第13話 驚愕 其の二
ーー俺は、かつて魔王に使えた番人の一人。吸血鬼バスガルドの生まれ変わりなんだわ。
その瞬間。俺たちの中でそれまで流れていた時間の感覚が止まったような気がした。
(え?……あ、ど、どういう……ことですか?)
震える声でレイミーが聞き返してくる。
その声にはさっきまでの恥ずかしさを纏った声音はなく明らかに動揺しきった信じたくないという思いが込められている。
ーー気を失った時。俺はこの体の元の持ち主だったバスガルドと会ったんだ。そして、この体の使い方を教えてもらった。……何故俺がこの体に生まれ変わったのかは解らない。
でものこの体がかつて世界を滅ぼそうとした男のものだったことには違いないし俺が吸血鬼だという事実は変わらない。それでもまだ好きだと言ってくれるか?
パチパチッと焚き火が燃える音だけが聞こえ、しばらく無言の静けさだけが流れているとレイミーの盛大な溜息が聞こえた。
(はぁ……何を言ってるのですかご主人。
例えご主人があの吸血鬼の生まれ変わりだったとしてもご主人はご主人じゃないですか。それで私が嫌いになんてなれませんよ)
怖いけど……それでも勇気を振り絞って出した声音でレイミーはまるで俺を安心させるかのように告げてくれた。
そんな気遣いを嬉しく思いながら一言。ありがとうと礼を告げた。
「おまたせしましたぁ〜……ってどうしたんですか?凄い笑顔ですけど良いことでもあったんですか?」
会話が終わると同時に見計らったかのようなタイミングで
水袋を持ったフォルスが戻ってきた。
俺は何でもないと言うと水袋を受け取って渇いた喉を潤そうと一気に水を流し込む。
ぽちゃぽちゃとお腹から音が鳴りそうな程水を飲むと残りのメンバーはどうしたのかを尋ねる。
「ドルトさんは薪を拾うついでに少し狩りをしてくると言って出かけてます。リグルさんとエレックさんはレッドフォースを届けに村に戻っていますよ」
「狩りって、もう夜だぞ?」
野生の動物は基本的に夜行性だから昼間よりも獲物が活発に活動していてもなんら不思議じゃないが、それでも夜は周囲が見え辛い。
いくらハンター経験が長く夜目が利くからといってそうそうに狩れるものではないと思うんだが……。
「はい。昼間に罠を仕掛けたものですからたぶんそろそろ帰ってくるんじゃないですかね?」
昼に罠を仕掛けて夜にはかかる獲物……?
一体どんなマヌケな獲物がかかっているのか気になるところではあるが、もうすぐ戻ってくるということなので追及はしないでおこう。
「それじゃあの馬車に乗ってた連中は?」
「あぁ、彼らなら……」
「おーーい!戻ったぞー!」
フォルスの言葉を遮るように少し離れたところからドルトさんが片手を上げて声を上げてくる。
距離があるせいでハッキリとは見えなかったが、視覚をサーマルモードに切り替えてついでに望遠にしてドルトさんのもう片方の手に持っているのを見ると中型犬サイズの獲物を持っているのが見えた。
……本当に罠にかかってたんだ。
感心して見ているとドルトさんが焚き火の側まで来るとようやく何を持っているのかが解った。
中型犬サイズのすばしっこそうな痩せ型で4本足。
ウサギのように長い耳をして猫のような目と髭を生やしたその獲物は愛玩動物にも見えたが、その口を開くとノコギリよりも凶悪な歯を生やしていて一瞬にしてその考えを否定させる。
「おぉ!目が覚めたか、良かったな命拾いしたようで」
「はは、お陰さまで……それよりどうしたんですか?それ」
「ん?こいつか?いやぁ〜、餌が良かったのか一匹食らいついてたから仕留めてきたんだ。
食うか?お世辞でもそれほど美味くはないが、携帯食に比べたら遥かにイケるぞ!」
そう言いながらもドルトさんは慣れた手つきでその猫のようなウサギのような何かを手際よく木に吊るして血抜きを済ませると皮を剥いで肉を解体していく。
あまりの手際の良さに感心してしまうが、それよりも流石に何の肉なのかは聞いておいても良いだろう。
「あの、ドルトさん。その獲物はなんていうんですか?」
「知らんかったのか。こいつはクリーンっていう屍漁りの森の掃除屋だな。その辺に死骸を置いて罠を仕掛けて置くと簡単にかかってくれる新米ハンターにはうってつけの獲物なんだ」
へぇ〜、そんな獣もやっぱりいるもんなんだなと感心していたが……おびき寄せる死骸はどっから調達したんだ?
