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第12話 驚愕

「どこだここ……?」

真っ暗な世界で目が醒めると自分の姿だけがはっきりと見える不思議な世界にいた。

キョロキョロと辺りを見渡してもやっぱり何もない。

確かレッドフォースの胃液が降る雨から何とか逃れ、幸人にあの子を渡した所までは覚えているが、それ以降は記憶がない。

たぶん体力が持たなかったといよりも体が酸の激痛と熱さに耐え切れず、脳がショック死する前に防衛本能が働いて気を失ったんだろう。


ーー情けねぇ野郎だーー

「?!」

突然どこからともなくドスの効いた低い声が聞こえて辺りを見渡すが、どこにも誰もいない。それでも声は更に続いてくる。

ーー俺様の体をくれてやったんだからもっと上手く使えよーー

「誰だ?!偉そうなこという前に姿くらい現したらどうだ!」

どこに向かって叫んだら良いのか解らずとりあえず適当に怒鳴り散らすと突然目の前に赤い炎の玉が浮かび上がると……ボワッと燃えてそこから俺と全く同じ姿をした男が現れた。

「威勢だけは良いガキだ」

「……誰だお前。俺と同じ面しやがって、趣味が良いとはいえんな」

「ハッ!バカを抜かせ。お前が俺に似てんだよ」

そう言って同じ顔をした男は指を擦ってパチンッと鳴らした瞬間。


真っ暗だった世界から一転して暗雲昇る戦場へと切り変わり俺たちはその戦争が行われてる遥か上空にいた。

ただ、戦場といってもおかしな光景で一方は甲冑を着込み手には大剣やら槍やらを構えた何万もの軍勢に対して数人の種族がその前に立ちはだかるという明らかに無謀ともと

れる戦局が広がっている。

「ここは俺様がかつて戦った戦場(いくさば)だ」

それを聞いて脳裏にレイミーが話してくれた話を思い出した。

「……まさか『番人』の一人だったのか?」

「そうだ……俺様の名は吸血鬼バスガルド。

そしてあそこにいるのが貴様らのいう番人のメンバーだ。

魔狼のフェルミルト。

黒鴉のモーリス。

鬼神のシュテンドウ。

俺様達はかつて主の為に戦った。この世界をまとめる為にな」

「まとめる?まとめるってのはどういう事だ?」

「……それについては今は答えることができん。まだ時期じゃないからな。それよりも見ていろ。貴様に俺様の最も得意な技を教えてやる」


そう言ってバスガルドと名乗った俺と瓜二つの男は視線を戦場へと向け俺もつられて見ると甲冑を着た軍が動き出した。

それに合わせるようにバスガルド達も動き出した。

最初に動いたのは魔狼フェルミルトだ。

自分の姿を巨大な狼に変身させると軍勢に突貫していく。

その姿はこの世界に来る前に俺を……いや、俺たちを喰らった狼に似ていたが、毛色が違うしもっと大きかった気がしたからたぶん違うだろう。

次に動いたのは黒鴉のモーリスだ。

奴は巨大な黒い翼を羽ばたかせると両手に大槍を二本持って軍勢へと飛んでいく。

そして鬼神シュテンドウはマク◯ス並に身体を巨大化させるとゆっくりと前進していく。

最後に残ったバスガルドは一歩も動かないと思っていると、突然バスガルドの影が後ろに広がりそこからボロボロほ甲冑を着た兵士や農民。さらにはドラゴンや巨人なんかが次々と出現してきた。

その数は明らかに相手の軍勢の数を上回っている。


「なっ!なんだよあれ!?」

「あれが、吸血鬼である俺様の最大の技だ。

戦場でそれまで喰らい続けた人間や魔獣を己の一部として一気に出現させる『死の河』だ」

マジかよ?!これじゃ戦争なんてまるで意味がねぇ。

理不尽なんて生易しいもんじゃねぇぞ!


それでも戦局は動き続けるが、甲冑の軍勢は怯むことなく、臆することなく果敢に番人であるバスガルド達に挑んでいる。

ある意味賞賛に値する行動だが俺からしたら集団自殺以外何者でもない。

「理不尽だと思ったか?だがな、貴様は俺様以上の馬鹿げた状況を作る事が出来るんだぜ」

「……は?」

何言ってんだコイツ……?

