第6章 騎士からの依頼Ⅲ
「……僕はバカだね」
「ああ、バカだな」
もう、イルドをバカとは言えないや。
僕の方がずっとバカだった。
「僕、リリアに謝らなきゃ……」
「まあ、それはテストが終わってからで良いだろ、リリアも戻ってきたからな」
「お待たせー、それじゃあ移動しようか」
リリアが戻ってきた。
僕は出来るだけ今の気持ちを悟られないように無表情を貫いた。
それから僕たちはリリアの後ろに着いていく形で目的の部屋へと向かう。
訓練場はいくつもの部屋に分かれており、簡単な手続きを済ませることで貸し出される。
といってもあくまで貸し出されるだけなので、他の使用者もいるのであまり長時間の使用は出来ない。
「さ、着いたよ」
やがてリリアは「114」とドアに書かれた部屋の前で止まる。
114というのは部屋番号で、この数字は1階の14番目の部屋ということだ。ちなみに最大で3階まであり一フロア20まで部屋がある。
そういえば肝心なことを聞き忘れていた。
「リリア、模擬戦の相手をしてくれるっていう部下の人は?」
「後ろにいるわよ?」
「うぇ?」
思わず間抜けな声を上げながら後ろを振り返る。
そこには、リリアの部下であろう二人の男の人が立っていた。
一人は金髪の少年で、背は僕と同じくらいだ。
もう一人は頭を剃った色黒の大男、三十代くらいだろうか?
どちらも金の刺繍が施された白を基調とした騎士団の制服を着ている。
「お前、今頃気付いたのか?相変わらず傭兵のレベルの低さには笑わされるな」
「エドガー、口に気を付けなさい」
「ぐっ、隊長がそう言うなら……」
エドガーと呼ばれた少年は、ばつが悪そうに鼻を鳴らして顔を逸らす。
すると、今度は色黒の男性の方がこちらに話しかけてくる。
「すまないな、エドガーが失礼なことを言ってしまった。こいつは実力は確かなのだがいかんせん礼儀を知らないんだ」
「あっ、気にしないでください。気付けなかった僕も悪いですし」
「すまないな。ああ、紹介が遅れたな、俺はリギル・グラファイト。ルノアール隊所属だ、こっちの生意気な金色がエドガー・ロランド、まだ16になったばかりの青二才だ」
「ちょっ、離せよっ!」
リギルさんがエドガーの頭をわしゃわしゃと撫でまわす。
この二人を見てるとまるで親子のようにも見える。
「僕はリンク・レジスターと言います」
「イルド・フェンサーだ」
「リンクにイルドか、今日はよろしくな」
「さて、みんなの自己紹介も済んだことだし、早速始めましょうか」
自己紹介が済んだ僕たちはリリアに促され、模擬戦場へと足を踏み入れた。
真っ白な壁に簡素な武具一式しかない広大な部屋だ。
「それじゃあ早速始めようと思うけど、ルールは一般的な決闘方式で良いわね?」
「構わねえよ」
「僕もそれでいいよ」
一般的な決闘方式とは、特にこれといった縛りなどはないほぼ何でもありのルールだ。
勝利方法も相手の首元に武器を突きつける、相手を戦闘不能にするなど単純明快だ。
「それじゃあ最初は……」
「俺から行くわ」
イルドが立てかけてある武器の中から斧を選び抜き取る。
イルドも早く暴れたくてたまらないのだろう。
リリアも了承したのだろう、特に何か言うこともなく今度はエドガー達に目配せする。
「それじゃあ相手は……エドガー、良い?」
「望むところですよ」
エドガーも立てかけてある武器の中から武器を抜き取る。
選んだ武器は僕と同じくオーソドックスな剣と、騎士団支給の盾だ。
「おい金髪、そんな小ぶりな盾で俺の斧を防げると思ってんのか?」
「傭兵風情が嘗めるな、そんな巨大さだけがウリの武器では俺には勝てないぞ」
「やってみなきゃ分かんねえだろ?」
戦う前からお互い火花を散らしている、イルドああいう傲慢な人嫌いだからなー
というか、イルドは昔の事情で騎士を快く思っていない節がある。
それを考慮すればイルドとエドガーの相性は最悪と言えるだろう。
「二人とも、一応確認するけど……この決闘方式での勝利条件は?」
「「相手を戦闘不能にする」」
一応、喉元に武器を突きつけるでも良いんだけど……というかこの二人ヤバい。
このままだとどちらかが戦闘不能どころか再起不能になってしまいそうだ。
「はぁ……分かったわ、危なくなったら私が止めるから思う存分暴れなさい」
リリアが諦めたように二人にそう告げる。
それを聞き届けた二人は一定の距離を置いて武器を構える。
リリアも審判のために少し離れた場所に立つ。
「それでは、始め!」
リリアの合図と共に、二人がほぼ同時に動いた。