。


やや話が説明臭くなったが、話を戻す。


とにかくそういった経緯もあって俺は今回使い慣れたレイジングブルを出現させたわけだ。


現在地からゴブリンのいる場所までは凡そ15m。ここから狙い撃つ事も可能だろうが、流石にいくら使い慣れた銃だといえどもあまり無茶はしたくない。

俺はレイジングブルの引き(トリガー)に指を掛けないよう気をつけながら左手に握り、反対の手にはマチェットを握りしめる。


日差しは……まだ完全に落ちたとまでは言えないが、森の中だからか既に十分暗い。

普通の視力なら懐中電灯がないと困るくらいだ。

俺は視界をサーマルモードに切り替えると立ち上がってゴブリンたちの方へと走り出した。


本来なら隠れながら近づいて奇襲をかけるのが得策なのだろうが、今回に限っては別だ。

理由は迅速かつ速やかに排除しなければ洞窟の中に囚われている奴らの命が危険だからだ。

足跡は四つあった。にも関わらず先ほどのゴブリンから得られた映像(ビジョン)には捕虜の姿が二つしかなかったからだ。

これ以上遅れをとるわけにはいかない。そう判断した俺はゴブリン二体とバロが守る洞窟に向かって走り出したのだ。


「ガウッガウッ!」

「ギギ?!」

「ギィッ!」


走り出した事により最初に気づいたのはバロだった。

遅れて剣を持ったゴブリンが気づいて身構えると杖を持ったゴブリンがバロを先行させるように命じてバロを突進させてくる。


正面から突っ込んできたバロにレイジングブルの銃口を向けーーバァンッ!ーー空気が振動する程の発砲音が響くとそれと同時に飛びかかってきたバロは後方へ吹き飛んでいった。


44マグナム弾をまともに受けたバロはそのまま声を上げる暇もなく生き絶えゴブリン二体は突然の爆発音に驚愕し身体が硬直している。俺はその隙をチャンスとばかりに見逃さず、最初に手前にいたボロボロの剣を持つゴブリンとの間合いを詰めるとゴブリンの首をマチェットで一閃する。


うまい具合に刃が骨に当たる事もなく跳ねた首はボールのバランスが崩れたように地面へと転がり落ち、頭のなくなった体はフラフラとしてやがて糸が切れた操り人形のようにその場に倒れた。

相棒を一瞬の内に2人も失くしたゴブリンは状況が飲み込めないのか、それとも恐怖で身が竦んだのか膝をガクガクと震わせたまま動こうとしない。もし後者ならせめてもの情けにすぐに殺した方が良いのだろうが、油断を誘ってからの魔法攻撃という線も考慮してゆっくりと油断なく近づいていく。

ただその行動がより一層恐怖を増したのか、涙目になって戦意そのものを無くしているような気がしたが……まぁ関係ないかと片付けて最初の一体と同じようにゴブリンの首を跳ねる。


血だらけとなった洞窟の入り口で俺は「集まれ」と呟くと死体となり、或いは死骸となった体から血が流れ出ると目の前に球体となって中空に漂う。先程よりもふた回り程大きく見えるのは殺した数が多かったからだろう。

俺は球体の下に片手を置くとボトボトッと三つの塊が落ちてきた。その内の一つを空いている手に掴むと何か異常がないかを入念にチェックして問題ない事を確認すると三つともポケットに仕舞い込む。

新しく出現させたのはレイジング・ブルの使用弾薬の44マグナム弾とスピードローダーだ。


スピードローダーとは、いってしまえばリボルバー用のマガジンの事だ。

リボルバーは構造上オートマチックのように素早く弾倉交換が出来ない。

撃ち終えてから弾倉を露出し装填されている空の薬莢を捨ててそこに新しい弾薬を一発ずつ装填しなければならない。

だがスピードローダーなら予め弾倉と同じ数の弾薬がセットされているため装填する際にわざわざ一発ずつでなくとも排莢後に瞬時に再装填する事が出来るのだ。


血の球体はマグナム弾15発とスピードリローダー三つを出現させたにも関わらず未だ大きさも形も変えることなく中空に漂っている。

どうやらこの程度ではそれ程消費しないらしい。

気を取り直して俺はマチェットを腰の鞘に納めると左手に持っていたレイジングブルを右手に持ち直して洞窟内へと入っていく。


やはり利き腕とは逆の手で、それも片手撃ちするのはいくら吸血鬼の肉体を手に入れたからといっても容易ではなく発泡の衝撃で狙っていた場所からズレてしまったからマチェットを止めてレイジングブル一つで行った方がまだマシだと考えたからだ。