「あの〜、一つ聞いても良いですか?っていうか聞きますね。昼間の馬車に乗ってた人達は……」
「あぁ、レッドフォースの酸に殺られて死んでたが弔うことなく死体はこいつをおびき寄せる餌として役立ってもらった!」
グッと親指を向けてくるドルトさんに一瞬ポカンとしてしまったが、すぐに俺も笑ってグッドポーズを返してやる。
「いくら逃げるためとは言え娘くらいの歳の子を走る馬車から手枷を付けたまま放り出すなんて許される事じゃねぇからな」
「はははっ安心して下さい。たぶん僕でも同じ事をしていましたから」
そう言って笑いあう俺たちのをフォルスは一人「それで良いのかなぁ〜」といった感じで引きつった笑いを浮かべている。
どちらが異常でどちらが正常な反応なのかと聞かれたら答えるまでもないが、俺はそれで良いと思うから何も言わないでおく事にした。
ちなみに焼かれたクリーンの肉は軽く塩で味付けをしたんだが、確かにお世辞でも美味いものではなかった。
パサパサとした食感に時々酸っぱい味が広がったが、携帯食に比べると美味かったので俺たちの夕食はそれで済ます事になった。
☆
その頃。
一足先にコウスケが助けた子を抱えてサウステン村まで辿り着いた幸人は門番から高位の治癒魔法が使える魔法師を紹介してもらい教会へと足を運んでいた。
とんがり屋根をした西洋教会に似た建物に駆け込むと黒色の修道服を着た神官に駆け寄る。
「突然すまない!この子を助けてくれないか?!」
「これは……急いでこちらに運んで下さい!」
神官は抱えた子の容体を見るや否や祭壇の奥にある別の扉を開き進んでいくと、そこは保健室のようにベッドが3つほど横に並んだ場所に案内された。
俺はその一つに抱えていた子を寝かせると、神官は慣れた手つきでその子の服を丁寧に脱がして行き両手を翳して何事か呟く。
「『水の精霊よ。汝の聖水でこの者の傷を癒したまえ』」
呪文らしきことを言い終わると神官の翳した両手から水のような液体が青色の光と共に流れ出てその子の全身を包みこんでいく。
まるで無重力で水を流したかのようにその子の全身に水がまとわりつくと再び青色の優しい光りを発すると俺は自分の目を疑った。
酸でドロドロに溶けていた皮膚が瞬く間に治癒していくのだ。
しばらくそのあまりにも神秘的な光景に見惚れてしまっていると治癒が終わったのか全身を包んでいた水は光りと共にキラキラと輝きを放ちながら消えていった。
流石に完璧とまではいかなかったらしく損傷が酷い部分は跡が残ってしまっているが、それでも皮膚の再生は殆ど完璧に終わっていた。
時間にして5分もかかっていないだろうが、それでも治癒魔法は相当な精神力を使うのか神官さんは額から大粒の汗を垂れ流していた。
「ふぅ……これでもう大丈夫でしょう」
「ありがとうございます。今は持ち合わせが少なくこれしかお渡しできませんが、どうかお納め下さい」
そう言って俺は銀貨を数枚神官さんに手渡す。
「謝礼金としては十分過ぎるくらいです。ですが、有り難く受け取らせて頂きます。……ところでこれ程の怪我は私は殆ど見たことがありません。一体何を狩られたのですか?」
「三匹のレッドフォースの群れです。その子は群れに襲われていた馬車から投げ捨てられたのですが、酸の雨に降られ続けたのです」
「なんと!!レッドフォースの群れですと?!」
神官はこれ以上ないくらいに驚き声を荒げる。
やはりレッドフォースはかなり危険な魔銃らしい。
「失礼ですが、貴殿のハンターレベルはいくつなのですか?まだかなりお若いように見えますが……」
「自分はまだハンターになり立てたばかりです。レベルでいうと1になります」
その答えに神官は更に驚いてワ◯ピースのエ◯ルみたいな顔になった。……すげぇ、リアルにこんな顔するやつ初めてみた。
「あ!兄ちゃんどうしたの?凄い声聞こえてきたけど」
「彩女?何やってんだこんなとこで?」
入ってきた扉が開かれたかと思うとそこには彩女とアニとコロナが立っていた。三人には確か魔獣に関する資料集めを頼んだはずだったが……。
「ギルドに行ったら魔獣について詳しく知りたいなら教会に行った方が良いと言われたからここに来てついでに魔法適正ランクも調べてもらったんだ♪」
あー、そういやここで調べられるんだっけ?