これ以上の理不尽があるってのはどういう事だ?

呆気に取られるとかもうそんな次元の話じゃなく最早惚けて思考停止状態になっていると、よっほどのアホ面だったのかバスガルドは爆笑する。

「クッハハハ!まぁいきなり言われても解らねぇか!

いいか?よく思いたせよ。この世界に来る前に貴様はあのクソジジイから自分が望んだ力が与えられるようになってる。

それがどういうことか解るよな?」


「…………」

答えれなかった。

それはこの世界に来た時からずっと頭に引っかかっていたものだったからだ。

あの爺さんは言った「不死の力・望みの力・言葉を与える」と。

不死と言葉はすぐに解ったが、望みの力というのがもっと別の意味があるんじゃないかと今までずっと勘ぐってきたが、バルガスに言われてようやくその言葉の意味を理解した。


ーーあの言葉は本当にそのままの意味だったんだな。


そう思うとなんだか今までの自分がバカみたいに思えて笑えてきたが、同時にバスガルドの言った通り今目の前で繰り広げられている理不尽な戦局がより馬鹿げたものになる事が優に予想できた。

何せ、俺は地球から中世時代真っ只中の異世界へやってきた軍人仕込みの高校生だからな。

そんな軍事関係の知識が豊富な奴にチートみたいな力が加わり更に馬鹿と冗談が混ざり合ったような種族……吸血鬼の力も手にしているんだから下手をすればこの世界そのものを掌握できてしまう。

まぁ、興味ないからやらないけどね。


「ふん。理解したようだな。ならそろそろ目覚めの……」

頃合いを見計らってかバスガルドがこれ以上はもう何も言うまいと再び指を鳴らそうとするのを止めた。

「いや、待て。その前に一つだけ答えてほしい。

どうして俺にこの体の使い方と力のことを教えてくれたんだ?お前には何のメリットはないだろう」

バスガルドは手を止めて少し考える素振りをしてから

「貴様があんまりにも情けねぇことしてたからだよ」

と言って指をパチンッと鳴らされた。



目が覚めるとそこは夜空が広がる満点の星空で側には焚き火が焚かれてパチパチと薪が燃えていく音が聞こえてくる。

起き上がろうと体を起こすが「んぐっ!」全身に激痛が走って再び倒れ込んでしまった。

だが、それのお陰か近くに人が居てくれたおかげて誰かが駆け寄ってきてくれた。首はなんとか動くから駆け寄ってきた人を見ると確かフォルスとかいったっけ?

ドルトさんのパーティメンバーの一人が「大丈夫ですか?」と心配そうに顔を覗き込んできた。

「あぁ……どのくらい寝てたんだ?」

「半日ほどですかね。イガさんの容体が余りよくなかったものですから今日はここで野営することになったんです。近くに水場もありますから今水を汲んできますね」

「待て。幸人は……いや、それよりもあの子はどうなった?」


立ち上がって水汲みに行こうとしたフォルスを呼び止めると立て続けに状況確認をする為に尋ねる。

「ユキトさんはあの子を連れて先に村まで飛んで行かれましたよ。火傷の具合がイガさんより酷かったですからね。それでも生きてましたからイガさんが体を張ったのだけの事はありますよ」

と、簡単に状況を説明してくれてるとフォルスは水場の方へと駆けて行った。

取り残された俺は一応あの子が無事な事に安堵の息を漏らし枕代わりのザックに頭を沈める。


ーーふぅ……レイミー。起きてるか?

(もちろんです。ご主人)

ーー少し話しておきたいことがあるんだが、その前に一つだけ確認したい。……俺のこと好きか?

(んなにゃ?!にゃにをいきなりっ!)

あまりにも突拍子が無さすぎたかな?

普段クールな感じのレイミーが猫語に戻ってテンパっている。姿が見えないのが残念だが、顔を赤らめ目をぐるぐるとさせてる様子が目に浮かぶ。

普段ならからかい甲斐のある光景なんだが、流石に今回ばかりはそうも言ってられん。今後のレイミーとの関係を壊さない為にもこれには答えてもらわないと困る……別に意味深とかそんなんじゃないぞ!