洞窟内はやはりというか、かなり暗い。

もし視界をサーマルモードに切り替えていなければ自分の手元すら見えるのも怪しいくらいだ。

こんな場所で生活するのだからひょっとしたらゴブリンはかなり目の良い……夜目が利く種族なのかもしれない。


そんな事を思いながら進んで行くと途中。

ボンヤリと鈍い光を放つ石『輝石』が彼方此方の壁に埋まっている事に気がついた。

輝石はこの世界では極一般的な鉱石で豆電球程度の光を放つ石の事だ。大きさは様々あり拳大の物から小石程度の物まである。

主には一般家庭で蛍光灯代わりに使っているが、値段が小さい物でもそこそこ言い値が張るため農民にまで行き渡る事は少ない。


それでも一般的に広まるのには理由があり、日中に陽の光を浴びせていると夜間はずっと休む事なく光を放つのだ。それも半永久的にという特典もつく。

まるで太陽光発電だ。


そんな鉱石がこの洞窟内には沢山埋まっているのだからこれら全てを売りに出したら結構な値段になる事は間違いないだろう。


ーーまぁ、今はそれよりゴブリンの殲滅&救出が先だな。


俺はさらに奥へと進んで行くと、奥からガチャガチャギィギィと何やら騒がしい音が聞こえてきた。

視界を望遠モードにすると武装を整えたゴブリン総勢10体程が最初の発砲音を聞きつけて奥から群がってきていた。


向こうもこちらの存在には気づいているらしく戦闘態勢は万全なようだ。その証拠に杖を持った二体のゴブリンが前線で止まると魔法の詠唱を始めている。何の魔法なのかは不明だが、足元に魔法陣らしきものが浮かび上がっているのでまず間違いないだろう。


ーーどんな魔法か気になるが、まぁ避けれるだろうから問題ないか。


俺はそのまま歩みを止めず進んで行くと詠唱を終えたゴブリン達から突然杖の先からソフトボールサイズの火球が二つ飛んできた。だが当然この程度の攻撃は予想通りな上、想像以上に飛来する速度が遅かった為簡単に避ける事が出来た。

想像の中では弾丸とまではいかないまでもプロ野球選手の投げる球の速度を予想していたのに実際は良くて体育会系女子が投げる球程度だったので拍子抜けも良いところだった。


火球を軽く避けると今度は剣や棍棒を持ったゴブリンが隊列を組んで突っ込んできた。

これには流石に焦った。例え一発の弾丸で一体のゴブリンを倒しても残りのゴブリンが突進してきたら捌き切れる自信がなかったからだ。

俺はすぐに銃に頼るのを止めて血の球体から新たに手のひらサイズのレモンの形をした金属を取り出す。


それを片手で安全ピンとレバーを外すと群がっているゴブリンの中心に投げ入れ俺はすぐに隅っこにあった岩に隠れてうつ伏せになる。


数秒後ーードォンッ!と激しい爆発音が響くと同時にビシビシッと壁に小さな粒でも当たっているような音が聞こえてきた。

今投げたのは防御手榴弾と呼ばれる破片手榴弾の一つで名前は『レモン』の愛称で知られるM26A1手榴弾だ。

本当なら爆発した時に起こる爆風の衝撃波で敵を殺傷する攻撃手榴弾を使いたかったが、こんな狭い洞窟内でそんなものを使ったらどうなるか想像出来なかったからあえて防御手榴弾であるM26A1を使用したのだ。


ならば防御手榴弾である破片手榴弾とはどんなものなのか?

それは手榴弾の弾殻裏に鋼製のワイヤーを貼り付ける事により爆発した時、細かい破片を周囲に飛ばす事で効果範囲内にいる敵を殺傷もしくは負傷させる事を目的にした手榴弾だ。


そっと顔を上げて先ほどまで突進してきていたゴブリンの方を見るとまともに食らったゴブリンは爆風によって即死し、近くにいた奴らも同様で中には破片を大量に浴びたせいか腕や耳が引きちぎれている者もいた。

唯一息があったのは最後尾にいた棍棒を持ったゴブリンだけだったが、そのゴブリンは目に破片が刺さったのかム◯カの様に眼球を抑え転げ回っている。


俺はそんなゴブリンの後頭部に銃口を突きつけると迷いなく引き金を絞り射殺する。


「ふぅ……後は、もういないかな。『集まれ』」

銃に安全装置(セーフティ)を掛けて新たに球体からショルダーホルスターを取り出すと殺したゴブリンの血を集める。

いくらこの世界に銃がなくとも裸のまま持ち歩くのは些か抵抗があったので秘匿性に優れたショルダーホルスターを出すと上着を脱いで銃をホルスターにしまい込んだ。


血を集め終わるとソフトボールくらいの大きさだったのがハンドボールサイズにまで膨れ上がっていた。

流石にこのまま捕まってる奴らの前に行くと逆に怖がられそうだったので、最初のゴブリンを殺した時の様に両手に球体を挟むと手のひらに吸収されていく様に球体は徐々に小さくなりやがて初めから何もなかったかの様に消えて無くなってしまった。