俺もやってもらおうかな。
「兄ちゃんこそどうしてここにいるの?」
「あー、話せばちょっと長いんだがこの子を助ける為に先に俺だけ帰ってきたんだ」
そう言ってベッドで眠るその子を見ると彩女たちもつられて視線を移す。慌てて来たから殆どその子の容姿を見ていなかったが、改めて見ると整い過ぎている容姿のせいか男の子なのか女の子なのかすぐに判断出来なかったがスラットした体躯から恐らく女の子だろう。
というのも髪型がボーイッシュな感じで切り揃えられているから真相は解らない。
単純に生殖器を見れば一目瞭然なのだが、流石にそれは気が引けるので止めておこう。
あと耳が尖ったように長いことから神官さんが亜人種族エルフ族の子だと教えてくれた。
「んむ?……(トコトコ……チラッ)」
「何してんだよ!」
突然彩女がその子の顔をマジマジと見たかと思うと徐にそれまでシーツで隠していた下腹部をバサッと開いて確認し出したので思わずノリツッコミ的な感じで頭を叩いてしまう。
「痛ッ!!何すんのさバカ兄!」
「バカはお前だ!いきなり何してんだよ?!」
「だって可愛い過ぎてて性別がわかんなかったんだもん!仕方ないじゃん!」
「だからっていきなりすんのは止めろ!ビックリするだろ!」
見ろ!
神官さんなんてリアクションに困ったような顔してんぞ!アニとコロナに至っては微妙な笑顔しか向けてねぇし!
「はいはい、すみませんでしたぁ〜。それより兄さんはさっさと魔法適正ランクを調べてもらったらどうなの?
あとはあたし達がやっとくからさ!」
そう言って彩女は邪魔者でも見るかのような顔をして片手でシッシッとやって来る。
若干腹が立ったが、確かにここにいてもする事もないのは事実だから俺と神官さんは早々に部屋を出て行って最初に入った礼拝堂へと向かっていく。
「申し訳ありません。粗相のない不出来な妹で……」
「い、いえ。確かに驚きましたが……ここへ来た時から礼儀も正しくとても良い妹さんでしたよ」
「そう言って頂けると幸いです。ところで先ほど妹も言っていたようによろしければ自分の魔法適正ランクも調べて頂けないでしょうか?」
「えぇ、良いですとも。どうぞ、こちらへ」
礼拝堂に着くと祭壇の上へと案内されてそこの壇上の上に置かれていたボーリング大の水晶球に手を翳すように言われた。
「そうそう。言い忘れておりましたが、妹さんの魔法適正ランクは実に素晴らしいものでしたよ。きっと兄である貴方もそれと勝るとも劣らない結果となるでしょう」
「はは。解りませんよあいつはあいつであって自分は自分ですからね……それでは行きます」
社交辞令とでも言うようなセリフを残すと俺は神官さんに言われた通りに水晶球へ手を翳すと水晶球は赤と黄と緑の信号機のような強い輝きを放った。
あんまりにも輝きが強いものだから薄暗い部屋で携帯のフラッシュが光ったときのように一瞬目を背けてしまう。
だが、一向に輝きは落ちる事がなかったので翳していた両手を下ろすとそれと同時にコンセントを抜かれたスタンドライトの如く輝きは消えてしまった。
良かったのかな?と疑問に思いながら神官さんを見ると……なんというか『開いた口が塞がらない』という言葉をそのまま体現したかのようにポカーンと口を開けて目を見開いている。大丈夫かな?
