夢幻
貴方と過ごす些細な日常。
幸福な時間。
時が止まればいいとすら思える、この情動。
――為ればこそ。
為ればこそ、きっとこれは。
そう、あぁ此れはきっと胡蝶の夢。
そう、きっとそれは一夜の幻想。
私の描く理想郷。
でもそれは理想郷であるがゆえに。
現実にはならない。なれない。
貴方に恋をした。
今もそう。
貴方を思う胸の炎に抱かれ、焦がれ、燃え尽きて。
――今宵だけは、貴方に思いを巡らすのを許して欲しい。
私を蝕む甘い夢に、この身を委ねよう。
そう今宵、今宵だけは。
溺れるようなこの夢幻に揺蕩おう。
もう少しだけ。
……もう…少しだけ。
私を貴方の愛で包んで欲しい。
そうすれば私は生きていけるのだと。
そうすれば私は幸せなのだと。
頬に流れる何かを知らないふりして。
明日へと歩き出せるのだから。
『思ひつつぬればや人の見えつらん 夢と知りせばさめざらましを』
平安時代にそう歌った一人の女性がいた。
あの人のことを思いながら眠りについたから夢にでてきたのだろうか。
夢と知っていたなら目を覚まさなかったのに、と。
……叶わないことを夢に託し、夢に溺れたい気持ちは分かる。
だけどそれが夢であると、夢の中で分かることほど辛いことはない。
それが夢であると認識した時点で、
すでに私の意識は現実の身に戻されているのだから。