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第17話 銃

目が醒めるとそこには見慣れた天井が見えた。

窓からは太陽の溢れ日が入り込みさっさと起きろとでも言うように差し込んでくる。

気分的にはもう少し横になっていたかったがここで起きないと一日中ダラダラと過ごしそうな気がしたので俺は早々に起き上がろうと腕に力をいれるが。

「……ん?」

起きれない……というかなんか腕が重いぞ?

力を入れた方の腕を見るとそこには腕を枕にスヤスヤと気持ち良さそうに眠る例のエルフの少年……?がいた。


すぐにそれが例の少年だと理解できなかったのは肌の色が昨日までの透き通るような白い肌ではなく黒い健康そうな褐色の肌をしていたからだ。そして髪の色も黒から一気に色が抜け落ちたみたいに真っ白になっている。まるで肌と髪の色が逆転したようだ。


ひょっとして全くの別人かとも思ったが、部屋の鍵は閉められたままだし、少年が眠っていたはずのベッドはもぬけの殻になっている。つまりこのエルフは例の少年で間違いないということになる。

「ありえん……いくらファンタジーの世界だからってありえねぇにも程があるだろ」

嘘か誠か髪の色なら強い恐怖心やストレスによって真っ白になるとは聞いたことがあるが、それでも肌の色まで変わるなんて聞いたことがない。


まさか朝一番の寝起き直後にこんな衝撃映像に出くわすとは夢にも思わねぇよ。

ーーとにかくこっちのベッドに潜り込んだってことは一度起きたってことだよな?なら起こしてみるか。

俺は身体を横にして空いている方の手で少年の頬をペチペチと叩いて起こす。

「おい、起きろ〜。朝だぞ。そして状況を教えろ」

「……んにゅ?」

んにゅ?寝ぼけてんのか?

そんな声と共に一応覚醒したらしく少年は身体を起こして目を擦る。


「ふぁ……あ、おはようございますご主人」

寝ぼけながらも少年はその場に座りながら挨拶してきた。

ここに運んでくる時も思ったが少年の身体はかなり細い。そりゃずっと眠っていて食事すらまともにとっていなかったのだから当然と言えば当然なのだが、それを踏まえても少年の身体が服越しでも異様に細く見えるのはこれまでにまともな食事すら与えられなかったからだろう。

「あぁ、おはよ……う?」

そんなことを考えながら返事を返したので聞き漏らしそうになったが、今こいつはなんて言った?

『ご主人』そう言わなかったか?俺の中で俺をそう呼ぶ奴は古今東西一人しかいない。

レイミーだ。

そう、レイミーだけが俺の事をそう呼ぶ。なのにこの少年は目を覚まして一番最初の第一声にそう呼ぶのはおかしくないか?というか普通に可笑しいだろ!しかも普段からずっと言い慣れていたように!


混乱して沈黙が長かったせいか少年が心配そうに座っていた態勢から四つん這いになって顔を覗き込んできた。

その瞬間、異性特有の匂いが鼻腔を刺激してきた。

驚いて更に俺の脳内は混乱する。いや、最早混乱などという生易しいものじゃない大混乱だ。

パニックを起こさない自分が不思議でしょうがないのに目の前の少年……いや少女か?が「大丈夫ですか?どうかしましたかご主人?!」と心配そうに声をかけてくる。


「あ、あぁ……ところで、お前はひょっとしてレイミー……なのか?」

「? はい。そうですけど……一体どうしたんですか?もしかしてどこか具合でも悪いのですか?」

ーーマジかよ?!は?!え?!どゆこと?!!


