第7章 騎士からの依頼Ⅳ
同時に地を蹴った二人は、丁度中間地点でお互いの武器をぶつける。
けたたましい金属音が周囲に響き渡り、エドガーが動き出した。
エドガーは武器の中では比較的軽いショートソードを活かした素早い連続攻撃を繰り出すが、イルドは重い武器を持っているにもかかわらずその全ての攻撃を受け流し、さらにその際できた僅かな隙を突くように斧をぶん回す。
「ちっ……!」
エドガーは舌打ちしながらもイルドの斧を左手の盾で受け流すが、一度波に乗ったイルドはそう簡単には止まらない。
攻撃する隙を与えない斧による連撃を繰り出す。
「そらそらぁっ!どうした騎士様よぉ!」
「この……傭兵風情がっ!」
現状はエドガーの防戦一方、イルドが断然有利だ。
「中々やるな、お前のパートナーは」
「はい、僕の自慢の相棒です」
騎士歴が長いリギルさんの目から見ても、やはりイルドは優秀らしい。
イルドが評価されるのは僕も嬉しい、けどイルドはそう思わないだろうなぁ。
「だが、エドガーも負けていないぞ?」
「えっ?……あっ」
「あっぶね!」
エドガーが盾で斧を受け流しながら急接近、突進しながらの突きを繰り出した。
それをイルドはかわそうとするが、僅かに脇腹に掠る。
イルドは脇腹を抱えながら後方に跳んだ、ひとまず間合いを取って勝負を仕切りなおすのだろう。
危ないなぁ、イルドは肝心なところで調子に乗るところがあるから冷や冷やするんだよ。
「エドガーは前年度の騎士学校卒業生の首席でな、甘く見てると痛い目を見ることになるぞ」
「確かに、人は見かけによらないというか……」
「誰がみかけによらないだ女ぁ!」
先程の会話が聞こえていたらしい、エドガーは僕に向かって声を張り上げた。
だがちょっと待ってほしい、この場に女はリリアしかいないはずだ、何故僕の方を見て言う。
「おいエドガー、吠えるのは勝手だが、よそ見は危険だぞ」
「ああ?……っあ!?」
「目の前がお留守だぜぇぇ!」
急接近したイルドの斧による横薙ぎがエドガーに襲い掛かる、完全に不意打ちだ。
咄嗟にエドガーは盾を構えるが、イルドの渾身のフルスイングは盾もろともエドガーの身体を大きく吹き飛ばした。
「うおぉぉいっとととぉぉ!」
声を聞くに非常に慌てているのだろう、エドガーが奇声と言っても過言ではない声を出しながら必死に足で踏ん張る。
ようやく勢いを殺して地面に足をついたエドガーは安心したように溜息を吐き、キッとイルドを睨み付けた。
「流石、傭兵はやることが汚いな!よそ見をしている相手に突然切りかかるとは!」
「いやお前、勝負の最中によそ見するバカがどこにいるよ?それに戦いに綺麗も汚いもないだろうが」
「正論を言うな!反論できないだろうが!」
あっ、正論だとは思っているんだ。
これにはここにいる全員が呆れた顔をせざるを得ない、さっきからエドガーの言ってることがバカ丸出しなんだ、リギルさんも「マジしょうがないなこいつ」っていう目でエドガーを見てるし。
リリアに至っては頭まで抱える始末だ。
「まっ、俺も武器が刃引きされててよかったな、じゃなきゃ今頃お前は真っ二つだ」
「ふん、笑わせる。お前こそ俺の剣が刃引きされていなければ脇腹を裂かれて勝負どころではなかったぞ」
「んじゃまあおあいこってことで」
イルドが斧を肩に担ぎ青白い光を纏わせる、あれはサイクロプスを仕留めた斧スキルCランクのオーバーキラーだ。
「そろそろ終いにしようぜ、騎士様のお相手が出来たのは光栄だが飽きたわ」
「光栄だと思うのなら、頭の一つでも下げたらどうだ?」
対するエドガーも剣を逆胴に構え、同じく光を纏わせる。
あの逆胴の構えってもしかして……
「Bランクスキルの、ディヴァインクロス?」
「ああ、エドガーも本気で行くみたいだな」
ディヴァインクロスは逆胴からの横一文字の薙ぎ払いからの、その場で一回転してその遠心力で対象を切り裂く高威力の武技だ。
もしそれだとしたら、イルドは負ける。
武技のランクは威力、消費マナ、マナ伝達速度によって決定される。
マナ伝達速度とは、その名の通り身体から発せられたマナが武器に注がれてスキルを発動するまでの所要時間のことで、基本的にこの三つの要素を総合して武技のランクは決定される。
イルドのオーバーキラーも威力はあるのだが、ディヴァインクロスには遠く及ばない。
推測だがお互いぶつかった場合、イルドのオーバーキラーはディヴァインクロスの一撃目に弾かれ、大きくよろけたイルドに二撃目がクリーンヒットしてしまうだろう。
「この戦い、エドガーの勝ちだな」
「まだ、分かりませんよ」
「何?」
リギルさんが怪訝そうな顔で僕を見る。
確かにイルドのオーバーキラーは、真正面からぶつかったら恐らくディヴァインクロスに負ける。
真正面からなら、ね。
【騎士学校】
文字通り、騎士になるための学校。
入学するには多大な費用がかかるため、基本的には貴族が入学する。
12歳から通い15歳に卒業、王国騎士団に配備される。
【刃引き】
模擬戦場に配備されている武器は、殺傷力を極力減らすため刃を潰してある。
尤も手甲や鎖といった武器は刃引きのしようがないが。