(その……す、好きか嫌いかでいうと……す、好きです。ご主人ほど優しくて赤の他人であっても全力で、それも自分の命が危なくても助けようとしたりする姿を見てたら……嫌いになんてなれるはずないじゃないですか)


もじもじとした感じで教えてくれるレイミーに対して俺は純粋に嬉しく思った。

まさかそんな風に評価してくれてるとは思ってもみなかったからだ。

せいぜい死にたがりの自殺志願者程度の認識だとばかり思っていたからまさかこんな高評価を受けていたことに正直驚いた。だが、それ以上に嬉しくもあり少し話辛くなったのも事実だ。


ーーありがとう。そんな風に思ってくれてたとは嬉しいよ。でも、これから話す事を聞いたらひょっとしたらレイミーは俺の事を嫌いになるかもしれん。

(え?それはどういう……)

ーー俺は、かつて魔王に使えた番人の一人。吸血鬼バスガルドの生まれ変わりなんだわ。

そう言った瞬間。少しだけ時間の流れが止まった感覚を覚えた。



一方。時を遡る事しばし……サウステンの宿でイガ兄と兄を見送った彩女はイガ兄に頼まれた魔獣に関する資料集めをアニとコロナを連れて行っていた。

最初に訪れたのはギルドだった。そこでギルドの受付嬢さんから魔獣などが詳細に纏められている本がないかを尋ねると

「あるにはあるんだけど買う人なんか滅多にいないから私のお古で良かったらあげるわ」

といって少しよれた本をくれたが、内容は今のものと何も変わらなかったので有難く頂戴した。

お礼を言ってあたしたちは一旦宿に戻ろうかとすると受付嬢さんから「魔獣に関してより詳細に知りたかったら教会に行けば教えてくれるわ。ついでに魔法適正ランクも調べてくるといいかもね」と助言をしてくれたので教会に行くこととなった。


教会はどの町や村に行ってもその中心部にあることがお決まりらしく受付嬢のお姉さんに教えられた道を行くとトンガリ屋根をした「いかにも!」って感じの少し大きめの建物を見つけた。

ただあたしの知ってる教会にとは少し違うのも一目で解った。それは十字架がないことだ。

まぁ異世界なんだから当然といえば当然なんだが、それでも教会というからには何かそれらしいシンボルがあっても不思議じゃないのに建物全体を見渡してもそれらしいものは見つけられなかった。


疑問に思いながらも教会へと入って行く。大男でも頭をぶつけそうにないくらい大きな扉を開けると最初に目にしたのは100人くらいが入りそうな広い礼拝堂。

そしてその奥には祭壇らしき石造りの壇上とその上にボーリング大の水晶球が置かれている。

ここまでは地球にもあった教会とあまり変わりなかったが、本来イエス・キリスト様が掲げられている所を見て何で建物の外にシンボルマークがなかったのかを理解した。


そこにはイエス・キリストではなく赤→青→茶→緑→黄の五つの色が円形に置かれた彫刻があった。

しかもそれぞれ特性があるようで『赤は炎』『青は水』『茶は土』『緑は風』『黄は雷』と解りやすく描かれている。

(この世界の教会ってのは神を崇拝するものではなく、単純に魔法を崇拝、あるいは測定する為だけの存在……って事なのかな?)

そんな事を思っていると祭壇近くの扉が開き神官らしき黒い修道服のような格好をした老人が現れた。

あたしたちはそんな神官に一礼すると向こうも右手を胸あたりに添えて一礼してくる。

「突然来訪して申し訳ありません。そしてあたし達は辺境の土地で生まれ育った為ここでの作法が解りません……よろしかったら教えていただけませんか?」

「えぇ、いいですよ。まずは……」


神官は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐににこやかな笑顔を見せると快く教えてくれた。

どうやらハンターの殆どは魔法適正だけを知る為にここへ来るようなものなのでわざわざ作法などを教えて欲しいなんて滅多に人はいないらしい。全く無作法者は嫌われるんだぞ!