状況を整理しよう。

昨夜俺はレイミーの提案を飲み込んでちょっとした実験感覚でレイミーをPTSDによって精神を閉ざしてしまった少年に送り込んだ。目的としてはレイミーが少年の中に入り心を閉ざしてしまった少年と対話をして説得する事によって目覚めさせるという予定だった。

だが結果は……。


「つまりお前は少年との対話に失敗して少年は心を閉ざすどころか精神そのものが死んでしまい、抜け出す事も出きなくなったレイミーは空っぽになった肉体にすっぽり収まる事しかできなかった……そういう事で良いのか?」

「はい……ただまさか私がこの身体に入ったせいでこんな変化になるなんて思いもしませんでした」

レイミーは自分の手を見て握ったり開いたりを繰り返して感触を確かめている。

「なるほどね……理解した。だが身体の方は大丈夫なのか?」

「はい。筋力が衰えているせいか身体が少し重く感じますけど、至って問題ありません」

「そうか……なら良かった」

「あの、どうかしましたか?」


小首を傾げて尋ねてくるレイミーに若干可愛いな〜何て思いながらも質問に答える。

「いや、一つの身体に一時的とはいえ二つの精神……いやこの場合は魂といった方が良いか。それが入り込んだんだ。何かしらの反動があっても不思議じゃないだろう。

それに種族も年齢も性別さえ異なる二つの魂が一方が死んだとはいえ、入り込んできた魂が肉体を言い方は悪いが乗っ取るなんて余りにも不自然だからよ」

俺の答えにレイミーは「確かに」と同じように考え込むが、すぐにその疑問への解を答えてくれた。


「確かに少年の魂は「もう疲れた」と言っていましたが一方で肉体の方は未だ生を強く望んでいるように感じました」

「……魂が死を望むのに対して肉体は生を望むから少年は今まで死ぬ事が出来なかった……そういうことか?」

俺の言葉にレイミーは静かに頷いてみせる。

確かに多少強引ではあるが、筋は通るし納得もいく。

そもそも魂という物が本当に存在するか否かに関しては激しく議論をかましたいところだがそういうのは専門家に任せるとしよう。俺ができるのは多少話が強引でも筋が通っていれば納得する他ないという事と見た物をあるがままに受け入れることくらいだからな。


「まぁいいや、とりあえず納得したけど何か異常があればすぐに教えろよ」

「はい!」

「よし、そんじゃ出かける前に軽くマッサージするからうつ伏せ!」

「はい!……え??」

「どうした?」


突然固まったレイミーに疑問を投げかけると「どうしてそんな事をする必要が?」という顔をされた。

ーーあぁそっか。この世界には魔法があるお陰で医療が発展してないからわからないのか。

「いくらお前が元気でもその身体は一月近く動いてないんだ。だからマッサージして身体の眠っていた筋肉を刺激して起こす必要があるんだわ」

「もししなかったらどうなるんですか?」

「んー専門じゃないから解らんが、突然足や腕の筋肉が収縮して痙攣し激痛を味わうと思うぞ。それこそしばらく動けないくらいにな。あと食事と水分も摂らないと同じようになる」

話を聞いたレイミーは青ざめた顔になって小さく「お願いします」といって素直にうつ伏せになる。


早速上半身の方からマッサージを始めるが、痩せ細った身体は枯れ枝のように細く力加減を間違えればポッキリと折れてしまいそうな程華奢だった。俺は細心の注意を払ってゆっくりと時間をかけて全身のマッサージをしていった。


小一時間ほどかけてマッサージを終える頃には汗だくになり風呂に入りたく思ったが、残念ながらそんな気の利いた物はなく後で濡れたタオルで身体を拭うしかない。

対してレイミーは余程気持ちよかったのか火照ったような顔をして満足そうな表情を浮かべている。

これがしばらく続くと思うと多少骨が折れるが、この表情が見れるならそれ程苦でもないな。


食事を取りに一階に下りると宿屋のおばあちゃんから目を丸くされた。

当然といえば当然の反応だろう。

昨日までは髪も肌も間逆の色だったのに翌朝現れたら一変しているんだからな。

深く追求されるかと思ったがそんな事はなく、どうやらエルフ族は非常に希少な存在のようで自分たちの領地からは滅多に出ず、他種族との関わりも必要最低限のようなのでおばあちゃんからしたら「そういう種族なんだろう」という感覚だったらしい。