「……チッ」

そして吸収すら事によって見えてしまった映像(ビジョン)に思わず舌打ちをして急いで洞窟の最深部へと走り出した。



洞窟の最深部はかなり広く。そこには地下水が溜まって出来たのか周囲が10mほどある泉が広があった。

しかも洞窟内は輝石によって光り輝くまさに満天の星空の様な幻想的空間が広がっていたのだが、そんな感動的空間をぶち壊すように泉の中心には木作りの檻があった。


檻の中には捕らえられた二人の……いや、一人の女性と上半身だけ残った男の遺体が吊るされていた。


視界を望遠モードにしなくても解る。

吊るされている男は首をだらりと下げ、切り離された部分からは未だに血が滴り内臓が飛び出ている。

女性の方は死体と区別がつかない程に肌を青白くさせているが、視界をサーマルモードに切り替えるとその体には体温が残っている事を知らしてくれる。


ゴブリンを殺し血を吸収する事によって見えた映像を思い出す。

そこで見た光景は惨いの一言に尽きるものだった。


捕らえられた四人のうち最初の二人はゴブリン共から嬲られ四肢を切り落とされ、腹を裂かれながら死んでいった。


檻に入れられた男は両腕を吊るされたまま足のつま先から徐々にスライスされて最後は喰われながら死んでいった。


女性は嬲られる事も斬り刻まれる事もなかったが、強姦され食事は仲間のミンチを与えられ続けていた。


今思い出しても吐き気がする光景を無理矢理我慢して俺は泉に入って檻へと近づいていく。

水温はかなり低い。氷水に足をつけているような感覚だ。

檻まで来ると女性は正気ない、虚ろな瞳を向けてきた。


太い幹と何重にも編み込まれた蔦で出来た檻をマチェットで斬りつけ壊していく。

元々このマチェットは湿地帯などのジャングルで道を切り開く為に作られた物で本来の使い方をしてやると簡単に頑丈そうに作られた檻でも呆気なく解体されていく。


5分もしない内に檻を壊すと中にいる女性を吊るしていた蔦を斬り、女性だけを担ぐと岸の方へと戻っていく。もちろん後でもう一人の吊るされた遺体も回収するつもりだ。


適当な場所で彼女を下ろすとスキル『記憶の産物』を使って保温シートに毛布・固形燃料にサバイバルキットなど必要になりそうな物を次々と出現させていく。


ーー本当に便利だなぁ、改めて

バスガルドに感謝しねぇとな。

そんな心にも思っていない事を思いながら俺はこれ以上彼女の体温が下がらないようにと濡れた衣服を脱がせ、代わりに保温シートで全身を包むと硬い地面に厚手の毛布を敷いてその上に彼女を寝かせた。


本当ならその上に毛布を被せてやりたいが、その前に体を綺麗にしてやろうと今お湯を沸かしている最中なので今しばらくは我慢してもらおう。


幸いにも焚き木となる薪がゴブリンが大量に貯蔵していたらしく2〜3日は消費し続けても問題なさそうだ。

折りたたみ式のシャベルで穴を掘るとそこに薪と固形燃料をぶち込んで火をつける。火はあっと言う間に薪に燃え移り鍋に泉で組んだ水を入れると丁度いい温度になるまで温めていった。


清潔な布で彼女の体を拭いていきながら目立った外傷がないかをチェックしていったが、骨折などの外傷は見当たらなかった。だが、強姦された時に受けた傷や抵抗したあとのような生傷が全身に残っていて怪我をしていない部分を探す方が難しかった。


30分ほどかけてようやく全身の汚れを落とし終えると、泥だらけだった体は透き通るほど綺麗な白い肌をしていた。

髪についた汚れも落としてやろうとしたが、流石にそれは服を着せてからでも良いだろうと思いこの世界では一般的な皮服を出現させて着せていく。


ちなみに脱がした衣服はボロボロだったが、パーティとかで着そうなドレスに似た物だった。服のヨレ方からしても普段から着ている感じがしたのでやはり何処かの貴族様かお嬢様なのだろうとすぐに見当がついた。