「あの……神官さん?」
「ハッ!し、失礼しました。いやはや、まさかとは思っていたのですが、本当に妹さんと同じだったとは……長生きはするものですな。
貴方の魔法適正ランクは妹さんと同じA級です。そして火・風・雷の三つの魔法を得意とするようですな。
ちなみに妹さんは水・土・風でしたよ。見た所全く違う種族のようだというのに兄妹というだけあって二人揃って風魔法が得意だとは……何とも面白いものですな」
「そうなのですか?自分にはよく解りませんが……まぁそれだけ自分たち兄妹の絆が強いということなんですかね」
「ほっほっほ!兄とはいつまでも妹を想い、また妹もいつまでも兄を想うものだと言いますからな」
まさか軽い冗談のつもりで言ったはずなのにこうも担がれると流石にちょっと引いちまったぞ。
ひょっとしたらこの世界での兄妹ってのは家族以上恋人未満とかいうわけのわからん謎設定なのかもしれんな。気をつけよう。
そんな事を一人もんもんと考えていると神官さんが、さてっと言って話を切り出した。
「アヤメさんにも話したのですが、貴方も我々教会の者が営んでおります魔法教会学園へ行ってみては如何ですかな?」
「魔法教会学園……そこへ行った時の美点を教えて下さいませんか?」
「えぇ、もちろん良いですよ。どうぞこちらへ。ちょうど良い頃合いなのでお茶でも飲みながらアヤメさんたちにも聞いていただく事としましょう」
遅かれ早かれ魔法教会学園には一度足を運ぼうと思っていた事だからな。ここでその学園について多少なりとも聞いておけば損はないだろう。
最初の保健室のような部屋に戻ると彩女たちは時折濡れた手拭いを絞ってエルフの子の額に乗せたり汗を拭いたりとお世話をしていたが、ちょうどひと段落したところで三人を連れて隣の応接間のような部屋へと案内された。
応接間といっても簡素な作りで部屋の中央に腰の低い丸テーブルとそれを挟むように長椅子が二つ置かれているだけの部屋だった。
他に目新しいものはないかと思い部屋の中を見渡すが窓辺の近くに茶器などの備品が置かれているだけで特に変わったものは見つからなかった。
神官さんに勧められるように椅子に座っていくのだが、流石に一つの長椅子に四人が座るのは無理があったのでアニにはお茶を入れ終わった神官さんの隣に座ってもらった。
「さて。それではご説明させて頂くとしますかな。
まず、魔法教会学園とは5年間の魔法に関する教育を受け優秀な魔法師を育てることにあります。
ハンター同士の交流の中でも魔法を学べることはできますが、恐らく一生涯かかったところで中級魔法を2〜3個習得できればいい方だと思います。
それに対して学園では最低でも卒業時までに高位魔法を二つ以上習得しなければなりませんからこの時点で質の違いが歴然となります。
次に学費やそこまでの交通費。そして学園生活中の衣食住の面倒は魔法適正ランクがA級であるお二人は免除されて全て国が負担することとなっております。
残念ながらB級のお二人にはそのようなことはありませんが、初めからB級の方は伸び代があるということで入学費と交通費は免除されます。
そしてB+級になったとき学費がそれまでの半額となり部屋は個室が与えられるようになっています」
そこまで話すと神官さんは喉が渇いたのかお茶を一口飲む。
その間に俺は簡単に頭の中で神官さんの話を整理していく。俺と彩女は最初からA級の魔法師だからかなりの優遇がされるが期待できるが、アニとコロナは少し苦労することとなるだろう。まぁ扱いとしてはもっと下の人もいるのだろうからそれを考えればまだマシか……。
「一つ聞きたい。学園に滞在しているときに自分たちは国が負担してくれるということだったが、この子たちの場合はどうすれば良いんだ?」
「学園内にもギルドがあります。といっても危険度が低い採取系のものばかりだと聞きましたが、それでも数があるのでそれで生計を立てる生徒も少なくないようです。
他にも魔法教会学園は街の中にあるので飲食店などで働きながら通う生徒もいると聞いております」
ふむ……意外と暮らす分には問題なさそうだな。
何か問題があれば俺と彩女が二人を手伝ってやれば良いから何も問題ないだろう。
後はコウスケだけなんだが、共に地球からきたわけだし何の問題もなく俺たちと同じA級になるだろうが、万がいちBまたは−B級だったとしてもあいつなら鼻歌交じりに付いてくるだろうから心配はいらないな。
「あぁ、それとA級のお二人はギルドにその事を報告するとハンターの登録料は無料になりお金が返ってきます。
そしてハンターレベルも初めから3……つまり黒からのスタートとなりますので」
「それはまた……A級とは随分と重宝されているのですね」
「当然です。世界全てを見渡しても恐らくA級の魔法師は100人は居ないでしょうから優遇もされるというものです」