まるで鎖国をしていた日本のようだと思ったが、まぁ何にしても要らぬ嘘をついて説明する事がなくなって助かったと言わざる得ないな。


とりあえずおばあちゃんに消化が良くて栄養のある物を要求すると教会でも度々見たオートミールに似た物とちょっとしたサラダをくれた。


「それでご主人。これからどうするのですか?」

食事をしながらレイミーは話しかけたせいか口元にオートミールのカス(?)が付着したので指で拭ってやりながら答える。

「とりあえずは教会に行って神官さんに挨拶した後にギルドで冒険者登録をする。その後はリハビリも兼ねて近隣の薬草採取の依頼をこなすとしよう」

「了解です!」

元気良くという言葉がこれ程似合う子はいないんじゃないか?と思わせるほど片手にスプーンを握り俺たちがよくやる『敬礼』の姿勢を見せてくる。ただイメージとしてはしっかり教えたわけじゃないからかビシィッ!という感じじゃなくてぽやぁ〜んという感じだ。


あんまり可愛いもんだから軽く頭を撫でてやった。



教会へ赴くとそこでもやはり神官さんに驚かれたが、例によって例の如くというか宿屋のおばちゃん同様余り深くは追求されなかった。それどころか「何かあったらすぐに言って下さい」とまで言われてしまったのでついでに魔法適正ランクを調べてもらうことになった。

魔法適正ランクはB−。凄いわけでもなければ低すぎる事のないなんら辺りも触りもない数値だったが魔法が使えない俺からしたらやはり少し羨ましい限りだ。


教会を出てギルドに向かいながらレイミーと話していると、どうやら以前の身体でも魔法適正ランクはB−だったらしい。

これが単なる偶然なのかどうかは定かではないが、ひょっとしたら魂と魔力には俺たちが思っている以上に密接した関係なのかもしれない。

(やっぱり実験の余地があるか……いや、今回のは偶然が重なってレイミーは少年の肉体を手に入れたに過ぎない。もし失敗した時のリスクを考えるとやはりこれ以上この手は使わない方が良いのかもしれないな)

モンスターの中に死体が歩き出すような所謂ゾンビ系のもはいないらしいが、絶対いないとは断言出来ない。

なんせここは地球とは全く違う理の世界なのだから本当に死体が歩いてたり骸骨が剣と盾を持って襲って来ても何ら不思議じゃないのだから。


そんな事を考えているとギルドに到着した俺たちはレイミーの冒険者登録を手早く済ませると掲示板に貼り出されている近隣の森から薬草採取の依頼書を持ってカウンターにいるお姉さんに承認してもらう。

道具は一式既に持ってきていたから俺たちは早々に村を出て薬草が生えている森へと進んで行った。


目的地までは往復で1時間かかる。

片道だけなら今のレイミーでも行けるだろうが、採取を終えて再び村まで戻るというのは多分無理なので今夜は野宿確定コースなのはいうまでもないだろう。

だから無理に急ぐことなくのんびりと薬草採取が出来ると思っていたのだが……。


「ご主人?」

森に入って薬草が沢山生えている場所に向かって歩いていたが、突然足を止めた俺にレイミーが不思議そうに顔を覗き込んでくる。

それもそのはずだ。この森は幸人達と半月とはいえ毎日足を運んだ訓練場のような場所だ。

当然全てとはいかないまでも何処に何があって何が生息しているかなどは熟知しているつもりだ。

だからこそこの些細な違和感ーー血の匂いーーにいち早く気づく事が出来た。

「俺から離れるなよ。何かいるぞ」

そう言って腰のマチェットに手を伸ばしてゆっくりと抜くき横ではレイミーも採取用の小型ナイフを握りしめている。


本当ならここで引き返す方が正解なんだろうが、もしかしたら負傷したハンターが動けず助けを求めているのかもしれないからだ。そうでなくても既に死んでいたとしても亡骸は拾ってやらないといけないし、その

