第8章 騎士からの依頼Ⅴ
「動きましたよ」
先に動いたのはイルド、淡い光を纏った斧を担ぎながら大きく跳躍した。
対するエドガーも不敵な笑みを浮かべながらイルドを迎え撃つ。
「終わりだ!」
エドガーが叫んだと同時に、剣に纏った光が一際大きく輝く。
武技発動の合図だ。
イルドはそれでも斧を構えながらエドガーとの距離を詰める。
そしてディヴァインクロスの初段、横一文字の斬撃が上空から降りてくるイルドに襲い掛かる。
「くはっ」
イルドが笑ったのだ、まるでこらえきれなくなったように。
斬撃を前に笑うなど気でも狂ったのだろうか、常人ならこう思うだろう。
だけど僕は知っている。
イルドがあの笑い方をした時は、勝利を確信した時だと。
「よっと」
「なっ!?」
イルドは身体を捩じらせ、ディヴァインクロスの初段を軽々避けた。
エドガーの顔が驚愕に染まる。
彼はこう思っているだろう、何故武技発動中に回避する動作が出来たのだろう、と。
武技は確かに強力だ、威力は高いし魔物に対抗できる唯一の手段ともいえる。
だが弱点は存在する、それは発動から終わりまで回避もキャンセルも不可能ということだ。
武技は発動から終わりまで、決められた動きを実行しなくてはならない、それは絶対不変の理だ。
ならば何故イルドは武技発動中に回避できたのだろうか?
答えは簡単だ、イルドは最初から武技など発動していなかったからだ。
イルドは『肩に斧を担ぎ、対象に向けて大きく跳躍する』というオーバーキラーの初期動作を真似ただけなのだ、マナを流しただけで武技は発動していなかったということだ。
尤も、その流し込んだマナは決してフェイクのみに使ったわけではないだろうが。
イルドが地上に降り、斧を下ろす。目の前にはディヴァインクロス初段を振り終えたエドガー。
当然だがまだ危機は去っていない、まだ二段目が残っている。
「見苦しいぞ、傭兵!」
その場で一回転、遠心力を加えた真一文字の斬撃がイルドに振り下ろされる。
イルドはこの瞬間を待っていたのだろう、エドガー自慢の技を、自分の自慢の技で破るこの時を。
イルドの斧が大きく光る、それと同時に、イルドは真正面を盾のように構えた。
その構えを見て、エドガーとリギルさんは目を見開いた。
「歯ぁ食いしばれ、騎士野郎!」
「しまっ……」
ディヴァインクロスの真一文字が、イルドの斧にぶつかる。
斧スキルBランク、タイラントブロウ。
一つ目の巨人の片腕を軽々切り落とした暴君の一撃が、武技終了後の硬直で動けなくなったエドガーの胴体に直撃したのだった。
「っぐっがあああぁぁ!」
エドガーの身体が大きく吹き飛び、模擬戦場の白い壁にけたたましい音を立てて派手にぶつかる。
そのままずるりと床に倒れるエドガー、大事になってないといいけど……
倒れたエドガーのもとにリリアが駆けつける、それにつられて僕たちもエドガーに駆け寄った。
見る限り腹部を強打したものの大事には至らなかったようだ、少し顔は青くなってるけど。
「エドガー、大丈夫?」
「ぐぅっ、隊長……すいません、傭兵如きに遅れを取るとは」
「それが貴方の敗因よ、エドガー」
「えっ?」
エドガーが顔を上げ、リリアを見る。
リリアはまるで聞き分けのない子供を諭すような顔でエドガーを見る。
「エドガー、貴方は人一倍自分が傭兵に劣るはずがない、そう思っている節があるわ。でもそうじゃないわ、イルドは強い。慢心ばかりの貴方では勝てるはずもないわ」
「だ、だけど俺たちは厳しい訓練を積んで騎士になったんです。それなのに……」
「確かに私たちは血反吐を吐くような訓練を積んで騎士となったわ、でもそれは私たちだけじゃない。傭兵だって厳しい鍛錬を重ねて強くなったに決まっている、騎士だけが特別じゃないわ」
その一言で、エドガーは完全に黙る。
リリアは一息吐いた後、エドガーの頭を撫でる。
「エドガー、どうして騎士になりたいって思ったの?」
「それは……この国と、この国に住む人々を守りたいと思ったから」
「うん、私もそう思ってる。でも、それは傭兵も騎士も同じよ。誰もがそんな平和な日々を作れるように頑張っているの、傭兵を見下す理由にはならないわ」
「……はい」
リリアは立ち上がり、エドガーに手を差し伸べる。
「私たちはこれから一緒に行動する仲間よ、だからエドガーもみんなと一緒に頑張ろう?」
「……はい、隊長。一生ついていきます!」
「いや、一生はちょっと……」
エドガーがリリアの手を取って立ち上がる。
そして、イルドを見た。
「今回は遅れを取ったけど、次はそうはいかない。せいぜい手を洗って待っているんだな!」
「エドガー、それを言うなら首を洗ってだ。手を洗っても細菌が死滅するだけだ」
「そうとも言う!」
「そうとしか言わん」
リギルさんが頭痛でもしているかのように頭を抱える、リリアも苦笑してしまっている。
イルドは聞いていたかどうか、武器を元の場所に戻していた。
「よし、次はリンだな」
「あっ、そうだね」
「じゃあ次を始めましょうか。リギル、お願い」
「はい、隊長」
僕の相手は僕よりもずっと大きい体格の大男、リギルさん。
きっとそれなりに苦戦することになるはずだ、気を引き締めないと……
長くなっちゃったんで一度切ります