貴重な戦力にもなりうる魔法師をミスミス手離さないためにもこうして甘い蜜を垂らして縛り付けて置きたいんだな国は。
……全く。軍人仕込みの俺たちが言うのもなんだが、本当腐ってやがるよなぁ〜。こういう政治とか軍事関係の事となると。
まぁこれも世界のバランスと均衡を保つためだと考えれば仕方のないことかもしれんが、気にいらねぇことには変わりねぇから愚痴を零す。
「色々とありがとうございました。
一度仲間の一人と相談してから決めたいと思います。
あ、それと明日はあのエルフの子よりかは大丈夫ですけど同じようにレッドフォースの胃酸を浴びた奴を連れてきますので」
そう言い残して俺は席を立つと神官さんは口をポカンと開けて貯金箱みたいになっている。
今日何度目なのかは解らないが、間違いなく1日でビックリした数ナンバーワンの日となったことだろう。
部屋を出ると後ろから彩女がすぐに追いかけてきた。
アニとコロナにはエルフの子に付いててやるよう言ったのかその後ろには誰もいない。
「兄ちゃん。さっきの話ってひょっとしてイガ兄のこと?」
そんな睨まんでもいいだろう我が妹よ……兄ちゃんちょっと悲しいぞ?隠す気なんてないしここで聞かれなかったら宿にでも戻ったときに話そうと思ってたんだからよ。
俺は半ば嫌な感じを察しながらも質問に答える。
「あぁ。あのエルフの子を庇うために酸の雨を浴び続けてたが……どうやら不死身というだけあって酷い火傷だったが、かなりの速度で治癒していた。
あの様子なら明日には体を動かすくらいは問題ないはずだ」
「そっか……なら良かった」
安堵の溜息を付くと彩女はクルッと身を翻して来た道を戻ろうと反転する。
「俺はギルドに寄ってから先に宿に戻ってる」
「ん。ならあたしはもう少し魔獣に関して調べたら神官さんとエルフの子をどうするか話してから宿に戻るね」
互いに確認を済ませると俺たちは早々に別れて俺は教会を後にした。
☆
外に出ると空は赤み掛かった夕暮れ時だった。
行き交う人は農奴やハンターといった1日の仕事を終えて酒場か酒場も兼ねているギルドへ向かうのが殆どだった。
俺は彩女に言った通りそんな流れる人の波に混ざるようにギルドへと足を運ぶ。
ギルドに着くと何やら入り口あたりから人が溢れんばかりに騒いでいたので喧嘩でもしてるのかと思い野次馬魂に火が付いて人混みを掻き分けて先頭に出ると……ちょっと後悔した。
喧嘩と思いわざわざ人混みを掻き分けていった先にあったのは赤い鳥。レッドフォースを三匹カウンターに置いていたリグルとエレックがいたからだ。
たぶん二人だけが獲物を引っ張ってここまで連れてきたのだろうがいくらなんでも早過ぎやしないか?
俺だって飛んで1時間程度で来たのは確かだしそこからさらに1時間ほど神官さんの話を聞いていたから距離を縮めたのは解るが、流石に早過ぎだろう……魔法でも使ったのかな。確か魔法適正ランクはBとか言ってたっけ、なら身体機能を上げる魔法でも使ったということだろう。
それなら納得だ。納得だが、面倒ごとに巻き込まれる前に俺は早々に立ち去るとしよう。下手に注目を浴びるのは御免だからな。
そう思って俺は来た道を戻ろうとした瞬間。ーーグイッ!
「うぉ?!」
何かに後ろから引っ張られて俺は逆らうことすら出来ず、人混みからスポーンッと抜け出す感じで転げ出る。
何だと思って視線を俺の服の襟首を掴む奴を見ると、何故か満面の笑みを浮かべるリグルさんがとエレックさんがいた。
「は、はは。どうも……奇遇ですね〜、こんなとこで会うなんて」
「おう!本当に奇遇だなぁ、そんでお前が仕留めたんだからしっかりギルドに報告しないといかんよなぁ〜??」
「うっ……はぁ、解りました。本当なら明日するはずだったんですけど……一体どうやって来たんですか?」
「あー、そういやお前さんにはまだ見してなかったっけ。補助系魔法の『身体機能強化』と『高速移動』を使ったんだ」
「へぇ〜、二つも同時展開出来るなんて凄いですね」
「そうでもないぞ。確かに同時展開はコツがいるし出来る奴は俺たちの中だと俺とエレックだけだが、燃費が悪いから滅多に使わないんだよ」
なるほど、すぐにガス欠するようじゃ確かに余りいいものではなさそうだな。今回みたいな短い距離を短時間で運ぶってことに関してはよさそうだが。
話を聞きながら俺は受付嬢さんとも同時に今回の狩りの報告をして、ついでに魔法適正ランクの報告もしようと思ったが、人が余りにも多いので俺は質問を変えて何時ころが人が一番少ないのかを聞くとお昼を過ぎたくらいだと教えてくれた。
礼を言うと俺は報告も済ませたことだし早々に宿に戻ろうとしたのだが、リグルさん達に捕まり帰してくれなかった……。