ハンターを殺した獣あるいは魔獣は殺さなければならない。

下手に放置してこんな森の近郊で巣を作られたら後々大変な事になりかねないからだ。

ゆっくり歩みを進めて血の匂いがする森の奥へと進んでいく。


歩き出してしばらくたつと少し開けた場所に出てそこで野営の痕跡を見つけた。

燃え尽きた焚き火の周囲には大きさの異なる四つの足跡が焚き火を囲むように残っていた。

足の大きさからして三人は男のもので間違いないだろう。残りの一つは間違いなく女性だな。

この世界の靴は文字通り皮の靴で、地球では一般的な靴のように底に滑り止めのような溝が無い。だから足跡を見つけるのも一苦労な上に草の生えた草原では踏みしめられた草が元に戻って足跡を消してしまうから厄介なのだが、今回は少し違うようだ。


三人の靴は踵がついてかなりしっかりとした作りの靴……いやブーツかもしれないがこの世界のブーツは主に女性の物をだけで値段もそこそこいい値がする。だが足の大きさは成人男性の平均かそれよりも少し大きいくらいなので、このサイズの靴を作る。または買うとしたらかなりの額になるだろう。

それらを考えるとこんな物にまで金を回せるだけのある最低でも黒の上位ハンターかどこかのボンボンに違い無い。まぁ後者はありえんと思うがな。

村まであと少しなのに馬車も使わずこんな森の中で過ごす意味が解らんからだ。

次に女性の靴だがこれが本気で解らん。まだ皮靴が残っていたら納得もしたのにこいつはどこからどう見てもハイヒールだ。

(わけが解らん。何で森でヒールなんぞを履く必要がある?!この世界の貴族は本気で馬鹿なのか?!)

そりゃ不思議の国のように森の中でお茶会が開かれているというのであれば多少のおめかしをしてもおかしくはないが現実でそんな事をする馬鹿が一体どこにいるってんだよ!


ちなみに貴族と断定した理由はハイヒールのような靴は一足で五人家族が慎ましく暮らせば普通に1年くらいは何もしないで生活出来るくらい馬鹿高いからだ。当然そんな物を買う事が出来る金は平民にはまず一生涯不可能だし仮に商人・大商人くらいにならないと無理だ。

つまり消去法で考えると貴族あるいは王族しかいないということになる。

心の中で激しいツッコミを入れながらも俺は横で不思議そうに見るレイミーに一つずつ丁度いい機会なので説明していった。


次に周囲の草木などを見てこいつらがどこから来て何処に向かったのかを調べていく。


とは言っても足跡で大体の予想は着いたのだが、この四人は街道の方から森の中へ入り込むと森の奥へと進んで行ったようだ。でも何故?

すぐに予想出来たのは街道を進んでいる最中に何かに出会し逃げるように森の中へ入り野営をしたが、そこでも何かに出会して逃げるように森の奥へと入り込んでしまった……そんなところだろうか?

だがまだ解らない。一体何に出会したんだ?