そんな事を思いながらも神官さんから一通りの作法を教えてもらうと今回来た目的である魔獣に関する資料集めをしている事と、魔法適正ランクを教えてもらう事を告げると


「本当に珍しい娘さんだ。わざわざ魔獣の生態を知ろうとするハンターは少ないというのに……」

「あたし達はハンターです。ハンターは命を狩りとる者でもありますが、それと同時に狩られる者でもあります。ならばせめて狩りとる相手の事をよく知り、敬意を払って狩りをするのが必然かと思った迄です」

「ほっほっ。まさかこの歳になってこんな気丈な信念をお持ちの娘さん……いや、ハンター殿に会う事になるとは思いもしませんでした。

本来ならいくらかお納め頂くのですが、貴女にはこれからも頑張って頂きたいので今回は特別ということで……どうぞ、こちらへ」


どうやらタダで魔法適正を測ってくれるらしい。有難い話だけど、帰り際に入り口の賽銭にいくらか入れていこう。

神官さんに言われた通り祭壇に上がるとボーリング大の水晶球に両手をかざすように言われ水晶球に触れると水晶球は突然ミラーボール並みの青と緑。それと紫色の輝きを放ち驚いて手を引っ込めると神官さんも目玉が飛び出すほどの勢いで驚愕の表情を浮かべていた。


「こ、これは凄い!!是非ハンター殿の名前を教えて下さいませんか?!」

一拍遅れて神官さんは物凄い剣幕であたしの両手を取ると名前を尋ねてきた。

別にそれだけならいいんだけど、流石にこの変わりようは正直引いちゃうかなぁ〜……なんて。

「アヤメ・シノハラです……あの、何がそんなに凄いんですか?」

とりあえず話を進めない事には何もできないので聞き返すと神官さんはハッと我に返り「し、失礼しました」と詫びを入れてきた。


「この水晶球は輝きによって魔法適正を測るのですがそれ以外にも輝く色によってその者の得意魔法を知る事が出来るのです。通常は一つの色で極稀に二つの色を伴う事があるのですが、三つの色が重なり合うなんて聞いた事も見た事もありません。

何よりあの光量……明らかに私が見てきたものの中で最上級の輝きを放っておりましたから間違いなくA級の魔法適正ランクがあります!」

確かA級といえば一握りの天才しか持ち得ない魔力量だったはずだけど……マジで?

あまりにも突拍子のない事実にポカンと口を開けていると横にいるアニとコロナも目を丸くしてあたしの方を見ていた。そんな中神官さんだけは年甲斐もなく大興奮状態に陥っている。

……何?このプチカオスな状態。


「ハッ!も、申し訳ありません。年甲斐もなくお見苦しい姿を見せてしまいました……アヤメさん。一つ提案があるのですがよろしいですかな?」

「提案……?」

「はい。実は当協会も営んでおります魔法を学び優秀な魔法師を育てる魔法教会学園があるのですが、そちらへ行かれてはみませんか?もちろん強制ではございませんが、一般で学べる魔法にはどうしても限界があります。貴女ほどの魔力の持ち主には私としましては是非とも行って頂きたいのです」


ふむ、確かに魔法が全てのこの世界で魔法に関して無知で居続けるのはよくない。

それに元々魔法適正がそこそこあったら少なからず行くつもりではあったからこの提案は有難いものなのだが……チラリと横目でアニとコロナを見ると少し心配そうな顔をしている。

きっとあたしだけがいなくなる事を心配しているのだろう。この件に関しては一度持ち帰ってイガ兄たちに相談しないといけないな。


「有難うございます。ですがあたしにはこの子たち以外にも二人の仲間がいますので、あたしだけが行くわけにはいきません。一度この話は持ち帰らせて頂いてもよろしいですか?」

「そうですか……解りました。もし行く事を決意したなら教えて下さい。招待状をお書きしますので。それではそちらの子達も魔法適正を調べてみますかな?」

「はい。お願いします」


そういってアニとコロナの魔法適正を測ってもらうとアニは黄色の輝きを放ち、コロナは赤色の輝きを放った。輝きから二人はB級だと判断されるとあたしのをみてからだったからか少し残念そうだったが、それでも自分には魔法の才能がある事が解ると嬉しそうに顔をほころばせていた。



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