ーー村の人からは俺が根っからの貴族嫌いで通っているようだが、別に嫌いなわけではない。単純に性格が合う合わないってだけだ。


全部が終わると俺は再び彼女を寝かしつけ、吊るされていたもう一人を回収する。目を瞑りたくなるほどの悪臭が鼻をついてくるが、俺は吐きたい気持ちを必死に抑えて岸に上がると黒色の袋を出現させて口と手に銅貨を握らせて袋を閉じた。


この世界に来てからまだそれほど日が経っていないはずなのにはすっかり死体に見慣れてしまっている自分がいることに溜息を零したくなった。


人間やめて精神まで変わってしまったのかもしれないな。


そんな事を思いながらも俺は焚き火に蒔きを足していった。



翌朝ーーといってもここは洞窟の最深部で外の景色なんか分かる筈がないがーーになっても彼女は目を覚ます事はなく。仕方なしに俺は彼女を持ち上げて両肩に担いで運事にした。

空いている手には上半身だけとなった彼が入っている納体袋を持って洞窟の外へと歩き出した。


洞窟を抜けて森に出た俺は村の方には向かわず、少し移動する距離が長くなるがハクリコンの咲く花畑へと向かっていった。

理由は聞かずとも解るように彼を埋めてやりたいからだ。

そうでもしないと余りにも報われないからな。

一応他の仲間の遺体も探したのだが見つけられたのは一部の骨だけでそれはザックに入れている。


ちなみに出現させた道具類は不要だと判断した瞬間に液体となって自分の中に再び取り入れる事ができた。


何だろなぁ〜、魔法じゃなくて個人の能力ーースキルだから何とも言えないけど本気で魔法以上に便利な能力だよなぁ。


歩き出してから一時間。ようやくハクリコンの花畑に着くと以前殺してしまった貴族を埋めた場所の隣に埋葬しようとしたのだが……。


「なんだこりゃ?」


目の前の光景が信じられず思わず声に出してしまう。

視線の先には隙間なく咲き誇るハクリコン。

それが満遍なく咲き誇っているのならまだ納得ができたが、それが人の形をした状態で咲き誇り尚且つ中心の一輪だけが本来純白の白い花弁がまるで地中に埋めた貴族の血を全て吸いきったように真っ赤な花となり咲いていたからだ。


ーー無事に逝ってくれたってことなのかな?これは。


しばらく呆然と立ち尽くしていたが、そうやって考えると不思議と納得してしまい口元が緩んでしまった。


気を取り直して担いでいた彼女を近くに下ろしてザックを枕に横にすると上から毛布を掛けてやった。

体温自体はもうだいぶ戻っているようで昨日より血色が良く寝息や心拍数も安定している。

早ければ午前中の内に目を覚ましそうだ。


「さて、やるか!」


掛け声と共に気合を入れるとザックから出していた折りたたみ式シャベルを手に穴を掘っていく。

ーー今回は手掘りじゃないから早く終わりそうだ。



一時間ほどかけて二つの蛸壷(たこつぼ)のような穴を掘り終えると片方には骨をもう一方には納体袋を入れて依然と同じようにハクリコンの花を一輪置いて埋葬する。


(ガサッ)


土を戻している最中。背後から微かに物音が聞こえ振り返ると。


「ぅお?!」

目の前に突然女性が作業の邪魔だからと近くに置いていたマチェットを両手で握りしめて突進してきていた。

余りにも突拍子が無いことに驚いたが、反射的に突進してくる彼女の下に屈んで潜り込むと襟と腕を掴んでそのまま背負い投げをする。

ドシンッと音が鳴り同時に「かはっ」と彼女から肺の空気が漏れる声が聞こえて来るが、俺はさらに抑えこんで身動きを取れなくさせる。

柔道で言うところの『袈裟固め』という押さえ込みだ。


「はぁ……ずいぶんと元気なお嬢様だな」

「離せ変態!!」


敵意の篭った目で睨みながら何とか抜け出そうとバタバタもがくが元々の筋肉量がまるで違うし袈裟固めはしっかりと極まってしまうと早々抜け出せるものじゃない。


現に彼女の握るマチェットは背中の下敷きとなり動く気配すらない。

「落ち着け。俺はアンタを助けに来たんだ。危害を加えようとは思わない」

「嘘だっ!クソッタレのクソ冒険者っ!お前らなんて二度と信じられるか!」


おーっおーっ威勢が良いねぇ、まぁ怖がられたり悲鳴をあげられるよかなんぼかマシか……でもまるで騙されたみたいな言い方なのがちょっと気になるな。


「信じてくれないのは結構だが、これ以上無駄に暴れるなら力強くで黙らせぞ」

「やってみろ!その前にアンタの○○○を蹴り潰してる!」


本当口汚ねぇなこのお嬢様!?本当にお嬢様か?!