念のため焚き火の周囲約10mを調べてみたが彼らの物以外何も痕跡を見つけられなかった。

第三者の足跡も、獣や魔獣の痕跡も何一つ見つけられなかったのだ。


「はぁ、わけ解らん……ん?」

何気なく上を見上げるとそこに木の枝に引っかかった黒っぽい布の切れ端を見つけた。

高さ的には3m程の位置だろうか。

「悪い、ちょっとここで待っててくれるか?」

「え?あ、はい!」

そう言って一言断ると俺は跳躍して木の上に飛び乗り布の切れ端まで辿りつく。

手にとってみるとそれは何処にでもあるような……言ってしまえばい服の素材よりもヤグそうな布だった。

そしてよく見るとその布のには獣のような毛がくっついている事にも気がついた。匂いを嗅いでみると酷い悪臭と共に覚えのある匂いがした。

「……バロ?」

そうだ、悪臭は別の物だがこの布からはバロと同じ匂いがする。

でもどうしてこんなところに?とそんな疑問を浮かべながら他にも何かないかと探すと布のあった近くの枝が折れている事と土がついた太い枝を見つけた。


「何かありましたかー?」

下からのレイミーの呼び声に返事をするとそこから飛び降りてレイミーの側に着地する。

「あぁ、布の切れ端と枝に誰かが乗っていた痕跡があった」

「布?ご主人その布見せてくれませんか?」

「めっちゃくちゃ臭いから匂いは嗅ぐなよ?」

「嗅ぎませんよ!っていうか何で嗅いだんですか!」

「……そいつから微かだがバロと同じ匂いがしたんだよ」

「え?!」

顔を真っ赤にして怒っていたレイミーがバロの名前を聞くと表情が固まり、次に真剣な顔つきになった。


「ご主人。一旦村に戻りましょう!」

「は?」

「恐らく……いえ、間違いなくこの先にいるのはゴブリンの群れです。ゴブリンは知性が高くて群れを成し、武器を使って襲ってくるのですが、単純な力比べでは人間の子供と殆どの変わりません。

ですが稀に自分たちよりも遥かに強大な獣を飼いならすことがあるんです。

方法は解りませんが、そういう手の中には魔法を使うゴブリンすらいると報告されています。もし今回魔法を使えるゴブリンがいたらまほうが一切使えないご主人では危険です!一旦村に引き返しましょう!」


なるほど、そういうことか。

バロを使役し魔法を使い群れをなす……確かに厄介な相手だが何だろう、この違和感というかどうしても飲み込めない感じは……。

俺は元々ゲームはそれ程しないので詳しくは言えないがゴブリンっていうとファンタジーゲームとかで一番最初に現れてチュートリアルで殺されるモンスターだよな?

そんな相手にここまで警戒心を剥き出しにするのは現実じゃめちゃくちゃ手強い相手だということなのだろうか?

だとするとレイミーを連れた状態で赴くのは危険か……仕方ないここは一旦村に戻ってレイミーを置いてから戻るとするか。幸いにもあと二時間もすれば日が沈むしな。


「解った。それじゃ一旦村に戻るが俺はお前を村に置いたらすぐに戻るからな。知性があるってことはすぐに捕らえた獲物を殺す事はないだろうが、時間の問題だろうからな」

「そんな!せめて他のハンターさんも連れて行かないと……」

「それはダメだ」


反論しようとするレイミーに短くそれを拒絶する。


「良いか?冷静に考えろよ、俺は吸血鬼だ。確かに魔族として通しているがこの世界の奴らにとっちゃ俺は『敵』なんだ。

まだ何の力も持ってない俺がその事がバレたら殺されるか殺しに来る奴らを殺し尽くすしかなくなっちまう。それだけは絶対に駄目だ。

そうならない為には誰の手も借りず俺一人で片をつけて片付けるしかないんだよ」


目撃者を殺して口封じをするなんてマネは絶対にしたくないが、もしも矛先がレイミーや幸人に彩女、それにアニやコロナに向けられるとしたら間違いなく暴走するだろう。


その事をすぐに理解したレイミーは、それでも何かを言い返したくて口をパクパクとさせやがてようやく言葉を見つけたように口を開く。


「だったら……そう、だったらご主人が行かずに他のハンターさんに任せたらいいじゃないですか!」

必死に訴えるレイミーに頭を撫でて黙らせると両手に抱えて村のある方へと走り出す。

「確かにそれも一つの手ではあるんだが……」

走りながら先ほどの問いに答えていく。

「この村には黒レベルのハンターが今は俺しかいねぇんだ。そんな奴が下の奴らを追いやってギルドで踏ん反り返ってるなんて事は許されねぇんだよ」


もしそんな事をしたら後から後ろ指を刺されるのは火を見るより明らかだ。

その事を踏まえて話すが、レイミーは今ひとつ納得してくれず口をへの字口にしたまま黙り込む。

「そんな心配するなよ。お前の主人は魔法こそ使えないが、それほど弱くねぇしかつてはこの世界に全てを敵に回した吸血鬼様だぞ?だからたかだかゴブリン程度でそんなに心配するな」

