エピローグ
エピローグ
イッカは目を覚ました。生きていることに驚き、現状を把握しようと、辺りを見回した。
湖は消えていて、河原で寝ていた。そこでようやく、自身の記憶と状況を把握し切る。
肩を抱き、しばらく震えていた。
イッカは立ち上がるなり、身に覚えのない記憶に、意識を潜らせる。
記憶の景色を強引に繋ぎ合わせ、頭の中でツギハギの道を作った。
やろうとしていることは、俗にいう瞬間移動というものだった。そして成功する。
消えては数百メートル先に出現する。
何度も移動を行い、たどり着いた目的地も、見たことの無い場所だった。ある街のはずれにある一軒家で、丁度、扉を開けて女の子が出てくる。
イッカは白いワンピース姿で、女の子の前に立った。麦わら帽も被る。
「猫塚、おねーちゃん……?」
その身体は、女の子の口から零れた名前の女性の、それだった。
イッカはただ一言、残して、女の子の前から溶けるように消えてみせた。
「ごめんね」
親戚の、それも仲の良い従姉が目の前で溶けて消えれば、間違いなくトラウマとなる。女の子は心に深い傷を負うことだろう。
イッカは、自身が俗世から離れた時の歳と、同じほどの女の子が、慟哭する様を目にしながら、残りの命を燃やし尽くした。
その様子を、屋根の上から観察していたオールバックの女子生徒が、泣き叫ぶ女の子を指差した。隣にいる辰巳に向かって言い放つ。
「さあ、殺すんだろう? やってみせろ」
「……」
辰巳は一度、銃口を向けたが、すぐに拳銃を消してしまう。
「結果は変わらん。さっさとやってしまえ」
「そんなことはない」
「苦しむのはお前だ。辛いのはあの子だ。まだ数人しか出会っていないが、どれほど過酷な運命を辿るか、お前は知っているだろう」
「どうしようもなくなったときだ。そのときになるまで待つ。彼女次第だ」
「案じてやっても聞きやしない。結局、全員、殺すんだろう?」
女子生徒を無視して、辰巳は屋根から降りた。
実家によってそれから、墓参りをして、寮を目指す。
街の信号機の前で足を止めた。雑踏の中に混じるのは、一度しか聞いたことのない鼻歌だった。