個人的な勝手なイメージだが、貴族のお嬢様といったらコソコソと陰口を呟いたり陰湿な虐めをするのに口調だけはやたら偉そうに良い子ぶってる感じだったが、目の前の子はそれとはまるで違う印象を受ける。


「……はぁ、解ったわかった。とりあえず離してやるからそれ以上喚くんじゃねぇぞ?」

これ以上何を言ったところで意味がないので方針を『落ち着かせる』ことから『落ち着くまで放置する』方へと切り替える。

「だったらさっさとどきやがれ!クソ冒険者!」

「はいはいっと、その前にこいつは返してもらうぞ」


俺は身体を起こしながらマチェットを奪い取ると彼女は一瞬惜しそうな顔をするが、すぐに距離をとってガルガルと唸り声をあげて睨んでくる。

……本当にお嬢様か?

そんな疑問が脳裏に浮かんでくる。


イメージしていたのと違ったからというのもあるが、それ以上に彼女から向けられる視線が常人のそれとは一線を引いている気がするからだ。

まるでこの世界の全てが敵だとでもいうような瞳だ。


思い返せば彼女の行動は最初から可笑しい気がする。

まずゴブリンに襲われ何日も監禁されていたら精神が酷く不安定になるなはずだ。

その上目が覚めたら薄暗い洞窟ではなくこんな花畑では混乱して悲鳴をあげるなり逃げだそうとするのが普通だ。

それなのに彼女はまるで訓練された兵士のようにまず危険因子となりそうな俺を殺そうとしてきた。

更には武器が奪われるや否や奪い返そうとするのではなく距離をとって逃げるのではなく身構えていつ攻撃されても反撃に転じられるよう態勢を整えている。


「なぁ。アンタ一体何者なんだ?」

「……?」

質問の意味が解らないのか彼女は眉を潜めるだけで答えようとしない。

ふむ……こういう時はどうするのが良いんだっけ?

確か相手を刺激しないように懐柔しながら〜とかだった気がするが……あー、こういう時にレイミーか彩女でも良いからいてくれたらなぁ。


やっぱり連れてくるんだったと若干の後悔をしながら俺はゆっくりザックから水の入った水筒を取り出すと彼女の足元に投げ渡す。

彼女はそれが何なのか解らず警戒していたが「水だ」と教えると恐る恐る手にとるのだが、開け方が解らず手間取っていた。

彼女に渡したのは普通の軍用水筒でロシア人とかが使う酒の入ったボトルをそのままデカくしたようなものだ。


この世界にも水筒はちゃんとある。

ただそれは防水処理をした頑丈な皮を繋ぎ合わせて飲み口にはコルクで蓋をした水袋だ。だから彼女は初めてみる水筒に戸惑い開けることすら出来ないのだろう。


仕方なく俺はマチェットを地面に突き刺すと彼女に近づくいて「貸してみろ」と手を差し伸べると彼女は嫌そうな顔をするが、水が飲みたいという欲求には勝てなかったのか渋々渡してくる。

水筒を受け取った俺は蓋を開けてやると彼女に返す。

その光景を物珍しそうな目で見てくるが、初めてみるのだから仕方ないだろう。


水筒を受け取った彼女は飲み口を鼻に近付けてスンスンと匂いを嗅ぐとそれが安全な物だと判断したのか勢いよく水を飲んでいく。

少し離れているのにゴクゴクと喉を鳴らす音が聞こえるほどだからよっぽど喉が渇いていたのだろう。


やがて全部の水を飲み干してしまったのか最後の一滴まで飲もうとする仕草を見て思わず笑いがこみ上げてきた。

「気が済んだか?」

「……とりあえず、礼は言っとく」

笑っていたのがバレたのか若干顔を赤くしている彼女を見てまた笑みが零れる。


「それはどうも。俺は……グリードだ。よろしくな」

一瞬本名で名乗ろうとしたが、せっかくバスガルドがくれた名前だから使ってやろう。

「グリード……変な名前。ひょっとして通り名?」

「まぁそんなもんだ。アンタ?」

「アンタに教える名前なんてない」

「………」


こりゃ、随分と手強そうだな……。


そう思いながら俺は村への案内を約束する代わりに埋葬を終わらせるまで待ってもらうことにした。

そこでもやはり俺の行動は真っ当ではあるが可笑しな行動だったらしくその様子をお嬢様?は興味深々といった様子で見てきていた。




前回の投稿から遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。

次回の投稿もできるだけ早くしたいと思いますのでどうぞよろしくお願いします!

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