若干冗談交じりに笑いかける。

本当のところはこの世界のゴブリンが如何程の力を持つのか不明な為この発言は危険極まりないのだが、心配するレイミーを落ち着かせるには仕方がない。


10分程で村まで戻ると俺はレイミーを下ろしてギルドに向かうよう伝えた。

「それじゃ俺は森に向かうからお前はギルドに戻ってゴブリンの事を伝えてくれ」

「はい……どうか気をつけて下さい」

片手を上げて答えると俺は再び森の方へ走り出した。

今度はレイミーを抱えていないお陰で先ほどよりもずっと早く走る事ができたが、いかんせんまだ陽が昇っているせいか本調子と迄は行かず、以前逃げる貴族を追いかけた時のような速度は出せなかった。

それでも原付程度の速度は出ているのだから普通の人間では目を疑う光景には違いない。


さて、なんだかんだとレイミーには一人で向かう事を言ったのだが、それには当然理由がある。

確かに吸血鬼である事がバレるのには問題があるが、それ以上にどうしてもある実験をしたくて堪らなかったのが本音だ。


その実験とは昨晩バスガルドから受け継いだ力『記憶の産物』を使ってみたいという欲求からなるものだ。

発動の条件としてはこれから吸収する命を糧に俺の記憶内にある道具などを実体化させるというものだ。

ただこれはバスガルドから聞いた事だけなので詳しくは解らないままなのでこれから検証する必要がある。


まず最初に検証するのは吸収した命は人……つまりは人間以外のものでも可能かどうかという事だ。

力、この場合は能力と言った方が良いか。それを行使する度に人を殺さなくてはならないとしたらこれ以上の欠陥品はないからな。もし不可能であれば俺は迷う事なくこの力を封印する必要がある。

次に一つの命でどの程度までなら再現可能なのかという事だ。


例えばこれから殺すゴブリン一体分の命で銃。今回はハンドガン程度にしたとしてそれがどこまで再現されるかを知る必要がある。銃一丁で一つの命を消費するとしてそれに装填される弾丸の数はどうなるのかという事だ。

もし銃本体は一つの命で消費できたとしてもそれに装填される弾丸一発でまた新たな命を一つ消費するようでは割に合わないし効率も悪く弾倉一つでどれだけ血生臭い思いをするかわかったものではない。


その他にも命一つでどんなものまで再現出来るのかとか規模や大きさなどなど事細かく知る必要があるのだが、ここで一気に説明するのも面倒な上に絶対に説明くさ過ぎる話になるのでこれ以上はやめておく事にする。


まぁ何にせよこれらを知る上で行動するにはやはり一人で行動した方が何かと都合が良いのだ。

レイミーの精神衛生上にとっても、俺にとっても。

知らなくても良いことをわざわざ知る必要はないのだ。



森に戻ってから約一時間。

ようやくゴブリンの住処らしき場所を見つけた時は既に陽が沈みかけて空がオレンジ色になっていた。

ゴブリンの住処は周囲を太い木々に囲まれた洞窟の中だった。

洞窟の前には小学生くらいの身長をした緑の肌をして手には棍棒やボロボロの剣を握ったゴブリンが二体と自身の身の丈ほどある杖を持ち黒いローブを身に纏うゴブリンが一体おりそのすぐ側にはバロが控えている。


ーーアレがゴブリンか……なんつーか、イメージ通りというか期待を裏切らないというか。……醜いな。


生まれて初めて見たゴブリンの感想はその一言だった。

確かに姿形は人間に近いものがあるが、その顔は『醜悪』という言葉をかき集めたような悍ましい顔をしていた。おまけにコレは体臭なのだろうか、洞窟の周囲からは俺が風下にいることもありドブのような異臭が微かに鼻につく。

きっと彩女がいたら鼻を抑えて涙ぐんでいたに違いないくらいの異臭だ。


洞窟を発見してから俺はすぐに行動はせず、陽が完全に落ちるのを待ちながら周囲に他のモンスターなどが居ないかを確認する為洞窟の周囲50mを散策したが、何処にも他のゴブリンがいない事と罠の類がない事を確認出来たので後は陽が落ちるのを待つばかりだったのだが。


「……気づかれたか?」


一匹のゴブリンが洞窟の前から離れ此方に近付いてきていた。

だが特に警戒している様子も武器を構える様子も見せないのでしばらく観察していると、どうやら薪を集めに来たらしい。俺のいる場所から右手側にあった枯れ木の下から落ちた枝を拾い集めている。

洞窟前にいる他の二体も特に気にした様子もなく会話?をしている。


「チャーンス♪」

こんな美味しい機会を当然見逃す筈もなく、俺は匍匐前進で薪を集めているゴブリンに近づくと小石を拾って反対の草むらに投げつけわざとガサッと音を立て注意を其方に向ける。

「ギィ?」

音に反応したゴブリンが投げた石の方を向いた瞬間。俺は中腰になって声を出す暇を与えないように喉を切り裂き喉笛を切断する。

「?!」

倒れたゴブリンはヒューッヒューッと喉から空気が漏れる音を鳴らし、口から湧き出る自分の血で窒息&出血多量でものの30秒程度で絶命した。その間に他の二体と一匹に勘づかれるか心配だったが、そんな事もなく未だ会話に夢中になっている。


さて、問題はこいつの血を吸わないといけないんだが……臭いんだよなこいつら。

近付いた時から解っていたが、ゴブリンには清潔にする習慣がないらしく鼻が曲がるとまではいかないまでも相当な悪臭が漂っていた。最早こいつらを吸うならドブ水を飲んだ方が良いとさえ思えてくる。


そんな事を考えていると、不思議な現象が起きた。

何かを念じたわけでもないのにゴブリンの喉から流れ出ていた血が突如そこだけ無重力にでもなったかのように中空に漂い丸い球体となったのだ。

俺は呆然とその光景を見るしかなかったが、不思議と驚きはしなかった。

まるでそうなる事が解っていたかのように。

まるでそうなる事を知っていたかのように。

そして次はどうすれば良いのかが手に取るように解っていた。


俺は両手にその血の球体を包むと極自然な流れ出で球体をーーパンッと閉じて合掌する。

手からは水でも叩いたような感触が伝わり、同時にそれが手の中に吸収される感じがした。

本当に不思議な感覚だった。

吸収し終わるのと同時に見た事もない光景が脳裏に浮かんだからだ。


ーー敵は前方の二体と一匹。洞窟内には杖持ちが二体と剣持ちが三体。棍棒が五体。最深部に捕虜が二人。木の檻に閉じ込められてるな。


「こりゃ……いいね。おまけに実験も検証もせず作り出せるものが解るぞ」


あくまで感覚的な物なので上手くは説明できないが、ゴブリン一体で作り出せる銃はハンドガン。特にパーツ類の少ない回転式拳銃リボルバーしかどうやら実体化出来ないようだ。自動拳銃オートマチックもできなくはないが、その場合弾丸が作れなくなる。

弾丸のない銃ほど無意味な物はないからあえてオートマチックを実体化させようとは思わないので今回はリボルバーを実体化させようと思うが、それでも弾丸は6発+6発の系12発が限界なようだが……。

「まぁ、問題ねぇか」


俺は手を合わせたまま実体化させたいリボルバーを強く頭の中にイメージさせた。それに呼応するかの様に手の中が赤く光り出してゆっくり合わせた手を開いていくとそこにイメージした白銀のリボルバー。


トーラス・レイジングブルが出現した。

























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